IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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(亡国機業・・・・・謎の秘密結社、か)

 

突如襲来した亡国機業のメンバー、Mとの戦闘を終え、しばらく時間がたった。

 

一夏も巻紙さん、本当の名前はオータム、に襲われたようでリムーバーというISを剥ぎ取る装置で一度白式を奪われかけたそうだが、楯無さんが助けに来てくれたらしい。

 

(やっぱり楯無さんは強いんだな。流石は学園最強の生徒会長ってところか。まあ、そんなことは今はどうでもいい・・・。誰か、誰かこれを・・・・・)

 

「「これを外せえええええええええええええっ!!」」

 

一夏とユニゾンでシャウトする。俺と一夏は今、第一アリーナの中央に置かれた特設ステージに設置された椅子にギッチギチに拘束されて座らされている。

 

「さあ皆さん! これより! 後夜祭をスタートするぞおぉぉぉぉぉっ!」

 

楯無さんが超ハイテンションなシャウトをした

 

「「「「「「「「「「イエェェェェェェェェェェェ!!」」」」」」」」」」

 

大気がビリビリと振動している。アリーナの席はIS学園生徒でまさにごった返している。見た感じだと、全校生徒が集合しているようだ。

 

説明すると、Mとの戦闘の後、着替えを取りに戻ったら俺の着替えの一式を持った楯無さんが現れて、俺を無理矢理ここまで連れてきてこの椅子に拘束したというわけなのだ・・・・・。

 

「それでは早速! 今年の学園祭で一番面白かった出し物の発表です!」

 

照明が落ち、ドラムロールが鳴る。

 

「第一位は!」

 

アリーナにいる女子全員がゴクリと唾を飲んだ音が聞こえた。

 

「生徒会主催観客参加型演劇!『シンデレラ』!」

 

・・・・・・・・・・・・・え?

 

ぽかんと全校生徒が口を開く。その数秒後に我に返った女子一同がブーイングを巻き起こす。

 

「卑怯! ずるい! いかさま!」

 

「どうして生徒会なのよ! おかしいわよ!」

 

「わたしたち頑張ったのに!」

 

そんな苦情をまあまあと制する楯無さん。そして言葉を続ける。

 

「この劇の参加条件は『生徒会に投票すること』よ。私たちは強制したわけじゃないから、これも立派な民意と言えるわね」

 

そんな条件だったのか。用意周到なことだ。

 

「さて、賞品の織斑一夏くんか桐野瑛斗くんのどちらかを所属させる件だけど、生徒会長として私は織斑一夏くんを生徒会に所属させるわ!」

 

パチン!

 

俺と一夏を拘束していたベルトが一斉に外れた。俺達は立ち上がる。

 

だが、ブーイングは一向に収まらない。

 

「はい落ち着いて! 皆大事な事を忘れてるわよ? セカンドチャンス!」

 

ゲッ! そ、そうだった・・・・・! 一夏が選ばれたってことは・・・・・まさか・・・・・。

 

「桐野瑛斗くんには今から五分間IS学園の敷地内のどこかに逃げてもらいます! それを今から四時間以内に見つけられたら、その見つけた部活に一日入部! ・・・・・のところをなんとずっと所属にしちゃいまーす!」

 

「え!?」

 

「本当に!?」

 

「一日じゃなくて、ずっと!?」

 

「ウソだろおおおおおおおおおっ!?」

 

俺は頭を抱えてシャウトした。永久所属って・・・・・一夏と条件が同じじゃねえか!

 

「今考えた特別スペシャルルールでーっす! さあさあ桐野瑛斗くん! 五分間どこへなりとも行って頂戴! ちなみにもうすでに彼は私たちが狙うものを持ってます! それを手に入れた瞬間がタイムアップです!」

 

楯無さんは両手に持った扇子をパンッと同時に広げた。そこには『レッツ逃亡!』と達筆な筆字で書かれていた。

 

俺はものすごくどんよりしながら第一アリーナを出た。

 

「四時間逃げるったって・・・・・・・・・」

 

時計を確認する。現在午後四時半。今から夜の八時半まで逃げるなんてどうすれば・・・・・。

 

(大体どうして俺がこんなことをしなくちゃならないんだ・・・・・)

 

そのまま隠れる当てもなくフラフラしていると、

 

ビィーーーーーーッ!

 

学園中にけたたましいブザーが鳴り響いた。ゲームスタートのホイッスルだろう。

 

「ヤバいヤバい! 始まっちまった!」

 

アワアワと慌てるが、どこに隠れようにすぐに見つかっていそうだ。

 

「いたー!?」

 

「こっちはいないわー!」

 

「者ども! 捜せ捜せぇっ! 草の根をかき分けてでも捜すのだ!」

 

(来たぁっ! なんか岡っ引きみたいなのも来たぁっ! どうしようどうしよう・・・・・)

 

誰も近寄らなくて、人気がないところ・・・・・。うーんうーん・・・・・。

 

「・・・・・・・・そうだ!」

 

本日最大級のひらめきが俺の頭に降りた。

 

(そうと決まれば・・・・・!)

 

俺は目的地にダッシュで向かった。

 

 

 

 

 

「誰もいないな・・・・・・?」

 

周囲を警戒しながら、目的地である第四アリーナにむかう。

 

第四アリーナはシンデレラの劇をおこなった場所でもあり、一夏が亡国機業のメンバーであった巻紙さんと戦った場所でもあるらしい。つまり立ち入り禁止になっているのだ!

 

(たしか、更衣室はボロボロになったって・・・・・・)

 

照明が消えた道を歩きながら、更衣室に向かう。

 

ギィ・・・・・

 

扉を開けると、更衣室にはロッカーが散乱し、がれきの山ができていた。

 

「よっしゃビンゴ!」

 

俺は小さくガッツポーズをして倒れていたベンチを直してその上に寝転んだ。

 

「このまま時間がすぎるのを待てば―――――――」

 

「誰にも見つからない?」

 

「ああ。・・・・・・・え?」

 

顔を向けると、一つだけ点いた照明をスポットライトのように浴びる楯無さんが立っていた。

 

「え? 楯無さん? どうしてここが?」

 

「ふふふ。おねーさんを誰だと思ってるのかな? 生徒会長だよ?」

 

楯無さんは俺と同じようにベンチを直し、そこに座った。

 

「やれやれ・・・・・楯無さんだけじゃないですね。一夏だろ?」

 

「ん」

 

扉の陰から、一夏が顔を出した。

 

「おねーさんが呼んだのよ。二人に話しておかなきゃいけないことがあるから」

 

「話しておかなきゃいけないこと?」

 

「なんですか?」

 

「亡国機業について」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

普段とは明らかに違う雰囲気を漂わせ、楯無さんは話し始めた。

 

「亡国機業は第二次世界大戦後から始まった秘密結社。その秘密結社は発足してからはそれほど大々的な事件は起こしてないわ。でも最近になって活動が活発化してきたの。世界中のISが盗まれているのよ」

 

「盗まれた・・・・・。じゃあ、あのサイレント・ゼフィルスも!」

 

「そう。つい最近イギリスから盗まれたの。でもイギリスはそれを公にはしてないわ。何故だかわかるかな?」

 

「メンツを保つため?」

 

「そうよ。『ISを盗まれました』なんて知られたら世界中の笑いもの。それはどの国でも同じ。だからどの国も亡国機業の尻尾を掴まないでほったらかしにしているの」

 

「なるほど・・・・・」

 

「待ってください楯無さん。それじゃあどうして一夏は襲われたんですか?」

 

俺はそれが引っかかっている。ISを動かせる男は一夏と俺だけだ。なぜ俺も狙わず一夏だけを襲ったのだろうか。

 

「それは私にも分からないわ。一夏くんの白式を奪うためと考えるのが妥当だけど、なにかもっと別の目的もあるんだと思うわ」

 

「別の目的・・・・・」

 

「でもそれは今のところ誰にも分からないから次あったら確かめるのもいいかもね」

 

「できればもう会いたくないですけどね」

 

一夏は苦笑する。

 

「じゃあ、最後に一つだけ」

 

「なにかな?」

 

「楯無さん。いや、十七代目(・・・・)更識楯無さん。あなたは一体何者なんですか?」

 

「あら、優しいおねーさんよ?」」

 

「そういうことを言ってるんじゃないですよ」

 

「そうねぇ、更識家は昔からこの手の裏工作に強いのよ。暗部ってわかる?」

 

暗部―――――決して表に出ることは無い裏の実行部隊ということか。

 

「更識家は対暗部用暗部。ま、お家柄ってやつね」

 

あははと笑う楯無さんが広げている扇子には『常在戦場』というのっぴきならねえ文字があった。

 

「じゃあ、私はもう行くね」

 

楯無さんは立ち上がった。

 

「行くってどこへ?」

 

「ん?このゲームの終了を報せに」

 

「は? あ!」

 

楯無さんの手には俺の携帯電話があった。

 

「いつの間に!?」

 

「ふふ。でもおねーさんが欲しいのはこっちじゃなくてコレ」

 

楯無さんは携帯電話についている美術部マスコット、ペイント・ペイヤくんのストラップを携帯電話から取った。

 

「うりゃ」

 

パキ

 

楯無さんはペイヤくんの首を折り、中から筒状になった紙を取り出し、それを俺に見せた。

 

「えーと?『桐野瑛斗獲得おめでとうございます』?」

 

なんだこれ?

 

「美術部に頼んで、瑛斗くんには通常配るストラップとは違うストラップを一つ渡しておいてもらったの。他の女子たちもそれはこのストラップを血眼になって探してるのよ?」

 

楯無さんは紙を四つ折りにして制服の上着のポケットに入れた。

 

「私が一夏くんと同居したのは、今回の亡国機業の襲撃に予防線を張るためだったの。おかげで撃退することはできたわ。でもそれで終わったわけじゃない。二人には今後の身柄の安全の為に生徒会に所属してもらいます。異論はあるかしら?」

 

俺と一夏はお互いの顔を見て、肩を竦めてため息をついた。

 

「言っても無駄でしょ?」

 

「部活動の参加位なら、別にもう構いませんよ」

 

俺達のその言葉を聞いて、楯無さんはニッコリと笑った。

 

「ようこそ。IS学園生徒会へ」

 

 

 

 

 

「改めて、一夏くん、瑛斗くん。生徒会副会長就任おめでとう!」

 

「おめでと〜」

 

「おめでとう。これからよろしく」

 

時間は五時ちょっと過ぎ。生徒会室では俺と一夏に布仏姉妹と楯無さんがぱぱーんと盛大にクラッカーを鳴らした。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「どうもどうも」

 

頭に紙テープをのせた俺達は困ったように笑う。テーブルにはショートケーキと紅茶が並べられ、何だかちょっとしたパーティのようになっている。

 

「じゃあ、まずは一夏くんから今後の意気込みを言ってもらおうか」

 

さっそくの楯無さんの振り。一夏は、はいと返事をして立ち上がった。

 

「や、やるからには一生懸命頑張ります。よろしくお願いします」

 

言い終わって再び座ると、わ〜と拍手が起こった。

 

「じゃあ次は瑛斗くん」

 

「あー・・・・・」

 

うーん、何か気の利いた一言は・・・・・

 

「それでは! 生徒会の新たなメンバーの参加を祝して!」

 

「また言わせてもらえないのか!?」

 

俺の言葉を聞くことなく、一同は乾杯の準備に入る。

 

「「「かんぱ〜い!」」」

 

「はは、乾杯・・・・・」

 

「やれやれ・・・乾杯・・・・・」

 

こうして、俺と一夏は生徒会に所属することになった。

 

 

 

 

 

 

場所と時間は変わり、学園祭当日の夜。どこかの高層マンションの最上階。豪奢な飾りに溢れた部屋で、オータムはMに詰め寄っていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「なんとか言えこのガキ!」

 

今日の織斑一夏襲撃の失敗はこの少女のせいであるとオータムは考えている。

 

「リムーバーをされたISには耐性がついて遠隔コールができるようになることをてめえは知ってたんだろ!? どうなんだ!?」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

壁に叩き付けられた少女は無表情、そして無言のままでいる。そしてそれがオータムの神経を逆なでし続ける。

 

オータムは腰からナイフを取り出した。

 

「その顔・・・・・切り刻んでやる」

 

ナイフの先端がMの頬に触れそうになったとき。

 

「やめなさい。オータム」

 

バスルームから出てきた金髪の美人がそれを止めた。オータムの腕を掴んだわけではない。ただ一言声をかけただけだ。

 

「スコール・・・・・!」

 

しかし、それだけでオータムは動きを止め、ナイフをしまう。

 

「怒ってばかりいると老けるわよ。落ち着きなさい、オータム」

 

そう言うスコールをオータムは悔しそうに見つめた。

 

「お前は・・・・・知っていたのか?こうなるということを」

 

「ええ」

 

「だったらどうして言わない! 私は・・・・・私はお前の!」

 

「わかってるわオータム。ちゃんとわかってる。あなたは私の大切な恋人」

 

「わ、わかっているなら・・・いい」

 

さっきまでの怒りは失せ、オータムは顔を赤らめて俯く。

 

そんな可愛らしい表情に、スコールは嬉しくなって微笑んだ。

 

「二人に見せたいものがあるの。こっちにいらっしゃい」

 

そしてスコールはオータムとMを呼び、近くにあった小物入れから一枚の写真を取り出した。

 

その写真は大分古いもので、端の部分が少し破れていて、色も褪せている。

 

「スコール、これは?」

 

オータムは写真の内容をスコールに聞いた。写真はなにかの集合写真のようで、そこに写っている人全員が半袖の服を着ていることから夏に撮ったものだとわかる。

 

「これはね、今から二十年前に撮影されたものよ」

 

「二十年前? そんな古い写真をどうして?」

 

「見てもらいたいのはこれよ」

 

スコールはトントンと写真に写る一人の少年を指で示した。その少年は七歳ほどで、両親らしき男女に挟まれ、屈託のない笑顔を浮かべている。

 

「この子供か?」

 

「そうよ。誰かに似ていないかしら?」

 

「誰かに・・・・・・・?」

 

少なくともオータムには心当たりはない。

 

「・・・・・・・・桐野瑛斗」

 

「?」

 

さきほどまで無言を貫いていたMがポツリとつぶやいた。そんなMにスコールは微笑んだ。

 

「正解よ。これは桐野瑛斗本人なの」

 

「だが、それではあの桐野瑛斗は何者だ?」

 

Mの問いにスコールはさらに含みのある笑みを浮かべた。

 

「あれも、正真正銘の桐野瑛斗よ」

 

「・・・・・・・・・?」

 

Mとオータムは、スコールが何を言っているのか見当がつかなかった。そしてそのままMはくるりと踵を返す。

 

「おいM。どこ行くんだよ」

 

「サイレント・ゼフィルスの整備だ。あの機体は盗んで間もない。細かな調整が必要だ」

 

そう言うとMは部屋を出た。

 

(桐野瑛斗などどうでもいい・・・。私の目的は・・・・・)

 

通路を歩くMは胸のロケットを握りしめて瞼を閉じる。

 

(もう少し・・・もう少しだ・・・・・)

 

ずっと待っていた。

 

待ち望んだ時はもうすぐ傍まで来ている。

 

(これで私の復讐が始められる・・・・・・そう。やっと―――――)

 

やっと、会うことができる。

 

(・・・・・織斑千冬(ねえさん)・・・・・)

 

人知れず、少女の口元は邪悪に歪むのだった。

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