IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「えっ!? 瑛斗と一夏って誕生日が一緒なの!?」
「お、おお」
「ま、まあな」
寮での夕食、いつものメンバーで談笑しながら飯を食っていると、シャルが大声を上げた。
そんなに驚くことだろうか。シャルにしては珍しく立ち上がってしまっている。
「い、いつ!?」
「九月の二七。結構近いな」
「う、うん!」
そう言ってシャルは椅子にかけ直した。
「日曜日だよねっ!?」
今度は立ち上がりはしなかったものの、身を乗り出している。えらくがっつくなぁ・・・。
「そう、だな。日曜だな」
一夏が遠い目をして答える。
「そっか・・・・・。うん、そうだよね。うん!」
つぶやきながら頷くシャルを見て、一夏と一緒に頭に?マークを浮かべていると、一夏の隣でビーフシチューを食べていたセシリアがパンを置いて話しかけてきた。
「一夏さん。そういうことはもっと早くおっしゃってくださらないと困りますわ」
「お、おう。すまん」
よくわからないまま一夏はセシリアに謝っている。
「全くだ」
すると、俺の右斜め向かいに座っているラウラが季節のサラダパスタのパスタを巻く動きを止めて言った。
「瑛斗、何故そういう重要事項を話さない。嫁として関心せんぞ」
「わ、悪い」
俺もよくわからないままラウラに謝る。
(っつか、どうでもいいけど、どうして俺達を纏めてじゃなくて名指しでなんだ?)
そんなことを考えていると、ラウラは鈴と箒を見た。
「まあいい、知っているにもかかわらず何も言わなかったヤツもいることだしな」
「「う!」」
ラウラに指摘され、動きが止まる一夏のダブル幼馴染。
ちなみに俺は生姜焼き定食。一夏はだし巻き卵定食で箒はサンマ定食。鈴は麻婆豆腐定食だ。
「あ、そうか。二人は一夏の幼馴染だから知ってるはずだよな」
俺はポンと手を叩いた。
「べ、別に隠していたわけではない! 聞かれなかっただけだ!」
「そ、そうよそうよ! 聞かれたわけでもないのに喋るとKYになるでしょ!」
箒と鈴はそう言ってご飯をパクパクと頬張る。
(言い訳じみてんなー・・・・・)
「とにかく! 九月二七日! 一夏さん、予定は空けておいてくださいな!」
「あ、ああ。一応、中学の時の友達が祝ってくれるから俺の家に集まることになってるけど、みんなもくるか?」
「「「もちろん!」」」
箒、セシリア、鈴が即答した。
「え、瑛斗、お前はどうする? 同じ日のよしみで一緒に祝わないか?」
「んー、行きてぇけど、その日ってあれがあるだろ?」
俺がそう言うと、みんな『そう言えば』という顔になった。
そう。九月二七日はISの高速バトルレース『キャノンボール・ファスト』が行われる。通常は国際大会なんだが、IS学園があるここの市ではちっとばかしわけが違う。
市のイベントとして催されるそれには、IS学園の生徒は参加することになっている。
つっても、専用機持ちが圧倒的に有利だから、一般生徒は訓練機部門、専用機部門とに分かれるんだがな。
学園外でのIS実習となるこのイベントでは市のISアリーナが使われる。ものすごい広さらしく、聞いた話では、どこぞのアイドルがライブをやったが満員にできなかったらしい。
「ん? そう言えば明日からはキャノンボール・ファストに向けての高機動調整を始めるんだよな。あれって具体的にはなにをするんだ?」
「ああ、基本的には高機動パッケージのインストールだけど、お前の白式にはねえだろ? 俺のG−soulもだけど」
「ふぅん、じゃあ駆動エネルギーに分配調整とか、スラスターの出力調整だね」
シャルが白身魚のフライをかじりながら続けた。
「瑛斗もそれで行くのか?」
ラウラがプチトマトを頬張りながら聞いてきた。
「ふっふっふ・・・・・俺を誰だと思ってるんだ? それに向けての新しいGメモリーをすでに作ってあるんだぜ! どや!?」
「いや、どやと言われても・・・・・」
「セシリアのブルー・ティアーズ用のパッケージの『ストライク・ガンナー』にも匹敵するくらいのヤツを作ったんだが、セシリアはバレット・ビットのおかげで移動速度も向上してるから、どうなるかは分からねえな」
「ふふ、わたくしセシリア・オルコットの操縦技術であっと言わせて差し上げますわ!」
自信満々に語るセシリア。学園祭での襲撃で、バレット・ビットは壊されたが、損傷は至って少なく、簡単に修理できる程だったので結局全部俺が修理した。
セシリアはあれ以来放課後は訓練に励んでいる。一度様子を見に行ったら、大分上達したいた。
「うーん。そうなるとやっぱりセシリアが有利だよな。今度音速機動について教えてくれよ」
一夏がそう言うと、一瞬セシリアの表情が曇った。だがすぐに明るい笑顔になった。
「・・・・・申し訳ありません。それはまた今度。瑛斗さんとラウラさんに頼んでくださいな」
「そっか。じゃあ二人とも、教えてくれ」
「おう、いいぜ」
「構わんぞ」
俺とラウラは一夏の頼みを引き受けた。
「どれ、あの女にかまけているお前達を一度ビシッと鍛えてやろう」
「おーおー厳しいこと言うねぇ。ってかなんで俺まで?」
ラウラが言うあの女とは生徒会長の楯無さんのことであって、最近一夏の部屋からやっといなくなったんだが、放課後は俺も一緒に一夏と厳しい訓練を受けたりしている。
「お前達二人はまだまだ未熟なところがあるからな。久しぶりに全力訓練を行うとしよう。明日の放課後、一六:〇〇時より第二アリーナで準実戦訓練を行う。いいな」
「了解だ。言っておくけど、もうワンサイド・ゲームにはならないからな」
「しゃあねぇな。一丁相手してやるぜ」
「ふふん、私も明日は新装備の性能を見せてやるとしよう」
ラウラはくるりとフォークを回した。
その先端にはマカロニがちょうど空洞を通る形で刺さっていた。
「実のある訓練に期待しよう」
マカ―――――
「「マカロニだけに」」
「「え?」」
「とか言うつもりでしょ?」
「なんて言わないよね?」
鈴とシャルがダブルで言ってきた。
「ふっ、俺がそんなこと考えると思うか?」
俺は腕組みをして鼻で笑ってやった。
「そっか、そうだよね」
シャルは安心したように笑って味噌汁をすすった。
(あぶねー・・・・・)
俺は心の中でどっと息をはいた。
「一夏、お前・・・・・」
箒が一夏を白い目で見る。危なかった。危うく俺もあんな目で見られるところだった。
「ま、そんなバカたちはさておき」
どこのバカだコラ。
「アンタたち二人の貸し出しはまだなわけ?」
「「あー・・・・・」」
そう。生徒会の所属になった一夏と俺は、楯無さんの提案ですべての部活動に派遣されることになったのだ。
結局俺と一夏の両方を獲得した生徒会にはブーイングが津波のように押し寄せ、それの解決策としての今回の提案らしい。
「まだ抽選の調整中だそうだ」
「ふーん、そう」
俺が答えると鈴は再び麻婆豆腐を食べ始めた。
「そういや、みんなはもう部活に入ったんだってな」
先日、小耳に挟んだ情報なのだが、確かめるとしよう。
「私は剣道部だ」
そう言う箒は幽霊部員。だが、最近は部長さんにつつかれて顔を出しているらしい。
「鈴は?」
「ラクロス部よ」
「へえ! 似合いそうだな」
一夏は鈴に言った。鈴にラクロスが似合う・・・・・。
(あ、棒を振り回すところがってことか)
一人納得がいった俺。しかし口には出さない。なぜならめっさ怒られるからだ。
「ま、まあね。アタシ運動神経いいでしょ? だから入部早々期待のルーキーなわけ。参っちゃうわ」
言いつつも満更でもない顔をする鈴。
「シャルは?」
「え、僕!?」
俺が話を振ると、シャルはビンと背筋を伸ばした。
「その・・・・・りょ、料理部に入ったんだ・・・・・」
「おー、料理部! 学園祭で回ったところか!」
「え、瑛斗! 声が大きいよ!」
なぜかシャルが『言わないで!』的なジェスチャーをしてきた。
そして後ろの席ではがたたっと立ち上がる音が聞こえた。
「そうか、料理部か・・・・・」
「う、うん。日本料理を覚えたくて・・・・・」
「おお、じゃあ今度なんか覚えられたら食わせてくれよ」
「う、うん! もちろんだよ!」
さっきまであんなジェスチャーをしていた本人とは思えないほどの大きな声でシャルは答えた。
「セシリアは?」
「わたくしは英国が生んだスポーツ、テニス部ですわ」
「へえ、向こうでもやってたのか?」
「もちろんですわ」
「テニスかぁ。俺やったことないんだよな」
「で、でしたら!」
一夏が言うと、セシリアはずいっと一夏に迫った。
「今度わたくしが手取り足取り教えてさしあげますわ!」
「お、おお。サンキュ」
そんな乗り気なら、さっきの音速機動のくだりも教えてやれよ。と思ったのは俺だけ?
「で、ラウラは?」
「私は茶道部だ」
「茶道部か。・・・・・ん? 茶道部の顧問って確か―――――」
「教か・・・・・織斑先生だ」
「そうそう織斑先生。何だっけか? ファンの女子が殺到して正座二時間耐久でふるいにかけたんだろ? お前良く耐えられたな」
「ふん。あの程度の痺れなど、拷問に比べたらどうということはない」
いや、比べんなよ。っつか何されるんだ拷問で。
「ラウラの着物姿か。今度見せてくれよ」
「う、うむ・・・・・機会があればな」
銀色の髪を結って、和服を着て抹茶を立てているラウラ。絵になるな。
「そうだな、一着くらい持っておいても・・・・・いいかもな」
「ん? わざわざ買うのか?」
「気にするな。今後使うこともないとも言えないしな」
「和服を使うとなったら、初詣とかだよな。あ、でも年末年始は国に帰るのか?」
「いや、ここにいるとしよう。・・・・・・お前もいることだしな・・・・・・」
最後になにか言っていたようだが小声で聞き取れんかった。まあでも日本にとどまるらしい。
「そうだ! どうせならみんなで初詣行こうぜ! 除夜の鐘ついたりしてさ」
「おお! それいいな! 俺の地球に来たらやってみたかったことの一つだ!」
一夏の提案に俺は賛同する。
「あ、でもみんな国に帰っちまうのか?」
「僕は残るよ」
そう言ったのはシャル。さすがはラウラと仲のいいことだけはある。
「でしたらわたくしも!」
「まあ、帰っても別段面白いことがあるわけでもないしね」
セシリア、鈴と続く。
「箒は神社の手伝いするのか? 夏休みもやってたな。また終わったら一緒に―――――」
「ば、馬鹿者!」
べしんと箒が一夏の頭を叩いた。
「いてえ! な、なんだよ!?」
「う、う、うるさい! 軽々しく言うな!」
「「『また』?」」
反応したのは鈴とセシリア。
「一夏ぁっ! アンタ夏休みに何やってたのか教えなさいよ!」
「一夏さん! 箒さんとそのようなことを―――――見損ないましたわ!」
鈴もセシリアも立ち上がって一夏に吠える。
「何だ何だ? 一夏お前、夏休みに何したんだ?」
気になったので俺も一夏に聞いてみた。
「わあっ! 待て待て! 別に何もやましいことは・・・・・なあ! 箒! なあ!?」
「・・・・・・・なぜそこまで否定する・・・・・・・」
「え?」
ばしん! 箒がまた一夏の頭をはたいた。
「ふん!」
そしてちょうど食事が終わったのか、皿の載ったトレーをカウンターに戻し、スタスタと行ってしまった。
「じゃあ、俺も食べ終わったし、部屋に帰―――――ぶべっ!」
立ち上がろうとした一夏を鈴が掴んで椅子に座らせる。
「一夏、さっさと白状しなさい!」
「そうですわ!」
(そろそろ雲行きが怪しくなってきたな・・・・・)
そう悟った俺はパクパクと残りのを食べ終えた。
「ごちそーさま。うし、じゃ、俺はこれで」
そう言って立ち上がる。
「ま、待て瑛斗!」
一夏が俺の制服の袖を掴もうとするが、俺はそれをひらりと躱す。
「キャノンボール・ファスト用のGメモリーの調整があるから。さーらばー」
俺は早歩きで食堂を後にするのだった。
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