IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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「ふーむ・・・。やっぱりここのスラスター出力を・・・・・」

 

食堂を出て、俺は携帯端末を操作して新たなGメモリーの調整計画を練っていた。そして部屋に到着して、ドアを開ける。

 

ガチャ

 

「おかえりなさーい。あ、お邪魔してるわよ」

 

バタン

 

いけね。部屋間違えた。やっぱ携帯を操作しながらだと間違えちゃうな。気をつけよう。

 

「瑛斗くーん? 合ってるわよー? ここ、あなたの部屋よー?」

 

ドアの向こうから聞きなれた声が聞こえる。表札を見れば本当に俺の名前が書かれている。

 

やれやれ・・・・・。

 

「楯無さん・・・・・」

 

室内では生徒会長の楯無さんがベッドに寝転がって雑誌を読んでいた。

 

性格は『我が道を行く』。『会長権限』の一言で大体のことを片付ける。

 

そんなフリーダム生徒会長がまさか一夏だけでは飽き足らず、俺の部屋にまで来るとは・・・・・ってかそれより

 

「あの、楯無さん?」

 

「なあに?」

 

「スカートで足パタパタしないでくれますか? いやでもパンツが見えちまうんで」

 

「ふーん、見たんだ」

 

「見たんじゃありません。見えちまったんです」

 

「何色だった?」

 

「・・・・・・・・ピンク」

 

「あは、えっちぃ」

 

「で! 何か用があって来たんですよねぇ!?」

 

楯無さんのペースに飲み込まれないように必死の何をしに来たのかを聞く。

 

「うん。今日はちょっとお話があって来たのよ」

 

「話?」

 

「ええ。少し真面目な話。例の組織についてね」

 

「・・・・・・・・・」

 

例の組織と聞いてピンとくるのは一つしかない。亡国機業だ。

 

俺は気を引き締めるように背筋を伸ばした。

 

「非公式な情報だけど、先刻アメリカの二つのIS保有基地が襲撃にあったの。片方は何も盗まれなかったんだけど、もう片方の基地からISが一機奪取されたらしいの」

 

「またサイレント・ゼフィルスみたいなのが出たってわけですか・・・・・」

 

「あくまで非公式な情報だから何ていう名前のISが盗まれたかは分からないわ。瑛斗くんも自分のISを盗まれないよう気をつけてね」

 

「分かってますよ。どっかの誰かさんとは違いますから」

 

俺はブレスレットとなっている待機状態のG−soulが装着されている左手をひらひらと動かした。

 

「盗みに来るようなら返り討ちにして逆に奴さんのISを奪取、研究、調査してやりますよ」

 

「ふふ。頼もしい限りね」

 

そう言うと楯無さんは腰かけていたベッドから立ち上がりドアの方へ歩き出した。

 

「じゃ、私は一夏くんにもこの件を報告してくるわ」

 

「わざわざありがとうございました」

 

「いーのいーの。じゃあね」

 

楯無さんはひらひらと手を振ると部屋を出て行った。

 

「さて、じゃあ始めま―――――」

 

コンコン

 

「ん? どちらさまでー?」

 

俺がGメモリーの調整を始めようと思った矢先、ドアをノックする音が聞こえた。

 

「瑛斗・・・・・?」

 

どうやら来たのはシャルのようだ。しかし何故だ? 声のトーンが低い。

 

「おー、開いてるぜー」

 

「お邪魔するね・・・・・」

 

部屋に入ってきたシャルの目はなぜか曇っていて、背後にはメラメラと炎が燃え上がっている。

 

「ど・・・・・どした?」

 

「今、更識先輩とすれ違ったんだけど、泣きながら瑛斗の部屋から出てきてたんだよね。しかも妙に服が乱れてたよ」

 

それがその血管マークと背中の炎とどう結びつくんだろうか?

 

「そ、それが?」

 

「瑛斗・・・・・、先輩と何やってたの?」

 

「へ・・・・・? あ!」

 

合点が行った。あんの生徒会長・・・・・!

 

「ちっ、違う違う違う! そんなお前が考えてるようなことは何にもやってない! 決して!」

 

「本当・・・・・?」

 

「マジマジ! 楯無さんの悪ふざけだって!」

 

俺の必死の弁解が功を奏したのか、シャルの額の血管マークも背中の炎もふっと消えた。

 

「そっかぁ。良かった。僕の勘違いだったんだね」

 

そう言ってシャルはパァッと明るい笑顔を浮かべる。

 

「ま、全くだ・・・。は、ははは、はは」

 

俺は対照的に乾いた笑い声を上げた。

 

「そ、それで、他に用は?」

 

「あ、う、うん・・・。その・・・・・ね」

 

「?」

 

今度は急にモジモジと指を弄り始めるシャル。

 

「ほら、僕、前に瑛斗からブレスレットもらったでしょ? だから、その、お、お返しの意味も含めてね、瑛斗の誕生日になにかアクセサリーをプレゼントしようかなぁ、なんて、ど、どうかな?」

 

シャルはソワソワしながら上目遣いで聞いてくる。

 

「ブレスレットって、夏のあれか。でもなぁ」

 

俺は左手首を見る。そこには待機状態のG−soulがブレスレットとなって装着されている。

 

「悪いけど先客がいるんだよな」

 

「じゃ、じゃあ!」

 

シャルがずいっと顔を近づけてくる。

 

「ネックレスなんてどう? 駅前にいい店があるんだ」

 

「ネックレスかぁ・・・・・」

 

少し考えてみる。ブレスレットとネックレスを身に着けた俺。ちょっとチャラいか?

 

「だ、だからさ、週末に一緒に駅前に行かない? 僕も服とか見に行きたいし」

 

シャルが後ろで束ねた綺麗な金髪の先を弄りながら言葉を続ける。

 

(うーん、せっかくの厚意だし、断る理由はないか)

 

「わかった。じゃあ週末に駅前に行くか」

 

俺が言うと、シャルはずいっと顔を近づけてきた。ち、近い。

 

「本当!? 絶対だよ! や、約束だからね!?」

 

「あ、ああ。約束だ」

 

「じゃあ、はい」

 

そう言ってシャルは小指を差し出す。

 

シャルは日本の風習であるこの指切りがお気に入りなのだ。特に断る理由がないので俺はいつもそれに付き合っている。

 

「指切りげんまん、嘘ついたらクラスター爆弾のーますっ♪」

 

そんでもって決まり文句がいつも半端なく怖い。

 

シャルって、怒らせたら一番怖いよな・・・・・。

 

「指切った♪」

 

「おう」

 

「えへへ、週末が楽しみだなぁ」

 

「おいおい、まだ月曜日だぞ?」

 

「うん。でも楽しみだよ♪」

 

シャルは小指を立てたまま、にへら〜と笑う。まあ、楽しみがあるに越したことはないか。

 

「あれ? 瑛斗、それは?」

 

ふと、シャルが机の上のパソコンの画面を見た。

 

「ん? ああ、これか。新しいGメモリーだよ」

 

「あ、例のキャノンボール・ファスト用の?」

 

「そう。Gメモリー『フラスティア』。超高速機動が可能になるGメモリーだ」

 

「へぇ。あれ? でもゲイルスとかウインドとかもあったよね?」

 

「ああ。だけどゲイルスは直線距離の移動に優れてる分小回りが利かないし、ウインドは姿勢制御が面倒だ。だから二つのメモリーの優れた点を合わせ・・・・・、ん?」

 

視線を感じて画面から目を放してシャルの方を見ると、シャルは微笑みながら俺の顔を見ていた。

 

「なんだ? 俺の顔になんかついてるか?」

 

「ううん。ただ、瑛斗、楽しそうだなぁって思っただけ」

 

「?」

 

「だって、説明してる瑛斗は、すごくイキイキしてるから」

 

「そ、そうか?」

 

「うん。さすがIS研究所にいただけのことはあるよ」

 

自分では当然のと思っていたことで褒められて、正直、面食らってしまった。

 

「じゃあ、このフラスティアには武装は積むの?」

 

「ああ。一応妨害用のビームガンと防御に普段使ってるBRFシールドを・・・・・っとと、こっから先は企業秘密だ」

 

「あ、ばれちゃった?」

 

「危なかったぜ。誘導尋問に引っかかるところだった」

 

「えへへ。少しでも情報を聞き出したかったんだけどなぁ」

 

シャルは悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

 

「そう簡単に教えるかよ。悪いが、優勝はもらうぜ」

 

「僕も簡単に負けるつもりはないよ」

 

そう言ってシャルはドアに向かった。

 

「じゃあ、瑛斗、週末忘れないでね?」

 

「おう。俺もクラスター爆弾を飲む気はさらさら無いからな」

 

「うん。おやすみ。あんまり無理しないでね?」

 

「分かってるよ」

 

俺が答えるとシャルは部屋を出て行った。

 

「さてと、それじゃあ週末遊びに行けるように頑張りますか」

 

俺はパソコンに向かい、フラスティアの調整に入るのだった。

 

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シャルと指切り
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