IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「ヤバいヤバい。このままだと遅刻だ!」
週末、シャルと駅前に行く約束をしていた俺は待ち合わせ場所であるモニュメント前を目指して走っていた。
(まさか道を聞いてきたおばあさんがあんなに耳が遠かったとは・・・・・!)
走りながら出発直後のことを思い出す。
確実に間に合うように早めに出発したのだが、駅の中でおばあさんに交番への道を聞かれ、何回説明しても『え?』と首をかしげるので、じれったくなった俺はおばあさんを直接交番に送ってしまった。
そんなわけで俺はクラスター爆弾を飲むか飲まないかの瀬戸際に立たされてるわけだ。
(約束の時間まであと五分ちょい、ギリギリセーフか?)
そんなことを考えながら小走りで曲がり角を曲がる。するとシャルの姿が見えた。
(よかった! 間にあっ・・・・・ん?)
シャルの姿が見えたのは良かったんだが、そのシャルに絡んでいる二人のチャラッチャラした男の姿も目に入った。
しかもそのうち一人はシャルに腕をねじ上げられている。大方、シャルの怒りを買ったのだろう。
「て、てめえ、この!」
そしてもう一人のチャラ男がシャルに手を伸ばした!
「どりゃあっ!」
バゴッ!
「ぐはぁっ!?」
シャルに手を伸ばしたチャラ男が吹っ飛んだ。俺が鮮やかな飛び蹴りを腹に叩き込んだからである。
「俺の連れに何してくれてんだ」
着地して一言。決まった・・・・・。
「瑛斗っ!」
シャルが俺を見て嬉しそうに声をあげる。どうでもいいがシャル、そっちのチャラ男が尋常じゃない位の汗をかいてるぞ? そのまま締め上げてたら肩が外れ―――――
かきょっ
「うっぎゃああああああああ!」
ほら、外れた。
「おー、君。またあったね。おばあさんを道案内したり、暴漢を退治したり、いやいやうちのドラ息子に見習ってもらいたいもんだ」
そして騒ぎを聞きつけた中年お巡りさんがやって来た。俺があばあさんを連れて行った時にもいた人だったので俺に気づいて話しかけてくる。
「ど、どうも」
「はーい、じゃあそこの二人はこっち来る。おじさんが職務質問的なことをしちゃうから」
お巡りさんはそう言ってチャラ男二人を連れて駅の構内に入っていった。さて。
「すまんっ!」
俺はシャルに手を合わせて頭を下げる。
「理由は今の通りおばあさんを交番に連れて行ってたんだが、遅れちまった!」
あやまられたシャルはきょとんとした顔になる。
「う、ううん。時間前にちゃんと来てくれたし・・・・・それに、助けてくれてありがとう」
「そんなの当然だろ?」
相変わらず、シャルの心の広さには恩義を感じる。本当にいい奴だよな、シャルは。
「じゃあ、行くか」
俺はシャルの手を取った。
「ひゃっ!?」
するとシャルは顔を耳まで真っ赤にして驚いたような声をあげた。
「? どうした?」
いつかシャルが俺とはぐれない為にそうしてくれたから、俺はそれに習って手を握っただけなんだが、何かまずかっただろうか?
「う、ううん! 何でもないよ! うん! 何でもない!」
ブンブンと首を横に振るシャル。後ろで束ねた金色の髪がその動作によって躍る。
「そ、そうか。じゃあどこから行く?」
「え、えっと、あそこ!」
ビシ、とシャルが確認せず指差した方向に目を向ける。そこは、なんと女性用下着売り場だった。
(ま、マジか・・・・・!)
シャルが指差した方向を見たまま俺は体を硬直させる。
「い、いやぁ、さすがに・・・ちょっと・・・・・・」
困る俺。そして顔を上げたシャルも自分が指差した方を見てカーッと赤くなる。
「ちっ、違う! 違うよ! そ、その隣!」
「隣?」
俺は下着売り場の横を見る。そこは・・・・・
「あの、シャルよ、アレもどうかと思うが・・・・・?」
俺にそう言わせたのは男の形をしたマネキンがトランクスを穿いてショーウインドウの前に立っている店。要するに男性用下着売り場だった。
「は、はわわ・・・!」
もはや微妙に涙目になっているシャル。いかん、何か言わねば。
「い、いやな? お前が行きたいってんなら俺は止めないぜ? でもよ・・・・こんな朝っぱらから行くのはどうかと・・・・・」
俺が『行きたくないわけじゃないぞ』アピールをすると、シャルはさっきより激しく首を横に振った。
「も、もう一つ隣!」
「もう一つ隣?」
シャルの言った通りもう一つ隣を見る。そこは至って普通の本屋だった。
(まあ、あれぐらいだったらいいか。ってか、何で下着ショップの横に本屋?)
おかしな立地に首をかしげながらも、シャルが行きたいと行ったのだから従わない理由はない。
「わかった。じゃあ行こうぜ」
「う、うん・・・」
俺はシャルの手を引いて本屋に入った。
(ううう・・・、やっちゃった・・・・・)
瑛斗と本屋に入ったシャルロットは心の中で布団に包まりながら足をパタパタさせる。突然瑛斗に手を握られて気が動転していたこともあるが、よりにもよって下着売り場を二連発で指差し、瑛斗を困らせてしまったのだ。シャルロットは恥ずかしさと申し訳なさの感情で胸がいっぱいである。
(穴があったら入りたいよ。ううん。無くても掘って入りたい・・・・・)
そんなことを考えていると、瑛斗が本を持ってシャルロットのところに戻ってきた。
「なあ、シャル」
「な、なな、何!?」
未だ立ち直れていないシャルロットはいきなり声をかけられてバッと顔を上げる。
「お、おお。コレなんだけどよ、一夏の誕生日プレゼントにどうだ?」
そう言って瑛斗が見せてきたのは『粋なジョークの閃き方』と銘打たれた少し厚めの本だった。
「ほら、アイツこういうの好きだろ?」
「そ、そうだね。一夏、こういうの好きだよね」
瑛斗の話を聞きながらシャルは思う。
(瑛斗、自分も一夏にプレゼントをあげるつもりなんだ・・・・・)
偶然同じ誕生日ということもあるからなのか、貰うだけでなく渡すことも考えている瑛斗を見て、シャルロットは感心する。
(瑛斗って、いい人だなぁ)
シャルロットはレジに並んでいる瑛斗を見ながら思い出す。
自分が父親の命令でIS学園に男として転校したこと。
それがばれても瑛斗は全く気にしなかったこと。
それどころか、自分にそんなことをさせた父親のところへわざわざ向かい、金輪際こんな馬鹿げたことをやらせるなと言ってくれたこと。
(本当に優しい人。そんな瑛斗だから、僕は―――――)
「よーし! 買った買った!」
そして袋を提げた瑛斗が戻ってきた。
「シャルは何か欲しい本があるのか?」
「ううん。探したけどこのお店にはなかったよ」
「そうか。そりゃ残念」
「じゃあ、アクセサリーショップに行こうよ」
「おう」
そして二人は本屋を出る。
「あっと、忘れるところだった」
「?」
瑛斗はシャルロットの手を握った。
「はぐれたら色々面倒だからな」
へへ、と笑って歩き出す瑛斗。シャルはそんな瑛斗の後ろを歩きながら微笑む。
(そう。そんな瑛斗だから、僕は君が・・・・・)
「・・・・・きだよ」
「ん? シャル、なんか言ったか?」
瑛斗が振り返ってシャルロットの顔を見る。
「ううん。何も」
「? そうか」
(いつか・・・、いつかはっきり聞かせてあげるから、それまで待っててね)
瑛斗と過ごせるこの幸せを、シャルロットは精一杯噛み締めるのだった。
「うーん、どれがいいかな」
アクセサリーショップに着いて、俺はネックレスのディスプレイを見て悩んでいる。
こういうのはあまり選んだことが無いから正直言うと、どれも同じに見えてしまう。
(せっかく、シャルが誕生日プレゼントにくれるって言うからしっかりしたものを選びたいよなぁ)
「こちらの商品はいかがですか? 結構人気ですよ」
「あー、そういうのはちょっと」
「そうですか」
店員さんも俺の好みが見定められずに微妙に困ってらっしゃる。マズい・・・・・。なんとかせねば。
「どう? 良さそうなのあった?」
「そうだなぁ・・・・・。こう、しっくり来るものがあると良いんだけどな・・・」
「そうだね」
シャルと一緒にディスプレイを見る。うーん・・・・・お。
「これなんか良さそうだな」
俺が指差したのは菱形に小さな羽根のようなものが着いたネックレス。
「ほら、お前のラファールの待機状態みたいだろ?」
「本当だ。そっくりだね」
一度見てしまうと、もうそれしか見えなくなってしまう。値段もそんなに高いわけでもない。
「決めた。俺、これがいい」
「うん。わかった」
そうと決まれば話は早い。シャルは店員さんと話し、早速俺が選んだものを包んでもらう。
「これでよし、と。渡すのは誕生日当日でいいかな?」
「ああ。いいぜ」
みんなと同じタイミングで渡した方が楽だもんな。
「よーし、後はシャルの買い物だな」
「うん。近くに新しい洋服屋さんができたらしいから、そこにも行ってみたいんだ」
「了解だ。早速行こう」
そうして、シャルとの買い物は続き、帰るころには日が大分傾いていた。
「今日は楽しかったな」
夕方、瑛斗とシャルロットは茜色に染まったIS学園への道を歩いていた。
「そ、そうだね」
「アレな。マジックショーでシャルが手伝ったりしてな」
「うん。その後で瑛斗も呼ばれてジャグリングのピンを投げたりしたよね」
「ああ、アレか。凄かったな」
今日一日のことを思い出しながら談笑していると、すぐに学園に着いた。
「あ、一夏と箒だ」
ふとゲートの前で一夏と箒が話しているところに出会った。
「よう。二人とも」
「ん? 瑛斗とシャルロットか。お前たちも買い物か?」
箒がシャルが手に提げている紙袋を見て聞いてきた。
「そうだけど、『お前たちも』って?」
シャルが聞くと、一夏が答えた。
「実は俺も今日は鈴と駅前に行くことになってたんだけど、ドタキャンされちゃってさ。どうしようか考えてたら、蘭に会ったんだよ」
「「蘭?」」
シャルと一緒に首をかしげる。
「ああ、二人は知らなかったな。ほら、この前の学園祭で俺の友達が来てたろ? そいつの妹」
「ふーん」
そう言えば、エリスさんと同じ場所で待ってたヤツがいたな。なんて名前だったっけ? 六本木弾? そんな感じだった気がする。
「それで、その蘭と一緒にお前へのプレゼント買ったりしてまわったんだよ」
「え、マジで? 実は俺も今日駅前でお前にプレゼント買ったんだよ」
「おお! 具体的には何を!?」
「それは誕生日までのお楽しみだろ? 俺もお前からのプレゼント楽しみにしてるからよ」
「わかった。でもあんまりハードル上げるなよ?」
「わかってるって」
俺が一夏と話していると、ごほんと箒が咳払いした。
「い、一夏。買い物に出かけるなら私も誘え。私も生活必需品など諸々必要だから、な」
「お、おお」
「さて、そろそろ夕飯だ。みんなで食堂に行こうぜ」
「そうだな」
「うん」
「付き合ってやろう」
全員の賛同が得られた。
「そうだ、どうせならラウラも誘うか。人数が多いに越したことはないだろ?」
「おう。飯は大勢であればあるほど美味いからな。鈴も誘うか」
「な、なぜそこで鈴が出てくる!?」
「え、だってアイツ急用で来れなくなったって言ってたけど、さすがにもう終わっただろ?」
「・・・・・鈴め、抜け目ないな・・・・・」
箒が小声でぶつぶつ言っている。
「じゃあセシリアも誘って、いつも通りの面子で行くとするか。着替えて食堂前に集合な」
「おう!」
「ああ!」
「うん!」
返事をした一夏と箒とシャルは笑顔で頷くのだった。
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