IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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「何ですってええ〜っ!?」

 

朝、学食に叫び声が響く。朝っぱらからうるさいなぁ、もう。

 

「り、鈴! 静かにしろ!」

 

一夏があわてて鈴をなだめる。しかし鈴は止まらない。

 

「一夏ぁっ! 説明しなさいよ!」

 

鈴は普段から勝気な目をさらに吊り上げながら一夏に詰め寄っている。

 

(うーん、やっぱりここの味噌汁は美味ぇ・・・)

 

俺はその光景を見ながらのんびりと味噌汁をすする。なんか、慣れちゃったんだよね。こういうの。

 

「ねえ、瑛斗、何があったの?」

 

のっぴきならない状況に困惑したシャルが俺に耳打ちする。

 

「ん? 今朝セシリアがパジャマ姿で一夏の部屋から出てきたんだとよ」

 

「ええっ!? そ、そそ、それってつまり・・・・・!」

 

「そういうことですわ」

 

ふふんといった調子でセシリアがさらっと髪を横に流しながらシャルの言葉から続けた。

 

「一組の男女が一夜をすごしたのですわ。つまり、そういうことでしてよ」

 

そりゃまあ勝ち誇った表情のセシリア。それを見て鈴がぐわっと一夏に詰め寄る。

 

「一夏! 今日はアタシと寝なさいっ! それで・・・それで!」

 

「だああっ! 待て待て! 昨日はセシリアにマッサージしたんだ! そしたらセシリアが途中で寝ちゃったから部屋に泊めただけだって!」

 

一夏が一言一句丁寧に聞こえるように鈴に言うと、鈴は安心したように息を吐いた。

 

「なんだ・・・、ま、そんなことだろうとは思ったけどね」

 

そう言って鈴は朝食を再開する。

 

「どうやらシャル、お前と同じ勘違いだったみたいだぞ?」

 

いつかのシャルの勘違いを思い出して俺は笑う。

 

「・・・! もう、意地悪なこと言わないでよぉ!」

 

シャルは赤面して反論してきた。

 

「はは、悪い悪い」

 

「・・・・・あの時は本気で焦ったんだから」

 

「ん? 何?」

 

「なんでもない」

 

「あ、そう」

 

俺も会話を止めて朝食に戻る。俺は焼きサバ定食。シャルはクリームシチュー。鈴は五目焼きそば。一夏は焼き鮭定食だ。

 

「・・・一夏さんのばか・・・・・」

 

「? どしたセシリア?」

 

「なんでもありませんわっ」

 

セシリアは一転して不機嫌そうな表情でBLTベーグルを食べている。

 

「しかし、箒がいなくて良かった。あいつにまで聞かれてたらどうなることか・・・・・」

 

一夏はほっと息を吐いてポリポリときゅうりの漬物を食べる。

 

「一夏。どうやら、お前の読みがあたったようだぞ」

 

スクランブルエッグを食べながら、ラウラがポツリとつぶやいて俺の後ろを見た。

 

「ほう・・・・・、そうか。そうかそうか。私が知らない間にそんなことが・・・・・」

 

そこには朝から背中に阿修羅を幻視させるほどの気迫を携えた箒が腕を組んで仁王立ちしていた。

 

「ほ、箒・・・・・!」

 

一夏は顔面を蒼白にした。

 

(あーあ。俺、しーらね)

 

俺はずずずっと味噌汁をすすり、一夏と箒と鈴とセシリアのバカ騒ぎを聞き流した。

 

「何を朝からバカ騒ぎしている!」

 

ふと、喧騒のBGMが途絶えた。顔を上げると、腕を組んで指をトントンと動かしている一夏のお姉さんこと織斑先生が漆黒のスーツを身に纏って俺達を見ていた。

 

「この馬鹿たれどもが」

 

すぱぱぱーんっと箒たちの頭をはたく織斑先生。一夏には拳骨が振り下ろされていた。容赦ねえな。

 

「オルコット」

 

「は、はいっ!?」

 

「反省文の提出を忘れるなよ」

 

「は、はいぃ・・・・・」

 

しゅんとなるセシリア。

 

「それから織斑」

 

「な、何でしょうか」

 

「貴様には懲罰部屋三日間をくれてやる。どうだ? 嬉しいだろう?」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・」

 

哀れなり一夏。きっと良いことあるさ。

 

「さて! いつまでもダラダラと食っているんじゃない! さっさと食べて教室に行け! 以上!」

 

ぱんぱんと織斑先生が手を叩いたのを合図に女子たちがあわてて動き始める。

 

「じゃあ、俺達も行くか」

 

「うん」

 

「ああ」

 

俺はシャルとラウラと共に学食を出た。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、それではみなさーん。今日は高機動についての授業をしますよー」

 

一組の副担任、山田先生の声が第六アリーナに響く。

 

「この第六アリーナでは中央タワーと繋がっていて、高機動実習が可能であることは先週言いましたよね? それじゃあまずは専用機持ちの皆さんに実演してもらいましょう!」

 

山田先生がそう言ってばばっと手を向けた先には俺と一夏とセシリアがいる。

 

「まず、高機動パッケージ、『ストライク・ガンナー』を装備したオルコットさん!」

 

パチパチと拍手が起こる。セシリアはそれに応えるように手を挙げる。

 

「次は通常装備ですが、スラスターに全出力を調整して仮想高機動装備にした織斑君!」

 

同様に拍手が起こる。

 

「最後は・・・・・あれ? 桐野君、装備の変更は?」

 

「ん? おっといけねぇ。 Gメモリー! セレクトモード!」

 

あわててGメモリーを起動する。

 

「セレクト! フラスティア!」

 

コード確認しました。フラスティア発動許可します。

 

ウインドウに表示が出て、装甲が変化する。

 

脚部装甲にスラスターを片方四基ずつ、計八つ搭載し、肩にも姿勢制御用のスラスターを装備し、おまけにBRFシールドにまでブースターを装備したキャノンボール・ファスト用のGメモリー、『フラスティア』が起動した。

 

「えー、キャノンボール・ファスト用の『G−soulフラスティアモード』で参加する桐野瑛斗だ。拍手!」

 

俺がそういうと、拍手を要求されたからか、一際大きい拍手が返ってきた。

 

「それでは三人とも位置についてください!」

 

指示された俺達はスタートラインに立つ。

 

そして俺は高機動用補助バイザーにもなる視界防護用フェイスマスクを着ける。

 

(このマスクをつけるのも地球に落ちてきたとき以来か・・・・・) 

 

懐かしく感じながらスラスターを起動する。

 

「3・・・2・・・1・・・・・ゴーッ!」

 

山田先生のフラッグで俺達は一気に飛翔。そして加速して音速を超える。

 

(うおぉ・・・・速いな・・・・・!)

 

体に吹きつける風を感じながら俺はさらに加速する。

 

『お先に♪』

 

セシリアが俺の横を通り過ぎ、一気に距離を伸ばした。バレット・ビットも推力に変換してるから速いこと速いこと。

 

『やるな、セシリア』

 

一夏が俺の横を併走する。

 

「ああ。流石は代表候補生。だけどな!」

 

俺はG−soulに意識を集中し、スラスターを噴かす。タワーにぶつからないように慎重に操縦しながら一夏とともにセシリアを追いかける。

 

「伊達にキャノンボール・ファスト用のGメモリーじゃないぜ!」

 

『俺も負けちゃいない!』

 

『あら? わたくしの魅力的なヒップに釘付けかと思いましたわ』

 

『ば、バカ』

 

「変なこと言うなよ!」

 

『冗談でしてよ? ふふっ♪』

 

なぜか上機嫌のセシリアとそんな会話をしてタワー頂上から折り返す。

 

そしてそのまま三人とも併走状態でゴールする。

 

「うん。フラスティアの調子も良い! この分なら優勝も狙えるな!」

 

「あら? わたくしのことを忘れてもらっては困りますわ?」

 

「そうだぞ瑛斗。俺も忘れるなよ」

 

「分かってる分かってる」

 

着地してウインドウの表示を見る。うん、予想以上の稼働率だ。

 

「みなさんとっても素晴らしかったです! 先生も嬉しいですよ!」

 

山田先生がピョンピョンと跳ねる。それと同時に自意識過剰なその胸が激しく躍動する。

 

(うぅ、相変わらず目のやり場に困る人だ・・・・・)

 

「おい、瑛斗、おい!」

 

「んあ?」

 

「そ、その・・・、お前は、む、胸が大きい方が好み・・・・・か?」

 

「は!? え!? べ、別にんなこたぁねえぞ!?」

 

ラウラの突然の質問に面食らってしまう。

 

「ふ、ふん! そうか。・・・・・そ、それなら、別にいい」

 

「あん?」

 

「な、なんでもない! ―――――ええい! こっちを見るな!」

 

IS展開状態のラウラが手刀で薙ぎ払う。そうすると例のAICが発動して俺の首を変な角度でロックした。

 

(お前から話しかけてきたんだろーが!)

 

頭を止められてるから口も動かせないので、脳内で反論する。

 

そんなやりとりをしていると織斑先生がぱんぱんと手を叩いた。

 

「いいか。今年は異例の一年生参加となるが、そうなるからには各自結果を残すように。キャノンボール・ファストでの経験は必ず生きてくるだろう。それでは訓練機組の選出を行うので、各自割り振られた機体のところへ行け。ぼやぼやするな。開始!」

 

毎年恒例のこのイベントは整備課が登場する二年生から参加するのが通常だ。しかし、今年は予期せぬことが多かった上に専用機持ちが多いため一年生も参加することになった。

 

訓練機部門は完全にクラス対抗戦のため、当然賞品がでる。

 

「よ〜し、勝つぞ〜!」

 

「お姉さまにいいところ見せなきゃ!」

 

「優勝したらデザート半年タダ! これは勝つしかないっしょ!」

 

女子って、ほんと甘い食い物が好きだよねぇ。

 

「さて・・・俺も頑張りますか」

 

いつまでも全展開だと邪魔になるから頭のヘッドギアだけ展開し、ウインドウを見て改善点を探す。

 

「うーむ・・・、もう少しスラスターの出力を上げても・・・・・」

 

「あ、瑛斗っ♪」

 

歩いてくる俺にシャルが気づいて手を振ってきた。

 

近くにはさっき俺の首を固定したラウラもいる。

 

「おう」

 

手を振りかえして仲良し二人組のところに行く。

 

「どうだ? 調子は?」

 

「今ちょうどふたりとも増設スラスターの量子変換(インストール)が終わったところ。これから調整に入ろうって、ね?」

 

「ああ。その通りだ」

 

言われてみればふたりとも俺と同じようにヘッドギアだけ展開している。シャルはヘアバンド、ラウラはウサ耳的なヘッドパーツは何かのコスプレのようだ。

 

インストールされたデータを読み込んでいるらしく、二人のヘッドギアはピクピクと動いていて、それがまた動物のようでちょっと可愛い。

 

「そうだ、せっかくだから二人の動くところ見せてくれないか? 上級者の加速と減速の仕方を知りたいんだ」

 

「うん。いいよ。ラウラと一周してくるから、映像を回すね。チャンネルは304だよ」

 

「ああ」

 

直視(ダイレクト)・映像(ビュー)とこの呼ばれる機能は視界の共有―――――いわばライブ映像ができるシステムだ

 

「私のチャンネルは305だ」

 

「あいよ。でもラウラの視界移動ってレベル高ぇからついていくのが微妙に大変なんだよな」

 

「馬鹿者。精進しろ」

 

「へいへい。わーってますよ。ラウラティーチャー?」

 

「ふんっ。何がティーチャーだ」

 

口ではそう言うが満更でもないように頬を赤くするラウラ。

 

どうやら照れているらしい。

 

(さて、チャンネル繋いでっと)

 

「瑛斗、準備OK?」

 

「おお、バッチリだ。・・・・・ってかやっぱりライブで自分の顔が見えるってちょっと変だな」

 

「え!? い、いやその、べ、別に瑛斗ばっかり見てるわけじゃ・・・・・」

 

「ん?」

 

「な、何でもないっ!」

 

ブンブンと手を横に振っているシャルを不思議そうに見ていると、『シュヴァルツェア・レーゲン』を展開したラウラ浮遊する。

 

「先に行くぞ」

 

「あっ、待ってよ! ラウラってばぁ!」

 

追いかけるようにシャルも『ラファール・リヴァイヴ・カスタムU』を展開する。

 

二人は巧みな操縦で第六アリーナのコースを駆け、中央タワー外周へと上昇した。

 

(なるほど・・・・・。こうやって減速するのか)

 

二人とも違う加速方法だったが、減速のタイミングは同じだったからとても参考になった。

 

「瑛斗、どうだった?」

 

少しして、シャルとラウラが戻ってきた。

 

「ああ。凄い参考になった。助かったぜ。サンキューな」

 

「うむ、大いに精進するがいい」

 

「なあ、瑛斗」

 

「ん?」

 

後ろから声をかけられて振り返ると、一夏がいた。

 

「ちょっと模擬戦闘に付き合ってくれないか? キャノンボール・ファスト想定の高機動戦闘の」

 

「別に良いぜ。じゃあ、ちょっと行ってくるから」

 

「うん」

 

「分かった」

 

シャルとラウラに見送られて俺と一夏はスタートラインに立つ。

 

「どら、いっちょう揉んでやるか。G−soul!」

 

手をコキコキと鳴らしてG−soulを展開する。

 

「Gメモリー! セレクトモード! セレクト! フラスティア!」

 

そのままの勢いでフラスティアを起動、浮遊する。

 

「模擬戦っつっても手加減しないからな?」

 

「わかってる。行くぞ・・・よーい」

 

「「どん!」」

 

一夏とほぼ同時にスタートする。

 

最初は横一線だったが、スラスターの瞬時全噴射(フラッシュブースト)で一夏を突き放す。

 

「はっはーっ!」

 

高速で流れていく視界に高揚感を覚えて声をあげる。

 

肩の駆動式(フレキシブル)スラスターを動かして立体カーブをほぼ減速せずに抜ける。

 

カーブを抜ける直前に視界の端に一夏の白式が見えた。

 

(妨害と行くか!)

 

俺は手だけを後ろに向けて右手のビームガンを牽制に放つ。一夏はそれをサイドロールで躱す。

 

(かかった!)

 

俺は肩のスラスターの上部を開き、砲門を一夏のサイドロールした方向に向ける。

 

バシュッ!

 

スラスターの砲門から射出されたのは捕獲用のネットだ。

 

「うわっ!?」

 

見事にネットに絡まった一夏はバランスを崩す。

 

「これでっ!」

 

俺はトドメとばかりに左手に小型ガトリングを呼び出し、弾丸の雨を一夏に浴びせる。

 

ダメ押しの弾丸に当たった一夏はそのままバランスを大きく崩してコースアウト。そのまま重力に任せて地表に落下した。

 

「大丈夫か?」

 

俺は一夏が落下したところまで戻って声をかけると絡まったネットを手でどかしながら一夏が起き上った。

 

「あ、ああ。大丈夫」

 

「スラスターからネットが飛び出すとは思わんかったろ?」

 

「ああ。マシンガンかと思ったら全然想像とは違うものが出てきたから驚いた」

 

「それが狙いだからな」

 

俺はネットを回収し、量子化して再び肩のスラスターの中にしまう。

 

「スペック的にはお前の白式も負けちゃいないからな。今日の放課後からでも教えてやるよ。ラウラ程とは行かなくともそれなりには分かってるから」

 

「わかった。じゃあ頼むぞ」

 

俺は一夏に手を貸して起き上らせた。

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キャノンボール・ファストに向けて特訓だ!
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