乱世を歩む武人〜第五話〜 |
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「いい!絶対に私の許可無く死ぬんじゃないわよ!」
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「わかってるよ姉貴。そうやすやすと俺が死ぬわけ無いだろう?」
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「それはそうだろうけど・・・あともう一つ!落ち着いたらなんとかして連絡入れるから、その時は必ず私の元へ帰って来ること!」
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「はいよ。ソレまでには今より更に強くなってるだろうから楽しみにして待っててくれや」
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「期待してるわよ。じゃあ・・・行ってらっしゃい。○○」
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「ああ。そっちも気をつけてな。」
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徐栄
「・・・・・・懐かしい夢を見たな」
朝、日の出とほぼ同時に私の一日は始まる。
さすがにこの時間帯に起きている人はそうそういない。
腰掛けた寝台から足をおろし大きく伸びをする。
ちなみに私には寝るときに横になるという習慣がない。一人で旅をしていてると横になって寝るなど怖くてできたものではないからである。
軽く身体をほぐした後は外に出て鍛錬をはじめる。
まずは腕立てから始まり腹筋、背筋、砂袋を持った状態での屈伸運動(スクワット)をそれぞれ200回ずつだ。
おそらく大陸中さがしても筋力を重視している鍛錬を積むものはそうそういないだろう。
この大陸では現在、男女の力の差は歴然としており女性のほうが圧倒的に強い事が多い。
実際に名のある名将と呼ばれるものがほとんど女性なのが今の時代だ。
だがそれでも工事や力仕事といったことの大抵は男がやっている。ソレはなぜか。
それは男性のほうが「筋力」が高く女性のほうが「気」の総量が多いからだ。
「気」というのは人間が誰しも持っているもので、それを扱える者いわく英雄と呼ばれる女性の気の総量は男が持つ気の10倍以上になるという。
それは頭脳に作用するものは「才気」と呼ばれ、武力に作用するものは「威圧感」と呼ばれることがある。
また、滅多に持っているもののいないが人を従えさせる力を「覇気」と呼ぶ。
劉備さんから勧誘を受けた時に感じた物・・・アレが覇気なのかもしれない。
話はそれたがようするに女性の英雄と呼ばれるもののほとんどが気を無意識化で使い身体を強化しながら戦っているわけだ。
私の気の総量は常人男性よりは多い。しかし張遼さんなどと比べれしまえば半分程度だろう。しかしそれでもなんとか食らいついていけたのは気を操作する術を多少もっていること、そして筋力という男ならではの有利をきっちり鍛えていたからに他ならない。
そして筋力は鍛えないとすぐに衰える。だから私は早朝日課としてかかさずやっているのだ。
早朝の鍛錬が終わり汗をふき着替えた後には厨房に向かう。
食べに行くのではない。朝食を作りに行くのだ。
私はココに来てから数日しか立っていない身の上だし、料理の腕がなまっても困る。
何より自分で食べる食材はできるだけ自分で確認したいものだ。
だから私は外で食べるときも大体は厨房が見えている場所を選ぶ。
先に食事の準備をしていた侍女達は私の顔を見ると軽く微笑みながら自分の場を開けてくれた。
ここ数日いたおかげだろう。私の実力は既に把握していてくれるようで全くと心配の気配はない。
ありがたいことだ・・・そう思いながらも私は朝食の準備を始めた。
張遼
「おはよー!今日もやっとるかー!」
呂布
「・・・・・・おはよ」
???
「おはようなのです!」
朝から元気な挨拶をしながら張遼さん達が食堂へと入ってきた。
徐栄
「おはようございます。張遼さん。呂布さん。陳宮さん。」
いつもどおりの顔ぶれに私は笑顔でそう返す。
陳宮さんは呂布さんの軍師らしい。緑色の髪をした小さめの女性でよく呂布さんと一緒にいる。
張遼
「ん〜・・・やっぱちょっと固く感じるなぁー・・・なぁ〜徐栄。どうしても真名で呼び合うのはいやか?」
呂布
「・・・恋も、恋でいい。」
陳宮
「恋殿!こんな男に真名で呼ばせるなんていやですぞ!」
三人が口々そう言ってきた。
徐栄
「・・・申し訳ありません。これは私が絶対に譲れない点なのです。どうかご容赦を。」
そう。私は彼女達に真名を預けていないのだ。
真名とは神聖なものであり許された人以外が呼ぶとたとえ殺されても文句の言えない真の名前。
例えどんな偽名を名乗っていようと真名を偽る人間というのは絶対にいない。
しかし真名を預ける線引きというものは人によってまちまちだ。主従を結んだときや同僚になる相手。親しくなった人に教えるが基本だろうか。
自分の線引きは常人どころか変わり者の中でも変わっている方だろう。
私が真名を預ける人は例え真名を預けたその相手に無抵抗で殺されても文句をいわないと決めた人間に限る。
まぁ一部例外はあるが。
今現在この大陸をさがしても私が真名を呼ぶことを許した人は家族を含め10人にも満たないだろう。
そのくらい私は真名を重く見ているのだ。
張遼
「ま〜しゃあないわな。真名は大事なもんやさかい。無理やり呼ばせたくもないし。ほな話はここまでにしてそろそろ食べよか」
呂布
「・・・・・ん」
陳宮
「恋どの!どうぞこれを!」
これ以上押してもとわかっているのか張遼さんは話を閉じ先程から机いっぱい私が並べていた料理に手を付け始めた。
朝なのに随分多いと感じるだろうが、彼女・・・呂布さんがいる場合この程度は絶対に必要なのだ。
まぁあれだけの気をもっていれば消費も激しいわな。
そんなことを思いつつ私も自分の分をとり始める。
・・・よし。味は十全。
陳宮
「むむむ・・・相変わらず美味しいのです。」
呂布
「・・・・・(コクコク)」
張遼
「ほんまになー!これを食うためだけに早起きしとるかいがあるっちゅーこっちゃ!」
徐栄
「ははは・・・そう言っていただければ何よりですよ。」
初日に朝食を作った時に一口食べさせろいうから食べさせてみたらこの結果。どうやらいたくお気にめしたらしく次の日から毎日用意させられる。
張遼
「なんで徐栄は男なのにこんなに料理できるんや?普通は母親が作ってくれるもんやろ?あ。別に言いづらかったら言わんでもええで。」
徐栄
「いいづらい・・・?ああいえ、大丈夫ですよ。ただ姉にせがまれてよく作ってたんですよ。」
張遼
「姉?徐栄には姉ちゃんがおるんか。」
徐栄
「はい。今は離れておりますが」
張遼
「まぁ誰も連れてへんかったもんな。今はどこにおるん?」
徐栄
「今は袁家で文官をしているはずですよ。別れてから結構経つのでもう他のところに行ってるかもしれませんがね」
張遼
「袁家!?袁家って名門の!?」
徐栄
「ちょっと縁がありましてね・・・っとそろそろ仕事にいかないといけませんね。私は後片付けを手伝ってから仕事に向かいます。」
呂布さんは未だにもきゅもきゅと食事をしているが時間的にはだいぶ経過している。
張遼
「そうやな。ちと話こみすぎたわ。じゃあまた後でな。」
そういって私は彼女たちを背に厨房へと戻った。
後片付けまで手伝った後は書類仕事だ。賈駆さんに「文字は読めるのか」と聞いたときに「一応ひと通りの本は読んでいた」といったら頼まれた。
張遼さんも「ウチは調練に行くからなんとか頼むわ」と言って自分の書簡をこっちに押し付けてきた。
とはいえ所詮武官にまわす仕事。姉のところでやっていた手伝いに比べれば量も質も大した問題ではない。
兵の兵糧計算に始まる部隊の武器の支出やら遠征時の資金繰りなど、何故か知らないが治安問題に対してのものが入っているがまぁ意見書みたいなものなのだろう。
適当に片付けて・・・あとは張遼さんのものも一応やっておく。
まだまだあるがまぁどうにかなるだろう。
・・・・・・よし。あとで確認印をもらえばおわりだ。
大体日が登り切る頃になってようやく終わった。
張遼
「おーやっとるなぁ。どんな感じや?」
徐栄
「ええ。今ちょうど全部終わったところですよ。そっちの右側の束の確認印お願いします。」
張遼
「おおきになー。・・・うん。全然問題あらへんわ」
そう言いながらサラサラと確認印をつけていく。まぁなにもないならそれでいい。
張遼。
「よし、できたで。 ホンマ悪いなーうちの分までやらせてもうて」
徐栄
「いえいえ、大した量じゃありませんでしたからね。「え?あんだけあったのに大した量じゃないて」じゃあこれを賈駆さんのところへ持っていきすね。」
よいしょと書簡の束を抱えて私は何か言おうとしている張遼さんを置いて執務室を出たのであった。
張遼
「・・・・・・アレ確かここ一週間くらいの分やったんやけどなぁ」
華雄
「ハァァァァァァァァァァァ!」
徐栄
「うぉっとぉ!?」
私の横を重量感のある音が通り過ぎていく。
彼女・・・華雄による戦斧の一撃だ。
今は昼過ぎ。昼食をとった後廊下を歩いていたら華雄さんに模擬戦を頼まれた。
そして今ここ調練場、私は死の危機にひんしていた。
斧があたった地面は陥没している。当たったらただではすまないだろう。
徐栄
「華雄さーん。華雄さーん。これ当たったら死ぬと思うんですがどう思いますか?」
華雄
「フン、当然だ。我が一撃はすべてを砕く。模造刀とてただではすまん」
徐栄
「イヤイヤそこは気にしましょうや。」
思わず突っ込んでしまう。
模造刀とはいえ重量はそのまま再現しているのだ。あれがあたったら打撲じゃすまん。
華雄
「ええい!貴様も武人なら正々堂々我が一撃を受けてみろー!」
徐栄
「貴方自分の攻撃受けられると思ってるんですかぉぉっと!」
剣で軌道を変えながらそう聞いてみる。
華雄
「無理に決まっている!我が一撃を真っ向から受けて無事ですむわけがないだろうが!」
徐栄
「とりあえず自分で言ってることくらい整理しましょうよ・・・」
そう言いながらも斧をいなしていく徐栄であった。
徐栄
「ようやく解放された・・・」
夕食をとりふらふらになりながら部屋に戻る。
あれから日が暮れるまでずっと斧に対応し続けるだけだった・・・彼女の体力の底がしれない。
ああ・・・だめだ。流石に集中力が切れた・・・
こういうときはさっさと寝ておかないと張遼さんに絡まれてしまう。
徐栄
「酒はきらいじゃないけどあの人と飲むと飲み過ぎるからな・・・」
初日も歓迎会と称してエライ飲まされ次の日のが大変だったしなぁ。
そんなことを考えつつ休もうと寝台に腰掛ける。
だんだんと身体を睡魔が支配していっ「おーっすー!徐栄起きとるかー!」
・・・・・・遅かった。
張遼
「アレ・・・もう寝とった?」
徐栄
「ええ・・・丁度寝る直前でしたとも、それで。何か急用でも?」
寝る寸前を起こされたのでちょっと不機嫌そうにそう応える。
張遼
「あははー・・・嫌な。華雄とウチとで飲むことになったんや。徐栄につまみでもつくってもらおかー思て」
徐栄
「・・・・・・・・・・・・はぁ。了解しました」
そういいながらのそりと寝台から降りる。
張遼
「なぁ・・・怒っとる?」
徐栄
「いえ。怒ってはいませんよ。」
張遼
「うそやん顔怒っとるで。」
徐栄
「・・・怒らせたいので?。」
張遼
「なぁ堪忍してや〜徐栄の飯が美味いのが悪いんや〜」
徐栄
「何故ソレで私がわるいことになるんですか・・・」
ギャーギャーと話ながらも厨房へと進んでいるあたり損な性分をしていると思う。
こうして徐栄のなんでもない一日は過ぎていったのであった。
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