IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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「おーっす。来たぞー」

 

夕方、俺は一夏の家にやって来た。

 

すっかり忘れていたが、今日は俺と一夏の誕生日パーティーをすることになっていたのだ。

 

サイレント・ゼフィルスの襲撃の後、全員取り調べを受けて、俺が解放されたのは四時を過ぎたころだった。

 

「ん? お前は確か・・・・・桐野瑛斗」

 

「あ、学園祭に来てた一夏の知り合い」

 

玄関に入るなりトイレから出てきたのは見覚えがある顔だった。

 

「えーと・・・・・六本木弾、だっけ?」

 

「違う」

 

「え、違うの? ・・・・・八王子弾?」

 

「もっと違う!」

 

「え〜? 待っててくれ。絶対に思い出す。えーっと・・・・・・」

 

「五反田だ! 五反田弾だよ! 何だよ六本木とか八王子とか!」

 

「ああそうそう! 五反田! そうだったそうだった」

 

「弾ー? 人んちの玄関で何騒いでんだよ?」

 

リビングに通ずるドアから今度は見覚えのない俺達と同年代くらいの男が出てきた。

 

「あ、もしかして君が桐野瑛斗?」

 

「そうだけど・・・、もしかして一夏の古い友人?」

 

「そ。俺は御手洗数馬。よろしく。おーい、一夏ー。今日のもう一人の主役が来たぞー?」

 

「おーう」

 

「ぶふぉっ!?」

 

出てきた一夏を見て俺は噴いてしまった。

 

一夏は作り物の鼻と眼鏡が一緒になった、いわゆる『鼻メガネ』を装着しており、肩からは『本日の主役』と達筆な筆字で書かれたタスキをかけている。

 

「く、くく・・・。一夏、これ絶対、楯無さんがいるだろ・・・・・?」

 

必死に笑いをこらえると一夏の後ろからヒョコッと楯無さんが顔を出した。

 

「ぴんぽーん。正解よ。さ、入って入って」

 

他人の家でまるで自分の家のような感覚で過ごしているあたり、楯無さんらしいと言えばらしい。

 

「あ、きりりんが来た〜」

 

「うお、凄い人数だな」

 

リビングに入るといつもの面子に生徒会の三人、それと新聞部のエースこと黛さん、そして一夏の友人二人と弾と髪の色が似ている女の子がいた。

 

「あ、もしかして君が一夏の言ってた、蘭ちゃん?」

 

「あ、は、はい! 五反田蘭です! い、一夏さんがお世話になってます!」

 

ぺこりと頭を下げて挨拶してきた子はやっぱりそうだった。

 

「蘭は弾の一つ下の妹でな」

 

「おうよ! 俺の妹は五反田食堂の看板娘なんだぜ!」

 

一夏が説明し、弾が自慢げに胸を張る。

 

「も、もう! やめてよバカ兄!」

 

そんですぐに蘭ちゃんに脛を蹴られていた。

 

「五反田食堂?」

 

「ああ、そう言えば瑛斗には言ってなかったな。弾と蘭の家は飯屋やってるんだよ」

 

「へえ。そこの料理って美味いか?」

 

「そりゃもう、もの凄く美味い」

 

「い、一夏さんまで・・・」

 

ポッと頬を赤くして俯く蘭ちゃん。兄と一夏への反応が違うな。

 

「さ、いつまでもお話してないで瑛斗くんもこれ着けて」

 

楯無さんが俺に一夏と色違いの『本日の主役』タスキをかける。

 

「それじゃあみんな、クラッカー用意!」

 

楯無さんの指示でみんなクラッカーを取り出す。何? この統率感?

 

「せーのっ」

 

「一夏!」

 

「瑛斗!」

 

「「「「「「誕生日おめでとう!」」」」」」

 

パン、パンパーン

 

「お、おう」

 

「あ、ありがとう」

 

クラッカーが終わると、みんな動き出した。

 

「あ、あの、一夏さんっ。け、ケーキ焼いて来ました!」

 

「おお、蘭。サンキュ。今日はどうだった? って言っても途中で大変なことになっちまったけど」

 

「い、いえ! とってもカッコよかったです! よ、良かったら桐野さんもどうぞ!」

 

「え、いいの?」

 

「は、はい!」

 

それじゃあ、と差し出されたケーキを一口食べる。

 

「うん、美味い! これ蘭が一人で作ったのか?」

 

「はい!」

 

一夏の褒め言葉に嬉しそうに返事する蘭ちゃん。

 

「おお、美味いなこれ。こんだけ料理が上手なら蘭ちゃん、良いお嫁さんになるぜ」

 

「ほ、ホントですか!?」

 

ぐいっと顔を近づけてくる蘭ちゃん。その眼はどこか必死だった。

 

「あ、ああ・・・本当だよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「はいはい。一夏、ラーメンできたわよ」

 

いきなり鈴がラーメンをのせた盆を持ってきた。

 

「おわ!? 鈴、いきなりだな?」

 

「できたてだから美味しいわよ。あ、一応瑛斗の分もあるから」

 

ふふんと胸を張る鈴。大きなドンブリの隣には少々小さ目のドンブリが。おそらく俺の分だろう。

 

「悪いな。わざわざ俺の分まで」

 

「いいのいいの。アンタにも多少なりとも恩があるから」

 

「そうか」

 

「スゲーな。全部手作りか」

 

麺をすすり、スープを飲む。魚介系がメインのスープに麺がよく絡まっていてすごく美味かった。

 

「・・・・・・・・・」バチバチ

 

「・・・・・・・・・」バチバチ

 

(な、なあ一夏? なんか、蘭ちゃんと鈴がメンチきりあってるぞ?)

 

俺は二人のただならぬ雰囲気に少々ビビりながら小声で一夏に聞く。

 

(ああ。中学の時からアイツら仲が悪いんだよ。なんでだろうな?)

 

とりあえず飛び火を避けるためも兼ねてドンブリをキッチンに置きに向かう。

 

そこにはセシリアがいた。その右腕には包帯が巻かれている。サイレント・ゼフィルスに攻撃を受けた跡だろう。

 

「セシリア」

 

「は、はい!?」

 

一夏の声に飛びあがるセシリア。

 

「大丈夫か? 無理するなよ?」

 

「本当は入院を勧められたのに、猛反対したんだろ? 良かったのか?」

 

「お二人ともご心配なく。これくらいケガのうちにも入りませんわ。それより一夏さん」

 

「うん?」

 

「お、お誕生日おめでとうございます。こ、こちらを」

 

「ずいぶん立派な箱だな?」

 

「ぷ、プレゼントですわ。開けてみてください」

 

「おう」

 

ぱかっと開くと、中にはこれまた立派なティーセットが入っていた。

 

「イギリス王室も使っている『エインズレイ』のティーセットですの。わたくしが普段愛飲している紅茶の茶葉も一緒に入れておきましたわ」

 

「すごいな。イギリス王室御用達とは」

 

「瑛斗さんにもプレゼントを御用意してますわ」

 

「え、マジで?」

 

セシリアは今度は和な感じの箱を差し出してきた。

 

「瑛斗さん、日本茶がお好きでしょう? お口に合うとよろしいんですけど」

 

箱の中身は和のスイーツの詰め合わせだった。どれもこれもお茶に合いそうだった。

 

「サンキュ! ありがたくもらうぜ」

 

「ええ」

 

「あ、瑛斗、一夏」

 

今度はシャルが来た。

 

「二人ともお誕生日おめでとう。瑛斗、これ、この前買ったネックレス」

 

「おお、あのラファールに似てるヤツ」

 

着けてあげるよとシャルが俺の首に手をまわす。

 

「これで、よし。うん、よく似合ってるよ」

 

キラリと光るネックレスは、我ながらしっくり来た。

 

「ありがとなシャル。大事にする」

 

「えへへ♪ どういたしまして。そうだ、一夏にもプレゼントだよ」

 

「おお、何だ?」

 

「携帯のストラップだよ。瑛斗のネックレスを買ったところで買ったんだ」

 

シャルが取り出したそれは星形の透明な石が着いたストラップだった。

 

「いつの間に買ったんだ? 全然気づかなかったぜ」

 

「瑛斗が色々見てまわってる時にね。一夏に似合いそうだったから」

 

「ふーん。あ! すっかり忘れてた」

 

俺はリビングに置いたままになっていた一夏へのプレゼントを持ってくる。

 

「受け取れ一夏。俺からのプレゼントだ」

 

「おお! ありがとう! それじゃ俺も」

 

一夏も引き出しの中から袋を取ってくる。

 

「これが俺のプレゼントだ」

 

「じゃあ、せーので見ようぜ」

 

「わかった。行くぞ? せーのっ」

 

取り出すと、一冊の本だった。タイトルは、『粋なジョークの閃き方』。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

マジかよ。まさか、まさかの、プレゼントが被った。

 

「・・・・・・・・・・・・ぷっ」

 

「・・・・・・・・・・・ははっ」

 

お互いに小さく噴き出す。

 

「あははははははは! こりゃ傑作だ! あははははは!」

 

「はははははははは! マジかよ! はははははは!」

 

とんでもない偶然に大爆笑する。リビングの方にいる連中も何事かとこっちに振り返る。

 

「なになに!? 何かあったの!?」

 

黛さんがカメラを構える。

 

「は、腹いてー・・・! くく・・・!」

 

「お、俺も・・・・・! ふ、ふふ・・・!」

 

「どうしたの? おねーさんにも教えてよ」

 

「「いや、実は・・・・・・・」」

 

説明すると、織斑家は笑いに包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、笑った笑った」

 

「ああ。あの時はスゲーおかしかった」

 

足りなくなったジュースを調達しに一夏と共に街灯に照らされる夜道を歩く。

 

最初は主役にそんなことはさせられないと言われて止められたのだが、何もしないというのも申し訳ない気がしてこうして繰り出したわけだ。

 

「それにしても、ラウラのプレゼントは驚いた」

 

「ああ、ナイフな。でもそれを渡した後にどっか行っちまったけど」

 

「箒は俺に着物、お前に手ぬぐい。結構良い生地だったな」

 

「そうだな。大事にしないと」

 

「そう言えばよ、虚さんと弾がなんかメアド交換的なことをしてたぞ」

 

「ふーん。意外とお互いに気になる相手だったりしてな」

 

「はは、まさか」

 

そんな話をしていると自販機置き場まで到着した。

 

「お、売り切れはないみたいだな」

 

「買って早いとこ戻ろうぜ。ボードゲームの途中だしよ」

 

「わかってるよ」

 

一通り買い終えて歩き出す。

 

すると明かりの届かないギリギリの位置に人影が見えた。

 

特に知り合いというわけでもなかったので俺と一夏はさほど気に留めずに二歩目に入ろうとする。

 

しかしそれより前に人影が一歩前に出た。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

人影の正体は一五、六の少女だった。しかし、気になるところが一つだけ。

 

「千冬姉・・・・・?」

 

「織斑先生・・・の小っちゃいバージョン?」

 

その顔が織斑先生に似ていた。いや。似ていたなんてもんじゃない。そのものと言ってもいい。

 

「いや」

 

少女が口を開く。

 

「私はお前だ。織斑一夏」

 

「な、なに?」

 

「今日は世話になったな、桐野瑛斗。あのタックルは少々効いた」

 

「! まさかサイレント・ゼフィルスの!?」

 

「そうだ」

 

少女はさらに一歩前に出る。

 

「そして、私は・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑マドカだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑・・・マドカ? なんで一夏と同じ苗字?

 

いや、それよりも、どうしてそんなに織斑先生に似てる!?

 

「私が私であるために、お前の命をもらう」

 

言うやいなや、少女、織斑マドカは拳銃を取り出し、銃口を一夏に向ける。

 

「一夏っ!」

 

俺は咄嗟に一夏の前に飛び出す。

 

パァン!

 

漆黒の夜空に、銃声が響いた。

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