IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
[全1ページ]

突然の襲撃者が一夏に向けて発射した弾丸。俺は一夏を守るために一夏の前に飛び出した。

 

真っ直ぐ飛んでくる弾丸が俺にはスローモーションに見えた。

 

「ちっ」

 

襲撃者―――――織斑マドカが舌打ちした。次の瞬間、俺の目の前で弾丸が動きを停止する。

 

弾丸が空中で動きを止めている・・・・・?

 

「ラウラか!」

 

「お前たち! 伏せろっ!」

 

言われるまま体を下げると、一夏の頭スレスレをナイフが飛んだ。がらんがらんと缶ジュースが落ちて音をたてる。

 

「やはり邪魔立てするか・・・・・」

 

マドカは正確に右目を狙って飛んできたナイフを、あろうことか右手のひらで受け止めた。

 

「なっ!?」

 

手のひらに突き刺さったナイフをマドカが握りしめる。手からは血が滴り落ちていた。

 

「返すぞ」

 

そしてそれをラウラに投げ返す。

 

しかしそれは自分の眼帯の下の金色に輝く左目、『ヴォ―ダン・オージェ』を発動させたラウラに簡単にAICで止められる。

 

金色の左目がマドカを追うが、ISを展開したマドカはそのまま夜の闇に消えて行く。

 

「ふん・・・・・・」

 

「逃がすかっ!」

 

AICの停止エネルギーを躱して飛び去るマドカ。

 

「待てよっ!」

 

咄嗟に右腕の装甲とビームガンを構えるが、そのころには完全にマドカは闇と同化していた。

 

「くっ・・・・・」

 

「ラウラ! 平気か!?」

 

「私を誰だと思っている。お前たちこそ大丈夫か?」

 

「ああ。ラウラのおかげで何ともなかった」

 

「そうだな。ありがとな」

 

「礼には及ばん」

 

そう言いながら、ラウラはナイフを回収、眼帯を再装着する。

 

俺と一夏も服に着いた土をはらって、散らばった缶ジュースを拾い集める。

 

「あ」

 

「どうした? 瑛斗」

 

「いや、ラウラの目ってやっぱり綺麗だなぁって」

 

「な、なんだと?」

 

「襲われたのには参っちまったが、良いもんも見れたな。うん―――――ったぁ!?」

 

「な、何を言うか馬鹿者!」

 

ずいっと迫ってきたラウラが俺の足を思いっきり踏んだ。

 

「なにすんだよ!」

 

「ふ、ふん! 帰るぞ!」

 

そのままスタスタと歩いていくラウラ。せめて缶ジュースを拾うくらいのことは手伝ってほしい。

 

「ん? そういえば、何でラウラは俺達の前に出てこれんだ?」

 

「あ、確かにそうだな」

 

「そ、それは・・・・・!」

 

「ん?」

 

「・・・・・・い、言えるわけないだろう、瑛斗と、ふ、二人きりになるタイミングを見計らっていたなど・・・・・・・・・」

 

「へ?」

 

「な、なんでもない! ええい! このっ! このっ!」

 

「痛ぇ!? 痛い痛い痛い! やめろこのバカ!」

 

「だっ、誰がバカだぁっ!」

 

「ぐはあっ!?」

 

カーッと耳まで赤くなったラウラの踏込みがいいパンチを思いっきり顔面に食らった。

 

 

 

 

 

「う〜・・・さすがに九月の終わりになると夜は冷えるな・・・・・」

 

日付が変わるころ、俺はIS学園のトイレから寮の自室に帰る真っ最中だ。

 

(あの織斑マドカとか言うヤツ、織斑先生に似てたな・・・・・いや、似てるってレベルを超えてたぞアレは)

 

闇に浮かぶマドカの表情は邪悪な笑みを浮かべていた。

 

(ヤツは一体何の目的があって一夏を襲ったんだ?)

 

そう。まるで俺を見てはいなかった。一夏だけを殺そうとしていた。だが、何のために?

 

コン

 

「ん?」

 

ふと、何かが足に当たった感触があった。

 

「ノート? 誰のだ?」

 

拾って表紙を見るが、両面のどちらにも名前らしきものは書かれていない。

 

ぱらぱらとページをめくる。すると興味をひくページがあった。

 

「お、ISの姿勢制御システムと制動システムの調整方法か・・・」

 

独自の解釈で書かれたその内容は、決して間違っているものではなかった。

 

(けど、ちっとばかし荒削りだな・・・。そうするんだったらここをこうして・・・・・)

 

ポケットに入っていたシャーペンで追加、修正する。

 

「これでよし・・・と」

 

我ながら良い具合に解析を終了できた。

 

「・・・・・・・あ」

 

そして気づく。他人のノートに勝手に書いてしまったことに。

 

(や、ヤバい! 全然気にしないで書いちまった! ど、どうしよう・・・・・)

 

改めてそのページを見る。うぅ、上手く書けてるから消すのはもったいない・・・・・。

 

俺は窓枠にノートを何かのお供え物のようにして置いた。

 

そして手を合わせてノートを拝む。

 

「別に悪気があったわけじゃないから・・・すまん!」

 

そして現場から逃走。ついカッとなってやりました。後悔してます。

 

(あのISの型、どことなく打鉄に似てたな・・・誰かの専用機か?)

 

そう考えてしまうと申し訳なさに拍車がかかった。俺は部屋に駆け込んでベッドにもぐりこんだ。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・」

 

夜のIS学園の一年生の寮を歩く者がもう一人いた。眼鏡をかけたその少女はその瞳にどこか不安さを滲ませている。

 

(どこに置いてきちゃったんだろう・・・。ちゃんと名前を書いておけば良かった・・・・・)

 

少女はきょろきょろと辺りを見回して探し物をしている。

 

(アレが無いと、あの子が完成しないのに・・・・・)

 

暗くなっている廊下を懐中電灯片手に彷徨い歩く。

 

「別に悪気があったわけじゃないから・・・すまん!」

 

「!?」

 

曲がり角の向こうで誰かが謝っている。そしてそのまま少女の前を走り去っていった。

 

(な、何があったんだろう?)

 

曲がり角を曲がると、少女は発見した。自分が探していたものを。

 

「あった・・・・・・・」

 

ホッと息をはく少女の手には一冊のノートが。

 

そう。瑛斗が色々書いてしまったあのノートである。

 

(誰かに悪戯されてないかな・・・・・)

 

ぱらぱらとノートをめくって中を確認する。

 

「!」

 

少女は動きが止まった。問題のページを開いたからだ。

 

「これ・・・、全部できてる・・・・・」

 

自分があれだけ苦労した姿勢制御システムと制動システムの調整方法が完成されていた。

 

「一体誰が・・・・・?」

 

その疑問はすぐに解消された。今しがた走り去っていった人物。それしかいない。

 

(きっとあの人だ・・・)

 

あの声は女の声ではなかった。すると候補は一気に二人にまで削られる。

 

そして、ノートに書かれていた内容で相当ISに詳しいことが伝わる。

 

「桐野・・・瑛斗・・・・・」

 

ぽつりとつぶやいてぎゅうぅっとノートを握りしめる。

 

本来ならば自分の力だけで行うはずだったことを勝手に他人にやられた。それを少女は許せなかった。

 

「桐野・・・瑛斗・・・・・」

 

再びその名を口にして、少女は自分の部屋に戻るのだった。

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