IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
[全1ページ]

「「襲われた!?」」

 

月曜日、夕食の席で箒と鈴が大声を上げる。

 

「ああ。昨日の夜にな」

 

「死ぬかと思ったぜ」

 

織斑マドカという名前は伏せて、俺と一夏は説明する。

 

なぜこのタイミングかと言うと、せっかくの誕生日パーティーに水を差したくなかったからだ。それと事情をしらない連中もいたこともある。

 

「サイレント・ゼフィルスの操縦者・・・・・、二人とも、心当たりは?」

 

「無いな」

 

「さあ、な」

 

一夏はシャルの問いに歯切れ悪く答える。

 

(一度、織斑先生に訊いてみる必要があるな・・・・・)

 

そう思ったがやめた。織斑家では家族の話はタブーらしい。それに他人が他人の家庭事情をどうこう言うのはいささか無粋だ。

 

「それはそうと一夏さん。次は卵焼きをいただけるかしら?」

 

「ん、わかった。ほら」

 

一夏が利き腕を負傷したセシリアに食事を食べさせている。

 

「あ、あーん・・・」

 

ぱくっ。口を手で隠しながら咀嚼するセシリア。

 

この歳で食べさせてもらうのは恥ずかしいのか、若干顔が赤い。

 

「何よ、箸で食べるものばっかり・・・・・」

 

「パスタを片腕で食べればいいだろう・・・・・」

 

ジト目×2がセシリアに向けられ、それを振り払うようにセシリアは軽く咳払いする。

 

ちなみに言うと、セシリアのメニューは鮭の塩焼きに出し巻卵、ほうれん草のゴマ和えにジャガイモの味噌汁。そして海鮮茶碗蒸しだ。

 

「清々しいくらいに箸で食べるメニューしかないな」

 

「茶碗蒸しくらいはスプーンで食べられると思うけど・・・・・」

 

俺とシャルの苦笑いを受けて口の中のものを飲み込んでからセシリアが反論する。

 

「そ、それはわたくしは左腕だと上手く食べれないからですわ!」

 

「そっか。じゃあアタシが食べさせてあげる。ほらほら」

 

「り、鈴さん!? そ、そんな容赦なく・・・・・あつつっ!?」

 

鈴がぐいぐいとセシリアの口に茶碗蒸しをねじ込む。

 

おいおい、あんまりけが人をいじめるなって。

 

「あらあら、楽しそうですね〜」

 

「あ、山田先生、と・・・・・」

 

そこまで言って一夏は言葉を止める。山田先生の隣に立っているのはお姉さんの織斑先生だ。二人とも夕食の載ったトレーを持っている。

 

「あまり騒ぐなよ。馬鹿ども」

 

「わ、わたくしはけが人ですのに・・・・・」

 

「オルコット。本来ならお前は昨日の市街戦について謹慎処分が下るはずだったんだぞ。それを忘れるなよ?」

 

「は、はい・・・・・」

 

ギロと睨まれて小さくなるセシリア。

 

ちなみに、昨日の二時間の取り調べはほぼ半分が説教だった。一夏は織斑先生にこってり絞られたらしい。俺は山田先生に半泣きでお説教されて、なだめるのが大変だった。

 

「・・・・・ところで、お前たちはいつもこのメンツで食事しているのか?」

 

「ええ。まあ、大体は」

 

「大体っつうか、ほぼ毎日ですね」

 

「そうか」

 

「あら? もしかして織斑先生、気になってるんですか〜?」

 

「山田先生。あとで食後の運動に近接格闘戦をやろうか」

 

「じょ、冗談ですよぉ! あ、あは、あははは・・・・・」

 

山田先生は織斑先生をからかおうとして返り討ちにされることがたびたびある。学習しましょうって。

 

「あまり騒ぐなよ・・・・・と言っても十代女子には馬の耳に念か」

 

それだけ言って織斑先生は山田先生を連れて空いているテーブルに向かった。

 

そんなこんなで夕食の時間は過ぎるのであった。

 

 

 

 

 

 

「「で、なんで全員ついてくるんだ?」」

 

寮の自室に戻る途中、俺と一夏はさっきからどこぞのゲームのパーティーのようについてくる一同に問いかけた。コイツらの部屋はすべて通り過ぎている。

 

「そ、それは・・・別にアンタたちを心配してるわけじゃないからね!」

 

そう言いかえしてきた鈴。

 

「あー、えっと、ほら、みんなでおしゃべりしようかなって。ね?」

 

それにシャルが続く。

 

「う、うむ。そうだぞ二人とも。こうやってコミュニケーションをとることも大切だぞ」

 

コミュニケーションならさっき散々取ったじゃねえか。まあ、イヤってわけじゃねえが。

 

「あの、一夏さん? よろしかったら包帯の交換を手伝ってくださらない?」

 

「おう、良いぜ」

 

一夏がそう言うと、ぱぁっと顔が華やぐセシリア。

 

「ふん。その程度の傷、この国の唾液をつければ治るという治療法で治るだろう?」

 

「いやラウラ、それは物の例えで・・・・・いや、あながち間違ってねえかも」

 

「む、そうなのか? ちなみに私の唾液には微量ながら医療用ナノマシンが入っているぞ」

 

へ、へえ、そう。なんか、凄いような、深く追及してはいかんような・・・・・。

 

ラウラはドイツの研究施設で生まれた試験管ベイビーだ。

 

ツクヨミも、一度ラウラの左目の『ヴォ―ダン・オージェ』研究に協力を求められたが所長がそれを一蹴した。

 

『人の命をなんだと思っているのか』、所長の言葉は今でも覚えている。

 

(戦うために造られて、体を弄繰り回されて、挙句実験材料にされる・・・・・)

 

ラウラの出自を思うと、俺にはとてもじゃないが耐えられない。

 

それだけ、ラウラは強いんだ。

 

それに日本に来て、俺達と出会ったことで、ラウラの人生は決してつらいことだけではなくなったと俺は思いたい。

 

「・・・い、おい。瑛斗、聞いているのか?」

 

ラウラが俺に顔を近づけている。

 

「へっ? ん? 何?」

 

「聞いてなかったのか・・・・・。まったく、嫁の風上にもおけんな」

 

「へいへい。悪かったよ」

 

それにしてもラウラの俺に対する『嫁』の言葉を聞くと今でもあのキスを思い出す。

 

俺自身、あのことを思い出すと若干顔が熱くなる。

 

「よ、よし、一夏の部屋についたぞ。入ろうぜ」

 

そして俺はさりげなくラウラから顔を離して一夏の部屋のドアを開ける。

 

「ちょ、俺への断りは?」

 

「いいじゃん別に。椅子とかどする? 借りてくっか?」

 

「ううん。ベッドで良いよ。ね、みんな」

 

「そうだな。それにここの寮のベッドは質がいい」

 

「わたくしは、自分のベッドでないのが不満ですけれど―――――よろしくてよ」

 

「私も構わんぞ」

 

そう言ってぞろぞろと一夏の部屋に入って行く女子たち。

 

「飲み物とかいるな。ちょっくら買ってくるわ。行こうぜ一夏」

 

「ん? おう」

 

「あ、大丈夫だよ二人とも。僕が行くから」

 

「そうね、アタシとシャルロットで行ってくるから、アンタたちは待ってなさいよ」

 

「良いって良いって。ちょっと待っててな」

 

「また襲われたらどうするの!?」

 

「そうよ! 二度目が無いとは限らないわよ!」

 

シャルが両手で俺の右手を握った。 その横では鈴も一夏の手を握っている。

 

「あ、いや・・・・・そうだな、悪い・・・・・・・」

 

「ご、ごめん・・・・・」

 

突然語勢が強くなった二人に驚いて俺と一夏は素直に謝る。

 

そうするとシャルと鈴もハッと我に返って慌てて手を引っ込めた。

 

「ご、ごめんね。僕・・・・・」

 

「ちょっと・・・気が動転しちゃって・・・・・」

 

二人ともシュンとなって下を向いてしまう。俺と一夏はあわてて取り繕う。

 

「い、いや、二人とも俺達を心配してくれてたんだよな? なあ一夏?」

 

「あ、ああ、そうだな。鈴、シャルロット、ありがとな」

 

「「う、うん・・・・・」」

 

そこから、沈黙が漂う。

 

気まずい沈黙ではなく、なんというか、その、ドキドキする。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「「「じー・・・」」」

 

「「「「うわあっ!?」」」」

 

ドアの隙間から視線を感じた。

 

見れば、ドアの隙間から箒、セシリア、ラウラがこっちを見ていた。

 

「今度は鈴と・・・・・一夏め・・・・・・・」

 

「いい御身分ですわ、まったく・・・・・・・・・」

 

「ふん!」

 

げ、ラウラがへそ曲げた。ああなると長いんだよなぁ・・・。

 

結局、そのあと俺はラウラに、一夏は箒とセシリアに頭をさげて謝ったとさ。めでたくないめでたくない。

 

 

 

 

 

「じゃあ、おやすみー」

 

「おう、おやすみ」

 

「また明日な」

 

かれこれ二時間経って、シャルたちは一夏の部屋から出て行った。

 

「さて・・・・・、和やかな展開もここまでだ。一夏」

 

「わかってる。アイツのことだろ」

 

女子たちが遠くに行ったことを確認して、俺達は真剣な表情になる。

 

「あのサイレント・ゼフィルスの・・・・・織斑マドカってヤツ、お前、本当に心当たりないのか?」

 

「無い。まったくもって無い。俺だって驚いてる」

 

「俺の推測だけど・・・アレもラウラと同じで試験管ベイビーだと思う」

 

「なんでそう思ったんだ?」

 

「あそこまで織斑先生に似てると薄気味が悪い。偶然にしては出来過ぎてるし、そうでもないと納得がいかないだろ?」

 

「確かに俺も一瞬そう思ったけど・・・・・いまいちピンと来ないっていうか・・・・・」

 

「今度会った時に詳しく――――――」

 

「じゃじゃーん。楯無おねーさんの登場です」

 

「「おかえりください」」

 

部屋のドアを開けた楯無さんに丁重にお引き取り願う。

 

ドアを閉めると、直後に向こう側から水が流れる音がした。

 

「「うわあああっ!?」」

 

慌てて後ろに退くと、ドアが真っ二つになった。

 

「もう、おねーさんを蔑ろにしちゃだめだぞ★」

 

蛇腹剣『ラスティー・ネイル』をソードモードで構えた楯無さんがウインクした。

 

「は、はい・・・・・」

 

「気をつけます・・・・・」

 

俺の部屋じゃなくて良かった。本当に良かった。

 

「部屋に入ってもいい?」

 

「入ってから聞くのやめてくださいよ・・・・・」

 

ごめんね、と言って楯無さんは笑った。

 

「で、今日はどのような用事で?」

 

「まさか・・・・・また亡国機業が何か?」

 

「ううん。そういうのじゃないの」

 

「じゃあ・・・・・?」

 

「えー・・・・・と・・・、あのね・・・・・」

 

「「?」」

 

妙に歯切れの悪い楯無さんに俺と一夏が首を捻ると、楯無さんはいきなり俺達に手を合わせて頭を下げた。

 

「妹をお願いします!」

 

「「・・・・・・はい?」」

 

なんだか、また面倒事の予感がした。

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