IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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「うーむ・・・・・・」

 

自室に戻ってきた俺は、簪さんにはたかれた右ほおをさすりながら考えていた。

 

「なんであんなに怒ったんだろうか・・・・・」

 

俺が彼女のノートに色々書いてしまったのは悪いと思っている。だけど、あの怒りにはもっと別の理由があった気がする。

 

それを見つけ出すために考えを巡らせる。

 

・・・・・・。

 

・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・。

 

「あ。そうか。アイツの専用機はまだ実戦で使えるレベルじゃないのか」

 

ぽんと手を打つ。そう言えば楯無さんもそんなことを言ってた気がする。

 

「ふむ」

 

ベッドに仰向けで寝転び、本棚から取り出したIS学園の概要案内書を読む。

 

「えっと・・・IS学園には二年生になると『整備科』が一クラス作られて、そこでISの開発、研究、整備をしてもらったり、学内でのトーナメント、特に二年生や上級生が参加するようなものでは、基本的に整備科に協力を仰いで、複数人のチームを作る・・・・・か」

 

「そういうことなら、簪も整備科に頼めば良いのに、ってか俺に言ってくれれば良いのに・・・・・」

 

俺だって伊達にツクヨミでIS研究者をやってたわけではない。

 

コンコン。

 

「ん? どちらさーん?」

 

「私よ」

 

うーわ、ドア切り裂き魔が現れたよ。

 

「瑛斗くん、今失礼なこと考えなかった?」

 

「ハッハッハ、まさかまさか」

 

「んー、まあいいわ。シュークリーム持ってきたから、一緒にどう?」

 

「あ、いただきます。どうぞ」

 

室内に楯無さんをエスコートする。

 

「あ、瑛斗くん、もしかして整備科に協力してもらうの?」

 

「いや、俺じゃなくて、簪さんの専用機を頼もうかと」

 

「うーん、それはちょっと難しいかもね」

 

「え? どうしてです?」

 

「簪ちゃん、たぶん一人で専用機を組み上げるつもりよ」

 

「へぇ」

 

「私がそうしてたから、たぶん意識しちゃってるのね。気にしなくていいのに」

 

「そうしてたってことは、楯無さんは自分のISを一人で?」

 

「まあね、でも七割は完成したし、薫子ちゃんの意見も聞いたわ。それと虚のも」

 

「あの二人も整備科だったんですか?」

 

「そうよ。三年生と二年生のエース」

 

そ、そうだったんか・・・。黛さん、てっきり新聞部なだけだと思っていた。

 

「そうですか」

 

「あら? 案外リアクション薄いわね?」

 

「俺のG−soulも俺が・・・イヤ、俺達が一から造ったものですから」

 

「そう」

 

楯無さんはベッドに腰掛けた。

 

「それで、どうだった? 簪ちゃんは」

 

「叩かれましたよ。右ほおを」

 

「え?」

 

なぜか驚いたような顔をする楯無さん。

 

「意外ね。あの子、そういう非生産的な行動はしないタイプなのに」

 

「はあ」

 

「お尻でも触ったの?」

 

「そんなわけないでしょっ!」

 

「じゃあ、胸?」

 

「だから・・・、何でそうセクハラ路線なんですか!?」

 

「んもう、しょうがないなぁ。言ってくれればおねーさんが触らせてあげるのに」

 

「だぁぁ! な、なに脱ごうとしてるんですか! お、おお、怒りますよ!」

 

「あはは、冗談冗談♪」

 

まったく・・・疲れるったらありゃしない。

 

「お茶です。パックですけど」

 

「瑛斗くんがいれてくれたなら、世界一美味しいわ」

 

「そういうのは一夏とか虚さんに言ってあげてください」

 

「うん。そうする」

 

こ、この人は・・・・・!

 

「しかし、あの簪ちゃんがねぇ・・・・・瑛斗くん、もしかして脈ありなんじゃない?」

 

「は? そんなわけないでしょ。殴られたら脈ありなんて」

 

「いやいや、分からないわよー? 女の子は押しに弱いから。もう一度会ってきたら?」

 

そういってシュークリームに手を伸ばす楯無さん。

 

「ん、美味し♪」

 

満面の笑みでシュークリームを食べている。

 

「押しに弱い、ねぇ・・・」

 

俺もそれにならってシュークリームを一口かじる。

 

ぱく、むぐむぐ・・・・・

 

「ぐああああああああああ!?」

 

「あははははは! 引っかかったぁー! そっちの方のはカスタードをマスタードに変更しておいたのだー!」

 

「楯無さぁん!!」

 

「きゃー」

 

楯無さんは脱兎の如く部屋から走り去っていった。

 

「あ、あんの生徒会長・・・・・!」

 

急いで洗面所に行き、口をすすぐ。

 

お電話ですよ、ご主人様♪ お電話ですよ、ご主人様♪

 

「ん?」

 

着信が入ったので携帯を取り、画面を開く。さっき出て行ったばかりの楯無さんからの着信が入っていた。

 

「なんですかぁ!?」

 

『きゃ、ケンカ腰♪ 言い忘れてたけど、簪ちゃんって、ロボットアニメとかそういう男の子が好きそうなアニメが好きだから』

 

「それが!?」

 

『ううん。それだけ。とにかく、ちゃんと簪ちゃんとペア組んであげてね? 機体の開発にも協力するように。これ、おねーさんからの、め・い・れ・い☆』

 

「そのつもりですから言われるまでもありません。・・・最後に一つだけ良いですか?」

 

『ん? 何かにゃー?』

 

「・・・・・・・」

 

『瑛斗くん?』

 

「アンタ俺の携帯に何をしたぁぁぁぁぁ!?」

 

『あっ、謎の妨害電波だ!』

 

ブツッ、ツー、ツー・・・・・

 

クッ! 切りやがった!

 

あの人、いつの間に俺の携帯の着信音をあんなセリフ入りの自分の声にしたんだよ・・・・・。

 

「・・・・・やめよう。あの人はああいう人なんだ」

 

頭の中できっちり整理して心を落ち着かせる。

 

(簪はロボットアニメ、ヒーローアニメが好き・・・・・)

 

ふと楯無さんの言葉を思い出す。

 

「・・・・・ふふっ・・・」

 

簪に意外と子供っぽい一面があることが分かって、俺はどことなく嬉しくなった。

 

「よし! そうと分かれば!」

 

俺は早速行動に移った。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

簪は自室でルームメイトの邪魔にならないように布団を頭まで被ってその中で携帯電話のテレビを見ていた。

 

小さな空中投影ディスプレイでは、今日も完全無欠のヒーローが悪の組織をバッタバッタとなぎ倒している。

 

その画面を見ている簪は無表情だが、これでも十分楽しんでいる。

 

そう、いつも通りならば。

 

(殴っちゃった・・・・・・・・)

 

初対面では耐えられたのに。

 

なぜか二度目の時は感情が高ぶって、やってしまった。

 

(どうして、あんなことを・・・・・・・)

 

実を言うと、簪は瑛斗の書いたノートの修正点を見て、自分でやるよりはるかに効率的なシステム作成を行うことができた。

 

しかし、本来ならば自分の力だけで行いたかったもの。

 

かと言って瑛斗に悪気があったわけではない。彼がISのことになると周りが見えなくなることがあるというのは簪の耳にも入っている。

 

(私・・・どうしたんだろう・・・・・・・)

 

更識家に生まれ、幼いころは姉とも仲は良かった。

 

だが、姉が楯無の名を引き継ぎ、あらゆることを完璧にこなしていく姿を見て、簪は劣等感を感じていた。

 

姉との比較、姉の次に注がれる周囲から期待。そのようなものも簪が心を閉ざす原因になっていた。

 

(桐野・・・・・瑛斗・・・・・)

 

だが、彼はそんなことはお構いなしに自分に接してきた。周りと比べることもなく、『更識楯無の妹』としてではなく、一人の女の子として見てきた。

 

心に残るあの男の影。

 

屈託のない笑顔。

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

なぜだかわからない気持ちになって、簪は頬を桜色に染めた。

 

ペラッ

 

ふと、自分の頭に被っていた布団が捲られて、簪の顔は明かりに照らされる。

 

「?」

 

顔を上げると、ルームメイトが自分を見ていた。

 

「お客さんだよ」

 

「お客さん・・・・・・?」

 

心当たりはなかったが、とりあえず部屋のドアを開ける。

 

「よう」

 

ドアの向こうに立っていたのは、瑛斗だった。

 

「・・・・・え?」

 

なにがなんだか分からず、硬直していると、瑛斗は持っていたノートパソコンの画面を見せてきた。

 

「これ、行こうぜ!」

 

瑛斗が見せた画面には、今簪が一番はまっているロボットアニメの劇場版のホームページが表示されていた。

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