IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「・・・・・・・・・・・・・」
夜。簪はシャワールームでシャワーを浴びながら考えていた。
(どうしたんだろう・・・・・、私・・・・・・・・)
日中、瑛斗と街を全力疾走して学園まで戻り、そのままなし崩し的に別れたが簪の胸の鼓動は今なお、走っていた時のようにドクドクと早鐘を打っている。
(あの時の彼、すごい・・・・・格好良かった・・・・・・・・)
瑛斗が崩れるショーのステージから人を助けたところは簪も見ていた。だが、その時の瑛斗の横顔は簪にはとても輝いて見えたのだ。
(まるで・・・本当のヒーローみたいに・・・・・・・)
キュ、と蛇口をひねってシャワーを止める。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
頭をそっと壁に押し当てて目を閉じると、瑛斗の姿が脳裏に浮かぶ。
瑛斗の笑顔が、簪の頬を紅く染める。簪は走る時に強く握られていた右手を見ながらはぁっと息を吐いた。
「・・・・・・・・・・私、どうしちゃったんだろう・・・」
簪だけが聞こえるほどのか細い声は、シャワールームで反響した。
「はあ・・・、すっかり忘れてた・・・・・」
日曜日の就寝前の午後十時半。俺はベッドに寝転びながら今日の反省をしていた。
「ペアの件を話すのを忘れちまうとは・・・、我ながら不覚・・・・・」
結局、簪さんとは映画見てヒーローショー見て全力疾走しただけだったじゃねえか。何がしたかったんだよ俺。
ステージから人を助けたところだって、『人命救助、および緊急事態への対処の場合はISの使用を許可する』っていう規定が無かったらアウトだったし。
「ペア申請の締め切りは明日の夕方五時まで・・・、何が何でも明日! 簪さんとペアになるぞ!」
グッと拳を握り、俺はとりあえず寝ることにした。
「簪さん、一緒に学食行こうぜ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
とある情報から、今日は購買のパンが売り切れと知った俺は四時限目が終わると同時に四組にダッシュし、簪さんの手を握った。
「奢るからよ」
「い、いや・・・・・・・」
うぐ、なんか怯えている子ウサギのようになっている。そんな目で見ないでくれよ・・・。
しかぁし! 俺も引き下がるわけにはいかない。何せ締め切りは今日の五時までなのだから。
(少々手荒だが・・・こうなったら!)
「失礼ッ!」
俺は少々どころか結構強引に簪さんを連れ出した。
「きゃああっ!?」
簪さんの体を横にして持ち上げ、自分の体に引き寄せて抱きかかえる。
巷で言う、『お姫様だっこ』というやつだ。
「簪さん、軽いねぇ」
「う、うるさいっ・・・・・。お、下ろしてっ・・・・・・・」
「そうか、じゃあしっかり捕まってろよ!」
「!?!?!?」
俺は簪さんの抵抗を無視して、そのまま学食へと走り出す。
途中、すれ違った女子に「ああああーーーーーっ!」と言われたが、この際無視じゃ、無視。
一階に降り、渡り廊下を抜けて三ブロックからなる学食のホールのドアを蹴って開ける。
「着いたぁっ!」
ばんっ! と大きな音&俺の大声で、周囲の視線がこちらに向く。
「離しっ・・・・・・。・・・・・・・っ、・・・・・・・!」
バシッ! バシッ! バシッ! と頭に簪さんのチョップが何度も降りかかる。
「わ、こら、暴れんなって」
「ふーっ・・・・・! ふーっ・・・・・!」
「パンツ見えんぞ」
「!?」
俺の指摘で自分の行動を理解したのか、その動きは徐々に弱くなって、最終的には動かなくなった。
「・・・・・さない・・・許さない・・・許さない・・・・・・」
俺の方を見ずに、そんなことを言う簪さん。
俺は簪さんをゆっくり下ろして、逃がさないようにしっかりと手を握る。
「今日の日替わりは・・・チキン南蛮か。簪さんはどうする?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ほお、ジャンボカツカレーっすか。先輩それはなかなか」
「・・・・・肉、きらいなの・・・・・・」
おお、反応してくれた。
「そうか。じゃあ、何がいい? こっちの海鮮丼?」
「・・・・・う、うど・・・・・・・・」
「ん?」
もじもじしながら簪さんは、一瞬俺を見てからつぶやいた。
「うどん・・・・・・・・・」
「了解! 卵つけるか?」
「・・・・・・・・・・・・」
ふるふるっと簪さんは首を横に振った。
「でも、かき揚げは・・・欲しい、かも・・・・・」
「あー、かき揚げな。美味いよな、アレ」
「う、うん・・・・・・・。美味しい・・・・・・・」
「よし! じゃあチケット買って、料理受け取って、テーブル探しますかぁ!」
「テーブル・・・・・、あの奥の方が・・・・・・空いてる」
「あ、本当だ。簪さん、目が良いな。ん? ならなんで眼鏡かけてんの?」
疑問を感じてたら、注文した料理がカウンターから出てきた。
「これ、携帯用ディスプレイ・・・・・・」
「ふーん、なるほどな」
「空中投影型は・・・高いから」
「だよな。じゃあ行こうぜ」
コクンと頷いて、簪さんは俺の後ろを歩く。
「ここ景色良いよな。晴れてるのに空いててラッキーだぜ」
席に座って窓の外を見る。海が抜ける展望で、眺めが最高だ。
「んじゃ、いっただきまーす」
「・・・い、いただきます・・・・・・」
日替わりのチキン南蛮を食べ始めた俺の前では、簪さんがかき揚げを箸でぶしゅーとつゆに押し付け、出てくる気泡をワクワクしている子供のような純真無垢さで見ている。
「お、かき揚げべちょ漬け派か。気をつけろよ? さっくり派のラウラに見つかったらバトル突入だから」
「・・・違う・・・・・これは、たっぷり全身浴派・・・・・・・・・」
「そ、そうか・・・・」
思わぬところで新たな派閥を発見した。
とりあえず俺と簪さんはそれぞれの昼食を食べる。
「いやー、このチキン南蛮出来たてホヤホヤで美味いわ。簪さんも食う?」
「え・・・・・・・?」
驚いたように顔を上げる簪さん。その口元に箸でつまんだチキン南蛮を運ぶ。
「・・・・・・・・・・・・・・」
ぼーっとそれを見た後、一瞬だけ俺を見てから簪さんは俯いた。
心なしかその耳は赤かった。
「そう・・・・・やって・・・・・・・・」
「?」
「そうやって・・・・・・女の子を落としてるの・・・・・・・・・?」
「へ? よ、よく分かんねえけど、食ってみろって。あ、でも肉嫌いなんだよな?」
「鶏肉なら・・・・・平気・・・」
「そうか。そら良かった。ほら、あーん」
「あ・・・・・ぁ・・・ん」
すげーおっかなびっくりの様子で、簪はチキン南蛮をかじった。
どうも一切れは簪の口には大きすぎたようで、俺の箸には半分ほどチキン南蛮が残っている。
俺はそれを自分の口に運んでもぐもぐと咀嚼した。
「な? 美味いだろ?」
「!?!?!?」
すると、簪さんは何かに驚いたらしくチキン南蛮を喉に詰まらせた。どんどんと胸を叩いてグラスの水を一気に飲む。
「ど、どうした?」
「・・・・・・・・・ッ!」
まだ呼吸も整ってないにもかかわらず、よっぽど抗議したいことがあるのか簪さんはキッと俺を睨んできた。
「なあ、簪さんよ」
「・・・・・・・・・・・」
「その美味そうなかき揚げを少し分けてはくれないかい?」
小っちゃいかじり跡が着いているところを見ると、もう味を確かめ終えたのだろう。ちょっとくらい恵んでくれてもバチは当たらないと俺は思う。
「だ、ダメ!」
うおお、ものすごい勢いで拒否された上に簪さんはドンブを持って横を向いて、俺を遠ざけた。なにゆえ?
「こ、これは・・・あげない・・・・・」
・・・・・かき揚げなのにってか。
「・・・・・・・!!」
何かを察知したのか、簪さんは備え付けの七味を俺の白米の上にどっさりとかけやがった。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? な、なにしてくれちゃってんの!?」
「・・・・・・・・・」
知らないと言わんばかりに簪さんは黙ってうどんをすする。
「く・・・くぅ・・・・・!」
真っ赤に染まったご飯を見ながら俺は顔を引きつらせる。
マジか・・・、赤くて角ついて三倍ってレベルじゃないぞこれ・・・・・って、冗談はさておき。
「く、食えないわけじゃない、食えないわけじゃないぞ」
だとすれば食わなければならない。
ガッと茶碗を掴み、ご飯を一気に食べる。
その愚行とも勇姿ともとれる俺の姿を見て、拍手が起こった。
・・・・・・・・・だが
「ぐあああああああああああああああ!!!」
唇が冗談抜きで赤く腫れ上がった。
舌はもう辛いを通り越して痛いと感じ、他のものを食べてもまったく味を感じられないほどになってしまった。
「か、か、簪さん・・・こいつはちょっとばかり、度がすぎるんじゃないか・・・・・?」
ひいひいと息も絶え絶えの俺が言うと、簪さんはちらりとこっちを見て、薄く整った唇から言葉を奏でた。
「自業自得・・・・・」
そういう彼女の顔は、少しだけ、ほんの少しだけ、笑って見えた。
「ヤバい・・・こぉれは本格的にヤバい・・・・・!」
時間は経って放課後。俺は教室にかかった時計を見ながら四組のドアの前をうろうろしていた。
時間は四時四十分そろそろペア申請も締め切りを迎える。
「時間的にもこれがラストチャンス・・・・・行くっきゃない!」
ガラッ
俺は意を決して四組に入った。時間が時間なためか、教室には誰もいなかった。
机に突っ伏したままの簪さんを除けば。
「なんであんなところで寝てるんだ? それはともかく!」
俺は簪さんに話しかけるべく近づいた。
「かん―――――――――」
「わからない・・・・・・こんなこと・・・・・・・初めてで・・・・・・・」
おお、どうやら起きてたみたいだ。しかし、何が分からないんだろうか? もしかして、俺とペアを組むことかな? そうだとしたら分からないで済まして欲しくは無い。
「わからないなら、やってみればいい」
「えっ・・・・・?」
簪さんは顔を上げてキョロキョロと首を巡らすが、俺は簪さんの横にいるためその視界に入ってない。
「俺と組もうぜ。簪さん」
「い、いや・・・・・・」
うぐ・・・、だが諦めん!
「なんで?」
「だ、だって・・・・・わからない・・・・・・・わからないもの・・・・・・・・。私・・・・・・は、わからないのは・・・・・・・・いやだから・・・・・・・」
むぅ、わからないと言われても・・・・・。でも本人は悩んでるみたいだし・・・。
「わからないことをそのままにしてたら、わからないままだぞ?」
「そ、そうだけど・・・・・・・」
「大丈夫。何にも怖いことなんてない。俺に任せろ」
俺は簪さんの正面にまわって簪さんを見る。
「あ・・・・・ぅ・・・・・」
「俺と組もうぜ。簪さん」
「う、うん!」
手を差し伸べたら、がっちりと掴まれた。しかも興奮してるのか、掴むと同時に勢いよく立ち上がってきた。
え・・・・・・? 今、うんって言った? ってことは・・・・・ってことは!!
「いぃぃぃぃぃぃよっしゃあああああああああああ! 今組むって言ったよな? な!? よし! そうと決まればダッシュで職員室だ! すぐにタッグマッチのペア申請行くぞ!」
ぐいいいいっと手を引っ張って簪さんと教室を飛び出す。
俺は嬉しさのあまり赤くて角もついてないのに通常の三倍の速さで職員室まで走った。
「じゃあ、入るぞ」
「ま、まっ―――――――」
簪さんが何か言いかけてた気がしたが、そんなことはもうどうでもいい!
俺はほとんど殴り書きで自分の名前を書き、簪さんも申請書に名前を書いた。
「よし! じゃあ早速今日から整備室で頑張るか!」
「え、えっと・・・・・」
「整備の時はISを装着することもあるから原則ISスーツなんだよな? じゃあ俺、着替えてくるから先に行って待っててくれ! ツクヨミのIS研究者の本領を発揮するときが来たぜぇっ!!」
俺はそのままスーツに着替えに向かう。ふと、あることを聞くのを忘れていた。
「・・・・・そう言えば、どこの整備室?」
「だ・・・・・・、第二整備室・・・」
「オッケ了解! すぐに行くから!」
俺は夕日が差し込む廊下を、たったったと走った。
「いやぁ、粘った甲斐があったなぁ!」
俺はもう言い表せれないくらいの喜びで胸がいっぱいだった。
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