IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「うし! じゃあ早速簪さんの機体を見せてけれ」
第二整備室で俺は簪さんと一緒にいた。
今回のタッグマッチが専用機持ちだけのトーナメントであるから、当然レベルの高い戦闘になるということで、俺達以外にも期待を整備している人が結構いた。
「ねえ、昨日取った稼動データ、こっちに回してちょうだい」
「武装の軽量化をしたいのよね。今からでも間に合うかしら?」
「ちょっと! ハイパーセンサーの基準値がずれてる! 誰だ動かしたのー!」
「イッタイ! 工具箱に小指ぶつけた! あぁ〜!」
やんややんやと騒がしい。楽しげにやってるところもあれば、怒号が飛び交っているところもある。しかし、みんながみんな真剣にISと向き合っている。
「ん、あの専用機は上級生のか」
「あっちが・・・・・二年生のフォルテ・サファイア先輩・・・・・・・。専用機は―――――」
「『コールド・ブラッド』」
「・・・・・あ、あっちは三年生のダリル・ケイシー先輩・・・。専用機は―――――」
「『ヘル・ハウンド・ver2・5』」
「・・・・・知ってるの?」
「まあな。ツクヨミの資料で見た。どっちもなかなか良い機体だよな。けどまあ、研究者の立場から言わせてもらうと―――――」
「その話・・・長くなる・・・・・?」
「・・・・・十五分くらい」
「じゃあ、却下」
ぶぅ、つまらんやっちゃな。
空いているスペースを捜して歩いていると、見慣れた機体が無人展開されていた。
「お、ブルー・ティアーズだ」
コイツの持ち主と言えば・・・・・。
「よう、セシリア」
「あら、瑛斗さん。ごきげんよう」
案の定その近くにセシリアが立っていた。
「瑛斗さんも機体の整備を?」
「ああ、まあな。これからやるところ
「そうですか」
「ところでお前、ペアの方はどうなった?」
「うっ・・・!? そ、それは、その・・・・・」
「?」
「まだ決まっていませんの・・・・・」
「え? まだ決まってない? ってそれってマズくね?」
時間はもう午後五時を過ぎた。ペア申請の締め切りはとうに過ぎている。
「一夏さんにペアを誘ったんですが・・・箒さんと鈴さん・・・・・。あの二人さえ邪魔しなければ・・・・・・!」
そう言ってセシリアはわなわなと拳を震わせる。
「なんだよ? 何があった?」
「わたくしと同時のタイミングで一夏さんをペアに誘ったんですの」
「あぁ、目に浮かぶわ。お前と箒と鈴が睨み合ってて、一夏が困っている様が」
一夏、相変わらず苦労人だ・・・。
「・・・で、鈴さんがISを展開して、それに続いて箒さんまで。わたくしも負けてられないとティアーズを展開したところで・・・・・・・」
「ところで?」
「織斑先生がいらしたの・・・・・・・・」
「はい詰んだー。そんで?」
「三人もれなく出席簿攻撃を受けて、おまけにISを展開したままグラウンド十周をさせられました」
「はは、それはそれは」
「しかもペアが組めずじまいで、当日抽選ということになりましたわ」
「抽選って・・・。一夏争奪でか?」
「まあ、そうなんでしょうけど、敵は多いですわ」
「どういうことだ?」
「あの生徒会長の提案で、今回のタッグマッチのペアで一夏さんと組む人は当日抽選で決めることになりましたの。って、これ今朝のHRで先生が仰ってましたよね?」
「そ、そうだっけ?」
いかん、簪さんを誘うことに必死で全然聞いとらんかった。
ていうか楯無さん、一夏をどんだけ玩具にするんだよ・・・・・。
「ま、運も実力のうちってな。一夏と組めるといいな、じゃ俺行くわ」
「はい。ではまた」
俺はセシリアと別れて先にスペースを取ってくれていた簪さんのところに走った。
「遅い・・・・・」
「悪い悪い。ちょっと話が立て込んでな。早速始めようぜ」
「・・・・・うん・・・・・」
コクリと頷いて簪さんは右手を軽く突き出した。その中指にはクリスタルの指輪がはめられていた。
「おいで・・・・・『打鉄弐式』・・・・・」
簪さんが光につつまれ、装甲を纏うと同時に浮遊する。
「ほほう・・・・・」
いつぞやのノートの一件で機体の構造は把握していたが、改めて実物を見ると大分違っていた。
「なるほど。あの大型シールドをスラスターとブースターに変更することで防御型から機動型への変更したんだな。ってアレ? もしかして機体は完成してるのか?」
そう聞くと、簪さんはISを跪かせて装着を解除し。フルフルと首を横に振った。
「武装が・・・・・まだ・・・・・・。それに・・・・・稼動データも取れてないから・・・今のままじゃ実戦は無理・・・・・・・」
「そうなんだ。ちなみにその武装ってのは?」
「マルチロックオンシステムによる高性能ミサイル・・・・・。それと、荷電粒子砲もまだ・・・」
「おお、荷電粒子砲か。それならGメモリーのデータが使えるな」
そう考えて俺はG−soulのコンソールを呼び出して早速データを漁る。
「えっとぉ・・・荷電粒子砲装備のメモリーはっと・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「お、あったあった」
「!」
ぱっと顔を上げると、正面から簪さんと目があった。
途端、簪さんは横を向く。
「おいおい、それじゃあ見えないだろ?」
ぐっと手を引いて空中投影ディスプレイの前につれてくる。
「・・・・・・・・・」
「どうだ? 参考になるか?」
「・・・・・・・・・」
「?」
「ち・・・・・、近い・・・・・。もう少し・・・・・・離れて・・・・・・・・」
「お、おお。すまん」
ぱっと手を離して離れる。
「・・・・・・・・・・・・」
簪さんは触れられていた腕をさすりながら改めてディスプレイを見る。
その顔は真剣そのもので、指を躍らせて関連データをチェックしている。
「うん・・・・・。これは、使える・・・・・・・・」
「お、マジか」
俺が言うと、簪さんはコクンと首を縦に振った。
「これを、弐式に合わせた出力に調整したら・・・・・、充分に使える・・・・・・・」
「よっしゃ。じゃあ、それも含めて調整に入ろう。ちょっと工具取ってくるわ」
「うん・・・・・」
工具を取りに振り返る。
「きりり〜ん。か〜んちゃ〜ん」
ぱたぱたぱたっと足音がやってくる。こんな呼び方をしてくるのは一人しかおらん・・・・・!
「本音・・・・・・・」
のほほんさんこと布仏本音。生徒会のメンバーにして、俺のクラスメイト。常にダルッダルの袖の制服と、トロい動きと、眠そうな顔が特徴だ。
(ん? 更識家の使用人の家系ってこたぁ、簪さんとも知り合いってわけか)
「えへへ〜、お手伝いに来たよ〜」
手に工具箱を持ち、もう片方の手をパタパタと振る。それが近くにいた二年生の先輩の後頭部を直撃してギロリと睨まれていたが、そこはのほほんさん。微塵も気にしちゃいない。
「かーんちゃん、機体調整手伝ってあげる。えへへ」
「や、やめて・・・・・・いじらないで・・・・・あっ、あっ・・・」
どうやら簪さんはこの同い年の幼馴染が苦手のようだった。
「本音・・・・・どうせまた、姉さんから言われて・・・・・来たんでしょう?」
「え〜? ちがうよー。私はっ、かんちゃん専属のメイドだから手伝うのは当たり前田のクラッカーなんだよー」
「・・・・・・・・・・・・」
ふ、古い。言葉のチョイスが古いよ、のほほんさん。
「月曜日から木曜日まで、暮らしを見つめる布仏本音ですー」
「金曜日と土曜日と日曜日は・・・・・?」
「え〜、週末は休ませてよー」
「イヤ、三日は休みすぎだろ」
「さてと〜、どこからやっちゃおうかー? システムの最適化ー? それとも火器管制のサポ〜?」
おい、無視か。俺のツッコミ無視かコラ。
「火器管制システムは、私じゃないと・・・・・無理、制御システムも私がやるから・・・・・・本音は・・・・・」
「シールドエネルギーの出力調整だね〜? りょうかいなのだっ」
「き、聞いて・・・・・、装甲のチェックして・・・・・・」
「えへへ、わかりましたぁ」
のほほんさんにすっかり毒気を抜かれてしまった簪さんは、はぁぁっとため息をついた。
「さて、じゃあ俺はどうしようか?」
「・・・じゃあ、全体を見て、直せそうなところがあったら・・・・・直して・・・・・」
「あいよ。まかせてくれ」
それから俺達は時間も忘れて機体の整備にのめり込んだ。
三人よらばなんとやら、打鉄弐式は最初とは比べ物にならないほどステータスが向上した。
「う〜ん・・・! ざっとこんなもんだろ」
肩をコキコキと鳴らしてパソコンを閉じる。
「いや〜、さっすがIS研究者だね〜。ここまで進むとは私も思ってなかったのだー」
「いやぁ、それほどでも・・・・・あるけどな」
あっはっはっは、とのほほんさんと笑い合っていると、簪さんがこっちに近づいてきた。
「と・・・ところで・・・・・その・・・・・・・・・」
「ん?」
急に簪がもじもじし始める。なんだ?
「え・・・・・・・えっと・・・・・・・」
「?」
指を絡ませてぐにぐにと弄り、視線は落ち着かないように彷徨い、右へ左へキョロキョロと挙動不審である。
「・・・腹でも下したか?」
「ッ・・・・・・・!」
ガンッ!
「ったぁっ!?」
「おじょうさま〜、不敬者をぶん殴っておきましたー」
って、のほほんさん! それスパナじゃねえか! めっさ痛たかったぞ!
「きりりんは〜、でりかしぃが欠けてると思いますー」
「ぬぐっ・・・!」
「たとえ本当にそうだったとしてもー、それは言わないのがマナーってもんでしょー?」
うああああああっ! のほほんさんに常識を説かれたああああ!
「ほ、本音・・・・・、もういいから・・・」
「はーい、おじょうさまー」
「お嬢様は・・・やめて・・・・・・・」
「うい! かんちゃん!」
「それも・・・あんまり好きじゃない・・・・・」
「えー、じゃあ、イェス・ユア・マジェ―――――――」
「「それは以上はダメ」」
のほほんさんの暴走を簪さんと二人掛かりで止める。
「それで? なら何なんだ?」
俺は話を戻して簪さんを見る。
「あの・・・・・飛行テスト・・・に・・・付き合って・・・・・欲しい・・・・・・・・」
「なんだ、そんなことか。いいぞ」
「あ、ありが・・・・とぅ」
丁寧に、ぺこりとお辞儀をされちまった。
俺からすれば、さして礼を言われる程のことでもないので、ちょっとばかり照れてしまう。
「え、えっと、どこのアリーナに行こうか?」
「飛行テストだから・・・・・第六・・・・・・・・」
第六アリーナと言えば先日のキャノンボール・ファストの練習でよく使われたところだ。
「よしっ! じゃあ行こうか」
「う、うん・・・・・・」
「いってら〜。私はコントロールルームでデータスキャナー使って支援するー」
へろっ、へろっ、と垂れた袖えを振るのほほんさん。それがまた二年生の先輩の後頭部にヒットして、睨まれていた。
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