IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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「いやあ、黛さん来てくれてありがとうございます!」

 

翌日、放課後の第二整備室。

 

「私は高いわよー?そうね。独占インタビュー・・・ううん。デート一回ね」

 

「ええ!?」

 

「桐野くんとデートかぁ。ふっふー、自慢しまくっちゃおう」

 

「もう決定事項ですか・・・・・・・」

 

簪の専用機を完成させるにあたって、二年生の整備科のエースの黛さんの力は必要だ。

 

「はーい、はーい、はーい。私もきりりんとデートがいいー」

 

んでもってのほほんさん。彼女の技術も十分戦力になる。

 

「ふーむ、それじゃああとは京子とフィーも呼ぶかな」

 

黛さんはおもむろに携帯を取り出し、チームをかき集める。

 

そのエサは当然―――――――

 

「桐野くんと2ショット写真ね。あ、自費でいいなら学園内デートも可よ」

 

当然俺だ。しかし、俺で食いついてくれるなら喜んでエサをやろう。

 

「マジで!?」

 

電話の向こうからやや興奮気味の確認の声が聞こえる。

 

「よしっ! よおおおおおし! やる! やってやる! ずっちん、カメラは一番いいのな!」

 

ずっちんて・・・・・黛さんのことか。

 

「はいはい。フィーは?」

 

「はふぅ。わたしは織斑くんにも引けを取らないというまっさあじをキボーしますぅ」

 

「だそうよ桐野くん? 問題ないわね?」

 

「ええ。なんだかんだ言って、部活の派遣でやらされちゃってますから」

 

「よっし! 決まりね! それじゃあ今すぐ第二整備室に集合! 遅れてきた方はジュース一本おごりね!」

 

そう言って黛さんは電話を切った。ここ第二整備室には俺と簪、そして黛さんとのほほんさんの四人がいるので、事実上京子さんとフィーさんのガチンコだ。

 

「さぁて、それじゃあ一丁やりますか!」

 

黛さんがニィと笑った。

 

これから三十分後、俺は整備科の厳しさをイヤと言うほど味わうことになる。

 

「桐野くん! そっちのケーブル持ってきて! 全部!」

 

「あとこっちに特大レンチと高周波カッター持ってきて」

 

「ふゆぅ。空中投影ディスプレイが足りないので、液晶ディスプレイを持ってきてください。あ、それと小型発電機も」

 

「は、はいぃぃぃ!」

 

俺はとにかく走っていた。

 

(なんか、ツクヨミでもこういうのやったな・・・・・・!)

 

重たい荷物を持って機材室から整備室へと戻る。

 

部屋に戻ると簪が光球状の改造キーボードに手足を包み、マルチ・ロックオン・システムの調整をしていた。

 

その姿はどこか神秘的で、俺はついつい見てしまった。

 

「――――――きれいだな」

 

「・・・・・・・・・?」

 

ふと、簪が『なにか言った?』と言いたげな表情でこちらを見てきた。

 

「な、なんでもない。あ、黛さん、これ俺のG−soulの稼働データのサンプルです。これ使えば打鉄弐式のシステム開発と駆動系の調整に役立ちます」

 

俺は照れ隠しも含めて、黛さんに昨日データをコピーしたUSBメモリを渡す。

 

「ありがとう! 助かるわ。どれどれ?」

 

それを受け取った黛さんはさっそくデータを閲覧し始めた。

 

「・・・・・・・・・・・ん?」

 

ふと、黛さんのキーボードを操作する手が止まった。

 

「どうかしました?」

 

「あっ、ううん。なんでもない。そんなことよりレーザーアーム持ってきて!」

 

「あとデータスキャナー借りて来い! ダッシュ!」

 

「あふぅ。それとぉ、超音波検査装置もお願いしますね」

 

再び全力ダッシュwith重量物がはじまった。

 

「桐野くん! 髪留め付け直して」

 

「桐野! ジュース! 飲ませろ!」

 

「わはぁ。お菓子取ってくださぁい」

 

・・・・・・・・・・あれ? なんか、関係ない注文が出始めたような?

 

「あ、シャンプー切れてるんだった。桐野くん、購買で買ってきて。ハーブの匂いのやつ」

 

「桐野、この本、図書室に返してきてくれ」

 

「んんぅ。今日の日替わり定食のメニュー見てきてくださいな」

 

「はいはいただいま! ってなるわけねえだろぉぉっ!! 関係ない! あれもこれもどれもぜんっぶ関係ない!」

 

「あ、引っかからなかった」

 

「チィ、賢い奴め」

 

「うふぅ。じょおだんですよぉ」

 

つ、疲れる・・・・・・!

 

肉体的疲労もさることながら、精神的疲労もここに来てドッと出た。

 

「・・・・・・・くすっ」

 

そんな俺の姿を見て、簪が可笑しそうに吹き出した。

 

だがそのわずかな笑みは、俺の精神的疲労を吹っ飛ばすのには十分だった。

 

 

 

 

 

 

「よーしよしよしよし。これでなんとか基本部分は完成したわね。更識さん、どこか異常がみられるところはあるかしら?」

 

「だ、大丈夫・・・です・・・・・」

 

タッグマッチ前日。最後の詰めの作業が終わったのは午後九時を回った頃だった。

 

簪の返事を聞いてうんうんと薫子はうなずく。

 

「火器管制は? やっぱりマルチ・ロックオン・システムは諦めるのか?」

 

「は、はい・・・・・。普通のロックオン・システムを・・・・・使います・・・・・」

 

「とかなんとか言っちゃって〜。ほんとはきりりんの意見を丸のみしたんだよね〜?」

 

京子への返事に本音が余計なひと言を付け加える。

 

「ほ・・・本音・・・・・!」

 

顔を紅くして簪は本音の口をふさごうとするがひょいと躱されてしまう。

 

瑛斗がマルチ・ロックオン・システムのシステム構成を見た時、『現時点では明らかに非効率』とシステムの問題点を一から十まで全部つらつらと述べ、その場で打鉄弐式にもっとも適合したロックオン・システムに作り変えるといった驚異的な行動をしたのだ。

 

当初の予定とはいささか異なるが、一週間弱でここまでできたのは六人のおかげだろう。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

簪はうつむき加減に瑛斗の様子をうかがった。

 

今は機材の片付けに追われている。

 

(桐野・・・・・・・くん・・・・・・・・)

 

瑛斗を見る簪の視線はどこか熱っぽい。

 

「あら?」

 

それを見た薫子は、ははあと、したり顔をした。

 

「さーて! それじゃあ私たちは上がらせてもらおうかしら!」

 

「え? 何言ってんだよ。まだ片付けが残ってんだろ?」

 

「いーのいーの。桐野くんが全部やってくれるから。ね?」

 

「・・・ノーとは言えんでしょうに」

 

「あらぁ。優しいんですねぇ」

 

「やたっ。じゃーきりりん、あとはよろぴ〜」

 

フィーと本音はいまいち噛み合わないハイタッチを繰り返す。

 

「あ、あの・・・・・っ」

 

簪は口下手ながら、その感謝の気持ちを伝えようと思い切り声をだす。

 

「あの・・・・・ありがとう・・・ございまし・・・・・た。私・・・・・一人じゃ・・・絶対にここまで・・・・・できなかった・・・です・・・。本当に・・・・・・本当に、ありが・・・・・ありがとう・・・ございました・・・・・!」

 

ぺこりっと頭を下げる簪。

 

そんな簪を見る目は、どれもこれも優しいものだった。

 

「あはは。気にしないでよ。同じ学園の仲間じゃない」

 

「そーそ。それにひさしぶりに日本製のISに触れて楽しかったぜ」

 

「今度甘いもの、食べさせてくださいね」

 

「あ、私ケーキがいいー」

 

そんな女子たちの言葉に、簪は涙ぐむ。

 

自分から壁を作ってしまっていた世界は、こんなにも暖かい。

 

その事実が簪には何よりも嬉しかった。

 

「じゃ、帰りましょうか」

 

「「「おー」」」

 

「じゃ、桐野くん、よろしくねー」

 

「へーい」

 

去り際、薫子は簪の耳元でささやいた。

 

「あとは上手くやってね。更識さん」

 

「!」

 

その一言に簪は耳まで赤くなってしまう。

 

(な、なにを・・・・・うまくやれば・・・・・・・)

 

どうしていいか分からなかったが、とりあえず簪はISを解除して着地した。

 

「・・・・・・・・・・」

 

だらだらと汗を流しながら、簪はちらと瑛斗の方を見た。

 

呼吸を乱しながら、重たい機材を運んで行ったり来たりしていた。

 

(ど、どうしよう・・・・・。わ、私も手伝わないと・・・・・・・)

 

「あ、あの・・・・・」

 

「んあ? ああ、別にいいぞ。お前は打鉄の方を片付けとけよ」

 

「で・・・でも・・・・・・・」

 

「気にすんなって。あ、終わったら帰っていいぞ。今日って大浴場の使用時間、短いんだろ?」

 

「ま、待ってる!」

 

予想外の大きな声に、瑛斗は面食らってしまう。

 

「そ、そうか」

 

「・・・・・・・・・」

 

簪は簪で、大きな声をあげてしまったことが恥ずかしくなり、いそいそと打鉄弐式の片付けを始めた。

 

ガチャガチャと、片付けの音が整備室に響く。

 

だだっ広い整備室は、簪と瑛斗のふたりきりだった。

 

(しかし、久しぶりにあんなに本格的にISの開発と整備に打ち込んだな)

 

瑛斗は、機材を機材室に運びながらここ数日間のことを思い出していた。

 

(ツクヨミで、みんなとG−soulを組み上げた時も、あんな感じだったなぁ)

 

また、もう一度みんなで――――――。

 

叶うはずのない願いが浮かび上がる。

 

そしてふと、窓の向こうで輝く満月を見た。

 

(所長、みんな。俺、今がすごく楽しいよ。だから心配しないで、見守っていてくれよな。って、ちょっとばかりセンチすぎっかな)

 

フ、と自分らしくない自分を笑い、簪のもとへ向かう。

 

「簪」

 

「ひゃ・・・・・っ!?」

 

突然驚いたような声をあげた簪を不思議に思いつつ、瑛斗は続けた。

 

「こっちは終わったぞ」

 

「え・・・・・も、もう・・・?」

 

意外そうな表情の簪をさらに不思議に思う瑛斗だった。

 

「じゃ、帰るか」

 

「う、うん・・・・・」

 

「着替えは俺は第三アリーナのBロッカー室だけど、簪は?」

 

「だ・・・・・第二の・・・A・・・・・」

 

「そっか。じゃあしばらく一緒だな」

 

「うん・・・・・」

 

瑛斗と簪は二人でならんで廊下を歩いた。

 

「それにしても、なんとかなったな」

 

「う・・・・・ん。みんなの・・・・・おかげ・・・」

 

そこから自然と会話が途切れ、辺りは静かになる。

 

瑛斗も簪が疲れているのだろうと考え、それにしたがった。

 

「じゃ、俺はこっちだから」

 

「う、うん・・・・・」

 

瑛斗は歩きながら簪に手を振って別れた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

簪は、調理室を借りていた。

 

赤々と熱を放つオーブンでは、簪の数少ない得意料理に抹茶のカップケーキがその完成を迎えようとしている。

 

(桐野くん・・・・・食べてくれるかな・・・・・・・・)

 

ちらりと時計を見る。時刻はすでに午後十時を過ぎていた。

 

ひょっとすると瑛斗はもう眠っているかもしれない。

 

そう考えると途端に気持ちがしぼんでしまう。簪は早く焼き上がらないかなとオーブンを見続けた。

 

チンッ!

 

「あっ・・・・・・・!」

 

できた!

 

簪の表情はぱぁっと明るくなり、両手にしっかりとミトンをはめてカップケーキを取り出した。

 

(うん・・・。上手くできた・・・・・・)

 

今まで作ってきた中で、一番の出来の三つのカップケーキを用意していた袋に包み、リボンで縛った。

 

そしてそれらを少し大きめに紙袋に丁寧に入れた。その紙袋に、『桐野くんへ』と書かれたカードが貼ってあるのは、簪の精一杯の勇気である。

 

「あ、あとは、桐野くんに食べてもらえば・・・・・」

 

―――――――嬉しい。

 

そして、喜んでくれたのなら、簪の心は今度こそ弾けてしまうだろう。

 

(さ、冷めちゃう前に・・・・・)

 

簪はぱたぱたと調理室を足早にでた。

 

「えへへ・・・・・」

 

廊下を進む簪の顔には、自然と笑みがこぼれる。

 

好きな人への贈り物。それは恥ずかしい反面、誇らしくもあった。

 

この通りを抜ければ、簪の目的地である瑛斗の部屋はすぐである。

 

(ここからは・・・歩いていこう)

 

深呼吸をして、一歩踏み出す。

 

『どういうことなの?』

 

「?」

 

ふと、この数日で聞きなれた声が聞こえた。

 

(黛先輩の・・・声?)

 

どこかの部屋で誰かと話しているようだった。しかし、それよりもその声音が普段と違うことが気になり、盗み聞きするつもりはなかったが、簪はつい聞き耳を立てた。

 

『どういうことって、何が?』

 

「!?」

 

話の相手は、姉の楯無だった。それだけで簪は体を硬直させた。

 

『あのUSBの中のデータ、あれって桐野くんのじゃなくて、たっちゃんのだよね?』

 

「え・・・・・・?」

 

(どういう・・・こと・・・・・?)

 

簪の呼吸は次第に乱れ始める。

 

『証拠は?』

 

問い詰める薫子の声に、楯無の声は変わらない。

 

『一体どれだけたっちゃんに付き合ってきたと思ってるの? 一目見ただけですぐに分かったわ。最初は単なる偶然かと思ったけど、やっぱり気になったの』

 

『ふふ・・・、さすがは新聞部のエースね』

 

「あ・・・・・ぁ・・・・・・・」

 

一秒でもはやくこの場から去りたかった簪だが、足が動かなかった。

 

『たっちゃん、なにがしたいの? こんなことして、なにになる?』

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

楯無は答えない。

 

『たっちゃ――――――』

 

『だって』

 

やめて―――――――。

 

簪は願った。

 

それ以上、言わないで―――――――。

 

『だって、あの子は私の妹だから』

 

「ッ・・・・・・!」

 

簪の視界は一瞬、大きく揺らいだ。

 

立っていられなくなり、簪は壁にもたれかかって座り込む。

 

私の妹だから―――――。

 

その言葉は、簪の心を深く、そして容赦なく抉った。

 

全て姉が手をまわしていた!

 

自分は姉の手のひらで踊らされていたのだ!

 

そんな言葉が、簪の脳内を飛び交う。

 

「ひ・・・・・あ・・・あぁ・・・・・」

 

がちがちと顎が震え、奥歯がぶつかりあう。

 

(私は・・・、私・・・だって・・・・・!)

 

簪は、どうすることもできず、自分の部屋へと走り出した。

 

「う・・・あ・・・・・!」

 

誰にも聞こえない、泣き声と共に。

 

 

 

 

 

 

「いよいよ明日かぁ・・・・・」

 

俺は寝る前にトイレに行き、自室への帰路に立っていた。

 

(簪も、初めて会った時とはずいぶん変わったな)

 

タッグマッチの相棒のことを思い出し、ぷっと笑う。

 

「最初はあんなに無愛想だったのに、人間って変わるもんだよな」

 

そんなことを呟きながら、曲がり角を曲がる。

 

ドンッ!

 

「おわっ」

 

誰かとぶつかった。前方不注意かよ。危ねえなあ。

 

「おいおい、気をつけ――――――」

 

そこまで言って、俺は動きが止まる。

 

「・・・・・・・・」

 

ぶつかってきたのは、簪だった。

 

「なんだ、お前か。どうしたん・・・だ・・・・・?」

 

しかし、様子がおかしい。体は小刻みに震え、しゃっくり上げている。

 

「簪?」

 

「き・・・りの・・・・・くん」

 

顔を上げた簪の目は、酷く赤くなっていた。

 

「う・・・うああああああああん!」

 

そして、簪は目から涙をあふれさせて泣き出した。

 

「ど、どうした? なにがあった?」

 

「うっ・・・・・・・! ひっく・・・・・・・!」

 

しかし、簪は泣きじゃくるばかりで一向に説明しない。

 

「泣いてばっかりじゃわからないだろ? 落ち着けって。な?」

 

俺は簪を俺の部屋まで連れて行くことにした。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・楯無さんが、そんな・・・」

 

「うん・・・・・・」

 

ようやく落ち着いた簪から事情を聞いて、俺は驚愕した。

 

いつのまにUSBをすり替えたんだろうか。全然気がつかなかった。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

ぎゅっと固く拳を握ってベッドに座ったたまま、簪はうつむいて動かない。

 

その眼には、涙があふれそうなほどたまっている。

 

「簪はなにも悪くない。 お前が泣く必要なんてどこにもないぞ」

 

気休め程度にもならないだろうが、俺は簪を慰めるように声をかける。

 

「わ・・・たし・・・・・・・」

 

「ん?」

 

「私・・・やっぱり・・・・・姉さんには・・・勝てない・・・・・・・のかな・・・・・」

 

「簪・・・・・」

 

「私は・・・・・姉さんには・・・追いつけない・・・・・の・・・か・・・・・な・・・・・」

 

ポロポロと簪の眼から涙が零れ落ちる。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

俺は何も言わずに簪の隣に座り、肩を抱いた。

 

「あ・・・・・」

 

「大丈夫。俺がついてる。だから泣くな」

 

「でも・・・・・・・・、だけど・・・・・・・」

 

「もしお前が誰かに笑われたら、俺がそいつをぶん殴ってやる。もしお前が困ってたら、俺がお前を助けてやる。だから泣くな」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「明日、楯無さんを見返してやろうぜ。俺もあの人には恨みが二、三個程ある」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「きっと勝てる。なんてたってお前の打鉄弐式は―――――――」

 

「すー・・・・・・・すー・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

いつの間にか、簪は眠っていた。

 

無理もないか。もう十時半だし。整備で疲れただろうし。

 

(やれやれ・・・・・)

 

俺は簪をベッドに寝かせ、布団をかけてやった。

 

「ん?」

 

ふと、紙袋が目に入った。

 

その紙袋には、クシャクシャになった『桐野くんへ』とかかれたカードが貼ってあった。

 

「なんだこれ?」

 

開けて中身を取り出す。紙袋には、潰れたカップケーキのようなものが入っていた。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

眠っている簪の方を見て、またカップケーキに目を落とす。

 

(ったく・・・・・)

 

もぐ。

 

俺は抹茶味のカップケーキを頬張った。

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