IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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「・・・・・・・あれ?」

 

おかしい―――――――

 

確かに目の前に熱線が迫っていたはずだった。だが、俺の体はどこもダメージを受けていない。

 

「だ・・・だい・・・・・じょう・・・ぶ?」

 

「!!」

 

顔を上げると、そこにいたのは・・・・・・

 

「た・・・てなし・・・・・さん・・・・・・・?」

 

俺が名前を呼ぶと、楯無さんはニッと笑い、俺に覆いかぶさるように倒れた。

 

「楯無さん! どうして俺なんか!」

 

「えへへ・・・当然じゃ・・・・・ない。あなたは・・・・・大切な・・・」

 

「――――――――――――」

 

ギュンッ!

 

楯無さんが視界から消えた。

 

「!」

 

ゴーレムが、左腕を横に振った形で止まっていた。

 

ザワ・・・・・

 

俺の全身から何かが膨れ上がった。それはざわめきから鼓動へと変わっていく。

 

ドクン・・・ドクン・・・・・!

 

「・・・・・たな」

 

G−spiritが姿を変えて、ボルケーノを発動する。

 

「やったなあああああああっ!!」

 

俺はボルケーノクラッシャーを起動し、ゴーレムに突進した。

 

「―――――――――――」

 

ゴーレムは超高密度圧縮熱線を最大出力で放ってきた。

 

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

バリバリバリバリバリバリ!!!

 

熱線とボルケーノクラッシャーがぶつかり合う。

 

『ボルケーノクラッシャーのエネルギー吸収率が百二十パーセントを超えました。このままでは飽和によってボルケーノクラッシャーが崩壊します』

 

ウインドウにそんな表示が出た。

 

(知るかそんなもん! こいつを叩き壊してやるんだ!)

 

バキ! バキバキバキッ!

 

ボルケーノクラッシャーが音を立てて指先からひび割れはじめた。

 

「おおおおおおおおおああああああああっ!!」

 

(届け! 届いてくれ!)

 

ドガァァアアン!!

 

爆発が起こった。爆心地はいうまでもなく、俺。

 

「ハァ・・・ハァ・・・・・!」

 

煙が晴れる。俺の手は確かにゴーレムに触れていた。だが、ゴーレムに触れていたその手は、何の装甲も着けていない、ただの人の手だった。

 

「――――――――――」

 

ドゴンッ!

 

「ぐぶっ・・・!」

 

腹を殴られ、血が口から噴き出す。

 

ブンッ!

 

放り投げられ、俺は地面に叩き付けられた。

 

(意識が・・・・・もう・・・・・・・)

 

視界がぼやける。息をしているかどうか自分でも分からない。

 

(ごめん、みんな・・・俺・・・・・)

 

ガッ 

 

頭をもう一体のゴーレムに掴まれた。反抗する力もなく、俺は動けない。

 

(はは、俺・・・・・こんなところで・・・・・・・・)

 

目を閉じかけた。

 

「・・・・・・ちゃん」

 

(ん・・・・・?)

 

「お姉ちゃん!」

 

簪の声が聞こえた。

 

(お姉ちゃん・・・? ああ、楯無さんも一緒か・・・・・)

 

「あは・・・、そう呼ばれるの、いつ以来かしら・・・・・」

 

「どう、して・・・こんな・・・・・」

 

「姉が妹助けるのに・・・・・理由が・・・いる?」

 

「だって・・・もう・・・・・、無理なんだよぅ・・・・・・・」

 

「無理・・・じゃ、ない・・・わ・・・・・」

 

(そうだ・・・諦めるな・・・・・・)

 

俺は、露わになっている右手をギリと握りしめた。

 

「無理だよ! この世に・・・ヒーローなんて、いないんだよ!」

 

「そうかしら・・・・・?」

 

「でもっ・・・でもぉ!」

 

「少なくとも・・・・・彼は、諦めてない・・・みたい・・・・・よ」

 

(ここで・・・振ってくるか・・・・・。しょうがない・・・・・・・リクエストにこたえるか!)

 

俺は、頭を掴まれたまま言葉を紡いだ。

 

「いねえよ・・・・・・」

 

「え・・・・・?」

 

「この世界に・・・ヒーローなんざ、完全無欠のヒーローなんざ・・・・・いねえよ」

 

体から痛みが引いていく。それどころか、右手に力が集まっていくのが分かる。

 

「完全無欠のヒーローは、泣きもしなけりゃ、笑いもしない・・・ただの戦闘マシーンだ。こいつみたいなな」

 

『ボルケーノクラッシャー、戦闘経験値が溜まりました。『ボルケーノブレイカー』に進化します』

 

右腕が眩しいほどの光を放つ。それに続いて、全身が眩い金色の光を放つ。しかし、ただ眩しいだけじゃない。温かく、優しい光でもあった。

 

「だから! 俺は!」

 

ドズンッ!

 

ゴーレムVの胸部装甲が弾け飛び、そのまま金色のキューブ状のISコアが露出する。突然の衝撃にゴーレムは動けない。

 

俺はボルケーノブレイカーでコアを掴んだ。

 

「俺は人間だ! 泣きもすれば、負けもする。大切なものを失ったりする。それでも、上を向いて! 立ち直れて! また笑えるようになる・・・人間なんだあああああああああああ!」

 

ブチッ! ブチブチブチブチブチッ!! ズボォッ!!

 

コアを引き抜き、天に掲げる。

 

「――――――――――・・・・・・・」

 

コアを引き抜かれたゴーレムは仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。

 

「・・・・・うぐっ!」

 

突然、足から力が抜けて地面に膝をついてしまう。G−spiritボルケーノモードもG−soulに戻ってしまう。

 

「桐野くん!」

 

簪が涙を流しながら駆け寄ってきた。

 

「お、おお。簪・・・無事だな?」

 

「うん・・・! うん・・・・・!」

 

俺はポンポンと簪の頭を撫でてやった。

 

「えい・・・と・・・・・くん」

 

「楯無さん・・・・・」

 

俯せになって動かない楯無さんに近寄る。

 

「向こうで・・・一夏くん・・・・・と、箒ちゃんが・・・・・戦ってる・・・わ。助けに・・・いってあげて・・・・・」

 

「わかりました。行きます」

 

「それと・・・、これ・・・・・」

 

楯無さんは震える手を伸ばし、俺にあるものを渡した。

 

「レイディの・・・アクア・クリスタル?」

 

「お守り・・・・・」

 

そうか・・・・・・・・・。

 

「了解です・・・。形見の品ですね」

 

楯無さん、あなたのことはずっと忘れません。

 

「瑛斗くん・・・これが終わったら・・・・・絶対、ぜーったい、ボコボコにするから・・・・・」

 

「へへ、そんだけ言えたら、まだまだくたばりませんね」

 

「ん」

 

楯無さんはグッと拳を突きだした。

 

「頑張れ。一年生」

 

「はい」

 

俺はその拳に自分の拳をコンとぶつけた。

 

「簪」

 

「は、はい!」

 

俺は簪の方を向いて、笑って見せた。

 

「一緒に、行こうぜ」

 

「う、うん!」

 

頷く簪の瞳には、もう、迷いも、怯えも、ありはしなかった。

 

簪と共に飛び立ち、箒と一夏に合流した。二人が対峙していたゴーレムは、厄介な左腕が無くなっている。

 

「一夏! 箒ッ!」

 

「瑛斗!?」

 

「ば、馬鹿者! そんなボロボロな状態で何で来た!?」

 

「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」

 

一言、二言言葉を交わして、俺達はおそらく最後のゴーレムVに向き合う。

 

「簪」

 

「なに?」

 

「ヤツのシールドユニットが面倒だ。お前の打鉄弐式で、ヤツに隙を作ってくれ。その隙をついて、俺と一夏と箒が決める」

 

「・・・・・・・」

 

簪は少しだけ自信がないような目をした。

 

「できるな?」

 

「や、やってみる!」

 

「よっしゃ! まかせたぞ! 一夏! 箒!」

 

俺は一夏と箒を呼び、簪とは別の方向に飛んだ。

 

(信じてるぜ・・・簪!)

 

俺達三人は三方向に散らばった。

 

「紅椿! お前の力を見せてみろ!」

 

「行くぞ白式!」

 

箒は雨月と空裂で、一夏は雪片弐型でゴーレムVに攻撃を仕掛ける。

 

「さあ、行こうぜ! G−soul!」

 

スラスターを噴かし、アクア・クリスタルを手にゴーレムに突進。

 

「簪ぃっ!」

 

俺が信頼を込めた叫びを上げる。

 

「力を貸して! 打鉄弐式!」

 

ズドドドドドドドドドッ!

 

打鉄弐式の四十八発のミサイル『山嵐』が文字通り嵐のごとくミサイルを発射する。

 

「――――――――――!」

 

簪の攻撃を捌き切れず、ゴーレムは被弾してよろける。

 

「一夏ぁっ!」

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

一夏が全身全霊を込めた雪片弐型の零落白夜をゴーレムVに叩き付けた。

 

ドゴォン!

 

装甲が砕け、その奥のコアが露わになる。

 

「箒っ!」

 

「任せろおっ!!」

 

アクア・クリスタルを箒に投げ渡し、箒がそれを全力でゴーレムに向かって投げる。

 

「――――――――――――」

 

しかし、ゴーレムはそれを簡単に躱す。

 

「「決めろぉっ! 瑛斗!」」

 

「よっしゃあああっ!!」

 

残り三秒のG−spiritのビームウイングによる加速で、アクア・クリスタルに追いつく。

 

「行けぇええええええ!!」

 

アクア・クリスタルをゴーレムのコアにめり込ませるように蹴りで叩き込んだ。

 

ドガァアン!

 

そのままの勢いでゴーレムは地表に激突する。

 

ISのコアはそんな簡単には壊れない。けど、俺たちの力があれば!

 

「「「楯無さん!!」」」

 

「お姉ちゃんっ!」

 

「ふう・・・・・」

 

名前を呼ばれ、楯無さんが震える手を掲げる。

 

その手はスイッチでも握っているかのような形だった。

 

「かちん」

 

ぐっと楯無さんがスイッチを押した。

 

すると、ゴーレムは内側から爆発し、跡形もなく消し飛んだ。

 

「いえーい」

 

そして、楯無さんは親指を立てた。

 

「「「「・・・・・・・・・・・」」」」

 

俺達四人は数秒間沈黙し、顔を見合った後、やれやれと親指を立てて、そして―――――笑った。

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