IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「と、いうわけで」
楯無さんがまとめの声をあげる。
「生徒会によるケーキ製作はスポンジは一夏くんと本音、そして私。クリームと飾り付けは虚と瑛斗くんでやるわ。いいわね?」
そう聞かれて俺達は、はーいと返事をした。
「じゃ、今日は解散!」
楯無さんの扇子には『おつかれ!』と書かれていた。
「あー・・・・・疲れたぁ〜」
俺が伸びをしてつぶやく。そして時計を見て時間を確認する。
「ん、こんな時間か。一夏ー、飯食いに行こうぜ」
「ん? ああ、そうだな」
一夏を誘って、生徒会室を出る。
「それにしても、まさかこんなに時間がかかるなんてな」
「ああ。ケーキの種類とか、どんな飾り付けにするかとか色々話し合ったからな。おかげでもう夕飯時だ」
話しながら廊下を歩くと、ある人とバッタリ会った。
「あ、織斑先生」
「む、お前たちか」
曲がり角で会ったのは一夏のお姉さんの織斑千冬さんだった。
「生徒会の仕事か?」
「ええ。まあそんなところです」
「・・・・・・・」
うん? 一夏がバツが悪そうに黙っている。
「一夏? どうした?」
「えっ、ああ、いや―――――――」
取り繕おうとした一夏が何かを言おうとすると、織斑先生はすでに歩き始めていた。
「仕事熱心なのは構わんが、あまり根を詰め過ぎるなよ?」
「あ―――――――」
言って織斑先生は行ってしまった。
「どうしたんだよ一夏。織斑先生となんかあったのか?」
一夏の織斑先生への反応はいつもと明らかに違っていた。
「いや・・・その・・・・・」
「んだよ、歯切れ悪いな」
「・・・・・実はさ、この前千冬姉に家族のことを聞いたんだよ」
「家族のこと?」
「ああ。俺に妹とかっているのかって」
「うん、そんで?」
「結局、何も教えてくれなかった」
「あ、そう・・・・・」
一夏と千冬さんの間には家族の話はしないという決まりがあるらしい。
一夏も小さいころからその決まりに従って生きてきたが、あの少女、織斑マドカが現れてからは色々疑問を持ち始めている。
「で、そんなことがあった手前、気まずいと?」
「うん・・・・・・・」
「ふーん。ま、他人様のお家事情に首を突っ込む気はねえよ。飯でも食って、気分転換と行こうぜ」
「そうだな・・・。そうするか」
納得したように頷く一夏と寮の食堂に入る。
「なーににしよっかなぁー? ・・・・・よし、今日はハンバーグ定食だ!」
「じゃあ、俺は・・・・・、カツカレーかな」
「ほお、一夏くんガッツリいくねえ」
「そんくらい食べたい気分なんだよ」
「はは、さいですか」
出てきた料理の載ったトレーを持って席を捜していると、
「あ、瑛斗、こっちこっちー」
「一夏さん、こちらですわ」
シャルや、セシリア。要するにいつものメンツがいた。
「お、みんないるみたいだな」
シャルの向いに座ってみんなの顔を見る。
「うん。僕たちも今食べ始めたところだよ。ね?」
「うむ。そうだな」
シャルの今日のメニューはロールキャベツ定食、ラウラはカルボナーラ。
「一夏さん、ここ、空いてますわよ」
「あ、ああ」
一夏に自分の隣の席に座るように言ったセシリア。ちなみにメニューは鶏と野菜のスープだ。
「そう言えばアンタたち、放課後に放送で生徒会室にすぐ来るように言われてたけど、何かあった?」
鈴が回鍋肉定食を食べながら聞いてきた。
「いや、特に大したことは無かったぞ。なあ、瑛斗?」
「そうだな。特に何も」
「ふーん。そう」
言っておくと、今回の生徒会によるケーキ作りは関係者以外には秘密だ。理由は楯無さん曰く『クリスマスだもの。サプライズは多い方が良いに決まってるわ』だ。
「あ・・・・・瑛斗・・・みんな・・・・・・・」
「ん? おお、簪」
振り返ると、後ろに楯無さんの妹の簪が立っていた。手にはきつねうどんが載ったトレーがある。
「あ、簪ちゃん。簪ちゃんも座って座って」
「う、うん・・・・・」
シャルに促され、簪は遠慮がちに俺の隣に座る。
あの一件以来、簪は少しずつ周囲の人と打ち解けるようになり、シャル達とも親しくなってこうして夕飯を共に食べるほどの仲になっている。
「そろそろクリスマスだけどさ、みんなはどうするんだ? やっぱり国には帰らないんだな?」
「うん。それにこっちのクリスマスの方が楽しそうだもん」
「我が軍でもクリスマスの催しがあるらしいが、そちらは黒ウサギ隊の隊員たちに任せるつもりだ」
「そうですわね。あちらに戻っても、退屈な仕事があるだけですし」
「私も戻らないわ。まあ、戻っても面倒なことしかないから」
やっぱりみんなクリスマスは日本で過ごすらしい。
「それにしてもクリスマスかぁ。ってことはもう年末だな」
「おいおい、気が早いな」
俺が言うと一夏が苦笑した。
「そうか? クリスマスの一週間後だぜ? あっちゅーまだろ」
「確かにそうかもな。いろいろあったよな」
「そうだなぁ。・・・・・って、こういうのは大晦日に言おうぜ」
「? なんでだよ」
「いやぁ、このタイミングで言うと、またとんでもないことが起こったりするかもしれないだろ?」
「できればそれは・・・・・ない、と思いたい」
「俺も同感。そうだ。みんな年末年始は国に帰らないんだったらさ、初詣行こうぜ」
聞くと、みんな首を縦に振った。
「俺除夜の鐘突いてみたいんだよ。ゴーンって」
「うーん・・・でも、近所に寺は無いんだよなぁ。俺の家の近くだと・・・・・やっぱり箒んところの神社だよな。な、箒」
「へっ!? え、あ、ああ! そうだな。うん、お前の家の近所だと、私の家の神社が一番近いな」
焼きサンマ定食を黙々と食べていた箒は、突然声をかけられて驚いたように声を上げた。
「だよなぁ。よし! じゃ、少し気が早い気もするけど、初詣は篠ノ之神社にしようぜ」
一夏が言うと、全員それに賛成した。
「・・・・・・・・・・・・」
月明かりが差し込む部屋。自分以外誰もいない暗い部屋でマドカはナイフを研いでいた。
(私の復讐の完遂は、もうすぐそこまで来ている・・・・・・・)
ナイフを研ぎながらマドカは思う。
(それからのことなど・・・私にはどうでもいい・・・・・・・)
全てはその時のため。
マドカはただ自分の目的を果たすためだけに生きてきた。『それから』などという言葉はもはや彼女には存在しない。
ふと、顔を上げると、窓に自分の顔が映った。
強奪し、そのまま自機として使用しているサイレント・ゼフィルスの待機状態の左耳のイヤリングが月光を反射させて光る。
(サイレント・ゼフィルス・・・・・。お前との付き合いもこれきりかも知れないな)
感慨深げにイヤリングに触れて、ハッと我に返る。
(フッ・・・・・この私が、こんなことを考えるとはな・・・・・・・)
そんな自分を笑い、今度は真剣な表情で窓の中の自分を見据える。
「待っていろ・・・・・ねえさん・・・・・・・」
ヒュンッ! ドッ!
壁に向かって研ぎ終えたナイフを投げる。ナイフは真っ直ぐ飛び、貼られていた小さな写真、織斑千冬の写真に深々と突き刺さるのだった。
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月光の中で・・・・・ | ||
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