IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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「・・・・・・来たっ! 楯無さん! ISの反応です!」

 

探索用Gメモリー、パルフィスを使った一夏捜索を開始してから、十数分。ついにセンサーにISの反応が出た。

 

「本当!?」

 

楯無さんが目を見開く。

 

「数は!?」

 

「待ってください・・・・・、識別コード確認・・・これは・・・・・!」

 

俺の顔色が変わったのを見て、楯無さんが訝しげにする。

 

「どうしたの?」

 

「反応は二つ。一つはサイレント・ゼフィルス。もう一つは・・・・・未確認機体です」

 

「二つ? 未確認?」

 

「はい。少なくとも一夏の白式の反応は無く、サイレント・ゼフィルスのすぐ近くにその未確認機体もいるみたいです」

 

「場所はわかる?」

 

「ここからそう遠くない廃工場です」

 

「わかったわ。そこに行ってみましょう。もしかしたら一夏くんのいる可能性も高いわ」

 

「了解・・・・・って言いたいですけど、どうやって行きます? ISを展開すればひとっ飛びですけど、許可なくそういうことすると・・・・・・・」

 

「それなら大丈夫! いま政府から正式な許可を出してもらったわ。私たちがいるこの周囲一帯で、二時間だけなら展開可能よ」

 

「マジですか! ・・・・・ってか、いつの間に?」

 

「瑛斗くんが一夏くんを捜してる時に、携帯でちょいちょいっとね。早く行きましょう」

 

言うやいなや、楯無さんは専用機のミステリアス・レイディを展開して、空中に浮遊し始めた。

 

「あ、待ってください!」

 

俺も慌ててそれについていく。

 

(ISの市街使用許可を簡単にもらえるって、スゲーな更識家・・・・・)

 

楯無さんの後を追いながらそんなことを思う。

 

スラスターを最大出力で噴射しながら移動していたので、目的地にはすぐに着いた。

 

「ここに一夏がいるのか」

 

「でも、変ね。人の気配なんて感じないわ・・・・・・」

 

建物の中に入って歩きながら周囲を見渡す。

 

楯無さんの言う通り、人っ子一人いない。しかも廃工場と言うだけあってどこか気味の悪い感じもしている。

 

「あら。少し遅かったわね」

 

「「!?」」

 

唐突に後ろから声が聞こえた。振り返ると、そこには豊かな金色の長い髪を風に揺らしながら微笑む長身の女性の姿があった。

 

「誰だ!?」

 

「待って」

 

俺が身構えると、楯無さんが左手を軽く挙げて俺を止めた。

 

「楯無さん?」

 

「うふふ・・・・・・」

 

困惑する俺を見ながら、女性は笑みを消さない。

 

「そっちのあなたとは会うのは二度目だけど、君とは初めましてね。桐野瑛斗くん?」

 

「・・・・・・・・・」

 

コツコツとヒールの音を響かせながら女性はこちらに近づいてくる。

 

「瑛斗くん、下がってなさい」

 

「え?」

 

「今の君じゃ、アイツには勝てないわ」

 

楯無さんは、右手に蛇腹剣のラスティー・ネイルを呼び出して構える。その眼は、普段からは想像できないほどの闘気を秘めている。

 

すると、近づいてきた女性も動きを止めた。

 

「あら? また戦うの? キャノンボール・ファストの時と同じになるわよ?」

 

「キャノンボール・ファストって・・・・・、アンタもあの場にいたのか?」

 

俺が聞くと、女性は首を少し傾けて答えた。

 

「ええ。見ていたわよ。あなたたちがエム・・・・・織斑マドカと戦っている姿を」

 

「その言動・・・・・、やっぱり亡国機業か」

 

「そうよ。亡国機業実行部隊司令のスコール・ミューゼル。以後、お見知りおきね」

 

「・・・・・ここに何をしに来た?」

 

「決まってるじゃない。ここに拘束された織斑一夏の護送―――――――」

 

「! やっぱりここに一夏が・・・・・!」

 

俺が言うと、スコールは肩を竦めて困ったように笑った。

 

「と、言いたかったけど、もう彼はここにはいないわ」

 

「・・・・・どういうこと?」

 

「彼は自力で脱出して、そのままあの子の後を追って行ったわ」

 

「・・・俺達にわかるように言え」

 

「要するに、エムと織斑千冬の戦闘についていったのよ」

 

「織斑先生が・・・・・? でも、あの人のISは・・・・・・・」

 

楯無さんが眉をひそめる。最後の方は聞き取れなかったが、何を言ったんだろうか。

 

「そうか。じゃあ、俺達もアンタもここにいる理由はなくなったわけだ。できればさっさとどっか行ってくれないか?」

 

「ふふ・・・、残念だけど、そういうわけにはいかないの」

 

カッ!!

 

「「!?」」

 

突如、スコールが閃光に包まれた。

 

俺と楯無さんはたまらず、目を庇う。

 

「私の本来の目的・・・・・それは桐野瑛斗、あなたなのよ」

 

光が次第に弱まり、スコールの姿が見え始める。しかし、その姿は先ほどとは全く違った。

 

金色の、どこか神々しさが感じられるISに身を包んだスコールが薄く笑っていた。

 

「IS・・・・・!?」

 

俺のつぶやきに、楯無さんが答えた。

 

「あれはただのISじゃないわ。あれが・・・セフィロトよ」

 

「なっ・・・・・!?」

 

セフィロト。

 

エレクリットカンパニーが開発した完全オーダーメイドのIS。二機が生産され、そのどちらも亡国機業に盗まれた機体。話でしか聞いたことがなかったから、俺は見るのが初めてだった。

 

「あれが・・・・・」

 

セフィロトの金色の装甲に身を包んだスコールは、ガシャリと実体ブレードを構えた。

 

「そうよ。これがセフィロト・・・・・。その実力を、見せてあげるわ!」

 

ガキンッ!

 

スコールのブレードと、楯無さんのラスティー・ネイルがぶつかり合った。

 

「悪いけど・・・、瑛斗くんはやらせない!」

 

「うふふ・・・・・。懲りないのね」

 

二人は剣と剣をぶつけ合い、激しい火花を散らす。

 

「楯無さんっ!」

 

ブゥンッ!

 

俺も楯無さんを援護するために両手にビームソードを構えてスコールに肉薄する。

 

「はああああっ!」

 

俺の斬撃が届きそうになった直前、スコールは俺に向けて右手を突きだした。

 

「!?」

 

瞬間、俺の体は完全に動かなくなった。空中で止まった状態になってしまっている。

 

「ふふふ・・・・・」

 

(AICか・・・・・!)

 

「瑛斗くんっ!」

 

ジャララララッ!!

 

ラスティー・ネイルをウィップ状態にして振り下ろした楯無さんがスコールを俺から引き離す。

 

「邪魔しないでくれるかしら?」

 

スコールの呼び出したレーザーライフルから発射されたレーザーが楯無さんの肩の装甲を吹き飛ばす。

 

「くっ・・・!」

 

体の拘束が解けた俺はバランスを崩しながらもなんとか姿勢をなおし、後ろに下がる。

 

「接近戦がダメなら!」

 

四発分のエネルギーを充填したビームガンを発射する。直撃コースだ。

 

「その程度なの?」

 

スコールが再び右手を前に突きだした。

 

ビームが当たる直前、スコールの目の前でビームは止まった。

 

「そんな! AICでビームは止められないはずなのに!」

 

「お返しするわ」

 

ギュンッ!

 

俺のビームが今度は俺目掛けて戻ってきた。

 

「このっ・・・・・!」

 

BRFシールドを構え、ビームを湾曲させる。ビームはそのまま右に曲がり、壊れた機材に当たった。

 

「瑛斗くんっ! まだよ!」

 

「!?」

 

シールドに隠れて見えなかった。スコールがすぐ目の前まで接近していたのだ。

 

「しまっ――――――、うわあぁっ!」

 

体当たりを受け、そのまま壁を突き抜けて別の区画に入る。

 

「くっ、うぅ・・・!」

 

瓦礫から身を起こし、顔を上げた。

 

「うふふふ・・・・・・」

 

「!」

 

目の前に微笑みながら俺の顔を覗き込む金色の装甲に身を包んだスコールがいた。

 

彼女のシャンプーの匂いだろうか。甘い匂いが俺の鼻をくすぐった。

 

「さあ、一緒に行きましょう・・・・・・・」

 

「な、なにを? ・・・・・ガッ!?」

 

スコールが右手で俺の首を掴み、瓦礫に押さえつける。

 

スコールの左手には、中央に青いラインが走った黒い腕輪のようなものが握られている。

 

「ほら、あなたのご主人様よ・・・・・」

 

言いながらスコールはリングを俺に近づけた。

 

ジ・・・ジジッ・・・・・

 

リングがわずかに光り、少しずつ粒子と化していく。

 

「!?」

 

すると、俺のG−soulの右腕の装甲が指先から消え始めた。

 

そして、リングの粒子が俺の右腕を飲み込むように腕を包んでいく。

 

真っ黒の、鋭利な鉤爪のついた装甲となって。

 

「う・・・・・っ!?」

 

瞬間、俺の脳に電流が走った。

 

俺の頭に、ある光景が映し出された。

 

父親と母親らしき男女に挟まれ、笑顔を向ける子供の顔。

 

無邪気な、屈託のない笑顔。

 

(なんだ? 俺は・・・・・この光景を知ってる・・・・・・・・!?)

 

―――――――――――コワセ。

 

(!)

 

今度は頭に声が響いた。低く暗く、そして重たい声。

 

―――――――――――コワシテシマエ、コンナセカイ。

 

(やめろ・・・・・)

 

―――――――――――コワセ、コワセ、コワセ、コワセ、コワセ、コワ・・・・・・・

 

「やめろぉっ!!」

 

ブオォン!

 

G−soulがG−spiritに姿を変え、俺は無意識のうちに左腕のビームブラスターをスコールに向けて放った。

 

「!?」

 

突然のことに驚いたスコールは首を素早く動かして躱すが、ビームは金色の髪の先を少し焦がした。

 

「どんな手品か知らないが、俺にそんなまどろっこしい手は通じない!」

 

いつの間にか右腕も元に戻っていた。俺はビームブレードを最大出力で発現させる。

 

「消えろおぉっ!」

 

ドガァァァン!!

 

激しい爆発の後の煙が晴れると、スコールの姿は無かった。ただ、抉られた地面が露わになっているだけ。

 

(逃げた・・・・・)

 

ビームブレードを消し、息を吐く。

 

「瑛斗くん! 無事なの!?」

 

瓦礫を崩しながら楯無さんがこっちに来た。

 

「楯無さん・・・・・」

 

「アイツは?」

 

「すみません。取り逃がしました」

 

「気にしなくていいわ。それより、一夏くんの居場所がわかったわ」

 

「はい。白式の所在特定信号はキャッチできてます」

 

俺は楯無さんに続いてビームウイングをはばたかせ、屋根の穴から空へと飛んだ。

 

(さっきのは一体・・・・・・・)

 

真っ黒に変容していた右腕は、今はいつもと変わらない白い装甲を纏っている。

 

(それにあの光景と声・・・、何だったんだ・・・・・?)

 

「瑛斗くん、もうすぐ着くわ」

 

「あ、はい」

 

楯無さんの声と、ウインドウに出た僚機反応のアラームで思考を遮られた。

 

(今は考えても仕方ないか・・・・・)

 

俺はそう決めて、三つのIS反応のする場所へ向けて加速した。

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