IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
[全1ページ]

「あの・・・・・みなさんは、どなたですか?」

 

目の前にいる少女、織斑マドカが俺達に問いかけてくる。

 

「・・・・・一夏、織斑先生。何があってこうなったのか教えてくれ」

 

展開を解除して一夏と織斑先生に顔を向ける。

 

織斑先生は何も言わなかったが代わりに一夏が答えた。

 

「こいつは・・・・・記憶を消されたんだ・・・・・・・」

 

「消された? 一体誰に?」

 

「スコールさ―――――――いや、亡国機業にだ」

 

「スコール・・・・・・ヤツか」

 

俺は右腕をに目を落とした。

 

(あの時、ヤツは俺に一体何を・・・・・・)

 

黒い装甲に飲み込まれていく右腕。そして見えたヴィジョン・・・・・。

 

(ヤツは、俺の知らない俺自身の何かを知っているのか・・・・・・)

 

「・・・・・・・・・・・」

 

ふと、織斑先生がマドカに近づいた。

 

「あ・・・・・」

 

「立てるか?」

 

織斑先生はマドカに手を差し伸べた。

 

「は、はい・・・・・」

 

マドカはその手をとって立ち上がった。

 

「・・・・・許せ」

 

ドッ!!

 

「う・・・・・!?」

 

織斑先生はそのままマドカの腹に拳を叩き込み、気を失ったマドカを受け止めた。

 

「って、何するんですか!?」

 

俺達の驚きを尻目に、織斑先生はマドカを抱きかかえた。

 

「こいつの身体を調べる必要がある。更識、一緒に来てくれ」

 

「は、はい」

 

「千冬姉、俺も――――――――」

 

「一夏、お前は桐野とともに本来の目的に戻れ」

 

一夏の声を遮るように織斑先生は言った。

 

「でも・・・・・・・」

 

「二度も言わせるな」

 

「・・・・・・・・・」

 

一夏は黙らざるを得なかった。

 

「一夏、ここは先生に任せよう。向こうにのほほんさんと虚さんを待たせたきりなんだ」

 

俺は一夏の肩に手を置き、説得するように言った。

 

「・・・・・わかったよ」

 

一夏はまだ納得がいってなさそうだが、了承してくれた。

 

「ただ」

 

「?」

 

「ただ、これだけは約束してくれよ千冬姉。そいつに、何も危害は加えないって」

 

「一夏・・・・・」

 

なぜそこまで肩入れするのかは分からないが、一夏の目はどこか悲しそうだった。

 

「そのつもりだ・・・・・」

 

織斑先生は歩き出した。

 

「じゃ、じゃあ、私のことは適当に言っておいて。そっちは頼んだわよ」

 

楯無さんもそう言って、織斑先生の後を追った。

 

「一夏、俺達も行こう」

 

「ああ・・・・・」

 

俺は一夏を連れて街に戻った。

 

騒がれないように、シェラードを使っての移動だったため、手を繋いでいたが一夏は終始無言だった。

 

「あ、きりりん戻ってきた〜。おりむ〜も一緒だ〜」

 

のほほんさんがダルダルの袖を振ってこっちに来た。

 

・・・・・・・・その右手になぜかソフトクリームを持っていた。

 

「のほほんさん・・・・・経費を私的なことにつかっちゃダメだってあれほど言われてただろ」

 

俺が半ば呆れながら言うが、のほほんさんはそれを否定した。

 

「ちっちっち〜。違うよ、これはね〜」

 

「私のお金で買ってあげました」

 

後ろから困ったように笑った虚さんがやってきた。その右手には大きな袋を提げている。

 

「虚さんが?」

 

「ええ。しつこくせがまれてしまって・・・・・」

 

「えへへ、お姉ちゃんだ〜い好き♪」

 

のほほんさんはにぱぁっと笑った。

 

そんなのほほんさんをやや複雑な表情で見ていた虚さんはふと気づいた。

 

「そう言えばおじょ・・・・・会長は?」

 

「え? ああ、楯無さんなら急な呼び出しとかで先に学園の方に戻りました。『後はよろしくね』とのことです」

 

「急な呼び出し・・・ですか? 変ですね・・・・・いつもならそういう時はこちらにも連絡してくれるはずなんですが・・・・・」

 

「そっ、それくらい急な用事なんですよ。なあ一夏?」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「一夏?」

 

「・・・・・あ、ああ。うん。そうだな大分急いでたみたいだ」

 

一夏がすこし遅れ気味に返事をした。

 

「おりむ〜? 何かあった?」

 

のほほんさんは何かを感じ取ったのか、一夏の顔を覗き込んだ。

 

「そ、そんなことないさ。なあ瑛斗?」

 

一夏の目が『合わせてくれ』と言っていた。

 

「ああ、そうだな。特に変わったことは無かったぜ」

 

「? ならいいけど〜」

 

のほほんさんも納得したようで再びソフトクリームをペロペロと舐めはじめた。

 

「さて、残った買い物も済ませようか。あ、虚さん荷物持ちますよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

俺は虚さんから荷物を受けとり、色々気になることもあったが努めて明るく振る舞った。

 

「さあ! 早速出発だ!」

 

それから、買い物は滞りなく終わり、学園に戻ったときは全員大きな袋を両手に提げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈みかけた頃、千冬は楯無と共にIS学園の医療室にいた。

 

その部屋のベッドには、静かな寝息をたてるマドカの姿があった。

 

「・・・・・それで、どうだった?」

 

「はい。検査の結果だけ言わせてもらうと、脳のダメージが深刻で、記憶は完全に消えています。思い出すかどうかは、判断しきれませんけど」

 

「そうか・・・・・」

 

「脳内のナノマシンは完全に機能を停止しています。再起動の可能性は低いですね」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

千冬は沈黙したまま窓の外に目を向けた。

 

「すまなかったな。生徒会長としての権限をこんなことに使わせてしまって」

 

「いえ・・・・・。十蔵さんにはちゃんと詳しい説明をした上で承認を得しましたから騒がれることは無いですよ」

 

ファイルを閉じた楯無は、マドカの顔を見た。

 

「・・・・・それにしてもそっくりですね。鏡写しみたいですよ」

 

「ああ・・・・・。本当に私に似ている・・・・・・・」

 

千冬は視線を動かさずに答えた。

 

「・・・・・・以前、こんな噂がたったことがあった」

 

「?」

 

「『織斑千冬のDNAデータが裏の世界で高額で取引された』と、いう噂だ。所詮は眉唾物と気にも留めていなかったんだが、こいつの顔を見た時、ふと思い出したんだよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ま、ただの噂さ。こいつの記憶が戻った時に詳しいことを聞かせてもらうさ」

 

千冬はフ、と笑うと部屋のドアに近づいた。

 

「・・・仮に」

 

楯無の声が千冬を止めた。

 

「仮に記憶が戻らなかったら・・・・・その時はどうするんですか? この部屋は今は封鎖中ってことになってますけど、いつまでもここに匿うこともできませんよ?」

 

楯無の目は十七代目更識楯無としての真剣な眼差しを帯びていた。

 

「・・・・・・・・・フッ」

 

千冬は一度横目で楯無を見てから、短く笑った。

 

「その時はその時だ。それに―――――――」

 

「それに?」

 

「私にも考えがある。・・・・・とっておきの考えがな」

 

「考え・・・・・・・?」

 

楯無は千冬の言葉を反芻した。

 

「お前も怪しまれないうちにこの部屋から出るんだな。・・・・・そうだ、一つ頼まれてくれ」

 

「なんでしょう?」

 

楯無に向けて、千冬は告げた。

 

「後でこの部屋に連れて来てほしいやつらがいる」

説明
記憶を消されて・・・・・
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