天の迷い子 第五話 |
Side 霞
ガキャーーーン!!!
「よし、今日はここまでだ。」
「はぁ、ふぅ、はふうぅぅ。ありがとうございました!!」
「ふむ、お前が私たちの前に現れてからもう三ヶ月か。技量も力も速さもまだまだだが、胆力と持久力は付いてきたようだな。」
「せやな、まあうちや華雄が鍛えたってんねんからある程度の度胸と体力ぐらいは付いてきて当然やろ。」
飛ばされた流騎の剣を拾い上げ、二人に声をかけながら近づく。
流騎の成長速度はうちの予想より早い。
日中の稽古以外にも夜や早朝に鍛錬をしとるからやろう。
ほんまに熱心な奴やで。
詠の奴も、そろそろ簡単な仕事を一人で任せてみようとか言うとったし、勉強のほうもしっかりやっとる。
うちにしても詠にしても、今まで男言うたら無駄に誇りばっかり持っとって、そのくせ何の努力もせんような奴か、人を陥れんのばっかり得意な奴しか周りにおらんかったから、流騎みたいに自分を高める事に妥協せん奴は好感がもてる。
もちろん、流騎以外にそんな男がおらんとは思てないけど、こと洛陽におる役人連中に限ってはそんな奴ばっかりや。そら男っちゅうのに偏見持つ奴も出てくるわなぁ。
「欲を言えば、早く強くなって我等の鍛錬相手になれるぐらいになって欲しいものだがな。」
「いやいや、そんなすぐに追いつけるわけないから。そりゃあ強くなっていつか皆を護れるようになりたいけど、こればっかりはじっくりやらないと、焦ると碌な事が無いから。」
「おっ、みんなっちゅうことはうちらの事も護れるようになりたいんか?大きく出たなぁ。」
「そりゃそうさ。皆は大事な友達で、恩人でもあるんだから。理想は高く、でもきちんと足元を見て一歩一歩確実に。一歩を疎かにする者は、何も成し遂げることは出来んって師匠も言ってたからな。」
「ほほう、私たちを護るか。ならば更なる鍛錬だ!強くなるためには休んでなどおれん!」
「うえぇぇええええ!!ちょっと待って!これからまだ仕事があるんだから休憩させてえぇぇええ!!」
「問答無用!うおぉぉおおお!!!!」
「助けてえぇぇぇぇぇええええ!!」
「にゃははははは!」
金剛爆斧を振り回して流騎を追い掛け回す華雄。
涙目で逃げる流騎。
なんやかんやで流騎が来てから、皆よう笑うようになった。
月は勿論の事、ねねや詠、あの恋まで流騎になついとる。
その皆を護る言うてくれたんはほんまに嬉しいと思う。
でも今の時代、誰かを、特に月等みたいな国や街を統治する立場の人間を護るっちゅう事は、いずれ一つの壁を乗り越えていかなあかん言う事でもある。
その為の覚悟もいずれさせんとあかんけど、それはもう少し先になるやろな。
今はこうやって笑える日常を楽しんだらええ。
さて、そろそろ止めに入ったろか。
Side 静護
今日も今日とてお買い物。
警邏ついでの護衛役を買って出てくれた雄姉と街を歩く。
まずはいつもの巡回ルートを回って、揉め事や事件が無いか見て回る。
何も無ければ、そのまま市場に行くのだが、何か事が起こると、
「何!物盗りだと!?私に見つかったのが運の尽きだ!成敗してくれる!うおぉぉおお!!」
と、テンションが上がり過ぎてしまい、俺はいつも放置されるわけです。
しかし、あんな興奮しやすい性質で大丈夫かなぁ。
戦ってるときに熱くなり過ぎたりしたら、致命的なような気がするけど。
戻って来るまでどうしよう。
勝手に動いたら怒られるんだけど、いつ戻ってくるのかも分からないし。
そんな事を考えていると、すぐ横の路地から子供が飛び出してきて、ぶつかった。
「ごめん、兄ちゃん。」
一言だけ誤ると反対側の路地に駆けていく。
「気をつけろよ。」と声をかけ、雄姉を待つ………が、何か違和感を覚えた。
何だろうと体をまさぐってみると、財布が無い!
さっきのあいつか!
すぐさま子供が走っていった路地に向かって駆け出した。
しばらく走ると、さっきの子供がへたり込んでいた。
「おい!さっき俺から盗んだ財布、返せよ!」
「はぁ、はぁ、ふ、ふざけんな!ボーっとしてるほうが悪いんだ!これはおいらのもんだ!」
そう言って、財布を握り締めてこちらを向く。
初めてこの子の顔を見て驚いた。
何日も食べていないのだろう、頬はこけ、目の下はくぼみ、水も碌に飲んでいないのか、肌も唇もかさかさに乾いていた。
着ている服は、泥や血で変色して真っ黒になり、擦り切れてぼろぼろになっていた。
俺が呆然としているのをチャンスと思ったのか、少年は踵を返し、走り去ろうとする。
しかし、ドンッと何かにぶつかり尻餅をつく。
そこには、少年と同じような格好をして、より濁った目をした五人の男が立っていた。
「て、て、てめえ、い、良いもんもってるじゃねえか。おれ、俺たちに、そいつよこしな。」
「へひゃひゃひゃひゃ、嫌だっつっても、ぶっ殺して盗るだけだけどなぁ!」
刃がこぼれ、錆び付いた小刀を五人全員が取り出す。
柄のところが黒くなっている事を見て、何度か人を刺しているのだと想像する。
「後ろの餓鬼も小奇麗な格好してんじゃねえか。ついでにぶっ殺して身包み剥いじまおうぜ。」
血走った眼でこちらを睨む。
口元は醜く、喜色に歪んでいた。
(やばい、こいつら本気だ。逃げないとマジで殺される!)
そう思い逃げようと体を動かす、いや、動かしたつもりだった。
(う、動けない!早く逃げないと、こ、殺される!動け!動けって!)
そうしている間にも、二人が少年に、残りの三人が俺に向かって狂ったような笑みを浮かべながら近づいてくる。
濁った目にぎらぎらと殺意が宿る。
(嫌だ!死にたくない!死にたくない!)
ぼろぼろと涙をこぼし、鼻水を垂らしながら逃げようとするが、逆に腰が抜けてへたり込んでしまう。
それを見てげらげら笑いながら、さらに近づいて、三人は小刀を振り上げる。
死にたくない、死ニタクナイ、シニタクナイ!
「嫌だあぁぁああああああああ!!!!!!」
跳ねる様に立ち上がり真ん中の男に体当たりする。
普通の成人男性よりもはるかに軽いそれは、吹っ飛ぶように後ろで少年を囲んでいた男の一人に激突し、二人とも昏倒した。
その隙に走り出し少年を抱え、全力で走り出す。
何故このとき少年を抱えたのか良く解らない。
もしかしたら、共に襲われていた少年を本能的に仲間だと判断したのかも知れない。
そのときは深く考えることも出来ず、懸命に走る。
必死だったにも係わらず、回りの様子がはっきりと見えた。
変色し蠅のたかる死体が何処かしこにあった。
全裸にされ、どろりとした白濁色の液体がこびり付いた女性が放置されていた。
明らかに腐った肉に群がる人達がいた。
この時見たもの、それがこの漢という国そのものなんだと、後になって思った。
やがて体力の限界が訪れ、壁に背を預けずるずると座り込んだ。
Side 詠
全く、あいつはちょっとした買い物にいつまでかかってるのよ!
サボって遊んでるようならみっちり説教してやらなくちゃ!
「全く、この僕がわざわざ勉強を見てあげてるんだから、時間ぐらい守りなさいよね!」
「くすくす、詠ちゃん最近、流騎さんとの勉強会とっても楽しみにしてるもんね。」
「なっ!ち、違うわよ!楽しみになんてしてないんだから!ただ、教えたことを素直に聞くし、何度も復習を繰り返して理解しようとする奴は教え甲斐があるって言うだけで…!」
「それって、楽しみにしてるのとあんまり変わらないよ?ふふふ。」
そんな風に月にからかわれながら、流騎を探す。
もう、これもみんなあいつのせいだわ。
前から見覚えのある人影が歩いてくる。
ん?あれって華雄じゃない。なんかきょろきょろしてるみたいだけど。
「あんた何してんのよ。確か流騎の護衛で一緒に市に行ったんじゃなかったの?」
「いや、その、市に行く途中で窃盗犯と出くわしてな。将である私がこれを見過ごしてはならんと思い…。」
「流騎をほったらかしにして、捕り物に参加してたわけね?」
「う、うむ。そういうことになってしまう、かな?」
はあ、とため息をつく。
かな?じゃないわよ。
ここまで護衛をしてくれていた兵に頼んで流騎を探してもらうことにした。
護衛役は華雄に代わってもらい僕たちは華雄が流騎と別れたという場所へと向かう。
「丁度ここで別れたのだが、戻ってきてみると流騎の奴はいなくなっていたのだ。」
「なら、周りの店の人間に聞いて回りましょう。誰か何か見ているかも知れないわ。」
聞き込みを始めて五件目の店主が流騎らしき少年を見たらしい。
店主が言うには、
「確かそこの路地から汚いガキが飛び出してきて、その兄ちゃんにぶつかっていったんだ。その後、ごそごそとあちこち触ったと思ったら血相変えて走って行っちまったんだ。多分ありゃあ財布かなんか盗られたんじゃねえかなぁ。」
ということらしい。
まずいわね、向こうのほうはまだ治安の悪い貧民街だって言うのに。
「行くわよ、二人とも。早く見つけないとまずいかも知れないわ。月は華雄から絶対離れないで。」
「おう。」「うん。」
僕たちは貧民街に入った。
途中、男が二人倒れているのを見つけた。気を失っているだけのようだ。
ただ、その傍らに錆びた小刀が落ちていた。
もしかしたら、こいつらに流騎は襲われたのかもしれない。
奥に進めば進むほど直視しがたい光景が広がっていた。
僕は月の目を塞いで走り抜ける。
その先で、微かに“助けて”と言う声が聞こえた。
駆けつけてみると、三人の男に流騎とおそらくは浮浪者であろう少年が囲まれていた。
「貴様ら!何をしている!」
華雄があっという間に三人を殴り倒す。
流騎と少年はがたがたと震えている。
近くに嘔吐した跡があった。
きっと、あの光景を見たんだわ。
僕ですら目を背けたくなる光景だもの、ここより遥かに平和な世界から来た流騎にとっては地獄を目の当たりにしたようなものだったのかもしれない。
月も華雄も僕と同じように、どう声をかけていいのか解らず立ち尽くしていた。
それがいけなかった。
華雄が倒した三人の内の一人が起き上がり、月に向かって刃を振り下ろした。
月を助けようと僕も華雄も動く。
けれど、間に合わない。
まるで水中で動いているかのように動きが遅い。
そのとき、何かがものすごい速さで僕たちの間を通り抜けた。
それは、男と飛び掛りごろごろと転がってやがて、止まった。
男はそれ以降動かなくなった。
下になった男の喉に男が持っていた小刀の刃が突き刺さっていた。
噴出す鮮血が流騎の顔を真っ赤に染めて。
うわあぁぁぁぁああああああああ!!!!!!
紅に染まる少年の叫びがこだました。
あとがき
本日二話目の投稿です。
結構な陰の雰囲気の話になってしまいましたが、死の恐怖と命を奪う恐怖は、経験させておかないとこの先彼がこの世界で何を言ったところで、ただ「ほざいただけ」になってしまうと思い書かせていただきました。
もうちょっと上手く情景を表現できればいいのですが、自分にはこれが限界でした。
無念なり。
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本日二話目。 へたれ素人の駄文でございます。 どぞ。 |
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