境界線上のクロニクル10 |
「じゃあ、浅間、・・・やっぱ頼むわ!! ーーー俺の契約を認可してくれ!!」
弓を浅く警護艦の方へと向けたまま佇む彼女は、髪を空気の流れに揺らしながら、
「本気ですか?その場を凌ぐために、極端な方法を選ぼうとしていませんか?」
問いかけた。だが、返答は、簡単な言葉だった.
「頼むわ」
その言葉に浅間が悩んでいると、、
「なあ小狼、覚えてるか?昔俺に言ったことを」
「Jud、忘れるわけがない」
と戦闘中とは思えないほどの落ち着いた声で話しだした。
「ホライゾンを失って、姉ちゃんに怒られて、そんでオマエはこう言ったよな。
ーーーー「たとえどんな辛い事でも、俺は俺がすべき事をする。だから、おまえも信じた道を進め」って」
この言葉に武蔵甲板上にいた酒井が、
「いい言葉だねえ、小狼君らしくてさ。なるほどね、この言葉に彼の信念が窺えるよ」
と煙管を吹かしていると、
「Jud、酒井様には言えない言葉ですね。少しは見習われた方がよろしいかと−−−−以上。」
「おいおい武蔵さん、それはひどいって。俺だってねえ昔はーーーー」
「年を取ると過去を美化する傾向が多いと思われます。−−−以上」
そんな掛け合いが皆の知らぬところで行われていた。
「俺さ、あの頃いろいろ悩んでたんだけどよ。それ聞いてオマエは変わんねえなって、初めて会った時から何にも変わってねえと思ったよ。
なら俺も負けられねえしよ、えっと何だっけ?初志突貫?「貫徹な」そうそう初志貫徹!忘れてた訳じゃねからな!ど忘れしただけだからな!」
いいから話続けろよ!、と武蔵勢のツッコミが入った。
「ならさあ、俺も「王様になる」って決めたんだ。だから頼むよ浅間!俺は俺の夢のためにもここで止まる訳には行かねえんだよ!」
そして、
「頼む」
と小狼が続いた。
断れない。そう、浅間は思い、精一杯の抵抗として、
「−−−−」
吐息した。
・・・・本当に。
いつもいつも、この人と、この人の姉は、こっちを困らせてくれる。しかも私が小狼君の頼みを断れない事を知っているくせに、本当にずるい人達だ。
と思いつつ、しかし浅間は肩を落としざま、うなだれもしない。ただ彼女は肩上のハナミに頷き、鳥居型のサインフレームを手元に展開した。
警護艦に流体砲の砲撃光が無いのを確認してから。
「トーリ君、忘れないでください、浅間神社の責任も掛かりますので、もし何かあった場合、浅間神社が最大限のバックアップを保障します」
「機嫌悪い?」
「当たり前です。ですけど、・・・・解ってますから。言い出したら聞かないことは」
一息つき、
「それと小狼君!さっきの件と治療の件で貸し二つです。今度新しくできた甘味処であんみつが食べたいんですがどうですか?」
と浅間が強気の口調で言った。
「Jud、時間を空けておくよ」
そう返事すると、武蔵中から口笛が鳴った。
「浅間、あんた、こんな大勢の前でデート宣言なんてやるわね!!」
とそんな声を無視しているのか顔を真っ赤にした浅間が
「浅間神社被契約者、葵・トーリ担当、浅間・智、・・葵・トーリ本人からの上位契約の申請と、その内容を認可、神社に上奏します」
「拍手ーーー」
「契約によって要請された加護は、芸能神ウズメ系ミツバの持つ感情伝播の加護を転用した契約者の全能力の伝播と分配。
条件は、契約者が芸能の奉納として喜の感情を持ち続けること。対し、・・・、もし悲しみの感情を得たならば、奉納を失敗として穢れたものとしーーー」
言った。
「加護の反発として、その穢れた全能力を禊ぎ、消失する」
これはつまり、
「・・・今後、悲しい感情を得たら、貴方は死にます、トーリ君」
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