千冬姉が言ったことが、俺には理解できなかった。

え？　『いもうと』・・・・・？　『いもうと』って、あの妹か？

俺はどうすればいいのか分からず、チラとドアの方を見た。

「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」

ダメだ。瑛斗たちもフリーズしてる。瞬きをしてない。

ってゆーか、ラウラが怖い。めちゃくちゃ目が虚ろだ。なんつーか、死んでる。

そんな千冬姉インパクトからいち早く立ち直ったのは、意外にもマドカだった。

「え・・・いもう・・・・・と・・・・・・・？」

「そうだ。私は織斑千冬。お前の姉だ」

「お姉ちゃん・・・？　私の・・・・・・・？」

そうだ。千冬姉はそう言ってマドカの頭を撫でた。

「お前の名前は・・・・・」

そこまで言って、千冬姉は俺を見てきた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「・・・マドカ。お前の名前は、織斑マドカだよ」

何故か俺は答えていた。だけど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

「マドカ・・・・・私は・・・織斑・・・・・マドカ・・・・・・・」

マドカは、ゆっくりと自分にしみこませるように呟いた。

「・・・・・うん。私、織斑マドカ・・・・・・それと、千冬お姉ちゃん・・・・・・・。それから・・・・・」

マドカは俺の顔を見たまま、困惑したように首を捻った。

「えっと・・・・・お兄ちゃんは、誰？」

う、そうか。千冬姉がマドカの姉になるんなら、俺は・・・・・・・

「・・・俺は一夏。お前の兄ちゃんだ」

そう言うと、千冬姉はぷっと小さく吹き出した。

「ははっ、お前が兄か。大変だな」

「な、なんだよ、いいだろ別に」

俺は照れくさくなってぷいっと顔を横に向けた。

「千冬お姉ちゃん・・・・・一夏お兄ちゃん・・・・・・・・・」

突然、マドカの目から涙があふれ出した。

「マドカ？」

「どうした？」

「わかんない・・・・・けど、嬉しい・・・・・・・・」

「嬉しい？」

「私・・・怖かった・・・・・。何もわからなくて・・・・・何も思い出せなくて・・・・・すごく怖かった・・・。もしかしたらずっと・・・・・このままなんじゃないかって・・・。だから、だから・・・・・！」

千冬姉がマドカを抱きしめた。

「大丈夫だ。お前には私と、一夏がいる。だからもう怖がらなくていい」

「うん・・・・・・・！　うん・・・・・・・！」

そして、マドカは声をあげて泣き出した。

俺と千冬姉は、マドカがそのまま眠るまで傍にいた。

すぐにマドカは寝てしまったが、瑛斗たちはずっと目を開いたままだったんだろうか。目が赤くなっていた。

織斑先生と一夏が部屋から戻ってきた。

「・・・・・どうしたお前ら？　目が真っ赤だぞ？」

織斑先生が首をかしげながら聞いてきた。

「・・・・・あまりに衝撃的過ぎたんで、瞬きするの忘れてました・・・・・・・」

今になって目が痛くなってきた。俺達は目をごしごしと擦った。

「で、どういうつもりなんですか？　マドカを妹って」

俺はみんなの持っている疑問を代表して問いかけた。

「どうもこうもない。アイツを監視するのに好都合だと考えただけさ」

「そうかもしれませんけど――――――――――――」

「確かに、今現在では最善の策かも・・・・・」

楯無さんが俺の言葉にかぶせてきた。

「楯無さん？」

「仮にあのまま放っておいても、あの子に行く宛てなんて無いし・・・・・それに、私が織斑先生の立場でもそうしたと思う」

「しかし」

箒が楯無さんに反論した。

「いつ記憶が戻るかも分からないのに、一夏や先生の近くに置いておくのは・・・・・・・」

「俺は」

一夏が声をあげた。

「俺はアイツが妹でもいい、と思う」

「一夏・・・・・・」

「アイツは記憶を無くして、ずっと一人だったんだ。俺はもうアイツに辛い目にあってほしくないんだよ」

一夏の言葉に箒も黙り込んでしまった。

俺は一夏に聞いた。

「一夏。仮に・・・・・仮にだ。もしマドカの記憶が戻ったら、どうするんだ？」

「・・・・・・・・・・・・」

一夏は沈黙した。だけどすぐ俺の目を見ながら言った。

「その時は、俺がアイツと戦う」

一夏の目は、どこまでも真っ直ぐだった。

忘れてたけど、コイツはこういうやつだ。誰彼かまわず、困った人は放っておけない。しかも姉弟揃ってだから付き合うこっちとしたらたまったもんじゃない。

けどまあ、こんな一夏だからみんなに好かれてるんだよな。

「・・・・・わーったよ。好きにしろ。みんなもそれでいいか？」

俺が振り向くと、鈴、セシリア、シャル、楯無さん、そして箒はうなずいた。

「ま、千冬さんが決めたんだから、何言っても変わらないわよね」

「サイレント・ゼフィルスの件もありますが・・・、それはおいおい考えることにしますわ」

「お兄ちゃん、頑張ってね。一夏」

「一夏くん、分からないことがあったらおねーさんに聞いてね」

「・・・・・・気をつけろよ、一夏」

「・・・・・・・・・・・・」

ただ一人、ラウラだけがうんともすんとも言わない。

「ラウラ？　どうしたの？」

シャルがラウラの顔を覗き込んだ。

「シャルロット・・・すまないが、しばらく一人にさせてくれ・・・・・・・」

ラウラはそれだけ言うと、踵を返して歩き出した。

「お、おいラウラ。どこ行くんだよ」

俺は慌てて引き留めたが、ラウラは無言のままどこかへ行ってしまった。

「ラウラ・・・・・どうしちゃったんだろう・・・・・・・」

シャルが心配そうに呟いた。

その横で俺は思った。

（一難去って、また一難・・・・・・か）

と。