IS〜狂気の白〜 第四話《予定調和》 |
IS〜狂気の白〜
第四話《予定調和》
「――――と、言う事で、現時点に於けるISの基本的な運用には国家の認証が
必要であり、枠内を逸脱した運用をした場合には、刑法にて罰せられ――――」
スラスラと教科書を読んでいく真耶を前に、織斑一夏は授業を受けて――――
「……つまらない」
――――いなかった。
現在、学園初日の二時間目。
織斑一夏の座る席には、分厚い五冊の教科書が積まれていた。
が、一夏にとってそれは無用の長物と化していた。
彼にとってそこに記される、本来、倍率数十倍の狭き門を潜ったエリート達が
事前学習を前提として更に3年間を懸けて覚える知識達は、
ものの数日も要さずに十全に記憶出来る―――そもそも既に小学生の時点で
覚えきっていた内容であり、その時間すらも必要としなかったが―――程度でしかない。
此の様に授業の内容に関しては問題は無く、
寧ろ無さ過ぎて問題が発生しているのだがとにかく問題は無かった。
が、此処でやる気の無さを露呈すれば、姉からのリテイク――――もとい、
愛の鞭と言う名の出席簿が下されるのは自明の理であった。
故に彼は背筋を伸ばし、教科書を開き、授業を受けるフリをする。
その様は正しく優等生という言葉を彷彿とさせる程の態度であった。
「織斑。今の内容について出来る限り解説してみろ」
が、そこは姉弟。一挙手一投足から内心を見抜いた千冬が質問を投げ掛けて来た。
「はい。ISに関する法律には、大別して―――――」
退屈な状況が変化したからか、喜々とした様子で立ち上がり解説を始める一夏。
その後もどんどんと千冬が質問を向けて来るのに対して、
それが至極当然であるかの様に坦々かつ快活に答えてゆく。
そしてその遣り取りが10を超えようかという時、
キーンコーンカーンコーン
「む、時間か。少し熱が入りすぎたな……」
彼女には珍しい失態を犯したようで、少々の焦りが見て取れた。
「まあ、今の時間で行う予定の授業分は今の遣り取りの中で説明した。
これで覚えろとは言わんが、範囲の復習はしておく様に。
理解が足りない場合、質問は遠慮なくしろ。いいな。では号令!」
「き、起立!礼」
千冬の言葉に号令係が慌てて立ち上がる。
礼が終わり颯爽と去っていく千冬を、
「はい、ありがとうございました……って、ま、待って下さ〜い!」
真耶が慌しく追いかけていった。
教師達が去って行ったあと、数名の女子達が一夏に話しかけてきた。
「あ、あの、織斑君」
「む、何かな?」
「さっきの、凄かったね!織斑先生の質問にどんどん答えられるなんて!」
「ホントにねー。しかも、結構?んん、かなり分かりやすかったし!」
どうやら先程の遣り取りを評価しているらしく、興奮が見て取れる。
男性である一夏がISの知識を披露していたのが意外だったらしい。
「なに、まだまだ基本事項。覚えるのも、然程難しいものではないさ」
「またまたー、謙遜しないでよー」
「普通まだ習わない所もあったしね。私だったら答え切れなかったかも……」
「予習してるの?どんなやり方?」
「遣り方、と言う程のものではないが」
「さっき言ってた所をもう少し教えて欲しいんだけど……」
「ああ、構わないよ」
次々と質問してくるクラスメイト達に冷静に答えを返す一夏。
そんな彼の様子を、何故か厳しく睨みつけてくる友人の視線を感じつつ
その会話に花を咲かせていた時、一人の生徒が近づいて来た。
「ちょっと、よろしくて?」
その語調には少しばかり険が含まれていたが、
この御時世、ままある事と思い、振り向きつつ出来るだけ柔らかく返事をする。
「ふむ、何用かなお嬢さん?」
「まあ!何ですの、そのお返事は!」
だが目の前の彼女はそれが気に入らなかったらしく、辛辣な言葉を投げかけて来る。
その少女は鮮やかに輝く絹糸の様な金の長髪を持ち、白人特有の碧眼、透き通ったサファイアの瞳で一夏を見下ろしている。
眦が鋭く吊り上ってはいるが、それすらもアクセントとなる程に顔立ちの整った美少女だった。
「わたくしに話しかけられるだけでも光栄な事なのですから、
其れ相応の態度というものがあるのではないかしら?」
大方の予想通り、と言った所だろうか。
ISは女性にしか使用する事が出来ない。
その事実は、ISの保持数が国家の軍事力に直結する現代に於いて、
まるで女性である事それ自体が優越であるかのように振る舞う人間を生み出した。
が、一夏は彼女からそれとはやや異なった感触を受けた。
彼女の視線は嫌悪や侮蔑ではなく、そう、値踏みをしているといった様子だ。
ただ単純に『男という存在だから』嫌っているわけではないらしい。
一夏はこの瞬間に、目の前の少女はただの道化ではないと判断を下した。
人生(?)経験500年は伊達ではない。
そこで彼は一つ、思いついた。
周囲に悟られぬよう心の中でにやりと笑い、口を開く。
「ふむ、礼節を求めるならば、まず自身の立ち居振る舞いを鑑みるべきでは
ないかね?イギリス代表候補生、セシリア・オルコット君?」
その言葉に彼女は驚きを露わにしたが、直ぐに冷静を取り戻す。
「あら、わたくしの名前を知っていたのですわね。まあ当然の事ですけれども」
「なに、単純に国家所属のIS関係者の氏名来歴を一通り覚えていただけの事。
その中の末端に君と一致する人物がいたのを思い出したのだよ」
「……ま、末端ですって!?あなた、代表候補生であるわたくしに向かって!」
「確かに、君がその地位に就くにはかなりの努力が在ったのだろうね」
大仰な仕草。手で顔を覆い、言葉を続ける。
「だが、悲しい哉所詮は候補生。一流足る代表たちに比べその知名度は微々たる物。
君は未だ、舞台に上がり始めた新米役者、モブの配役に過ぎないのだよ」
明らかな嘲笑の意を言葉に込め、実際、口元には嘲りが浮かんでいる。
「それとも?君は自分を、世界の誰もが知る名高き俳優だとでも思っているのかね?」
はっきりと分かる挑発。その言葉にセシリアは怒りで顔を赤くした。
「あ、あなたねぇ!」
「ククッ、何かね?」
一触即発といった状態に、周囲は遠巻きに怖々と見つめる。
その時、授業開始のチャイムが鳴った。
「おや、幕引きの様だね。席に戻ろうか?」
「くっ、覚えてらっしゃい!」
「引きのセリフも陳腐極まる。前時代的で風情はあるがね」
更に挑発を重ねる一夏をキッと睨みつけ、セシリアは席に戻って行った。
一夏は先程まで話していた生徒達に着席を促し、自身も座った。
一夏が着席した直後、タイミングを図ったかのように
千冬と真耶の二人が入室し、教壇に立った。
「それでは授業を始める、号令だ」
どうやら次の授業は千冬が教鞭を執るらしい。
真耶もノートをとる準備をしていて、この授業の重要性が伺える。
「この時間はIS操縦の実践時に使用する各種装備の特性について説明する」
その時、ふと何かを思い出した様な仕草で口を開いた。
「そう言えば、クラス代表者の選出が未だだったな。」
資料と出席簿を教卓に置き、生徒達に向き直る。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。クラス対抗戦への出場、
生徒会会議や委員会への出席を行う。まあ、平たく言ってクラス委員だな。
クラス対抗戦は、新学期時点の各クラスの実力推移を測るものだ。
現時点のお前達では大差はないが、競争は向上心を生む。
代表者の実力がクラスの評価にも繋がる事もある為、責任はそれなりに重い。
因みに、一度決定すれば一年間変更は無いから、そのつもりでな」
その急な通達にクラスがざわめく。
しかし、次第に彼女たちの視線はただ一点に集中していく。
その視線の先、一夏の中で、千冬が最初に代表者について話し始めてから
感じていた予感がどんどん大きくなっていく。
やがてそれが最高潮に達した時、一夏の真後ろの少女が立ちあがった。
「はい!織斑君を推薦します!」
その発言を皮切りに、続けて幾人かが手を上げていく。
「はい!それがいいと思います!」「私もです!」「私も!」
「ではまず織斑一夏……他にはいないか?他薦自薦は問わんぞ」
このやり取りは概ね予想通りの展開でもはあった。
一夏にとって、誰が代表になろうと特に問題はない。
なったらなったで、自身の最終目的に僅かでも近づくのは喜ばしい事だった。
あまりにも僅か過ぎて、在っても無くても同じ程度の進捗ではあるが。
今はそれよりもこれから起こるだろう事象に注意を向けていた。
そして――――
「待って下さい!納得がいきませんわ!!」
机を叩きながら立ち上がったセシリアに、一夏は静かにほくそ笑んだ。
「このような選出、認められません!大体、物珍しいというだけで
軟弱な男をクラス代表に推薦するなど!わたくしに、このセシリア・オルコットに!
そのような屈辱を一年間味わい続けろと仰られるのですか!?」
彼女の言葉は一部、正しいだろう。
一時の興味で重要な役目の選出をするのは実に愚かしい。
「実力から言えばわたくしが代表になるのは道理。それを下らない理由で
極東の猿になられては困りますわ!わたくし、日本にはISを学びに来たのであり
サーカスをしに来たのではなくてよ!」
だからといって何を言ってもいいと言うわけではない……。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなければならない事自体、
わたくしにとっては耐え難い苦痛であって――――」
喚き立て続けるセシリアに一夏は頃合いを見て話す。
「そのあたりにしておきたまえ、オルコット君。
あまり言葉を荒立てていては、君の言う実力とやらもたかが知れる」
「なっ……!?」
脚本を創る彼にとって、ツマラナイ演目は唾棄すべきものだ。
「蛮脳、君を候補に選出した国もまた如何程の物か……」
「わ、わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「君に鏡を見せてあげたのだよ?その様子では、さぞ憎らしい顔が見えたのだろうね」
その言葉に一瞬怯んだセシリアだったが、直ぐに持ち直す。
そして、一夏に対し、指を突き付けてこう言い渡した。
「決闘ですわ!」
その瞬間――――
「「「「…………ひっ!」」」」
教室は『恐怖』に包まれた。
先程まで力強く指を突き付けていたセシリアも、僅かに腰が引けている。
なぜなら――――
「ああ、好い!善い!!良いだろう!!!」
本人も知らない内に嗤っている一夏のその、普段は閉じられている瞳が見開かれ――――
「では、愉快な舞台の――――」
紅く、赤く、朱く。
「――――幕開けと逝こうじゃないか」
まるで血の様にアカく、染まっていたのだから。
説明 | ||
狂気の白の第四話です。 たくさんの方々に見てもらえているようで、 私の心も狂喜乱舞の様相で舞い上がっております。 アドバイスを戴いたので、感想の事は気にしないようにします。 元々書きたいから書き始めたものですので。 七月十八日・題名変更 |
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コメント | ||
最後の台詞がすごくワラキアっぽくて惚れました。(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) そうですよ、気にしたらむしろ負けなんですって!…まあ、そういう自分が感想が来ない事に嘆いているという愚かっぷりを見せてるんですけどね…。(神薙) |
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