「ここが・・・家かぁ・・・・・」

一夏は、無事マドカを家に連れてきた。

マドカは目をキラキラさせながら家の中を見渡している。

「・・・・・ねえ、お兄ちゃん。何してるの？」

マドカはガチャガチャと掃除機を引っ張り出してきた一夏に首をひねりながら聞いた。

「ん？　掃除を始めるんだよ。家って使ってなくても埃はたまっていくから、ちょくちょく来て掃除するんだ」

「へぇ〜、私も手伝おうか？」

「おう、頼む。それじゃあ、窓ふきをしておいてくれ」

「うん。わかった」

マドカはこくんと頷くと窓掃除を始めた。

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

二人を尾行していた瑛斗とラウラは織斑家の近くの電柱に身をひそめていた。

顔にはグラサン、手にはアンパンではなくパックの牛乳が握られている。

「・・・・・・家に入ったな」

「ああ、入った。これからどうする？」

「どうするも何も・・・、このまま待機だ」

だよなぁ、と瑛斗はパックに刺さったストローから牛乳を吸った。

ブロロロロ・・・・・・・

「ん？」

ふと、瑛斗たちの前を一台の車が横ぎった。

その車は、閑静な住宅街には少し不釣り合いなものだった。

黒塗りで、立派な車。

言うなれば、政府の要人が乗っているような車。

「・・・・・・・・・・・・」

瑛斗はその車が曲がり角を曲がるまで目で追い続けた。

「・・・・・・・・・・瑛斗」

「なんだラウラ？」

「今の車・・・気づいているか？」

「ああ・・・・・、中にスーツを着たガタイの良い男三人。少し怪しいな」

「そうか。気づいていたか。さすが私の嫁だ」

ラウラの薄い笑いをちらと見てから瑛斗は続けた。

「・・・・・ま、考えすぎならいいんだけどな」

そして二人は牛乳をズズーッと吸った。

「うん、もうこっちは大丈夫かな。マドカー、そっちはどうだー？」

「あ、うーん！　もう少しで終わるよー！」

マドカは元気な返事を返した。

丁寧に窓掃除をするマドカ。そんなマドカの視界にふと、奇妙なものが映った。

「・・・・・・・？」

マドカは窓を開けて置いてあったサンダルを履いて外に出た。

「ん？　マドカー？」

一夏が窓が開く音を聞いて歩き出すと、ポケットの携帯電話から着信音が響いた。

「楯無さんから？」

一夏は意外な人物からの着信に首をひねりながら通話ボタンを押した。

「もしもし？」

『一夏くん？　いまどこにいるの？」

「え？　どこって・・・・・家ですけど？」

『マドカちゃんは？』

「マドカですか？　いま、外に出たみたいです」

一夏がそう言うと、楯無は声を荒げた。

『ダメッ！　すぐに連れ戻して！』

「え？」

「ヤベッ！　気づかれた・・・・・！？」

マドカが家から出てきたのを見て、瑛斗は慌てた。

「馬鹿者！　身を乗り出しすぎだ！」

さすがのラウラも焦り気味の声で瑛斗を注意する。

「とっ、とりあえずこの場をから離脱するぞ！」

「お、おう！」

瑛斗はラウラに続いて電柱から全力でダッシュ。なんとかマドカの視界から消えるほどの距離まで走り、荒い息を整える。

「・・・ど、どうだ？」

瑛斗は、すでに息を整え終えたラウラに聞いた。

「・・・・・妙だな」

「あ？　何が？」

「私たちの方向ではなく、逆の方向に行ったぞ・・・・・」

「逆・・・・・？」

瑛斗が顔をのぞかせると、マドカは瑛斗たちとは反対方向へ歩いていき、曲がり角を曲がった。

「アイツ・・・・・なにを見たんだ？」

瑛斗が眉をひそめてから数秒。

ブロロロロッ！！

「「！？」」

瑛斗とラウラが見たさっきの車が猛スピードで瑛斗たちの前を走り去った。

しかし、瑛斗とラウラが驚いたのはまったく別のものに対してだった。

「おい、今のって・・・・・・・！」

「アイツだ・・・・・！」

車の中で、抵抗するように動いていたマドカだった。