IS インフィニット・ストラトス 〜転入生は女嫌い!?〜 第二十一話 〜素顔と事情〜 |
クロウ、一夏、シャルルの三人は更衣室で着替えていた。一夏がシャルルに聞こえないようにクロウと小声で話す。
「(おいクロウ、お前本当に大丈夫か?あの時すげえ怖かったぞ)」
「(・・仕方がないで済ませたくはないが、まあこれから気をつけるさ)」
「ねえ、二人とも。何を話しているの?」
すると、一夏とクロウがこそこそと話をしているのが気になったのか、シャルルが会話に入ってきた。
「「っ!い、いやなんでもないさ!」」
「?まあ、いいや」
その内、シャルルが先に着替え終わった。
「じゃあ、僕先に帰るね」
「おう。あ、シャルル、部屋の鍵って持ってるか?」
「あ、そういえばまだ貰ってないや」
「じゃあ、持ってけ」
クロウが下手投げで、シャルルに向かって鍵を放る。
「ああ、うん。ありがとう」
「じゃあな、シャルル」
「うん、また明日」
そう言い残すと、シャルルは更衣室から出ていってしまった。
「なあ、クロウ。前から聞きたかったんだけどさ」
「ん?何だ?」
「前の世界の仲間ってどんな感じだったんだ?」
その言葉を聞くと、クロウは遠い所を見つめるような顔をする。
「・・・いい奴らだったよ。平和のために戦って、見返りも求めず、俺なんかよりもずっと高潔な奴らだ」
「その世界に帰りたいのか?」
「ああ、出来ることならな。だが俺のいた世界では、こうやって転移してくることはあまり珍しくなかったんでな。心のどこかで覚悟はしていた。戻れない以上、この世界を楽しむさ」
「クロウ・・」
「さあ、湿っぽい話は終わりだ。早く着替えて帰ろうぜ」
「ああ、そうだな」
二人は黙々と着替えて、更衣室を後にした。
〜寮・クロウの部屋前〜
クロウはやっと部屋に到着していた。ドアを開けると、バスルームから水音が聞こえてくる。
「(シャルルかな?そういえば、シャンプーが切れていたっけな・・)」
クロウは予備のシャンプーを手に取り、バスルームの扉を開ける。するとそこには
ひとりの女性がいた。
「・・・」
「・・・」
顔は確かにシャルルだが、首から下が女性の体だった。女性らしく出るところは出ていて、しまっている部分はしまっていて、どこからどう見ても女性だった。クロウはゆっくりとバスルームの扉を閉めて、声を掛ける。
「しゃ、しゃるる?しゃんぷーここにおいておくからなー」
「う、うん!ありがとう・・・」
クロウは自分のベッドに戻り、頭を抱えた。何が何だかわからなかったからである。
「(あ・・・・あいあういあ、うあああええ)」
〜十分後〜
扉が開いた音がして、シャルルがバスルームから出てきた。クロウは見間違いではないか、という淡い期待を抱いていたが、その幻想は砕け散った。
「・・・」
そこにいたのは、長い髪をストレートに下ろしている女性だった。シャルルも自分のベッドに座り、しばし気まずい空気が流れた。
「・・・そ、そうだシャルル。茶でも飲むか?俺がいれてくるからよ」
「あ、うん。もらおうかな・・・」
「・・・」
クロウはお茶をいれる間もぼーっとしていた。そのうちお茶が出来て、シャルルに持っていく。
「ほらよ」
「あ、ありがとう・・・」
お茶でも持ってくれば空気が変わるか、とクロウは思っていたが、全く変わらずに沈黙が続いた。先に口を開いたのはシャルルの方だった。
「ねえ、クロウ。聞かないの?僕のこと・・・」
「ん?何だ、聞いて欲しいのか?」
「え?」
シャルルは驚いているが、クロウは構わず続ける。
「女が男装しているなんて、よっぽどの理由があるからだろ。俺は出来るなら聞かない方がいいと思うし、何より女嫌いなんでな。俺の前にいるのはシャルル・デュノア。俺のルームメイトで男。それでいいだろ」
その言葉を聞くと、シャルルは信じられないといった顔をして、再び聞いてくる。
「・・・それでいいの?」
「ああ、俺は女嫌いなんでな。その俺の同室の人間が女な訳がないだろう」
「・・・ありがとう」
そう言うとシャルルはベッドに潜り込み、寝てしまった。
「(全く、いったいどうなってんだ?)」
クロウはそんな事を考えながら、眠りに落ちた。
〜翌日・放課後〜
クロウはいつも通り、一夏達と特訓をするために、アリーナに行こうとしたが、千冬に呼び止められた。そのため、メニューを一夏に伝え、今は千冬の後を歩いている。
「なあ、千冬。一体何だ?俺に話があるって」
「詳しくは着いてから話す。まあ、一つ言うとすればお前に仕事の依頼だ。」
「仕事の依頼?」
クロウは訝しんだ。元の年齢ならともかく、今の自分はISを動かす位しか取り柄のない15歳の少年。こんな子供にどこの人間が依頼をすると言うのだ?そんな事を考えていると、ほどなくして千冬の足が止まり、一つのドアを指さす。
「はいれ」
クロウが言われるままに、その部屋に入ると、そこは会議室の様な所だった。中央に十数人が席に着くような円卓があり、その上には大型のスクリーン。どこか緊張感をもたせるイメージがあった。一つ疑問があるとすれば、スクリーンには一人の男性が映し出されていた。年齢は30代、何処か柔和な雰囲気があり、ダンディという言葉が似合う人間だった。
「ありがとう、千冬君」
「ああ、気にするな。こいつは間接的にとはいえ、あなたに恩がある。無碍に断るようなことはしないだろう」
クロウを置いて話をする二人。クロウは事情が全く分からず、二人に話しかけた。
「一体どうなっているんです、織斑先生。この人は誰ですか?」
「ああ、敬語を使う必要はない。この人はお前の事情を知っている」
「!!なんだと!?」
「お前の身辺の情報操作と隠蔽を手伝ってもらった。伝手がある、と言っただろう?この人がその伝手だ。まあ、心配するな。この人は私も信頼している。お前の事を言いふらしたりはしない。とりあえず座れ」
クロウの心は目の前の男は何者なのか、その疑問で一杯だったがとりあえず促されるままに座る。
「まずは自己紹介しようか、クロウ・ブルースト君。僕はカルロス・デュノア。シャルル・デュノアの父親だ」
モニターの中の男が喋り出す。
「そりゃご丁寧に。それで、今は一介の学生である俺にどんなご要件で?」
「端的に言おう。ある人間を護衛して欲しい」
クロウはその言葉を聞くと、呆れたように言葉を返す。
「俺は、今やIS学園の生徒だぜ?そんな事出来るわけ・・・」
「いや、護衛して欲しい人間と言うのは、僕の子供、シャルルだよ」
「・・・どういう事だ?」
「その理由を話すのには、順を追って話さねばならないね。まず一つ、シャルルは男ではない。シャルロットと言う女の子だ」
「・・・ああ、知っている」
「!!・・・そうか、理由を聞いてもいいかな?」
この質問をされると、クロウは居心地が悪いように、顔をそむける。
「いや。たまたまというか・・・偶然というか・・・」
「ほう、まさか君、僕の娘にいかがわしいことでも・・・」
「違う、まったくの誤解だ!!」
「心配するな、カルロス。こいつは女嫌いでな、そんな事が出来るほどの根性は持ち合わせていない」
「・・・」
クロウは嬉しい様な、悲しい様な気持ちになっていた。まあ、女嫌いという点はその通りなので否定しないが。
「まあ、話を戻そう。さて、何から話したものか・・・」
「デュノアのことからでいいんじゃないのか?」
「そうだね、まずはシャルロットの事から話そう。まずはじめに、あの子は今の僕の妻の子供じゃないんだ」
「!!・・・そうか。“今の”ってことは・・」
「ああ、おそらく君が考えている通りだろう。あの子は僕の婚約者だった女性との間に出来た子供なんだ」
「・・・続きを聞かせてもらおうか」
「あれはまだシャルロットが生まれる前、僕は小さな町工場を運営していてね。シャルロットの母親とはその時知り合ったんだ。あの時は幸せだった。僕の人生の中で一番と言っていいほどに・・・」
「・・・」
「しかし、約十五年前、ちょうど彼女があの子を身ごもった時、ある会社から我が社に圧力がかかった。時にブルースト君、“アクシオン”という会社に聞き覚えは?」
「!!!・・・いや、この世界ではない」
「“この世界では”か・・・。話を戻そう。アクシオンというのは端的にいえば巨大な((複合企業|コングロマリット))だ。そこの兵器部門に、私達の会社と業務提携をしたい、という話を持ちかけられてね、私はあまり乗り気では無かった。しかし、あちら側はそうでは無かったようでね、提携しなければ婚約者がどうなるかと・・」
「脅されたってことか・・・」
そこまで言うと、カルロスが苦い表情となる。
「その通りだよ。彼女の身に危険が迫っていると感じた私は、彼女を逃がした。数名の信頼出来る護衛をつけてね。しかしそれではアクシオンはまだ飽き足らず、こちらから送る女性と結婚しろ、とまで言ってきた。」
「なるほどな・・・」
クロウは納得の声を上げる。世界が変わっても、悪党の使う手口は変わらないようだ。
「彼女はエーデル・アクシオンと言った。言い訳にしか聞こえないと思うが、不本意な結婚を受けなければ、会社より、彼女の方が危険だった。その後はご覧の通りだ。私は最愛の人と引き換えに社会的な地位を得た。しかし、僕はこんなもの・・・」
カルロスは当時と今の状況を思い出したのか、嗚咽を漏らす。そこに厳しい千冬の一言が飛ぶ。
「カルロス、続きを」
「ああ、すまない。その最愛の人も二年前に天国に召された。私はせめてシャルロットだけでも、と思い彼女を引き取ったんだ。しかしそれは過ちだった」
「何があった?」
「私が初めて、シャルロットにあった時、エーデルも同席していたんだけどね。そこで彼女がシャルロットを叩いていったんだよ。「この泥棒猫の娘が!」って言ってね」
「!!それは・・・」
「そう、僕も驚いたよ。エーデルとはほとんど会話もしないうちに政略結婚という結果だったしね。まさかあんな事を言うなんて思いもしなかった。でも、それだけでは彼女の気持ちは収まらなかった。その後、シャルロットは何度か妻に殺されかかった」
「何だと!?」
その言葉を聞くと、クロウが驚いて椅子から立ち上がる。親が子供を殺す?継母とは言え、聞いたことがない事例だった。
「いや、全て未遂で終わっている。私が止めたからね。しかし段々エスカレートしてきて、私の力ではもう手に負えなくなってしまった。そこでIS学園に逃がしたんだよ」
クロウはいくらか落ち着いた様で、椅子に座り直し、質問を続ける。
「何で性別をわざわざ偽らせた?そのまま入学すればよかったじゃねえか」
「それはエーデルに対する言い訳でね。いくら代表候補生でも簡単にIS学園には転入できないのさ。だから適当な理由をつけてやらなければならなかった」
「その適当な理由ってなんだ?」
「世界で初めてのISを動かすことの出来る織斑 一夏の情報を探ってこい、という命令をシャルロットに与えてね。それでIS学園に転入させたんだ」
とりあえず、事の背景は把握した。次のクロウが気になる事はシャルルについてだった。
「・・・シャルロットはどこまで知っている?」
「いや、全く知らないよ。僕のことは、会社の事しか考えない、ひどい命令を出す冷徹人間だと思っているだろうね」
「そうか、だが何で奥さんはそんなにシャルロットが嫌いなんだ?政略結婚だったら恋愛感情なんて持っていないだろ?」
「端的に言えば、彼女はカルロスに惚れた、と言うわけだ」
「ああ、そういうことか」
全く恋愛感情が無い女性でも、モニター越しのこの男と一緒に暮らせば、好きになってしまうだろう。なにせこの男性は、シャルロットに輪をかけたいい人なのだ。さっきから言葉の端々に優しいイメージが滲み出ている。あとは推して知るべし、だ。
「なるほど、女の嫉妬程見苦しい物は無いな。全くこれだから女って奴は・・」
「さて、これで私の話は終わりだ」
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