おっさんPとアイドル(伊織編)
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 はぁ……自己嫌悪。物凄く自分が腹立たしいわ。

 仕事を失敗してしまった。この私が失敗をするということも許しがたいけど、一番許せないのはあずさと亜美の足を引っ張ったこと。

 私個人に責任がくるのならまだいいわ。事務所には迷惑がかかるでしょうけど、やはり私個人の責任だから。

 でも今日は違う。竜宮小町としての仕事で失敗してしまった。

 律子も二人も気にしなくていいとは言ってくれた。だけど、私は私を許せそうにない。

 私達はチームで仲間なんだから、私一人がこんな感情を抱くのは間違っているのは分かってる。分かってるけど止められないの。

 それが益々自己嫌悪を加速させていく。

「はぁ……」

「伊織。溜息ばかり吐いてると幸せが逃げるぞ?」

「それ……何年前の言葉よ」

 溜息を吐くと幸せが逃げる。根拠も何もない言葉だけど、あながち間違ってないんじゃないかしら。

 だって、現に私は今自己嫌悪で嫌な気持ちになっているのだから。幸せではないと思う。

「律子に聞いたけど、仕事を失敗したんだって」

「……それが何よ」

「いや。律子に『伊織が落ち込んでますから慰めてあげてくださいね、プロデューサー殿』って言われてな」

「あっそ……」

 律子の奴、何余計なことを言ってんのよ! 今はただ一人になりたいっていうのに、何でコイツを……

「なぁ伊織。ちょっといいか?」

「何――って、きゃぁっ!?」

 いきなり私を抱えるプロデューサー。

 ちょ、ちょっと何なの!? 何をするつもりなのよ!?

「――よっと。座り心地はよくないかもしれないけど勘弁してくれ」

 私を抱え、そして自分の膝へと乗せる。つまり私は今――プロデューサーの膝の上に座っているわけで……

「あ、あんた何変なことしてんのよ! 変態! 大変態っ!」

 女の子を抱えて、更には膝の上に座らせるだなんて変態以外の何ものでもないわ。

「ちょ、こら――暴れるなって、危ないだろ!」

「あ、あんたがこんなところに乗せなければよかっただけでしょ!」

 大体、意味が分からない。私をこんな所に乗せて何がしたいのだろうか?

「とにかく落ち着け」

「ぁ……っ」

 プロデューサーの大きな手が私の頭を撫でていく。まるで泣いている子供をあやすかのように……

「……」

「落ち着いたか?」

「ん……っ」

「あのな伊織。落ち込むのもいいが、一人で抱えるよりは誰かにぶつけた方がいいぞ?」

「そんなの――」

 そんなこと、出来るわけがない。誰かに弱みを見せるだなんて、そんなの……

「幸い、今は俺と伊織しかいないから。俺ならいくらでも愚痴を聞いてやるぞ?」

 ずっと頭を撫でながら優しい口調で話しかけてくる。

 優しく私を包み込んでくれている。

「……ばか」

 おじさんで、若くもないくせに若い人と同じくらいに走り回って仕事を取ってくるプロデューサー。

 私はあまり関わりがなくなってしまったけど、それでも前は色々と相手をしてもらっていた。

 無駄に下僕みたいに扱ったこともあった。たくさん我儘を言った。

 それでもコイツは――プロデューサーは何も文句を言わずに私の側にいてくれた。

 そして、私が竜宮小町として活動することになった今でも、こうして私の側に居てくれる。

「本当にバカだわ」

「おいおい、人のことをあまりバカバカ連呼するんじゃない。悲しくなるだろ」

「バカだからバカって言ってるのよ」

 あぁ、私はバカだ。大バカだ。

 仕事を失敗して自己嫌悪に陥っているのもバカだし、こうして優しくされてこの感情の正体に気がついてしまうのは、もっとバカだ。

 そっか。私……コイツのことが――プロデューサーのことが好きだったんだ。

「あまりバカバカ言ってると、お仕置きするぞ?」

「ふふん! このスーパーアイドルの伊織ちゃんにお仕置きをしようだなんて、いい度胸ね!」

「おお怖い。謝るから一緒に食事にでも行かないか?」

 なんてわざとらしいのかしら。たぶん私に気分転換をさせるための言葉。

 ほんとにプロデューサーはバカなんだから。

 こんな私にさえ優しくしてくれるだなんて。余計な感情を抱かせるだなんて。

「いいわよ。今日は特別にそれで許してあげるわ」

「さすが伊織様だ。それじゃあ、行くか」

「ええ」

 プロデューサーの後をついて事務所を出る。このまま普通に食事に出かけるのもいいけど……

「ありがと……」

「ん? 何か言ったか?」

「何でもないわよ」

 小さく小さな声で感謝の言葉を述べる。直接言うのは恥ずかしいから、まずは小さな声で。

 だけど、いつかは感謝の言葉を述べるのでしょうね。

 私に小さな切っ掛けを与えてくれてありがとう。私に優しくしてくれてありがとう。私に恋心を抱かせてくれてありがとう。

 プロデューサー。あなたのことが大好きですってね。

 

 にひひっ♪ ほんと、このプロデューサーは罪作りな男ね。

 さぁて。明日からも仕事を頑張りましょうかね。この気持ちを伝えることに誇りを持てるくらいに立派になるために。

 

説明
ほい、いおりんです。
着実に増えていってますね。
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水瀬伊織 アイドルマスター P 

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