05 あなたは楽しいお方です。アリサ様 |
●月村家の和メイド 05
組織介入事件から五日、随分楽になったモノです。
正直、管理局の力を侮っていましたね。探索に関しては広範囲を二十四時間随時探索し続け、発見後は瞬時に転移魔法での移動。あっと言う間に事が進んで驚きですよ。
しかし、その探索フィールドから逃れながらジュエルシードを回収していくフェイトは、もしかするともっとすごいのかもしれませんね。あれから管理局が発見したジュエルシードを二つも奪われたそうです。侮れない当てですね……。
まっ、カグヤは、もうどうでもいいですよ。なんせ龍斗もアースラに乗って協力しているので、現在カグヤのする事が何もないのです。ジュエルシードの暴走も、龍脈を歪めるほどの事は起きていません。カグヤは安心して月村の使用人として働けます。
「っと思った矢先で来ましたか……、忍お嬢様、ノエル先輩、ファリン先輩」
御屋敷のリビングで、カグヤはこの御三方を相手に本気の構えを取って対峙しています。御三方の手には、今まで頑なに拒否し続けてきた女物私服の数々が!!
「そんなに警戒しないで、ちょっと着てみるだけ、ね?」
「きっとカグヤちゃんならお似合いですよ?」
「って言うかカグヤちゃんなら絶対似合います!」
「男物ならいざ知らず、女物の服をこれ以上着たくありません! ましてや下着付きなどと! いくらカグヤが容姿に対して諦めていても、それだけは許容しかねます!!」
断固死守です!! それだけはカグヤの少ない男としてのプライドが、心底拒否し続けているのです!!
「せっかくあなたの為に作ったんだから! 大人しく着なさい!!」
「御自分で御作りになられたのですか!?」
驚愕の事実に驚きながらも、襲い掛かってきた忍お嬢様の脇を抜けて回避します。
「背の高い私では似合わない服なんですよ!? カグヤちゃんは華奢な体で可愛いのが似合うんだから着てもいいではないですか!?」
「ノエル先輩、意外とコンプレックスお持ちだったのですね!?」
捕まえようと素早く繰り出される手の連打を、魔力で強化した身体速度で同等に打ち合い全てを相殺させます。
「カグヤちゃん! 私の事を忘れて―――あきゃぶぅっ!?」
後ろから迫ったファリン先輩が勝手に転んで床に顔をぶつけてらっしゃいました。
「ファリン先輩は相手にする必要がございませんので……」
「ど、どう言う意味ですか〜〜〜……っ!」
「お答えしましょうか?」
「うぅ〜〜……っ、やっぱりいいです……」
ノエル先輩の抜き手をいなし、その手を掴み一本背負い―――と見せかけ、ノエル先輩が身構えたところで手を放し、そのまま走りだし出口へと向かいます。逸早くそれを阻もうとした忍お嬢様には失礼ながら、背の低いカグヤを屈んで捕まえようとした時を狙い、その背中を転がるようにして飛び越えさせていただきました。
「逃がさないわよ! ……美由希ちゃん! そっちに行ったわよ!」
「まっかせなっさ〜〜い!!」
「美由希様までおいででしたか!?」
まさか高町の護衛を一人お連れしていたとは!? どこまで本気なんですか忍お嬢様!?
「御神流:奥義之歩法・神速!」
「なっ!?」
速い!? ある程度の距離で身構えていたのに既に掴まれてしまっている!? 魔力の使用もせずに人はここまで速く動けると言うのですか!?
「捕まえた!」
「しかし掴んだのはエプロンです!」
「ああっ!?」
素早く後ろに回した手でエプロンを解き、美由希さんの腕から逃れます。
「なんの! 何度だって捕まえてあげるわ!」
「クイック・ムーブ!!」
「えっ? 嘘! 速いっ!?」
魔力を瞬発に合わせて走る瞬間加速歩法魔術。龍斗の方がこう言うのは上手いのですが、カグヤにも使えないわけではありません! 美由希さんが蓄積させた技量で勝負なさるなら! カグヤは魔法(反則)を使わせていただくまでです!!
カグヤは出口に向かって手をかけました。これでほぼカグヤの逃走成功! カグヤの勝利です!
「く……っ! こうなったら最後の手段! 最後の砦に全てを託すわ!」
「まだどなたか居られますか!? しかし、カグヤは逃げ切らせてもらいます! どうせこのタイミングで出てくるのなら順番的に恭也様! 本気でかかれば逃げるくらいは造作もありま―――」
「カグヤちゃん……」
勢い良くドアを開いた向こうには……、
「す、ずか、様……?」
「お洋服……、私もお姉ちゃんのお手伝いをして一生懸命作ったの。……着て、くれないの?」
「……え? いや、待ってください。いくらカグヤがすずか様直属の使用人と申しましても、こればっかりはカグヤがカグヤであるために超えてはならない線引きと言う―――」
「私……、カグヤちゃんに気に入ってもらえるようにって……、ヒラヒラじゃない服をデザインしたんだよ……。恰好いい女の子のコンセプト、なら……、カグヤちゃんも、着て、くれる……かも、って……、ひっく……」
「……………………………」
汗が、汗が止まりません……。なんでしょう? カグヤ物理的な障害は全て突破したはずなのですが、精神的に崖っぷちに立たされております。っと言うか既に落ちてます。途中の木の枝になんとか捕まってるだけで、もはやこれは生存不可能です……。
「カグヤちゃん……」
ポロリと、いたいけな雫が頬を流れて床に一つ……。
カグヤに衝撃が走りました。
「すっ……、すずか様のデザインして下さったモノだけなら……っっっ!!!」
完敗にございます忍御嬢様。煮るなり焼くなりしてください……。
御嬢様方の歓喜の声が、カグヤには地獄への誘いにしか聞こえません。
「世の着せ替え人形もあそこまで遊ばれる事はないのでしょうね……」
着せられた服を思い返しながら、カグヤは買い物かご片手にげんなりと溜息を吐きます。
着せられた服の種類は、皆さまと同じメイド服に始まり、フリル満載のゴスロリ、令嬢が好みそうな背中の開いたドレス、スリットの加減が絶妙なチャイナドレス、すずか様と同じ小学校の制服、短いスカートにスーツと言った大人向けの装い、果てはナース、巫女、猫耳、ウェイトレス、最終的に持ちだされたバニーだけはなんとか断り切りましたが……、既に男の尊厳など微塵も残っている気がしませんね。カグヤは廃人にございます。
結局最後に着せられ、今も着用しているのは、ロングスカートのワンピースの上に、すずか様がどんな服にも合うようにと大人しめな色合いでデザインして下さった振袖の千早に腕を通しております。ワンピースの方もそれに合わせていただいているので、違和感は特にありません。これには感謝ですね。
「しかし、ついに仕事着ではなく私服で女物を着てしまいましたか……、寝る時の浴衣は男女同じですし、あまり悩まなかったのですが、これは案外落ち込みますね……」
絶対この恰好で殿方とだけは歩きたくはございませんね。周囲の目がどんな目になるか容易に想像できるだけに……。
「しばらく龍斗には会わないでおきましょう。男の友人など彼くらいですし」
それはそれとして問題がある様な気もしますが、カグヤは気にしないので考えない事にしましょう。
買い物も終わった事ですし、そろそろ落ち込むのも止めて月村に帰るとしましょうか。せっかく東雲の方で暇が出来たと言うのに、こんな事では勿体無いと言うモノです。
「え? あれ? あんたカグヤ?」
「おや? アリサ様でございましたか?」
道の途中、公園で一人ブランコに座るアリサと出くわしました。出くわしたと言うより、見つけてもらったと言う方が正確かもしれません。カグヤは全然アリサに気付けていませんでしたから。
「え? え、え? あんたって、普段そんな服着てるの? なんて言うか……、すんごい可愛いわよ」
「……アリサ様としては御褒めしてくださっている訳ですし、ここは素直に『ありがとうございます』を述べておきましょうか?」
「なんでそんな遠回しな言い方してんのよ?」
「これが忍御嬢様達に無理矢理着せられたものでなければ素直に御喜び申しあげている所なのですが……」
「ああ〜〜……、まあ、仕方ないんじゃない? アンタって顔のクリオティに対してオシャレとかに疎いんだもん。誰が見ても勿体無くてコーディネイトしたがるわよ」
「憶えておきましょう。やはり嬉しくはありませんが……」
そう溜息を吐くと、アリサさんは「まったく……っ」と腰に手を当てて憤慨なさる。相当カグヤの着飾らなさが気に入らないと御見えします。
それにしましても……、
「どうかなされたのですか?」
「ん? なにが?」
「いつもに比べて、元気が足りておりませんから」
ピクリッ、と、彼女の肩が弾け、表情が少し歪んだ。
「な、なによ突然……。私は特に何とも―――」
「ああ、そう言えばなのは様は最近学校に来ていらっしゃらないらしいですね?」
「……!」
「なんでも御家の御用事とかで……、それは心配にもなりますよね? 御友人として、ね?」
首を傾げながら訪ねると、アリサは顔を赤くしながら「と、当然でしょ! 友達なんだから!」と意地を張って見せる。心配していると言う事を正直に言えるのですね。……だというのに。
「アリサ様は強くていらっしゃいますね」
「そうかしら?」
「ええ、……それだけに不安にございます」
「え?」
「アリサ様の御傍には、今、支えてくださる御方がおりますか?」
「な、なによ突然? 友達ならちゃんと―――」
「いいえ、友達ではありませんよ。支えと言うのは友達ではダメなのです……。カグヤがそうであったように」
「カグヤが?」
「はい。強い方と言うのはそれだけに不安定なもので、少し傾いてしまっても御自分で立ち続けられるあまり、傾いたままでいる時があるのでございますよ。丁度、今のなのは様、すずか様、そしてアリサ様のように……」
「なのはやすずかも?」
「はい。ですが御二人には既に御支えになられる御方がいると存じます」
「だれ……?」
「なのは様には……、龍斗様で良いと思いますよ」
「え? 龍斗が?」
「はい、買い物途中など、時に二人でおられる所をよく御見かけしますから」
「そ、そうなんだ……、あの二人が……」
百%嘘ではありませんよ。実際、最近は御一緒なされているでしょうし、龍斗が自らなのはの支えになろうとしているようにも見受けられますし。
「すずか様には、カグヤが付いております。カグヤはこの先もずっとすずか様の元におりますので」
「そう、……良いんじゃない? アンタ達ならなんか納得だし」
忍お嬢様達も同じような事を御言いになられるのですよね。何が納得なのでしょうか?
「……アリサ様には?」
「……判んないわよ。そう言うの」
「そうですか……、そうですね。本来ならなのは様、もしくはすずか様なのでしょうが、今回に限りは御二人ともアリサ様の御傍にはいられませんものね」
なのはは今頃必死にジュエルシードを、そして黒の少女を追っている事でしょう。すずか様は怒って待っていらっしゃるアリサ様の分、出来るだけなのはと話しているはず。それなら、やはりアリサは一人なのかもしれない。一人ぼっちなのではなく、一人……。
休日の日に、遊びに誘った友達が皆、別の用事でいないような、そんな小さな寂しさ。
きっとそれは耐える事はできる『つまらない』と一言漏らせば済むだけの何でもない一時。
でもね、アリサ様。それをカグヤはずっと味わってきました。だから知ってるんですよ。それってとっても苦しいのに、心が鈍感で気づいてくれず、段々感情も希薄になって行くんですよ。
ですから……。
「アリサ様……」
「……へ?」
カグヤはアリサの両肩を掴むと、軽く引き寄せて自分に寄り添わせる。
「な、え? なにっ!? ちょっ、かぐや?」
「カグヤはすずか様の傍にずっといなければなりませんが、こんな風にカグヤの手が届く時は、アリサ様もカグヤに縋っても良いのですよ」
「な、何言ってんの? わたしは、別に……」
「はい、解っております。ただ、支えられる時は、支えて差し上げたいと思ったのです。カグヤが知らず気落ちしていた時、すずか様にこうしていただき安堵しました。ですから、よろしければアリサ様にも、……おすそ分けにございます」
一人寂しいから、つまらなかったから……、だからこんな所で一人ブランコに乗ってらっしゃったのでしょう? それが解ってしまって、助ける方法を知っていたら、カグヤはつい手を貸したくなってしまったのですよ。
「は? あ……っ、うっ……、な、なんで……、わたし……」
アリサの手が、カグヤの服を強く掴みます。そして自然と溢れ始めた想いに、カグヤの胸の中でそれを隠そうと俯きました。
「わ、わたし……っ! こんなに……っ! 平気、だって……っ! 思ってた……っ! あ、あ、あ……」
それは平気なのではないですよ。鈍感な痛みに、感じる必要がなかった小さな悲しみに、安らぎを得て、心が敏感になっただけなのです。
ですから、思いっきり吐き出してくださって構いませんよ。
「うわああああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
知らなかった痛みに、アリサ様が絶叫なさります。きっとそれは、カグヤの様な者でない限り、子供の内に溜め込んではいけない、何かだったのだと思います。
「アリサ様……、今はカグヤがおりますから、御存分に、吐き尽くしてくださいませ」
「え? アリサちゃんが泊るの? 私は良いけど、随分急なんだね?」
「ええまあ……、その、今日は帰れなくなってしまわれたようで……」
うっかり気をやり過ぎたようです。心を敏感にし過ぎて少し甘えん坊状態に入ってしまわれたらしいアリサは、「せめて今夜くらいは一緒に居てよ」と言ってこられたのです。
心を敏感にする『安堵』も、過ぎると人を我儘にさせてしまうのですね……。これからはカグヤも気を付けましょう。
そんなこんなで急なアリサの御来訪でしたが、どうやら月村の誰も不快に思う事はなかったようで、恙無(つつがな)く事は進むのでありました。そんな最後の夜の事でございます。
「え? すずか、カグヤと一緒に寝てるの?」
いつも通り、カグヤが浴衣に着替えた所を、すずか様とアリサが訪問なされてきて、首を傾げていたアリサにすずか様が説明したところ、そんな御言葉をいただきました。
「うん、ちょっとだけ寂しい日とか、辛い事があった日は、二人で寝る様にしてるんだ。最近は一緒が当たり前になってきてるんだけど」
「甘えが過ぎませぬよう、互いに注意しなければですね」
「そ、そうなんだ……」
「もちろん、アリサちゃんも一緒に寝るよね? 今日はお泊りさんなんだし」
「え? わ、私も一緒に寝るの?」
「寝ないの?」
「寝ないのですか?」
「そ、それは……、寝るに決まってるでしょ!」
なんで怒ったようにそっぽを向くのですか? 決まっているなら顔を赤くしてまで怒らずと良いでしょに?
「じゃあ、カグヤちゃんが真中で……アリサちゃんと私が両端で寝て……、はい、これで後ギュってくっ付くの」
「く、くっ付くの!?」
「そうだよ。ねぇ〜〜、かぐやちゃ〜〜ん? ぎゅ〜〜〜♪」
「す、すずか? アンタちょっと性格変わってない?」
「すずか様は寝る前と寝起きがいつもこんな感じでございますから」
「そうなの!?」
「アリサちゃ〜〜んっ、ほら、ぎゅ〜〜〜〜っ!」
「え? なに? 私も? ……ぎゅ、ぎゅ〜〜〜っ!」
アリサも反対側からくっ付いてきたので、カグヤも促すように肩を引き寄せて差し上げました。
「ひゃっ、ひゃわっ!? ……、あ、これ、なんか良いかも……?」
「でしょう? なんだかぼ〜〜……っ、としてきて、気持いい感じで眠れるんだよ〜〜……」
「うわ……、これは、確かに……、癖になるわ……、くぅ〜〜」
「す〜〜、す〜〜……」
直ぐに両側から寝息が聞こえてきて、二人が御眠りになるのを確認します。
さて、……実はカグヤ、夜型でして、すずか様やアリサに合わせると、しばらく眠れない状態が続くのですが……。
「まあ、いつも通りすずか様の寝顔でも見て過ごしますか? 今回はアリサもいますし」
そう呟きながら、カグヤはその夜も他人の寝顔干渉をして過ごすのでした。
「……激しく悪戯したくなりますね」
ついでに悪戯心が刺激されてしまい、しかし、せっかく御眠りになられた所、下手に触って起こすのも可哀想です。っと言うわけで今回は悪戯を胸の内に留める事とするのでした。
カグヤ、たぶん『我慢』を覚えたと思います。
アリサ view
「むぅ〜〜〜……」
朝起きてから、私はずっとアイツの背中を目で追いながら、ずっと唸っている。
今日も学校と言う事で、すずかは制服に着替えに言ってる最中だ。私は制服のまま泊っちゃったから、もうとっくに着替えてる。
「ノエル先輩、洗濯終わりました」
「そうですか? 今日は仕事が早いですね?」
「ええ、ファリン先輩がいませんでしたので」
「毎度の事ながらどう言う意味なのカグヤちゃん!?」
月村家でのアイツって意外と目立つのよね。なんでか、一人だけ種類の違うメイド服だし。和メイド? って言うのかしら? 振袖にエプロンって、なんかカグヤの為にある服って感じよね……。そう言えば昨日着てた振袖の千早も似合ってたな。アレはアレで、少しキリッとした感じがプラスされてて、でもロングスカートのワンピースとかの色合いが大人し目で、大人っぽさと言うか、余裕が見れて、すんごく似合ってたのよねぇ〜〜〜。
「では、カグヤちゃん。朝食の食器を片づけてしまってください。今しがた忍お嬢様のお食事が終わりましたから」
「承りました」
そう言ってカグヤは、私達と同い年とは思えない、ピシッと、背筋を伸ばしたままスススッ、と音も立てずに移動する。その背中を見ていると、後ろで蝶々結びされてるエプロンの結び目が、カグヤの行動に似合わず、ピコピコと上下に揺れて、何だか可愛らしい。
「……えいっ」
「……っと!? あ、アリサ様? どうなさりましたか? 急に背中にくっつかれて?」
いや、我ながら何してるのかと思うんだけど、なんだかこの背中見てると、くっ付きたくなるのよね。すずかって、いつもこんな奴と一緒に居て、よく平気で離れられるわね。
「あの? アリサ様?」
「なによ……?」
「何と申されましては、何でしょう? っと返すしかなくなるのですが?」
「別に問題ないでしょう?」
「……食器を下げている最中ですが?」
「うっ、……いいから、もう少しじっとしてなさいよ!」
「ええまあ、そう言う事でしたら構わないのですが……」
あ、別にいいんだ。こいつ意外と優しいんだ。あ、あれ? なんか胸の方があったかく……? ちょっと。やばっ……、これ、離れられないかも?
「待たせてごめんね? 今着替え終わ―――、あ〜〜〜っ!? アリサちゃんがカグヤちゃんとってる〜〜!」
「! べ、別に取ってるわけじゃ……!? いいじゃない! すずかは毎日一緒に居るんだから、少しくらい私にも分けなさいよ!」
「だ、ダメなの! カグヤちゃんだけは取っちゃダメェ〜〜!!」
すずかが半分涙目になると、空いているカグヤの正面に抱きついた。カグヤも咄嗟に持っていたトレイを真上に上げて、すずかを身体で支える。トレイに乗ってる食器が落ちそうだけど大丈夫かしら?
「ちょっ!? すずか様! いきなり飛び付かれてはバランスが……っ!?」
「いや! 離れたらアリサちゃんにカグヤちゃんが取られちゃう!」
「取らないわよ! ……でも、貰えるなら欲しいかも」
「やっぱり取られちゃう〜〜〜!!」
「取らないってば! ……でも欲しいかも」
「どっちなんですかアリサ様!?」
「やっぱり欲しい!」
「しかも決断そっちですか!?」
私達に前と後ろから押されたカグヤが、バランスを取ろうと、たたらを踏んで、それでも私達が離れようとしないから更に押されて、自然とその場で回転し始めてしまう。
「わっと! っと……っと……っと!?」
ぐらりと身体が傾いた。あっ! 倒れる!? そう思った私は思わずカグヤにしがみ付き、前側のすずかもカグヤに掴まってしまう。って、これじゃあカグヤが身動きできないんじゃ!?
三人仲良く床に叩きつけられると思った瞬間―――、
「ふんぬっ!」
あんまり似合わない気合いを吐いて、カグヤの足が床に踏ん張った。私達の身体がほぼ四五度くらいに傾いたまま、停止している。カグヤすごい! 意外と力持ちなのね! しかも手に持っているトレイを片手に移して平衡を保っているわ! アンタ色々すごい!
「あらあら? カグヤちゃんって意外とすごいのね? あれかなりバランス悪そうだし」
「はい、ファリンもあれだけの踏ん張りがあれば、こけてしまう事もないでしょうに……」
「む、無理ですよお姉さま〜〜っ! あれはカグヤちゃんにしかできません!」
「御三方とも……っ! 暢気に見ていないで、助けていただきたいのですが……っ!」
実は私とすずかが手を離せば済む事だったんだけど、私達はそのままずっとくっ付いて、離れられなかった。
この日、私は『甘え』を覚えました。
カグヤ view
管理局の契約から八日くらいでしょうか?
相変わらず土地内で小規模な戦闘の気配は見られますが、放っておいても大丈夫なほど安定した戦歴を積んでくれているようですね。報告では既に四つ手に入れたとの話です。逆にフェイトが獲得したのは三つだそうですが、まあ、こちらとしては危険物さえ無くなってくれれば何の問題もありません。
……まあ、最近の話しでは、フェイトにジュエルシードを集めさせていると言う首謀者、母親のプレシア・テスタロッサが次元震を引き起こす可能性があるとかで、少々警戒はしているのですが……。
「まあカグヤにできる事は、次土地に影響が及ぶ程の何かが起きた時、瞬時に対応できるように対策を練っておく事くらいでしょうか?」
っとなると、八束神社にでも行きましょうか。もしもの時の為に御神楽を舞えるようにしておいた方がいいかもですしね。そんな風に考えて明日は神社に向かおうと決めます。今日はアリサ、すずか様、忍お嬢様、美由希さんと、買い物に行く事になっていますから。
「……ちょっと待ってください」
「どうしたのよ?」
「いえ、そうですね……。なのは様が帰って来た後、プールに御誘いしようと言う計画があり、そのために水着売り場に来ているのは解ります」
アリサのきょとんとした顔に頭痛を覚えながら、カグヤは答えます。
「以前プールに御誘いされた時は、カグヤは別件があって参加できず、皆様がにしてみれば、今回こそと御誘いもうしてもらえました事は感謝しております」
「うん……?」
首を傾げるすずか様に、もうこれは一体何度言って来ただろうと目眩すら感じました。
「もうはっきり言います。何度も申しあげてきた事ですが、はっきり述べさせてもらいます! ……なんで男のカグヤが、水着を選ぶのに、女性物の水着売り場に連れて来られているのですか!?」
「「だってカグヤ(ちゃん)だから?」」
「「可愛い服着て欲しいから♪」」
「上下ともに理由は同じですか!?」
アリサとすずか様、美由希さんと忍お嬢様の声が見事にハモリましたね。っといいますか、さすがに女もの水着は―――いい加減言い飽きましたので以下省略。
「カグヤにも男物の水着を着させてください」
「それはダメよ。……年の関係上、周辺から厳しい規制がかかるから」
「忍お嬢様? それはどう言う意味ですか〜〜?」
「っていうか、カグヤちゃんが男子モノなんて着たら……それこそ犯罪じゃない」
「美由希様? カグヤの性別は何度もお話しましたよね?」
「その上でよ!」
「何の救いにもならない御言葉をありがとうございます」
これ以上言い争っても無駄なの私服の件で理解しております。ですから、ここは適当なモノを選んでさっさと逃げ帰るとしましょう。
「さっ、行くわよカグヤ!」
アリサ様? 何故カグヤの右腕をホールドなさるのです?
「いくよ、カグヤちゃん」
すずか様? 何故カグヤの左腕をホールドなさるのです?
「さあ、いらっしゃい♪」
「可愛いの、たっぷり用意してもらってるからね♪」
忍お嬢様、美由希様、何故、どうして、試着室を前に大量の子供用水着を用意してカグヤを待っているのです? あっ! あっ! 二人とも! 何故カグヤを……! カグヤを連れて―――! 止めてくださ〜〜〜〜いっ!!
すずか view
「第一回! カグヤちゃんの水着審査大会! 開幕〜〜♪」
「「「わ〜〜〜っ!」」」
美由希さんの宣言に、皆で拍手。試着室の向こうでは、既に水着に着替えていると思う、カグヤちゃんがいる。これからどんな水着姿のカグヤちゃんが出てくるのかと思うと、想像だけで見悶えちゃうよ〜〜♪
「それでは〜〜っ! 焦らすのも何なので、っと言うか私も我慢できない! 行ってみましょうエントリナンバー一番! まずは定番! 旧式スクール水着!」
「まあ、着れなくはないです……」
カーテンが開くと、そこには私達が学校で着ているような、胸に名前を掻くところがある紺色の水着を着たカグヤちゃんが出てきた。
カグヤちゃんが学校に通っていたら、こんな感じだったのかもと思うと、ちょっとドキドキする。
「まずは小手調べ、審査員の点数は?」
「5点。学校気分でちょっと新鮮」
「3点よ。外じゃつまらないし」
「3点。まあ、悪くわないわね」
「計11点! まあまあと言ったところでしょうか!?」
「美由希様、これって何点満点です?」
「それぞれ10点ずつで30点よ」
「……そうですか、まあ、カグヤもこれで行くとは思ってないので良いのですが。……嫌な予感しかしませんね」
そう言いつつカグヤちゃんはまた試着室のカーテンに隠れた。そして美由希さんから次の水着を渡されて着替える。次はどんなの何だろう♪
「続きまして、エントリーナンバー二番! とりあえずジャブな感じで、ホルターネック! よそいきの水着としては定番だが〜〜!?」
「軽く悪寒を感じますね。これは……」
今度は花柄のホルターネックで出てきた。ん〜〜〜、可愛いけど、胸の小さいカグヤちゃんには似合わないかも?
「得点は?」
「2点。水着は可愛いけどカグヤちゃんには合ってないと思う」
「3点ね。定番よ」
「3点。ちょっとひねりがなかったかしら? 可愛いけど」
「合計8点! これは意外に悪印象だったか!?」
「すずか様のコメントが一番救われました」
再びカーテンに隠れるカグヤちゃん。
そしてすぐに着替えがされる。
「エントリーナンバー三番、そろそろ種類が変わってくるぞ! フリル付きワンピース!」
「フリルがなければマシだったのですがね……」
今度のは柔らかなラインにフリルのついた白のワンピース。これは結構可愛い! でも個人的には色はもう少し大人し目が良かったかな?
「5点。色違いを見てみたいかも」
「同じく5点。もっと上があると見たわ!」
「4点。私ならもっと可愛くできる自信があるわ」
「合計14点! いよいよ盛り上がってきたという事でしょうか!?」
「これまだやるんですか? そうですか……」
またカーテン。そして着替え!
「エントリーナンバー四番、ちょっと種類を変えてタンキニ!」
「動きやすくていいです。個人的にはよろしいかと」
スポーツ系、って印象がありますね。ローレグのボトムが綺麗で細い足を惜しげもなく出している姿が魅力的でもあるけど、なんだがカグヤちゃんらしくない気がするかも?
「得点の程は!?」
「ん〜〜、5点かなぁ? 魅力的だけどカグヤちゃんとしては違うかも?」
「7点あげるわ。なんとなく印象的にあってるような気もするし」
「0点。可愛くないわ!」
「合計12点! 点数の上下が激しい! これは好みを分けたか!?」
「忍お嬢様? 可愛いは絶対条件なのですか?」
カグヤちゃんまた御着替え。
「エントリーナンバー五番! ここに来て露出度アップ! セクシースタイルのビキニだ!」
「軽く死にたくなります……」
カグヤちゃんは気に入らないみたいだけど、黒のビキニはクールな顔に似合っていてドキドキしてくる。でも、ちょっと大人っぽ過ぎる気もするかな?
「さ〜〜、気になる得点は?」
「5点。将来に希望」
「5点。大人になったらもう一度着てもらうわ」
「5点。大きくなったら私が特別に作ってあげるわ」
「合計15点とこれは意外な点数! 現在評価と言うより将来点と言った感じかな〜!?」
「カグヤの将来、お先真っ暗です。重く死にたいです……」
カグヤちゃんが自分の死を願ってしまいました。すごく似合ってるのに……。
「さぁ、お次はエントリーナンバー六番!」
今度は題材無しに出てきたカグヤちゃんは、なんと、麦わら帽子にタンクトップ、面積の広いボトムで、腰にはパレオを巻いています。ここに来て無造作だった長めの髪は、後ろで纏められて三つ編みにされていました。
「「「10点!」」」
「なんと聞く前から満場一致の満点だ!?」
「まあ、着れないわけではないですね……、ビキニよりマシです」
カグヤちゃんも気にいってくれたみたい! これで決定みたい!
「では最後に! エントリーナンバー七番のローレグで締めたいと―――」
「「「「却下ッ!!」」」」
「まさかの満場一致!?」
「カグヤちゃんは露出担当じゃないんです!」
「どさくさにまぎれて子供になんてもの着せようとしてるんですか!?」
「昨今、年齢に対する色気のシーンは規制が強くて発禁物になるのよ!」
「ああ……、今だけはカグヤは皆様の発言が素直に嬉しく思えます。忍お嬢様は微妙ですが……」
とりあえず、カグヤちゃんの水着は決まりました。なのはちゃんが帰ってきたら、温かい内にまた皆でプールに行きたいな♪
この日。私は『カグヤちゃん遊び』を覚えました。
カグヤ view
管理局との契約から九日経ちました。
今日は八束神社で龍斗のお姉さまと色々相談に乗ってもらいました。土地管理に必要な知識として、今度危険な歪みが襲ってきた時はどうすればいいか? その色はを全部叩き込まれました。正直、憶えるだけなら苦もなかったのですが、それを実行できるかとなってくると内容の難しいモノばかりです。何に手を付けても失敗してしまうのではないかと恐れてさえしまいました。直ぐに活を入れられ考えを正されましたがね。
さて、カグヤ、実は今日は高町家の道場に来ています。恭也さんに頼み、恭也さんの師匠であり父親の高町士郎さんに実践稽古を付けてもらえる事になりました。
「無理を言ってすみませんでした」
「いや、君の生い立ちは恭也からも聞いているからね。力になれる事があるなら、いくらでも貸してあげるよ」
「それではお言葉に甘えて……、カグヤの本気(反則)の相手をしてもらいたいのです」
「反則?」
「理由は申し訳ありませんが語れません。ですが現在、あなたほどカグヤの相手に相応しい相手を知らないのです。……いえ、後二人いるのですが、片方は現在遠出をしていますし、もう片方には既に多大な迷惑を肩代わりしてもらっておりますので……」
「ははっ、そうか。……いいとも、全力で来てくれ」
そう言って士郎さん―――いえ、士郎様は木刀を一本構えます。
「では……」
それに合わせ、カグヤも振袖に忍ばせた訓練用に歯を落した短刀を二本、手に滑らせます。
―――掴むと同時にクイック・ムーブにて先手を試みます。容易く弾かれ、身体が上方へと弾みました。空中に居るまま蹴りを突き出し敢えて防御させます。その防御を足場に跳び去り、距離を取ろうとしたのですが、次の瞬間に背後に周れていました。さすがに速いです。
「藺(いぐさ)」
振袖からこっそり取り出した札を一枚、背後に廻して術を発動。目暗ましの閃光が迸り、一瞬士郎様の行動を妨げ、回避の隙を作ります。相手に向きを合わせながら跳び退り、振袖から弓を取り出し、素早く矢じりの無い『劣化矢鳴り』を番え放ちます。「ピイイィィィーーーーーッ!」と、鳥の鳴き声の様な音を鳴らしながら、三本の矢が瞼を閉じた士郎様に迫ります。
当たるとカグヤは思いました。しかし、士郎様は瞼を閉じたまま、正確に矢を躱され、それどころか攻撃に転じて来たのです。
「カグヤは自分の技が反則だとは思いますが……! 士郎様の実力は充分に規格外の域なのですね……!?」
思わず理不尽だと文句を口にしてしまいながらも、放たれる木刀を弓でいなし、なんとか避けます。感触から、加減してもらっている事は解りますが、それでも魔力で強化したカグヤが限界ギリギリでなんとか躱せる速度。充分脅威に過ぎます。
「はっ!」
なんとか攻勢に出ようと、カウンターを放ちますが、それら全てに合わせられ、軽く回避されてしまいます。しかもこの間、士郎様は先程瞑った瞼を開いていないのですから驚愕ですね。
体術も織り交ぜ、反則覚悟の殺しの技まで試しましたが、全てが見苦しい苦し紛れの者ばかりでした。
「はい、これでお終いだ」
「し、しま―――っ!? あうっ!!」
いつの間にか肩を掴まれ、それに気付いた時には片手一本で投げ飛ばされて床に叩きつけられてしまいました。受け身を取ったのにこの一撃でもうノックダウンです。投げられたと言うより落とされた様で、身体の芯にまでダメージが伝わっているように思われます。
「やはりお強いのですね……、恭也様と美由希様には、反則を使えば勝てるかも、とも思ったのですが……、今日の事で良く解りました。あのお二人も本気ではないのですね」
「今のでそこまで解るのかい?」
「技を見ればある程度は……、『見る事』だけは一流になるまで鍛えてもらいましたから……」
それも、環境と言う、最も身近なものから……。
「そうか……。さて、どうする? 少し休んだら続けるかい?」
「やめておきます。情けない話ですが、今の一撃で身体が完全に動かないのです。それに、どうやらカグヤは士郎様に立ち合うのは少々早計が過ぎたようです」
この殿方の相手をするには、最低でもあと十年の修業が欲しいです。土地の霊力を借りればもっと早いかもですが、なんとなく出力上げただけの戦闘では勝てない気がするんですよね。これがキャリアの差と言うモノでしょうか?
修行後、翠屋でお菓子を誘われたのですが、カグヤは遠慮させてもらう事にしました。甘いモノはあまり好きではないのです。義姉さんが生きていた時に甘味と言われ団子と御雑煮を頂きましたが、それほど好ましいとは思いませんでした。女性は大変甘いモノが好きらしいですが、ここだけは理解できかねますね。
とりあえず今日は、久しぶりに土地の龍脈を直接探って行ってみる事にしましょう。せっかく安定しているのですから、細かい部分を修正しておいてもいいかもしれません。
そう思って土地周辺を周ってみると、やはりと言うべきか、あっちこっち細かい歪みが生まれていました。アレだけの惨事が続いたわけですし、仕方ないのかもしれませんね。
要所要所に『矢鳴り』を撃ち込み、龍脈の細かい修正を加えて行きます。これで物の怪の発生が無くなってくれればいいのですが……。
「わんわんわんわんわんわんっ」
「え?」
いきなり背後に迫った泣き声に振り向くと、そこには大量の犬達の群れが〜〜〜〜!?
カグヤ襲われています! じゃれると言う名の強襲です! 顔を集中的に舐められ、口が開けません!!
「こ、こら! アンタ達大人しくしなさいっ! こら! 聞きなさいよ! ……このっ! Be quiet!」
最後の言葉に反応して犬達が静まりました。た、助かりましたが、犬相手に抵抗できないとは……、すずか様の使用人としても土地守としても情けないですね……。
「あ、あの! 大丈夫ですか!? ……って、カグヤ?」
「こ、これはこれはアリサ様、そうですか、アリサ様が犬の散歩中だったのですね……」
珍しいですね。アリサの御屋敷も広いですから、犬くらい放し飼いにしていそうなものですが?
「まあね、たまには遠出させてあげようと思ったらこうよ。はしゃぎ過ぎて困るわ」
「そう言う事でしたか。散歩はまだ続けますか?」
「ええ、……よかったら一緒する?」
そんな照れくさそうに言われましても、カグヤ東雲のお仕事中なのですが……。
「そうですね……、カグヤにもやる事がありますが、町を散策する意味では同じですし、ルートをカグヤが決めていいのでしたら、お付き合いしますよ」
「そ、そう? じゃあ行きましょう!」
とは言えカグヤ、手が届く時はアリサの支えになると約束してしまいましたし、今日くらいは良いでしょう。
「しかしアリサ様? お一人で犬の散歩をなさっているのですか?」
「まあね、自分の我儘で飼ってるようなものだし、私がちゃんとお世話しないと」
「いえ、そう言う事ではなく……、お一人のこの数を一度に散歩させるのは色々どうかと思いますよ?」
アリサと体格の変わらない大型犬が五匹は色々問題があるでしょう? 犬が暴走したらどうやって宥めると言うのでしょうか?
「大丈夫よ。この子達皆いい子だから」
「そう言えば、先程アリサ様の命令にちゃんと従っていましたね。教育が行き届いているのですね。羨望します」
「そ、そんなに褒める事無いわよ! 動物を飼うモノとして当然だし! このくらいすずかだってやってる事でしょう?」
「いえ、それはありませんよ」
「そ、そうかしら?」
「はい、カグヤもこの子達を見習って、使用人の心を磨きたいものです」
「は……? え? 羨望ってそっち? アンタ犬に憧れてるわけ……?」
「主に従順なその姿は、使用人の姿に似た物を感じました。カグヤもすずか様の犬と言われるほど、素晴らしい従者となりたいと思います」
「……カグヤ、それだけはやめなさい。なんて言うか……あんたには似合わないわ」
なんとっ!? アリサが視線を逸らしてまで否定なさるとは!?
「それほどにカグヤは使用人として向いていませんか?」
「いや、そうじゃなくてね……、っていうかすずかならどっちかって言うと猫の方が好きなんじゃない?」
確かにすずか様は猫好きですね。お屋敷にも大量のな子が保護されています。
「しかし猫の、自由奔放さは使用人とは違うような気がするのですよ。どちらかと言えばアリサ様に似ている所があるかと?」
「私はすずかの猫!?」
「アリサ様を動物に例えただけでございますよ」
カグヤは笑いながら冗談でアリサの頭、普段猫達にするように撫でて差し上げます。すると何故か赤くなったアリサがその場で固まって、何か言いたげに口をもごもごさせます。結局何も言わずにされるがままなので、カグヤ、ちょっと悪戯心が久々に揺さぶられました。
両手を使い、頭だけでなく頬を撫でたり耳を優しく触れたり、顎の下に指を滑らせたりして、アリサ様の反応を楽しみます。
「あっ! ……ちょっ、くすぐった―――ッ! ひゃっ! はふぅ……、は……、んっ! やあん〜〜! ふわあぁあぁ〜〜〜……っ!」
赤い顔でぼう〜〜っとしてくる表情がなんだか楽しくて、震える声に胸が躍って、何だかこれ、かなり病みつきになるんですが!
ああ〜〜……! もっと何かしたいのですが、カグヤのボキャブラリーここまでしかありません! もっとカグヤに知識があれば、この悪戯心を全開に活用できると言うのに!!
額を優しく撫でたり、出てもいない涙を拭う様に親指で目元を撫でたり、うなじの方に手を滑らせたて、犬にするみたいに背中にまで手を長く撫でさすったり。っと、ここまでは順調にヒートアップしたのですが、この先がどうして良いのか解りません! この半端な気持ちを解消する方法はないのでしょうか!? せっかくアリサが我を失っているのですからこの隙に〜〜〜!!
「う〜〜〜……っ、わんっ!」
「……はっ! い、いいぃぃ〜〜〜つまで触ってるのよ!?」
ああ! 犬の声でアリサが我に返ってしまいました! 何と勿体無い!?
「残念です……、もっと悪戯したかったのですが……」
「自覚あってやってたの!? この変態!」
「変態とは言うのは止めてもらえませんか? それではアリサ様が変態に玩(もてあそ)ばれる愛玩動物のようではないですか?」
「なんでそうなるのよ!?」
「先程の光景を傍から見た方は皆同じ感想を抱くと思いますよ?」
「わ、私は別に―――!!」
「なでなで……」
「あ、ふぅ〜〜〜……」
「アリサ様は人恋しい猫だと言う事が良く解りました」
「ハッ!? し、しまった! 違うのよ今のは―――!?」
「さすりさすり……」
「ひうんっ! わ、解ってるのに……っ! ほにゃあぁ〜〜〜ん……」
「アリサ様? よろしければ首輪を付けてもいいですか?」
「いい加減にしなさ〜〜〜〜〜い!!」
最後は殴られて終わりました。それでも、そんなおふざけの日々が不思議とカグヤの心を動かすをの感じて、日常とは大切なものなのだと思いました。
この日、カグヤは『日常』と『冗談』と……『充実』を覚えました。
説明 | ||
カグヤは原作介入なんてしないからね………。 どっちかっていうと龍斗が介入しまくってるけど、この話はあくまでカグヤが主体なのです。 今回は日常編をお送りします。 移転者だからね……。ルビは諦めモード……。 |
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