相良良晴の帰還2話
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目を開けると、広がるは五十年以上昔の光景、この世界に降り立った最初の場所。

 

・・・つまりは戦場だった。

 

『本当に戻ったのか・・・』

 

自在に動く若返った体を感慨深く見つめたのもつかの間、学生服という戦国時代では奇抜としか取れない服のせいで、かつてと同様、両軍ともに敵と認識された。

 

「くたばれみゃあ!」

 

突き出される足軽の五本の槍。

 

だが、かつては避けるだけで精一杯だったそれは、今の良晴にしてみれば、へっぴり腰で突き出された、ただの棒でしかなかった。

 

扇の骨組みのように自分に集中した槍を右斜め前に踏み込む事で避け、右端の足軽のこめかみに拳を叩き込む。

 

「んがっ!」

 

側頭部への衝撃を受けた足軽の意識が飛ぶのにあわせ、良晴は緩んだ手から槍を奪い取った。

 

槍を取られた事に気づく前に再び足軽にはしる衝撃。

 

側面から加えられた打撃によりドミノ倒しのように倒れる足軽達を尻目に、良晴は全力でで林へと走りこむ。

 

『これで、平原に居るよりは目立たずに済む。が・・・』

 

わずか十秒足らずで五人を倒した良晴の脳裏に浮かぶのは、先ほどの勝利に対する満足ではなく、周辺の地理と兵の配置、そして現状の危険性であった。

 

どんな精強な兵でも数を減らされ、疲労すれば落ち武者狩りで農兵にすら殺されるように、数の不利というのは、それ一つだけで大きな敗北要因となる。

 

無論、戦術や武装により覆ることもままあるが、いくらなんでも一人でこの戦場を制覇出来ると思わないし、思えない。

 

だから良晴は、思考する。

 

かつての己が悪運のみで開いた道を、蓄えた知識と経験で最大限補う。

 

五十年前の出来事全てを思い出す事は出来なくても、戦場のイロハについては人生の大半を費やして学んできた。

 

戦列の配置から見て・・・

 

『この位置にある林に誰もいない訳が無い・・・』

 

右手を大きく後ろに引き絞る。

 

「っらあ!!」

 

気迫を込めた一喝と共に投げ込まれた槍により、林の奥で突然の闖入者に狙いを定めようとしていた弓兵たちは動揺した。

 

『自分達は敵に見えない安全な所にいる』伏兵たちの利点は、同時に弱点にもなりうる。

 

ついさっきまで、平原で戦う槍兵達に守られていた彼らの前に大声と共に突き刺さった槍は、彼らの胸に動揺を抱かせるには十分だった。

 

結果・・・その一瞬で飛び込んだ良晴により、弓兵三人は、両手で顔面を殴りつけられ意識を飛ばされたたあげく、その包囲を破られることとなった。

 

瞬く間に包囲を破りながらも、良晴の胸にあるのは不安であった。

 

『逃げ切れるのか・・・』

 

かつて悪運のみでも良晴は生き残れた。

 

が、しかし戦場に絶対は無い。

 

かつてと違い、意図的に流れ弾や矢に当たらぬよう木を背にジグザグに走りながらも、良晴の意識から不安が消える事は無かった。

 

確か・・・このまま行くと・・・

 

記憶を掘り返しながらしばらく走りこんだ良晴の目に映ったのは・・・

 

丸印に二本線、『今川義元』の本陣であった。

 

                    ※※※

 

『どうすればいい』

 

追っ手の位置からしても、本陣の方向に逃げるしかないというのは分かっている。

 

かつての自分も切り抜けた事も分かっている。

 

しかし、『だから、今回も大丈夫』と楽観できるほど、良晴は戦場を楽観視出来なかった。

 

初めてこの世界に来たときより研磨した武術に自信が無いわけではない。

 

だが、その力が十全に発揮出来るのは、自分の愛刀や武装を全て装備した状態である。

 

今現在、徒手空拳で全て打ち倒すのは無理があった。

 

極端な話、前後左右から矢を撃たれればそれだけで人生終了になる可能性すらあった。

 

そこまで考えを及ばせながら、良晴はかつて未熟な身で五体満足で戦場を脱した自分の悪運さに苦笑を漏らした。

 

まあいい、サルらしく『サル芝居』でも打ちますかね。

 

良晴はこそこそ本陣に入ると、素早く周囲を見回した。鎧を見分ける必要は無い。

 

彼女の衣装は、平時ならともかく、戦場では『奇抜』という一言に尽きる。

 

幕より顔を半分出して覗き込むと、すぐに見つかる派手な十二単(じゅうにひとえ)。

 

その衣装の主こそ、この世界での今川義元であった。

 

顔を確認した良晴は、すぐに彼女に駆け寄ると、立て膝をつき、臣下の礼を取る。

 

ここまで来て、曲者と判断され矢でも射掛けられたら目も当てられない。

 

「この辺りの豪族の集落より参った。俺を家臣にして頂けないだろうか。」

 

跪きながら口にする言葉に、

 

「突然なんですのあなたは!イヤですわ!あなたみたいな怪しいものを我が今川軍に入れる事など出来ませんわ!」

 

即答される拒絶の言葉。まあ、こんな格好で、突然こんな台詞言われたら普通断るわなあ。

 

「元康さん、この不審者を斬っておしまいなさい。」

 

続けて出された命令により、眼鏡をかけた小柄な女の子、徳川家康・・・いや松平元康が進み出た。

 

あー、やっぱこうなるか。

 

「申し訳ありませんが、点数稼ぎのために犠牲になって下さい?」

 

「いや、それ謝ってねえよ。何処の世界に点数稼ぎで命取られるの承知する奴が居るんだよ。」

 

あんまりな台詞に突っ込みながら彼女の持つ刀に目を向ける。やっぱいい刀だな。

 

かつて必死で避けるだけだった時とは違い、構えられた刀を観察できるだけの余裕がある良晴の頭は、この後の戦闘のために、これを奪取することを決めた。

 

一撃で終わらせるために、脳天めがけ振り下ろされる元康の刃。

 

その刃を半身になって避けると、ちょうど腰の高さぐらいにまで剣先が降りた。これで一時的の刀が『死に体』に、攻撃が出来ない状態になる。

 

この隙に前に踏み込み拳で篭手(こて)の上から手の甲を叩き、鞘を掴みながら後方へ元康の身を蹴り飛ばした。

 

地面に落ちる刀と、手に残った鞘。

 

「その身のこなし、乱波(らっぱ)(忍者)に違いありませんわ!ものどもやって・・・」

 

「坊主、こっちみゃー!」

 

素早くその鞘に納刀すると同時に、彼に脱出路を指す一人の足軽。

 

その言葉に導かれ、彼は再び林の中へ身を隠した。

 

今度こそ織田の本陣へと向かうすがら、良晴は戦場の状況を把握するため、足軽と話し合うと、やはり、かつての記憶の通りの状況であった。

 

この足軽の名は『豊臣秀吉』。

 

農民上がりの兵で今川軍に仕官するも、血筋を重視する今川軍内では出世の見込みが無く、実力主義の織田軍に仕官したかった。

 

そのため何とかつなぎをとりたいと思っていたところ、明らかにこの辺りでは見られない変な衣装で本陣に入り込み、士官をしたいなどと気の触れたような事をのたまいながら、素手で相手の刀を奪い取った良晴を、織田の乱波と思ったらしい。

 

うん・・・改めて口にされると凹むが、まあ、確かに言われてみるとヤバいな俺。

 

少し落ち込みながら、良晴は、秀吉と織田軍の陣地へと歩を進めた。

 

この後、今川軍の追撃を受けつつ向かうすがら、前回と同様、秀吉は死の運命から逃れる事が出来なかった。

 

良晴が見殺しにした訳ではない。

 

流石に彼も、たった二人で弓矢と火縄銃の雨をくぐっている状態で、相手の身まで庇うことは出来なかったのである。

 

追っ手を振り切り、秀吉の最後を看取った彼の前に現れる、懐かしき女性。

 

忍び装束に身を包む真っ赤な眼の小柄なこの女性の名は『蜂須賀五右衛門』

 

かつて、良晴が一介の足軽から関白になるまで、公私共に支えてくれた、大切な女性であった。

 

「そうか、木下氏はお亡くなりになられたでござるか、残念でござる。」

 

事切れた秀吉の遺体に眼を向け、そうつぶやくように話したのち、彼女は良晴の眼前まで近づき目を合わせると簡潔に用件を話しはじめた。

 

「拙者の名は蜂須賀五右衛門でござる。これより木下氏に代わり、ご主君とにおちゅかえするといたす。」

 

久しぶりの噛み台詞を聞きながら、良晴は気を引き締め直した。そうだ、懐かしさに浸っている暇などない。ここから全てが始まるのだ。

 

「や、失敬、拙者、長台詞が苦手ゆえ」

 

「いや、構わないよ。逆に俺なんかが主君で構わないのかい?故あって遠方から来たものでね、親類と呼べるものが一人も居ないんだが」

 

「構わぬでござる。」

 

その了承の言葉と共に、彼は再び、この地での最初の仲間を得た。

 

(第二話 了)

 

説明
織田信奈の野望の二次創作です。素人サラリーマンが書いた拙作ですがよろしければお読み下さい。注意;この作品は原作主人公ハーレムものです。又、ご都合主義、ちょっぴりエッチな表現を含みます。
そのような作品を好まれない読者様にはおすすめ出来ません。
追記:仕事の合間の執筆のため遅筆はお許し下さい。
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タグ
織田信奈の野望 ハーレム ご都合主義 

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