■12話 三つ巴の戦い■ 真・恋姫†無双〜旅の始まり〜
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■12話 三つ巴の戦い

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今時雨を巡って三つ巴の始まったのだが、無関係であるはずの一刀にはなぜだか嫌な予感しかしない。

 

「どうやって勝敗を決するんや?」

「そうね、やはりここは誰が時雨にふさわしいか文武を競うべきね」

「……それでいい」

 

時雨が倒れてしまったのに誰が解放するかで勝負にまで発展するのは呆れてしまう、しかもその話の過程で看護するはずの時雨を床に放置している時点でかなり酷いと一刀は思う。正直綾達が時雨をダシにして好き勝手しているようにしか見えない。

 

「まずは武ね!」

「でも、どうやって競うんや? そのままの武なら恋がかつんとちゃうか?」

「あれ? そうかな、私は勝てるよ」

「っな、ほんまかいな」

「でも私というより私たちだね。なんたって黄巾党の討伐でつかれきってるんだし三人でやってもいいでしょ?」

 

綾が言い出した言葉を聞いて思わずぎょっとする。何で俺がこんな恐ろしいことに加わらないといけないのか分からない。逃げよう、うん、そうしよう。

 

思うと同時実行に移ろうと一刀は言い争いを続ける綾達に背を向ける。一瞬このままなら逃げ切れると思った一刀の希望が、ガシッと容赦なく綾に肩をつかまれた事で捻り潰されていくのが一刀にはわかった。オワタとそう思う一刀を無視して綾、恋、張遼の3人による話は尚も続いていく。

 

「別にかまわんけど、そんなんで恋に勝てるとおもわんほうがええで?」

「わかってるわよ」

「…私負けない」

 

思ったよりも呆気なく3人で参加することが了承されてしまった。一刀としてはせめて男は外せとか言ってもらいたかったのだが、この3人からすれば男の方がひ弱に感じる為それはありえない事は重々承知している。

 

「それじゃ対戦形式は一対一でそれぞれと戦うってことで、私たちは常に三人だけどね」

「別にそれでかまへんよ」

「……それでいい」

 

これから己の身に起こるであろう悲劇に嘆く一刀と看病はしたいが言い争いの不得手なかごめが静観する中、話し合いは着実に進んでいく。

 

「それじゃ第一試合は張遼さんと恋さんってことで」

「ちょい待ちい、なんでウチらが最初やねん。そら恋と戦えるのは嬉しいんやけど、恋やって黄巾党と戦ったんやろ?」

「ああ、それは問題ないと思うよ。恋さんが参加したのは途中からだし、それにどちらかといえば私たちの方が体力ないですし……丁度いいんじゃないかな」

「え? ほんまかいな恋? それやとあんたらが恋が来るまで3万相手の凌いでたんか?」

「……ホント」

「もちろん!」

 

途中参加の恋やその私兵が圧倒的多数を打ちとったのはもちろん秘密ではあるが、実際体力的には切羽詰っているのは確かだ。

 

「ほー、あれだけ言うだけの強さやな……ならええわ、始めよか。恋、準備はええか?」

「……いい」

 

張遼が闘志をむき出しにして笑みを浮かべるのに対し、己のペースを乱すことなくいつも通りにコクリと頷き、己の武器を構える恋。けれどそこへさきほどまで事の成り行きを見守っていたはずの陳宮がいきなり駆け寄っていく。

 

「恋殿?、あんな男のために戦う必要などありませんよ」

「ねね……私頑張る」

「き、聞いてください?!」

「漫才はそのへんにしといてもろか。それじゃいくで」

 

恋を戦わせないようにと頑張る陳宮をよそに恋と張遼の戦いの火ぶたは切って落とされた。もはや不意打ちと言っていいほど、陳宮と話す恋にお構いなしに偃月刀を振り下ろす。

 

「今回は勝たせてもらうで! っせやぁああああああ、せい! っはぁあ!」

 

張遼の高速で突きだされる偃月刀の刃が恋に降り注ぐ。まだ油断のあった時雨との戦いの時に見せなかった正真正銘、張遼の真骨頂とも呼べる攻撃法だ。それだけ本気を出さないと勝てない相手だと理解しきっているからこその全力全開の攻撃である。

 

「手加減しない……勝つ」

 

張遼の高速の攻撃に対してのんびりしている様な緩慢な動きで方天画戟を動かし、必要最低限の動きでそれを捌いていく。

 

互いに触れ合う武器と武器が小さく火花を散らしていく。恋の動きにはまだ余裕はあるが、張遼の速さも衰えを見せない。これは長期戦になるかもしれないという予感をその場に居た者に抱かせた次の瞬間、呆気なく勝敗が決した。

 

カランッカランという音を靡かせて張遼の持っていた武器が吹き飛んでいたのだ。

 

「あちゃー、また負けてしもうた……」

 

張遼が素直に負けを認めたのだから何かされたのだろうという事はわかるが、出番待ちの3人には攻撃が早すぎてその動きを捕えることが出来なかった。

 

(な、なぁ。本当に呂布に勝てるのか?)

(だ、大丈夫。かごめと一緒に考えた策があるんだ)

(時雨……の、ため……考え…た)

 

先ほどの戦いについて張遼と恋が話し合っている間に3人は囁き合い、作戦の立てていく。といっても綾は頭が残念だし、かごめと一刀は策をひねり出せるほど色々学んでいない。

だから綾とかごめの出した策と言うのには僅かに信用ならない部分もある。けれどそれ以外に方法がないのならやるしかない。かごめが関与しているなら最悪の事態は防げるかなと一刀は呑気に思う。

 

(へぇ、あの呂奉先を倒す策ねー。それはいったい?)

(えっとね、あの呂布って人は時雨と同じ匂いがするの、それに時折部屋の隅っこに居る犬を気にしてたし、大丈夫だと思う)

 

綾の説明じゃいまいち容量を得ないがなんとなく言いたいことは分かる。恐らくあの犬を使って何かやらかすのだろうが今の説明ではさっぱりわからない。

 

(?)

(一番いい作戦じゃない?)

 

混乱する中一刀1人を置き去りにして話は進んでいく、そんな中、一刀は思わざるをえなかった。時雨がいないとこの子達の相手は厳しいすぎると。

幼馴染話す様な要領でなんでも通じると思っている綾、そして口下手なかごめ、このメンバーに言える一つの共通点は言葉がたりないという事だ。

根気強く相手をすればきちんと理解する事も可能かもしれないがこの場でそんな悠長に聞いていられるほどの時間はない。

 

俺生きていられるかな……と不安しか募らない一刀だった。

 

「それじゃ次はどないするんや?」

「んー、次は私たちと張遼さんでお願いします」

「いいで、恋には負けてしもうたけど。もう負けへんで」

 

あれ? 張遼相手にどう戦うんだ? 張遼対策については何も聞いてないぞと一刀が思っていると綾が囁いてきた。

 

(一刀、前練習したあれやるよ)

(あれ? あれっていうと?)

(三位一体? ってやつ)

(ああ! あれをやるのか!)

 

綾からそれを聞いた瞬間一刀のテンションは最高潮に達した。あれは単純に時雨と皆で面白半分でやっていた技なのだが、殺し合う様な実戦で使える技ではない。けれどこの場において、1対1言う状況がこの攻撃の真価を発揮させると思うと興奮せずにはいられなかった。

 

(一刀……前)

 

かごめの囁きで一気に奈落の底へ突き落とされた一刀は恐怖し感じなくなった。あの練習通りにするとしたら不意はつけるが前衛は最悪といっても過言ではない。

 

(まじで?)

(まじ)

 

状況は一刀に停滞を許してはくれないようだ。仕方なしに張遼の前へと進み出る。

 

「どないしたんや? さっさと始めようや」

「わかった。ほら一刀、やるわよ」

「わ、わかった」

 

こうなったらもうやけである。ネタを本番で使えるなら決死の覚悟をしてやると無駄な決意をして叫びを上げる。

 

「行くぞ、綾、かごめ! ジェッ○スト○ームアタックをかける」

 

「おう!」「……おう」

 

掛け声と共に一列に整列する3人、張遼から見れば一番背の高い一刀のみが見えて綾とかごめはその陰に隠れている形となっている。

 

「なにするかしらんけどさっさとかかってこいや!」

 

挑発を続ける張遼に一刀たちは列をなしたまま突っ込んでいく、この時ネタセリフを言い放った一刀は気分が高揚しており、一時的にとはいえ怖いもの知らずになっていた。

 

「うぉぉおおおおおおお!」

 

一刀がためらわずに張遼へと剣を叩き込む。叩き込んだところで張遼と一刀の実力の差はいかんともしがたい。もちろん剣を弾かれる結果で終わってしまうが……これはいわば前座である。続いて綾が一刀の陰から躍り出る。それと同時に一刀の背を思いっきり押した。

 

予定になかった綾の行動に一刀はバランスを崩してそのまま張遼の元へと突っ込んでいく。本来なら正面から1対1を引き受けるのが一刀の役割だというのにそれが瓦解してしまった瞬間である。

 

「ちょ、まちいな!」

 

予備動作のなかった一刀の行動に驚きながらも得物で迷わずぶっ飛ばす張遼。

 

「ぐはっ……」

 

一人の尊い犠牲が出たにもかかわらず綾たちは別段気にしない、それよりも今は張遼が本能的な防衛の為に武器を振り切った事の意味の方が大きい。

 

「次行くよ、せいっっはぁあぁあああああ!」

 

張遼がまだ構えきっていないその隙に張遼に豪撃を叩き込む。けれどその程度でやられるほど軟な張遼ではなかった。

 

「っく、やるやん!」

 

少し顔をゆがめながらも綾の一撃を受け止めきる。この時張遼は一刀を沈めたことと、綾の必殺の一撃を止めきった事で油断してしまった。一騎打ちの様な空気が綾と張遼の間に漂う中、お構いなしにかごめが横に飛び出し張遼に矢を放つ。もちろんやじりは潰してある。

 

「……っや!」

「あいた!」

 

かごめの矢が見事に張遼の不意をついて額に当たる。かごめの体が小柄で発見されにくかったのも張遼に一撃を充てる事に成功したのが大きい。

 

「っはい私たちの勝ちー」

「え?、そんなぁ……また負けてもうた」

 

しょぼくれる張遼、3人がかりで倒したので少し可哀そうではあるが、勝負の世界は厳しいものだと3人は己に言い聞かせてあえて無視をする。

けれどこの場にもし時雨が居ればきっと気にせず撫でて慰めていただろう。とはいってもその時雨本人は絶賛爆睡中なのでそんなことは起こりえないのだが。

 

「それじゃ次は呂布さんとだね」

 

綾が挑むように凄みを聞かせて恋を見る。けれどさして気にした風も無くひょうひょとした態度を崩さずにコクリと頷く。その姿を見て綾は意味ありげに微笑む。

 

「それじゃやろうか」

「……呂奉先、参る」

「待った」

 

やろうかと言った次の瞬間には戦闘を止めた綾に疑問符を浮かべながら首を傾げる恋。その姿を微笑みながら見つめ、近寄ってきたかごめから渡されたものをそのまま恋に見える様に抱き上げる。

 

「実は部屋の中でこんなものを拾ったの」

 

そういって前に押し出したのは赤いスカーフを巻いた犬。それは恋の愛犬であり、家族である犬だった。

 

「……セキト」

「へぇ……お知り合い? 実はこの犬美味しそうだと思ってたんだけど食べてもいいかしら?」

 

ガクガクブルブルと露骨に震えだす恋。さきほどまでの無表情とは違い明らかに顔が青くなっている。

 

露骨に怖がる様子を見て予想通りだったことと、恋か攻勢に出て来なかった事に幾ばくかの安心を覚える。この策は時雨と同じ匂いが恋からしたため思いつき、セリフはかごめが考案した策だ。恋から感じた匂いは獣の臭さと呼ぶべきか、動物好きが大抵身に纏っている匂いである。

 

「食べないで上げるから降参して?」

 

綾の無慈悲な言葉に顔を青くしながらコクコクと勢いよく上下に頭を振る。時雨よりもセキトの方が優先度が高いはあたりまえだ。

 

「ちょ、卑怯やなー自分ら」

「戦いに卑怯なんてない、これは見事な策! 私たちの勝ちね。それに本当は食べる気なんてないもの、時雨の看病さえできればそれでいいのよ………ふふふ」

 

ほくそ笑みながら口にした言葉に恋が安堵していつもの表情に戻る。もちろんセキトを回収する事は忘れない。

 

そうして見事武? の勝負で勝利を飾った綾はかごめをつれて景品の時雨の様子を見に……行こうとしたのだが肝心の時雨の姿が見当たらない事にやっと気づいた。

 

「時雨……どこ?」

「誰が時雨をとったの!?」

「ウチはしらんで? ずっと戦いみとったからな」

「恋も……」

「ねねも知らないのです!」

 

周りをにらむ綾とかごめ。けれど戦いを観戦、もしくは参加していたのだからこの場の誰も知らないのは確実だった。

 

「まさか自分で起きて……?」

 

結構長い時間が立っていたことに気づき、絶望する綾とかごめ……。最近一刀がいるせいもあってあまりべたべたすることも出来ず、本当に時折甘えるぐらいしかできなかった、そして今回盛大に甘えるせっかくの機会を取り逃してしまったのは2人はかなりの痛手を精神的に被っていた。

 

へたりこんだ綾とかごめを見て一刀はあんな策を弄したのだから自業自得なのかもと思わずにはいられなかった。

 

「武の勝負は終わりよったから、次は文の勝負もやろかとおもっとったけどこれじゃあ無理やな」

 

呟くように言葉を吐き出し、綾とかごめを見る。まぁ卑怯な手もつこてたし同情の余地なしやなと思い、けれどもこちらが思いつきもしない戦法を駆使する3人と知略を競うと面白そうだと思っていただけに残念な張遼だった。

 

しばらくして恋と陳宮が調練場から出て行った。どうやら興味をなくしたらしく、家に帰るらしい。となるとその場に残った張遼が綾達の相手をしなければならず

 

「ウチがこいつら案内せなあかんのかいな……」

 

といいつつ張遼は自分の動きの遅さを少しばかり恨めしく思うのであった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

三つ巴の戦いが幕をあけた頃、放置された時雨を見て賈駆は常識人として疲労困憊で倒れている者を放置する事が許せなかった。

 

「ボクには関係ないけど、この分だといつ終わるかわからないし」

 

そう自分に言い訳を聞かせながら賈駆は時雨を背負い、空き部屋へとゆっくりながらも進みだす。

 

「む、こいつ見た目と違って結構重いのね……まったく運んであげるんだから軽くなりなさいよね……」

 

恥ずかしさのあまり愚痴をこぼしながらもきちんと運んでいく、お世辞にも綺麗な運び方ではないが、日木津られるよりはましである事は確かだった。

 

ただ、賈駆が時雨を運ぶ道の途中でばったりその人物に出会ってしまった事が今日1日で起きた最悪の出来事だった。

 

「あれ? 詠ちゃん……どうしたのその人?」

 

ロリボディにロリフェイス、豪華な衣装を着飾っても可愛さは損なわれることはなく、より一層輝きだしている。そう、彼女こそ董卓その人である。

 

「え、あ! 月!? べべべ、別にただここに転がってたからどうしたのかなと思っただけだよ」

「そんなこといって、詠ちゃん優しいからその人運んでたんでしょ?」

 

いとも簡単に見抜かれる賈駆は狼狽するしかない。2人は親友なので当たり前といえば当たり前なのだが、こんな場面を人に見られるだけでも恥ずかしいというのによりによって董卓に見つかってしまった事が賈駆にとって何よりも最悪だった。

 

「……べ、別にあいつらが運ぶの遅いからボクが代わりにやってるだけよ」

「私も手伝うよ詠ちゃん」

「っな、月はだめだよ! こんなの触れちゃ」

「へぅ……、詠ちゃんは私のこと嫌いなの?」

 

董卓には賈駆の言い訳も毒舌も一切通用しない。逆に目をうるうるさせて董卓が聞いてくるその姿に賈駆はめっぽう弱かった。

 

「わ、わかったから。そっちの肩持って」

「えへ、詠ちゃんありがと」

 

手伝えることが嬉しいのだろう、笑顔を浮かべて董卓は片方の肩を持つ。賈駆の抵抗はその後も続いたが、結局は2人でずるずると空き部屋に運ぶのだった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

余談ではあるが、一刀は張遼の一撃から回復した後に綾とかごめがうずくまっているのを見つけて、負けたのかと思い優しく声をかけた。

 

「負けてもまた次があるよ……一緒にがんばろう」

 

と本当に優しさをにじませた言葉だったのだが、落ち込んでいる理由が全く違うため白い目で見られてしまった。

 

(なんでこんなんばっかなんだ……時雨はやく起きてきてくれ)

 

思わず心の中で愚痴をこぼしながら時雨の復帰を願わずにはいられなかったがすぐに時雨が起きてくるはずもなかった。

 

2人の冷たい目にさらされならがらも今までの道中の事をぐちぐちと綾とかごめの愚痴られて、一刀が疲れ果てて泣きそうになった。もし泣いたとしてもきっと誰も俺を責められない、そう思いながらも涙を流さずに聞き届けるしかない。

 

(起きなければ良かった……)

 

心の底からそう思って愚痴を聞き続ける一刀に張遼が少し同情していた。状況を見れば誰でも同じように同情しただろうと後に張遼は語ったとかそうでないとか。

 

 

 

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■後書き■

読み返すたびに修正点が見つかります。若干嫌になるのは皆さんも同じなのでしょうか……。

 

めげずに43話まで編集して再投稿する予定ですが、さすがに道のりが長いですね。

説明
編集して再投稿している為以前と内容が違う場合がありますのでご了承お願いします
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