真恋姫†夢想 弓史に一生 第三章 第一話 家族
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〜聖side〜

 

寿春を出て一週間。俺たちは荊州と揚州の境、夏口へと来ていた。

 

 ここ夏口は、長江に面しているだけあって、物の流通が盛んだ。市は発達し、人々は活気に満ち、小さいながらも雰囲気の良い町だと思える。しかし、こういった町は黄巾賊の格好の獲物になりやすい。出来るならなって欲しくないものだが…。

 

 

 俺たちは夕方にこの町に着いて、今日はこの町に泊まることにした。そして今は、芽衣と奏が日用品を買いに市へ、俺と橙里が今日の宿を探しに行っている。

 

「…なぁ橙里…。」

 

「ん?? どうしたんですか先生??」

 

「何でこうなってるんだ…?」

 

 

 説明しよう。今、俺の左腕は橙里に抱きかかえられるようになっているのだ!! つまりは、橙里が俺の腕に抱きついてるわけで…。

 

「だって、こうでもしないと人が多くて逸れてしまうのです。」

 

「いや、だったら手をつないでるだけでも良いだろうに…。」

 

「べっ…別に良いじゃないですか…。これでも逸れないですし…。」

 

「でも、これじゃあ動きづらいよ?」

 

「私はそうでもないです。」

 

「俺が動きづらいんだけど…。」

 

「…先生…ご迷惑ですか??」

 

 ぐはっ!!! 上目遣い+袖を引っ張るは反則だ…。

 

 世の男性の、キュンとくる女の子の仕草ランキング一位と二位のダブルパンチは、俺へのダメージが大きすぎる!!!

 

 そして、さっきから感じるその胸の感触がぁあああああ〜!!!!! 俺の理性が〜〜〜〜〜〜〜……。

 

 何とか理性に投げ縄して引っ掛け、戻ってきてもらい、橙里に向き直る。

 

 

「迷惑じゃないよ。橙里がこうしてたいならこのまま行こうか。」

 

「えへへ。じゃあこのまま行くのです♪」

 

 

 無邪気なその笑顔が可愛くて何となく頭を撫でる。

 

 

「やっ…やめてくださいです…。はっ…恥ずかしいです〜〜…。( ///)」

 

「ごめんごめん…。橙里が可愛くて、気付いたら頭撫でてた。(笑)」

 

「う〜……そんな事言われたら、嬉しくてどうにかなりそうじゃないですか…。(ボソッ)」

 

「んっ?何か言った?」

 

「なんでもないのです♪」

 

「そう…。じゃあ、買い物の続きと行こうか。」

 

「はいです!!」

 

 

 なんだか橙里の機嫌が良くなった気がするが…気のせいかな?? 

 

 まぁ、良いや。宿探しの続きだ…。

 

 え〜っと、そろそr『何しやがんだてめぇ!!』……んっ??

 

 視線の先には人だかりが出来かけていて、中には三人ほどの男と、その男たちに頭を下げている女の子…。

 

 

「何かあったのでしょうか??」

 

「行ってみるか。」

 

「はいです!!」

 

 

 俺たちは人だかりをかきわけ、一番前で事の成り行きを見守ることにした。

 

 

「どうしてくれんだよ、俺の服がビショビショじゃねぇか!!」

 

「ごめんなさい!!ごめんなさい!!」

 

「謝ったってしょうがねぇんだよ!!」

 

「…じゃ…じゃあどうすれば…。」

 

「あぁ〜そうだなぁ〜…。お嬢さん可愛いし、俺たちの相手をしてくれれば、このことを忘れても良いぜ!!」

 

「そっ…そんな!!」

 

「あぁ!? どっちが悪いか分かってんのか!?」

 

「……。」

 

 どうやらトラブルがあったらしいな…。

 

 一応、女の子が悪いんだろうが、謝っているし、男達の言葉は聞き捨てならん…。

 

 ここは…彼の出番だ!!

 

「何て奴らです!! こんなのがこの町にいるなんて考えられないのです!! 先生、私は我慢の限界です。先生も限界ですよね…。さぁ、行きますよ……って…あれっ?? …先生?? …先生?? …どこに行ったのです??先生〜〜〜〜〜!!!!!! ……もう、私一人で行くから良いです…。」

 

―――――――

 

 

「へへっ、素直に従ってれば、何も痛い思いしなくて良いんだぜ!!」

 

「そうだそうだ。大人しくしてれば、優しくしてやるぜ」

 

「お腹減ったんだな〜…。」

 

「いやっ、離して!!」

 

「その手を離すのです!!」

 

「何だぁ、お前は?? ってこっちも良い女じゃねぇか。俺たちと良いことしねぇか?へっへっへっ。」

 

「お腹減ったんだな〜…。」

 

 チャキ!!

 

「下衆が!!今なら痛い目見なくてすむですよ…。大人しくお縄につくのです。」

 

「おお、おお、血気盛んな嬢ちゃんだこと。 …だが、『チャキ』これでもまだやるかい?」

 

 

 男の剣先は、女性の首筋に当てられる。

 

 

「くっ!!剣を市民に向けるとは何事なのです…。」

 

「へっ、まずはその剣を捨てな!!」

 

「…。」

 

「早くしないと…。『ひっ!!!!』」

 

「ぐっ…。」

 

 仕方なく、剣を放り投げる。

 

「そう、それで良いんだ。そうだなぁ〜…。俺たちに歯向かった罰として、ここで全裸にでもなってもらおうか。」

 

「っ!! 何を馬鹿なことを言うのですか!!!」

 

「お前に選択権なんて無いんだよ!! 素直にやらねぇとどうなるか…分かるよな…。」

 

「うぐぅぅ〜…。」

 

どうやら、橙里が先走ったようだな…。まったく、あいつも女の子なんだから黙ってれば良いのに…。

 

なんにせよ、助けてあげないとね…。

 

「さてさて、待たれよ!! そこの女性の裸に興味はあるが…そろそろ横行はやめてもらおうか。」

 

「「誰だ!!!」」

 

「あっ!! あれは!!」

 

「知ってるぞ!! あれは!!」

 

 民衆の中からの、知っている発言に、テンションがあがる。

 

 

「皆、準備は良いか!?」

 

「「「おぉ!!」」」

 

「片手に!!」

 

「「「ぴすとる!!」」」

 

「心に!!」

 

「「「花束!!」」」

 

「口に!!」

 

「「「火の酒」」」

 

「背中に!!」

 

「「「人生を!!!!!!」」」

 

ビシッ!!!!

 

「…決まった…完璧だ…生きてて良かった…グスッ…。」

 

「…なんなんだ一体…。」

 

「お腹減ったんだな〜…。」

 

 しばらくこの感動に浸っていたいが…そろそろ真面目にやるか。

 

「お前ら!! その手を離しやがれ!!!」

 

「その前に、てめぇは何者だ!!」

 

「我が名は蝶々仮面、パ○ヨン!! 愛と正義の使者だ!!!!」

 

「ぱ○よんだぁ〜??」

 

「ちっちっち。パ○♪ヨン♪ もっと愛をこめて♪」

 

「なんか、イライラする奴だ!! おいっ!!てめぇも動くなよ!! 動くとどうなるか…。」

 

「誰がどうなるんだ??」

 

「あぁ?? そんなの、この女g…っていねぇじゃねぇか!!」

 

 

賊共が俺と話をしている隙に、橙里は素早く人質を救出していた。

 

「まったく……。私の美しさに見とれるのは良いが、手元を疎かにしてはいかんな。」

 

「女どもは…ちっ、既に離れたところに居やがる…。」

 

「の様だな…。 貴様らにはキツイお灸を吸えてやらねばならんからな。覚悟しろよ?」

 

「くそっ、お前ら!! こっちは三人、相手は一人だ!! 一斉にかかれば殺れる。同時に行くぞ!!」

 

「その心意気やよし。ではこちらも全力でいこう!!! 『瞬動』!!!」

 

 場は静寂に包まれ、誰一人動く事無く固まっている中で、納刀の音だけが高くこだまする。

 

「安心しろ。峰打ちだ…。」

 

「「「ぐぅぅぅ……。」」」

 

 男たちはひざから崩れ落ち、そのまま気絶した。

 

「正義は勝つ!!! では皆のもの、さらばだ!!」

 

「ありがとう!!」

 

「いいぞ〜パ○ヨン!!」

 

「英雄パ○ヨンの誕生ね!!」

 

 

 俺は屋根に登ると、人のいないところを探してそこに降り、着替えて何事もなかった顔をする。

 

 俺は、先ほど捕まっていた女性と、橙里の居る所に行く。

 

「大丈夫ですか??」

 

「はい…。」

 

「橙里も大丈夫か??」

 

「大丈夫です(#` з’)」

 

「…どうした??そんなに怒って…。」

 

「先生は私たちを見捨てましたです!! 人の上に立つ者がそんなんで良いんですか!!」

 

「俺はちょ…。」

 

「ちょ???」

 

「ちょ…ちょっと報告に!! そうだよ、警備隊の人たちに報告に行ってたんだ!!」

 

「はぁ〜…。まぁ確かに警備兵は来ましたが、先生ほどの実力があれば一人でも大丈夫ですよね??」

 

「来て早々の町で、問題起こしちゃまずいだろ??」

 

「うっ…。確かにそうなのです…。」

 

「だから警備兵を呼んできたんだよ。」

 

「…まぁそういうことにしておくのです。」

 

「そうしておいて。」

 

 

 不満げながらも、橙里はどこか納得してくれた。

 

 

「あの…助けてくださってありがとうございました。」

 

「あっ…放っておいて悪かったのです。とにかく無事でなりよりなのです。まったく、女の子一人に三人がかりとか考えられないのです。」

 

「確かに。でも橙里も女の子なんだから、勝手に飛び出すんじゃないぞ。」

 

「あんな賊なんかには負けないのです!!」

 

「だからといって慢心は怪我するぞ。俺は橙里が傷つくのなんて見たくないからな。」

 

「…( ///)…だから、卑怯なのです…。(ボソッ)」

 

「あの…。」

 

「あぁ〜ごめんごめん。話が脱線しちゃったね。」

 

「お主達か?私の娘を救ってくれたのは??」

 

「んっ??あなたは??」

 

「おっ…お父さん!!」

 

「お父さん!!!!」

 

「ちょ…町長!!」

 

「町長!!!!!」

 

「…驚いているところ悪いが、お主達なのか??」

 

「俺はそんなに関係してないよ。助けたのはこの子。」

 

「じゃあお嬢さんが…。」

 

「はいです。でも、私だけじゃ何も出来なかったのです。 パ○ヨンとか言う、変な仮面をつけた奴に、相手の注意がいった隙を突いただけですから…。」

 

「おかしいな…。あの仮面の良さが分からないなんて…。(ブツブツ)」

 

「ん??何か言いましたか先生??」

 

「いやっ、何にも。」

 

「そうかそうか、お嬢さん。私の娘を救ってくださって本当にありがとうですじゃ。お礼がしたいんじゃが…どうじゃろう、私の家に来ていただけないだろうか。」

 

「私が??」

 

「はいっ、助けていただいて、お礼無しなんてそんなこと出来ません。お礼させて下さい!!」

 

「でっでも…。」

 

 視線を俺に促す橙里。それに気付いた町長さんは言葉を繋ぐ。

 

「勿論、お連れの方と一緒にどうぞ。」

 

「良いんですか?」

 

「えぇ、そこを気にするような者はこの町にはいませんよ。」

 

「じゃあ、お言葉に甘えようか、橙里。」

 

「そうしましょうか、先生。」

 

 こうして、俺たちは町長さんの家に招かれることになった。

 

 町長さんには他に二人いることを告げ、後で揃って伺う事を話した。

 

 そして俺たちは、芽衣と奏と合流し、四人揃って町長さんの家に伺った。

 

「すいません、大勢で伺ってしまって。」

 

「いいえ、良いんですよ。お呼び立てしたのは私たちですし、お礼なんですから。それに、御飯は大勢で食べた方が美味しいですよ。」

 

「娘の言うとおりですじゃ。気にしないでくだされ。なぁ婆さん?」

 

「そうですよ。それに大勢で賑やかなのは結構。家族が増えたみたいで嬉しいじゃないですか。」

 

「家族…ですか。」

 

 会ってからまだ数時間の俺たち相手に、出るはずの無い言葉…家族…。

 

 この人たちは俺たちを疑わないのか…。俺たちに不信感は無いのか…。命を助けたと言うのも罠とか考えなかったのだろうか…。

 

「おやっ、家族と言う言葉が意外ですかな??」

 

「えっ!!あははっ、顔に出てましたか??」

 

「ほっほっ。それだけあなたが嘘をつけない人だと言うことです。」

 

「その洞察眼にお見逸れいたします。」

 

「何も、婆さんは誰にでも家族と言っているわけではないのですよ…。あなた達の容姿、態度、言葉遣い、そういうところからあなた達を信用し、心を許したからこそこうして家族という言葉を使ってるんです。」

 

「俺たちにですか?」

 

「わしに関して言えば、娘の命を助けてくれたことだけで家に呼んだのではありません。勿論お礼の意味はありますが、同時にあなたを見た瞬間に感じたのです。 そう、それはこの世界とは異質なもの。 まるで大きな歯車のなかに入り込んだ小さな歯車のような違和感…。 しかし、それでいて賊のような悪い人の様には見えない容姿、態度。私はその時あなたに興味が湧きました。 そして今、腹を割って話す機会を持ちました。どうでしょう、話して頂けませんかね?? あなたは何者なのですか?」

 

「俺は…。」

 

 皆に視線を送る。

 

 皆からは頷き一つが返ってきて、俺の意図を汲み取ってくれてたみたいで嬉しい。

 

「俺は寿春では天の御使いと呼ばれていました。」

 

「なに!?天の御使いとな!!? う〜む、成程…。それなら納得できるの…。噂はかねがね聞いております。」

 

「なるべくなら隠したかったんですがね…。」

 

「天の御使いを歓迎しないところもあるってことですな…。 しかし、この町には天の御使いを歓迎こそすれ、粗末に扱うような人たちはいません。じゃから安心してくだされ。」

 

「…そうですか…。なんか、胸の仕えが降りた気がします。」

 

「わしはあなたを見て好意こそあれ、敵意を持とうなんて気などおきませんでした。それはあなたの人徳…。その人徳はきっと多くの人に届き、真実を皆に教えますよ。」

 

「そう願いたいものですね…。」

 

「それに、こんな素敵なお嬢さん方が傍にいるのですから、羨ましい限りですな。ほっほっほ。」

 

「なっ!!?」

 

「「「…。( ///)」」」

 

大きな笑い声を上げる村長さんに対して、俺は急なことに狼狽し、芽衣たちは顔を真っ赤に俯いていた。

 

「おやっ??違うのですかな?(ニヤッ)」

 

「さっ…さぁ、この話はここまで、そろそろ食事にしませんか!?」

 

「ほほっ。そうしますか。わしもお腹が減ったな。婆さん準備を…。」

 

「皆も手伝ってあげて。」

 

「「「はいっ!!!」」」

 

 俺たちはその後、町長さん家で夕飯を頂いた。

 

 

 

 家族…か…。

 

 この人たちと一緒にいると温かく感じる。そう、人の温かさとは本当はこうあるものだと教えてくれるみたいに…。

 

 この人たちみたいに、人を信じれるような人が多くいれば…温かい気分にしてくれる人が多くいたら…戦乱なんて起こらないだろうにな…。

 

 こうしてみると、地方の町にこんな人がいて、中央にはそれを忘れてしまった、あるいは、はなから持ってない人が集まってる時点で、改めて漢王朝が腐ってるってことがわかる…。いつ黄巾の乱が起こってもおかしくないほどに…。

 

 歴史に忠実に…確実に…そして急速に、事態は悪化の一途を辿っていっている。

 

 しかし、それは一般の人の目には見えない、ごく一部の人にしか見えていないのだ…。その危険が直ぐそこに迫っていたとしも…。

 

説明
どうも、作者のkikkomanです。

今話から第三章のスタートです。


後少しで投稿も追いつくので、前を読んでくださっていた方々はもう少し、お待ちください…。
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