魔法幽霊ソウルフル田中 〜魔法少年? 初めから死んでます。〜 それでも俺はやってない、な8話 |
暴走体と戦った翌日、俺はある決意をしていた。
それは、『原作』に関わりなのはちゃんを手助けするという決意である。
実は、転死する直前は、原作に関わらず適当に生きて適当に魔導師やってモブにでもなるつもりだった。
転死した後も、なのはちゃんに憑いてって原作イベントを眺めるだけに徹しようと思っていたのだ。
しかし昨日の戦いの後を見て、その考えを改めざるを得ないと感じた。
あの暴走体を押し付けた後、なのはちゃん家で二人の帰りを待つこと1時間。
無事になのはちゃんとユーノくんが帰ってきたのを確認した時は安堵したが、その時の二人の消耗具合が凄まじかったのだ。
二人とも部屋に帰ってくるなり「な、長かった〜……」とか言ってベッドへ轟沈、布団もかけないまま一緒に寝てしまう始末。
ひどい怪我でもしてるのかと慌てて近づき確認するも、無傷であったから謎が謎を呼ぶ。
そこで俺はピンときたね、これは奴から精神攻撃的なものを受けてしまったんだと。
まるで校長先生の長くてありがたいスピーチ(笑)を聞いた後のようだったから間違いない。
昨日実際に戦って、どういう訳かは知らないがアイツが原作とは違う存在であったことは明白なのだ。
だから精神攻撃とかが出来ても不思議じゃあない。
そして問題なのはそこではない、問題なのはこれから先のこと、次にでてくる暴走体たちである。
もし仮に、奴等すべてが原作と違っていたら。
最初の暴走体でなのはちゃん達のあの疲れ様、その違いが、取り返しのつかない事態へと繋がりそうな気がしてならないのだ。
ならば、俺がそれを防いでみせる。
相手がイレギュラーなら、こっちだってイレギュラーで対抗してやる。
たとえ誰からも気づいてもらえなくても構わない、6年間なのはちゃんに憑きまとってて迷惑を掛けたのだ、余計なものは望まないさ。
むしろ、原作以上のハッピーエンドを目指すぜ!
そのためには、俺にはまだまだ足りないものが多すぎる。
という訳で――――
「花子先生……! 強く……なりたいです……!」
「いや別にいいけどさ、女子便所で土下座するのはよしな」
俺は早速花子さんに特訓を申し込んでいた。
まあ、確かに男子高校生が女子トイレで小学生の女の子に土下座する光景はシュールを通り越して異様である。
流石俺、安定の情けなさであった。
ちなみに、花子さんには魔法うんぬんについてはあまり詳しく話していない。
というより俺が説明しても上手く伝えられる自信が無いのだ。
俺が言ったことは『この海鳴で強力な悪霊みたいなやつが出ている』ぐらいだ。
ウソはついていない!
なのはちゃんに習って言わせてもらうが、『ちょこっと真実をぼかしただけ』である。
「お願いします! なのはちゃんの、ひいては海鳴の危機なんですよ! それもいつ起きてもおかしくない頻度でぐぶぇ」
「だめとは言ってないから、よるな! ああもう鬱陶しいね!」
上靴で顔面を踏まれた、地味に痛い……。
花子さんは洋式便所に軽く腰かけ、俺に講義を始めてくれた。
ちなみに俺は正座である、床の感触とか無いから気にしてないけどね、うん。
どうでもいいけど、小学校で洋式便所ってすごくね?
俺なんか高校まで和式だったよ……。
「田中、強くなりたいって意志は良いことだ、だけどアンタは具体的にどう強くなりたいのか分かってるんだろうね?」
「え……そりゃあ、具体的に言えば真っ黒な怪物が突進しても傷一つつかなかったり、真っ黒な怪物を焼くために滅茶苦茶熱い人魂を出したり、真っ黒な怪物を」
「それは具体的じゃなくて限定的だバカ……、ていうかアンタどんだけ昨日戦った『怪物』を目の敵にしてんだい」
しまった、ついアイツにボコボコにされた恨みが出てしまった。
「とはいえまあ、アンタの気持ちも分からないでもないよ。話を聞く限りじゃあ今のアンタに足りないものの中で目立つものは『火力』だろう?」
「あ、それです! 確かに俺、アイツに傷一つつけられませんでした」
花子さんの言うとおりだ、昨日の戦いでは何度も暴走体に攻撃を当てる場面があった。
しかし、碌にダメージが入っていなかったのも事実である。
町に被害を出さないよう手加減をしていたとはいえ、火炎瓶より威力が弱いんじゃ話にならないだろう。
となると、今後は攻撃手段の強化が課題になってくるのか……。
しかし、花子さんは俺の考えてることが分かってるようで、首を横にふって否定された。
「残念だけど、それは諦めるしかないね」
「そんな! 何でですか!? 花子さんの人魂とかデスボールじゃないですか! 俺だって頑張れば少しぐらい」
「誰がフリーザだ、誰が。それと勘違いしちゃいけないよ。アンタ一人じゃ無理っていうことさ」
「一人じゃ無理……?」
俺はいまいちその言葉の意味が理解できなかったので首を傾げる。
花子さんは呆れ顔で続けて。
「おいおい田中、まさかこんなに『か弱い少女』のアタイがたった一人で学校の怪談に登りつめたとでも思ってたのかい?」
「余裕ですね。むしろ生前から既に学校の怪談級の恐ろしさがあったと――――
ここから先、グロ表現につき音声のみでお楽しみ下さい。
バゴッ、ガッガッガガガ! ズドムッ! シュゴオォォ! ザシュ! メメタァッ! テーレッテー! ズキュウウウン!
テイク2
「おいおい田中、まさかこんなに『か弱い少女』のアタイがたった一人で学校の怪談に登りつめたとでも思ってたのかい?」
「だじがに、ぶじぎでずべ!」
(確かに、不思議ですね!)
その通りだ!
花子さんみたいな可憐な美少女が学校の怪談なんて恐ろしい存在になるほうがおかしいね、うん!
あと、何言ってるのか分かりづらくてすまない、顎が砕けてるイメージが離れないんだ……。
階段でこけただけだよ?
怪談に殺されかけたんじゃ決してないよ?
俺の返事に満足したのか、花子さんは「そうだろう、そうだろう」と頷いた。
「そもそも、一人分のイメージだけじゃ限界があるんだよ。守護霊と学校の怪談の差はね『有名かどうか』それだけなんだ」
「えええ!? で、でも『強力な幽霊』だから有名になれるんじゃないんですか!?」
衝撃的な言葉だった。
どのぐらいかというと衝撃的すぎて顎が砕けたイメージが吹っ飛ぶぐらいには。
(ちなみに、傷ついた幽霊が自分の体を治すには、こうやって何か別のイメージで上書きすると治るのだ。)
「逆だよ逆、そうだね……。田中、あんたが仮に星ひとつ爆破出来るぐらい強力な人魂を作ろうとする。そのときに爆発する星の様子を『事細やかに』イメージできるかい?」
「爆発する星……ですか?」
花子さんに言われて、俺は星を爆破するというイメージを頭に浮かべてみる……。
『受けてみて! これが私の全力全開ッ! 避ければ地球がコナゴナなのーーーーー!!!』
『考えたな畜生! ってアレ!? これ俺が爆破される側じゃね!?』
「すいません混線しました」
「アンタ自分のご主人をなんだと思っているんだい」
花子さんにジト目で睨まれた。
いや別になのはちゃんが戦闘民族高町ファミリーだとかそんな印象は全然ないんだよ!
劇場版のイメージがすごくてさ……分かってほしい。
その後も何度もイメージしてみるが、地球を爆破なんて実際に体験でもしてみなきゃ想像もつかなくて無理があるのが分かる。
「理解したかい? 所詮一人のイメージ力なんてそんなものなのさ。つまりだ、一人じゃだめなら……」
「『他者のイメージ』を使う、ですか?」
「そのとおり、分かってるじゃないか」
ノリノリでパチンと指を鳴らす花子さん、まあ俺が理解できたのは花子さんによるものが大きいんだけど。
花子さんは講義を続ける。
「アタイ達『学校の怪談』や『都市伝説』はそこら辺の守護霊や地縛霊よりもはるかに知名度が高い、つまり『多くの人間にイメージされる』」
「多くの人間がアタイ達を恐れ、想像する、そんなイメージが重なって幽霊はより強くなっていくんだよ」
「単純に強いイメージ力だけじゃなくて、他人のイメージに沿った事も出来るようになる。例えば『テケテケ』、アイツはただ上半身だけで迫ってくるだけだったのに今では『ランドセルを背負って中にある大量の刃物で襲いかかる』なんてことも出来る」
「こうした知名度ってのは有名になる前に、地道に人を驚かせたり、何度も同じ手口をつかって覚えてもらったりしないといけない、だから今すぐ強くなるっていうのは無理なんだ」
「な、なるほど……」
つまり、花子さんの話を要約すると……。
「なんか、アイドルみたいですね!」
「とりあえず全国のアイドルと幽霊に謝ろうか」
ゴメンナサイ。
でも似てるよね、地道に努力したり、多くの人に覚えてもらったりして有名になるとか。
その後も講義を続けてもらったのだが、どうにも状況を打破するのが難しいということが分かるだけだった。
花子さんに協力してもらうという手もだめらしい、「アタイも協力してやりたいが、最低でもトイレのある場所じゃないとねぇ」とのこと。
なんでも『有名な幽霊ほどイメージ通りの場所にいないと力が発揮できない』らしい。
確かに電車の中とかで花子さんを見かけても分からないよなあ。
対策も思いつかずますます落ち込む俺、正座のまま頭を滅茶苦茶うなだれているので女子トイレが懺悔室に見えるほどである。
そんな俺を見かねてか、花子さんは慌てて話を続けてくれた。
「と、とはいっても、打つ手がないわけじゃないよ。実はね、ちょうどいいタイミングで来たんだよ」
来た? 一体何が……。
頭を今だ上げない俺に花子さんは語りかける。
「『都市伝説』だよ。アンタが前々から来てくれるよう連絡してほしいって言ってた奴が丁度今日この海鳴に来るのさ」
この現状を打破する、希望の一言を。
「――――ッ!? マジですか!!!」
「ああ、だから有名になれるコツとか聞いてみたり――――え?」
花子さんからの言葉を聞いて、俺は嬉しさのあまり花子さんに詰め寄るように思いっきり顔を上げた。
『上げてしまった』というほうが正しいと思う。
そう、思い出してほしい、花子さんは洋式トイレに『軽く』腰かけていて俺はその手前で正座、つまり花子さんの下にいた訳だ。
そんな体勢で俺が頭を前に突き出しながら、顔を上げる、この行為により導き出される結果とは――――
「あ、あれ……暗い? というかこの『白』と『クマさんマーク』は一体……?」
「あ、あ、あ……! みっ、みみみみ…………」
小学生の女の子のスカートに頭を突っ込む男子高校生の図。
どう見ても変態です、ありがとうござ――――――
「見るなああああああああああああああああ!!!」
「ぶべらあああああああああああああああっ!!?」
顔を真っ赤にした花子さんに蹴り飛ばされる俺。
この幽霊生活で、一番痛く、重い一撃であったことを追記しておく。
ワザとじゃないんだ、無実なんだよぉぉぉ!
説明 | ||
再び説明会みたいなものですかね。 そして花子さんヒロイン化が決定した話でもあります。 |
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