とある魔術と最遊記と死神代行 第一話『七月十六日』 前編 |
7月16日
とても心地よい日差しの昼下がりの街の中を一護は一人で歩いていた。
今日は期末試験最終日により午前中で授業は終わったおかげで、昼からの予定はすっかり空いてしまったからである。
こんな日には、当麻や悟空と一緒にゲーセンにでも寄って行きたかったのだが、その二人はテスト期間中に一夜漬けの徹夜通しを続けるという何とも愚かな事していたおかげで、テストが終了したときには二人は精根尽き果てたゾンビの様なとても哀れな姿となっていた。
さすがにこの状態の二人を連れて行くほど黒崎一護は非常な男ではない。
とりあえずは目の下の濃くなった隈を取るために、二人はすぐさま帰らせた。
とりあえず午前中で授業が終わってしまったので、どこか近くの飲食店で昼飯を済ませようと考えた一護は近くのファミレスに立ち寄ることにした。
店内は清楚な感じの雰囲気でウェイトレスの女性店員に案内されて席に着く。
テーブルの脇に置いてあったメニューを開いた一護は簡単に済ませたかったので、ワンコインでお手軽ランチ≠ニ堂々と載せた日替わりのランチメニューにすることに決め、ボタンで店員を呼びだした。
料理が来るまでの少しの時間を待っていると、
「あっ、あんた!?」
「あぁ、美琴か」
ふと耳にとても聞き慣れた声が聞こえたので、振り返ると二人の少女が立っていた。二人とも同じ制服を着ていたが、一人は茶髪のショートヘアー、もう一人はロングのツインテールが特徴の女の子であった。
“美琴”と呼ばれたショートヘアーの少女は一護のテーブルに近づいて行った。
「ここ、座らしてもらうわよ」
そう言うと、彼女は一護の返事を待たずに彼の目の前の席に座った。元々、四人用のテーブルだったので、座られても問題はなかったが、一護は内心『返事ぐらい待てよ』と思いつつ水の入ったコップを口に運んだ。
「こんな所で何やってんだよ」
「ちょっと待ち合わせをね」
「待ち合わせ? いったい、誰とだ?」
「あぁ、それは――」
「……お姉さま」
美琴の言葉に割り込むように横からかけられた言葉、それは先程から美琴と一緒にいたツインテールの少女のものであった。彼女はなぜかハンカチを噛み締め、とても恨めしそうにこちらを見ていた。
あまりの恐ろしさの形相でこちらを睨む少女に美琴も引いていた。その恐ろしさは普通のホラーとは全く違う怖さを持っていた。小学生以下の子供なら泣き叫んでもおかしくはないだろうし、現に一護たちのテーブル周辺にいた人たちはそこから1メートル以上離れるようにしていた。
「えっと――お前は?」
そんなことお構いなしに一護は少女に尋ねられた少女はハッと我に返ると、コホンと一つ咳払いし、
「はじめまして。わたくし、美琴お姉さまの『露払い』をしている白井黒子といいますの」
ペコリと頭を下げて礼儀正しく挨拶をした。言葉遣いといい、もしかしたら彼女は何処かの令嬢なのだろうかと考えていた。
先程の姿からは全く思えなかったが…。
「俺は黒崎一護だ。とりあえず、いつまでもそんなトコに突っ立てねえで、まぁ座れよ」
「あっ、どうも」
一護に促され、美琴の隣の席に座った。黒子は早速一護に向かって言葉を投げかけた。
「ところで、一護さんはお姉さまとどういったご関係で」
黒子が笑顔で尋ねるが目が笑っていない。それと同時に重々しい重圧感を放っている事が周りにいる客にも通じているのか、周りの人たちは更に距離を取るが、一護はそれにも動じることなく、
「美琴か。こいつはただの幼馴染だよ」
と返した。ここまで来ると、もはや勇者と呼んでも過言ではなかろう。
一護の返事を聞いた瞬間、黒子はゴンと鈍い音を出しながら机に伏した。そして、そのまま机に向かって自分の頭を何度も叩きつけ出した。
「オイ、大丈夫か!?」
さすがに慌てて椅子から立ち上がり、今も頭を叩き続けている黒子を止めようと寄ったところ、額を机につけたままピタッと止まった。
「―――せんの…」
黒子が何やら呟いているのが聞こえたが、小さすぎてよく聞きとれずに何の事だろうと首をかしげていると、今度は急に起き上がり、血走った眼を見開いて一護に詰め寄る。
「認めませんの!! 貴方がお姉さまの幼馴染など――!!」
そのまま一護の両肩を掴んで彼を前後に揺さぶる。鬼の様な形相で
「それじゃあ、貴方はお姉さまが今日、どんな下着をはいているか分かりますの!?他にも寝る時のパジャマやお風呂で使うシャンプーの種類を言えますの!?それだけじゃ、ありませんわ。わたくしならお姉さまの好きな食べ物からお姉さまが使う日用品、そして、あーんなトコやこーんなトコの成長までといったお姉さまの全てをまとめたこの『お姉さま大全集』に――ァウチッ!!?」
黒子の感情的な演説は美琴のゲンコツによって幕を引かれた。
一護はあまりの事にただ呆然と取り残されていた。
「……随分面白い奴だな」
「えぇ、困った後輩よ」
美琴は溜息をつきながら気を失っている黒子から、『お姉さま大全集』を取り上げカバンにしまった。
そこに店のウェイトレスが二つのアイスティーを持ってきた。美琴と黒子が頼んだものだ。カップを運ぶウェイトレスの笑顔が若干引きつっているように見える。まぁ、先程のあんな騒ぎを起こした客の元へ行けと言われると、普通は嫌と答えるだろう。
ウェイトレスはカップを置くと、足早に厨房へと引き返して行った。
美琴はカップにスティックシュガーを入れると、スプーンでかき回して甘くなった紅茶を口に含んだ。
「さっきの話、何処まで行ったっけ?」
「えぇと…、お前が誰かと待ち合わせをしているというトコまでは聞いた」
こめかみに手を当て、先程の会話を何とか思い出した一護に、美琴も「あぁッ、そうだったわね!!」とポンと手に打った。
「友達を紹介したいと言われてね」
「友達? 誰の――」
「わたくしのですわ」
一護の疑問を美琴にゲンコツを喰らって気絶していた黒子が、一護の言葉の最後を待たずに答えた。
「((風紀委員|ジャッジメント))の177支部でわたくしの((後方支援|バックアップ))を担当してくれている子ですの。一度でもいいからお姉さまにお会いしたいと事あるごとに――」
「そうか…」
何となく話の内容が読めてきた。一護は美琴の方に一瞥すると、
力ない溜息を大きく吐いた。
「ちょっと、その眼は何よ」
「いや、夢や理想は案外心の中にしまっておいた方が良いと思ってな…」
「オーケー、喧嘩売ってるのね。いいわ、高く買ってあげる」
こめかみに青筋を浮かせた美琴から青白い電光の火花がバチバチと飛び交う。何処からでもかかって来い≠ニ言わんばかりの好戦的な美琴に対して、一護はただ大きく欠伸をしていた。
「ちょっと、やる気あんの!?」
「いや、全然」
バンとテーブルを叩いて怒鳴る美琴の言葉に一護は即答で返した。それにより、彼女の沸点は越えようとしていたその時、
「あの〜、大変お待ちしました。こちら、本日のランチです」
頼んでいたランチを運んできたウェイトレスにより、その場は収まった。
「そういや、黒子。今日来るあなたの同僚って、どんな人なの?」
美琴はたどたどしく
「あぁ、安心してくださいな。初春は分別を弁えた大人しい子。それにこの私が認めた数少ない友人。ここは黒子に免じて一つ。もちろん、お姉さまのストレスを最小限に抑えるべく、今日の予定はこの黒子がばっちり――」
そう言い、黒子はカバンからメモ帳を取り出して、予定≠確認しようとした途端、美琴が彼女の手からメモ帳を取り上げた。
慌てて取り返そうとする黒子を右手で押さえて、美琴はメモ帳に描かれた本日の予定≠読み上げる。
「え〜、何々――。『初春を口実としたお姉さまとのデートプラン』その1、ファミレスで親睦を深める、その2、ランジェリーショップ(勝負下着購入)、その3、アロマショップでショッピング(媚薬購入)、その4、初春駆除。その5、そのままお姉さまとホテルへGo!」
辺りに僅かな沈黙が訪れる。そして、その沈黙を打ち破るように美琴が黒子に向けてゆっくりと問い掛けた。
「つまり、大人しくて分別のある友人を利用して、自分の変態願望を叶えようと――。呼んでいるだけで、すっごくストレスがたまるんだけど〜〜!!」
怒った美琴が黒子の両頬を引っ張り上げている横で、一護はランチをただ黙々と食べていた。
「本当に変わった友人だな」
口の周りについたソースを拭き取る為にナプキンに手を伸ばして、拭き取った後、美琴に確認するように感想を述べた。
「まあね。でも、これでも『私の可愛い後輩』だからさ」
美琴は嘆息付きながら、漏れた呟きのある言葉に黒子は衝撃を受けたように震えだすと、「お姉さまァァアア!!」と叫びながら、美琴の膝もとへ跳び込んでいった。
膝元で抱きつこうと黒子を、美琴は引きはがそうとする。
「ちょっと、一護。少しは助けなさいよ」
「ていうか、お前ら。人のテーブルで暴れんな!!机のものが落ちる!!料理が零れるだろうが!!」
暴れる美琴と黒子、その二人の騒ぎによって大きくガタガタとゆれるテーブルを押さえる一護たちの元に今までのウェイトレスとは違い男の人がやって来た。
「あの、お客様。申し訳ありませんが、他のお客様の御迷惑になりますから、これ以上の騒ぎになりますと、こちらも対応しなければなりません」
店の責任者らしき男はにっこりとしているが一護たちには分かる。これ以上暴れるなら、通報するぞと警告しているのだという事が――。
「「「………すいません」」」
あの後、店長を含む周りの視線に耐えられなくなった三人は勘定を済ませて、足早と店を出て行った。
「全く、黒子(アンタ)のせいで追い出されちゃったじゃない」
「なんで俺まで…」
一護は面倒臭そうに溜息を吐く。正直、まだ半分もランチを食べてなかったのだが、あれだけの騒ぎの後だと仕方ないと心の中で諦める事にした。こんな時、彼の友達なら「不幸だ…」とぼやくだろう。
「アッ!白井さん」
後ろから黒子を呼ぶ声が聞こえたので、三人とも振り返ると、セーラー服の制服を着た女の子が手を振りながらこちらへやって来た。一人は遠くから見ると花瓶を乗せているのかと見間違う程の大量の花を頭に載せた女の子ともう一人は黒いロングヘアーに白い花飾りをつけた女の子の二人組だ。
一護はこの子たちが美琴たちの待ち合わせをしていた子なのだと気付いた。
「すいません、遅くなってしまって…って、あれ?外で待ってたんですか?」
「別にそう言う訳では…。これには拠のない事情という物がありますのよ」
何の事かよく分からず首を傾げている二人を余所に、一護は
「それじゃ、俺はこれで」
と、一言あいさつをしてその場を離れた。
「アッ、もう行くの?」
「悪いが、俺はお前らの時間の邪魔をするつもりはねえよ」
そう言って、振り返らずそのまま美琴たちと別れを告げた。
だが……、
「……なんで、お前らがここにいるんだよ!?」
「それはこっちのセリフよ」
一護は彼女達と再開することになった。別れて一〇分も経たずして――。
別れた後、一護は帰る道すがらあるチラシももらった。それはこの近くで新しいクレープ屋ができたというものだった。先程の件で昼食が碌に食えなかったので、これで軽く腹を満たそうと思い、そのクレープ屋に寄っていたら、彼女たちが現れたのである。
さっき、あんな言い方して別れたのが、今になって少し恥ずかしく思えてきた。
「――で、お前らが何でここに」
「ここでクレープを食べにこないで何をしろって言うのよ」
何言ってんだと続きそうな顔で美琴は答えたが、一護は少し意外そうな顔をした。そしてカバンからここのチラシを取り出した。
「そうか。お前の事だから、これが目当てなのかと思ったんだがな」
そう言いながら、一護は先程もらったチラシのある一点を指さした。そこには『先着一〇〇名様にゲコ太マスコットプレゼント!!』という文字がかわいらしいカエルのイラスト共に描かれていた。
「バ、バカ言ってんじゃないわよ!!!誰がゲコ太なんか――」
一護の言葉と指差したイラストに美琴は顔を赤くして反論する。しかし、実際は一護の言った事が正しいので、他の三人は二人の後ろで苦笑していた。
「そうだよな〜。お前も中学二年生になって、未だにゲコ太とか追いかけてる訳ねえよな〜」
「う、うるさい!うるさい!!うるさーい!!!」
ニヤニヤと小馬鹿にした笑みを浮かべる一護に、美琴はさらに顔を赤くして激昂の声で怒鳴りつける。
「あ、あーっ!御坂さん、早くしないとクレープ売り切れてしまいますよ」
「そうですよ!急ぎましょう」
ロングヘアーの少女が咄嗟に話を変えることで、二人の口論を止めるきっかけを作り、花畑の様な頭の少女もそれに乗っかる事によって、結局五人はクレープ屋の列に並ぶ事にした。
「あの…。お兄さんは御坂さんとはどういった関係で」
「あぁ。簡単にいえば、幼馴染ってところか。家が近所だったし――。そういや、まだ自己紹介がまだだったな。俺は黒崎一護だ」
「苺さん!!随分かわいらしいお名前ですね」
花飾りの少女が目をキラキラと輝かせる。一護はガクッと肩を落とし、美琴はその後ろで口に手を当てて堪えるように笑っていた。
「違う!!一等賞の『一』に、守護神の『護』で、『一護』だ」
「あっ、すいません」
花飾りの少女は慌てて頭を下げて謝りだした。
「気にすんな。よく間違われる事だからな」
「あの、私は初春飾利です。そして、こちらが――」
「どうも、初春の友達の佐天涙子です」
花飾りの少女が初春で、ロングヘアーの少女が佐天と認識した一護は、
「ああ、よろしくな」
笑顔で返した。
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今回は一護とあの彼女たちとの出会いの話です。 | ||
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