相良良晴の帰還7話 |
とりあえず・・・、みしみし嫌な音をたてている右腕に力を込めながら、良晴は浅野の爺さんに詳細を問いただした。
「えーと、すまないが詳細を教えて頂きたいんだが。」
「うん?ねねはお利口さんじゃぞ。」
「いや、だからそのねねさんが何で新参者の俺につくことになってるか何だが。」
首をひねる爺さん。おい、さっき最優先事項として記憶したとか言わんかったか?
しばしの間を置いて、浅野の爺さんは続きを話し始めた。
「えーと、そうじゃ、今日の昼頃のお前さんの活躍を儂と同じく見ていたらしくてのう。織田家の武将の一人として、手放すべきでは無いという判断をしたから、早めに取り込むために、お嫁さんを用意すべきという事にしたらしいぞ。」
「でまあ、儂に相談が来たので、まあ、信奈様が認めた相手ならええかなと。」
今度は恐らく言ってはいけない部分まで話されながら、良晴は頭を抱えた。
ここからは、少し現代の人にとっては不思議に思われる話をするが、どうか聞いて欲しい。
まず、この世界の結婚は、基本的には恋愛ありきではなく、裏切り防止のために血の繋がりを求めたり、家の血筋の価値を上げるためにする事がほとんどである。
言い換えると、愛などは結婚してから育んで下さいね。とりあえずは生き残る事の方が重要だからごちゃごちゃ言うのは子供作って『目に見える』つながり作った後にせいという事だ。
で、今回のケースはまず断るのは無理。
まず、織田軍側から見て、風来坊である自分にとって、自分が裏切らない証拠というのを政略結婚以外で具体的に示すのが大変難しく、断れば要らぬ勘ぐりをされる理由にされるのが一つ。(身分的に証書など作っても、全くといって良いほど効力がない。)
そして良晴側の事情として、この縁談を断ることで彼女を他の奴に奪われるのが嫌だからだ。
これを聞くと色狂いの戯言に聞こえるかもしれないが、良晴は基本的に大切だと思える女性を絶対に手放すつもりは無い。どんな罵倒や侮蔑を受けようが、裏切りや謀略が蔓延る世界で、目の届かない場所で死なれる事に比べれば、自分が汚名を被る方が百倍ましである。
ただし、無論、ただ状況に流されて全てを許すこともしないが。
「承知した。ただ、二点ほど条件をつけたい。」
「良晴・・・」
先ほどとは裏腹に力なく服の袖を掴む犬千代。位は低いものの彼女は決して愚劣ではない。戦国の習いがどれ程重いのかは理解している。
「まず、一つ目は、一夫多妻の許可についてだ。実は俺の血族は俺を除いて皆この世界に居ない。そのため、家の復興の為にはどうしても何人か妻をめとらなければならない。それについてはご了承頂きたい。」
ちなみに、今回良晴は要らぬ摩擦を防ぐために、もっともらしい理由をつけて同意を求めているが、一夫多妻制自体は公然と存在している。
現代ほど医療が発達していない上に、戦死や謀略による暗殺が当然の如く世に蔓延(はびこ)っているため、『八人子供をつくりましたが成人まで生きてたのは一人でした。』等というのが当り前に起こりうるからだ。
だからこの願いについては特に問題なく頷いてもらった。
問題は次のお願いの方だ。
「二つ目は、彼女と子をなすのは少なくとも六年は待ってほしい。」
「ふうむ、ねねはあと四年で適齢期なのだが、理由を聞いてもいいかの?」
爺様が顎髭を触りながらその理由を問う。結婚イコール子作りという世界において、子作り開始時期を適齢期から二年も伸ばす彼の言い様はその義務を放棄するように思えたからだ。
「出産は年をかさねすぎて行って行うのが危険であるのは勿論だが、若すぎても危険なんだ。悪いが無理にそんなことをして妻に負担をかけるのは御免こうむる。」
「根拠は?」
「俺に医学を教えてくれた医者からの情報だから間違いは無い。旅の身故に免状(資格書のこと)はないが、必要なら目の前で何種類か薬でも作ってみせようか。」
「ふうむ・・・」
今、浅野の爺は、頭の中で様々な考えを巡らせていた。今回、上からの御命令でねねを結婚させるよう命じられたが、無論ねねに幸せな人生を送ってほしいとは思っている。
今回の縁談を承知したのも、他の下級武士から、彼が戦場において大活躍した有望株だと聞いたから ((だけではない|・・・・・・・)) 。
長秀も理由の一つとして挙げた、今日の夕刻に起きたある事件の顛末(てんまつ)を出先の茶屋で見ていたからだ。
同日・・・約二時間前。
夕食の材料を揃えた良晴を待っていたのは、信奈の弟、織田信勝(おだのぶかつ)率いる若侍の集団。
彼らは、信奈に見出された良晴を馬鹿にすることで自分達の勢力の拡大を狙おうとしたらしく、多勢で取り囲みながら、彼にいちゃもんをつけてきた。どう贔屓目にみても、卑怯としか見えない行為である。
それに対し、彼の対応は、見事の一言に尽きた。
囲まれていることなど全く意に介さずに、淡々と彼らの幼稚な行動を叱り。
激昂した取り巻きに対し、「町に迷惑がかかる。」といって多数の敵を相手取るのに便利な路地裏へ誘導。
ホイホイついて行った馬鹿者どもが、狭い路地裏では多数であることが強みにも何にもならない事に気づいたころには、十数人がボコボコにされ、残りは捨て台詞を吐きながら逃げていった。
ちなみに、不要な恨みを買うことを良しとしなかったのか、やられた者達の中に、死者は一人もいない。
最後に遠巻きに見ていた者達に対し、「迷惑をかけた。」と頭を下げるその姿は、見事の一言に尽きた。
話を戻そう。
良晴のその行動だけで、内面を全て見抜ける訳では無いが、少なくとも信勝様を旗頭にして調子に乗っている阿呆どもよりはましなのは確かじゃ。
一夫多妻については、一族復興という事の重要性は理解できるし、色に溺れて仕事に手がつかない事にならなければ別段注意すべきものでも無い。子作りに関しては残念じゃが、事情を伝えて、それまでは妹分として常に傍に寄り添わせると長秀殿にお伝えすれば問題あるまい。そのような行為の強要は、彼女が最も嫌うものじゃからのう。
ならば、儂から言うべきことはあと一つ。
「相良良晴殿。」
「はい。」
「ねねを、よろしくお願い出来ますかな。」
「無論です。」
良晴は、深々と頭を下げた。
この日、相良良晴は浅野家のねねを妹として貰い受け、時期がくれば妻とすることを約束した。
荷物をまとめて明日向かうというねねを残し、二人で帰る道すがら・・・
彼女はぽつりと話しかけた。
「良晴」
「なんだ犬千代。」
「その・・・あの・・・」
この胸の内をどう伝えれば良いのか。
突然降ってわいた良晴の結婚話に肝が冷えた。
彼が遠くにいってしまうようで。
だから彼が一夫多妻制を口にした際に彼女の手をぎゅっと握りかえした時、不謹慎だと思いつつも嬉しかった。彼の目に、私がまだ映っていることが分かって。
でも・・・私は・・・
彼が人生を共にしたいと思えるほど魅力的に映っているだろうか。
聞けない・・・けど、知りたい・・・
そう考えていると、良晴の方から言葉が飛んできた。
「犬千代。俺は、我儘(わがまま)な男だ・・・拾える命は全て拾いたい。気に入った女性には俺の手で幸せになってほしい。敵を戦っていても、殺す以外の選択肢があったらそれを選びたい。」
まるで夢物語のような事を話しながら、その目は真剣そのものだった。
「だからまあ・・・物語に出てくるような一途な愛なんざ望むべくもない。けど、俺は絶対に愛した女を諦めたくない。」
そこで足を止めると、犬千代の方に向き直る。
「そんな俺が、お前がほしいと言ったら笑うかね。」
顔が真っ赤に染まる。
ずるい、こんな・・・急に・・・今日婚約したばっかなのに・・・この人は。
「良晴は・・・、悪い・・・人」
「自覚はある。」
「悪党・・・」
「そうだな。で、答えは?」
「嫌だって言ったら?」
「好きになってもらえるように再度努力するよ。」
駄目だ・・・私は悪い病気にかかったらしい。こんなに短い間で、こんなに彼の事を好きになってる。
別に別段美形でもないのに。
「女泣かせの悪いお猿さんは、正義のお犬様がずっと見張ってる。」
「そうか・・・じゃあ一生頼む。」
その返答には答えず、犬千代はその赤い顔を良晴に見せないように、彼の胸板に顔を押し付けて抱きしめた。
※※※
数分後・・・
犬千代と別れた良晴は、今日あった様々な事を思い返しながら、疲れた体を休めるために自分の長屋の扉の前まで向かう。
「よっこいしょっと。」
鍵なんぞあるわけないからそのまま開く扉。
それと同時に、((中からかけられる|・・・・・・・・))声。
「初めまして、相良良晴殿。」
その声に身構えながら声の主を探すと・・・
そこには、一匹の黒猫がいた。
(第七話 了)
説明 | ||
織田信奈の野望の二次創作です。素人サラリーマンが書いた拙作ですがよろしければお読み下さい。注意;この作品は原作主人公ハーレムものです。又、ご都合主義、ちょっぴりエッチな表現を含みます。 そのような作品を好まれない読者様にはおすすめ出来ません。 追記:仕事の合間の執筆のため遅筆はお許し下さい。 |
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