私が呼び出した使い魔はルーンを刻まれたショックで気絶してしまった。

どうやって運ぼうかと思案していると強風が吹き始め使い魔は紙切れのようにひらひら飛んでいった。

丁度学院の方だからいいわよね……

途中気がついたのか　「おぉう」　などと声を上げていた。

気がついたのなら自分で止まれないのかしら……

学院に到着して女子寮の階段を上っていると、使い魔が階段にすわり込んだ。

「あーつかれた」　とか言っている。

「アンタね……」　まだ１階の踊り場にも着いてない。

使い魔の立場を思い知らせるために食事は薄いスープと固いパン2切れ。

「もうおなかいっぱい」の声に使い魔のほうを見る。

スープとパンが半分残っている。

多くて食べきれないそうだ。

錬金の授業で吹き飛んだ教室の片づけを先生に命じられた。

「ふんっ」　使い魔は机一つ動かすことが出来ず却って邪魔だった。

私の使い魔―「守屋ひより」は貧弱この上ないようだ。

こんなのでやっていけるのだろうか……

食堂でギーシュの落とした香水の瓶に躓いてヒヨリが盛大にすっ転んで怪我をした。

しかも私とヒヨリに二股がバレた責任を転嫁してきた。

「…うざいな」　何か呟いて私に耳打ちするヒヨリ。

私は黒い笑みを浮かべるヒヨリの進言に従ってギーシュにお詫びをすることにした。

モンモラシとケティに叩かれて腫れ上がった頬を魔法で治癒してあげたのだ。

「いつも通りに発動した」私の魔法により、ギーシュは3日間授業に出てこなかった。

女の敵を罰した私は学院での人気が少し上がった。

学院長秘書のミス・ロングビルが退職した。

身内を呼び寄せトリスタニアで菓子店を開くという。

ヒヨリから教わったハルケギニアにはないレシピが売りだとか。

確かにあのお菓子は知らないものばかりでとてもおいしい。

きっかけはヒヨリが学院内で行き倒れていたのをミス・ロングビルに助けてもらい、

お礼にお菓子をプレゼントしたことだそうだ。

余談だが実際の作業を行ったのはシエスタというメイドだ。

「料理とは力仕事と見つけたり」

「最近卵が割れるようになりました」

というのがヒヨリの言葉だ。

後日、宝物庫からフェイスチェンジの効果を持つマジックアイテムの首飾りが紛失したことが発覚した。

ミス・ロングビルに去られ、宝物紛失の責任を問われ落込む学院長をみて

「おやおや、心が寒くなったようですな」とヒヨリが言っていた。

なぜかギーシュの二股騒ぎの時と同じ笑い方をしていた。

久々にミス・ロングビルの様子を見に行った。

首飾りをした彼女の義理の妹は胸革命−バストレヴォリューション−だった。

絶望ォに身をよじる私に対してヒヨリは「私はこのままでいい！」とほざいた。

「なんで！？」慎ましやかな胸を張るヒヨリに突っ込む。

「だってあんなにあったら重くて動けない」

「あぁ……」 納得した。

ミス・ロングビルからインテリジェンスソードを貰った。

留守番代わりに買ったが、口が悪くて持て余していたという。

まあ、剣に菓子屋の店番をさせれば不満も抱くだろう。

正直こんなものはいらないが、ヒヨリのことを『使い手』と呼び連れて行けと言う。

「重いから無理」「いいから持ってみ」 というやり取りの後、掴ませて見るとなんと軽々と持ち上げた。

しかもあの貧弱なヒヨリが人並みに動けるようになった。

剣―デルフリンガーが言うにはルーンの効果だそうだ。

「普通は人並み外れた動きが出来る筈なんだが…」とも言ってたけど。

昨日シェフィールドと名のる女に襲われた。

様々な魔法具を操る女で、あわや捕らわれるところだった。

それを防いだのは私の使い魔「じゃっく」― ではなかった。

何かが倒れる音とともにすべての魔法具が動きを止めたのだ。

「あーあ。また力尽きやがったか。しゃあねえ撤退するぞ由紀香」

「うう、地下水ごめんね」

などという会話がどこからか聞こえてきた。

ちなみに じゃっく は先に力尽きて足下に倒れている。

私は今一人の女性を運んでいる。軽い。

腕輪に「名前は陸です。倒れていたらロマリアの陣営まで運んでください」とある。

ロマリアから参戦した竜騎士だそうだ。

しかし、陣中で行き倒れるようで竜騎士が務まるのかしら？

竜舎まで行くと一頭の竜が近づいてくる。

すると、すまなそうに頭を下げ竜騎士を銜えあげて連れて行く。

中々賢い竜だ。

というか彼女、竜に面倒をみられているのだろうか？

まあいい。

次は、やはり行き倒れているであろう

私の使い魔「もーり」の回収に行かないと……

ヒヨリ（守屋ひより）＝弱（じゃっく）＝もーり

（右に行く程親愛度アップ）