いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した |
第三十三話 犯罪は起こして償うよりは、起こさないようにした方がいい
「じゃあ、仕切り直しといこうか…」
只今、病室から会議室に移動した俺達。
とはいっても俺は車椅子に乗せられた状態。それにここにいるのは俺とプレシア。
管理局局員のリンディ。そして、クロノ、ユーノ。
そして、俺と同じスフィアリアクターのクロウ。
フェイトやなのは。アリシア達は別室で遊んでいるように言われた。
なのはやフェイトが参加したがっていたけど子どもの彼女達にはちょっと荷が重い話をしなければならない。ユーノも同じだが彼には頼みたいことがあって俺が同席を願い出た。
自己紹介もほどほどにして本題に入る。
「まず、確認したいことがあるわ。リンディ・ハラオウン。私達の処遇はどうなったのかしら?」
「…それは」
「まずはあなた達の事をすべて聞いてからだ」
一週間前にアサキムにやられたクロノがリンディさんの返事を押しのけて答えた。
「あら、私達は話したわよ。だけど、この子は別。『傷だらけの獅子』は私達の最後のカードだからね」
唯一とも言っていいよな。
プレシアもアリシアも『傷だらけの獅子』のスフィアで助かったわけだし…。
まあ、俺はガンレオンという戦闘能力の提供。プレシアもデバイス設計。カートリッジシステムの不備具合を調整するということも約束している。
「だが…」
「いいわ。クロノ。これ以上もめても仕方がないわ。プレシア。あなたは一度死んだことになっています。そして、アリシアさんも前回の事件とは無関係の地球出身の人間として取り扱うことになりました」
よかったなプレシア、アリシア。
だけど、問題はフェイトの事なんだよな。
「そう。…となるとあの事件の罪。あれは全部フェイトに覆いかぶさるということになるのね」
「…ああ、あんたがあの時暴走しなければな」
「…クロウ君。今は私が話しているので黙っていてくださいね」
「…わかりました」
…クロウ。お前は本当にそう思っているのか?
プレシアのデバイスの中にあった映像では、プレシアを止めるというよりもスフィアの力を使って時の庭園を破壊したがる爆弾魔みたいに感じ取れたぞ。
「私が償えることは無いのかしら?」
「…『傷だらけの獅子』もしくはアサキムと呼ばれている黒い鎧の人物に関しての情報を渡してくれるのなら。匿名の情報提供としてフェイトさんの監察期間も早く解けるでしょう」
「…リンディ提督。こればかりは口出させてもらうぜっ。あんたフェイトを何だと思っているんだ!あんたはあの子の保護責任者になるんだろう!それなのにそいつ自身がフェイトを交渉のネタにするなんてどうかしているぜ!」
(…ふふん、決まった)
「…クロウ。君が言いたいのはわかる。だが僕等は世界の乱れ。秩序を守る立場にある管理局だ」
「まあ、確かに。未遂とはいえ罪は罪。ちゃんと裁かないとなぁ」
クロノの言葉に俺も追従する。
世界を滅ぼしかけた。つまり大量殺人未遂。
強制的にとは逃げることも拒否することも出来たフェイト。
それを裁くのは心苦しい。彼女の情状酌量もクロノ君達が頑張ってくれたからフェイトはなのは達とまた会うことが出来た。
プレシアの情報提供で彼女の罪が軽くなったり自由を勝ち取れるならいくらでも渡してもらっても構わないのだが、このスフィアのことに関してとなると世界の価値観。根本が危なくなるからな…。
「ふん、前の事件でも言ったがお前達管理局員が管理外世界の事に介入すること自体間違っている」
「だからと言って、その世界に関係せずに無関係でいろというのも変だろ?」
自分の身内。まあ、自分と同じ世界の人間が見知らぬ世界で好き勝手やっている。それを黙って見ていろという訳にもいかないだろう。
自分達の世界の技術で見知らぬ世界を好き勝手にやっていたプレシア。それは世界を滅ぼしかねない所業だった。
自分達が関係しなければその世界は滅ぶ。そこにクロウ。ブラスタの力があったとしても彼等は彼等なりに奮闘しなければならない。
そもそも管理局側もまさか管理外世界。しかもこれだけの魔法を扱うことのできる人間。なのはやクロウのような存在がいるなど思ってもみなかっただろう。形だけでも行動しなければならない。いわば、見せしめ。
性根の腐った奴等に『これだけのことをしでかせば例えどんな理由があってもこうなるぞ』と、思わせる為に。
そうでもしないと犯罪者は増える一方だろう。『ああ、これだけのことをやってもこれだけ貢献すればチャラになるんだ』『自分達に関係のない所であったら何をしても構わない』と、思わせないために。
犯罪は起こして償うよりは、起こさないようにした方がいい。ということだ。
「…お前はどっちの味方なんだ」
(…何を考えてやがる。こいつはプレシアの味方じゃないのか)
「別にどっちでもない。あえて言うなら俺はアリシアの味方だ。プレシアのやったことは俺も許せない。だけど、プレシアやアリシア。フェイトには和解してほしいとも思っている。…俺みたいに『ああ、あの時家族にもっと甘えていればよかった』なんて思わないように、な」
「…偽善だな」
(…ち、こいつ嘘は言っていない。…根っからのお人好しか)
「ああ、偽善だよ。俺はのんびり人生を過ごしたいからな。あと、年上で可愛い恋人が欲しい」
「…なのはやフェイトみたいな?」
「あいつ等は年下。妹オーラ全開じゃないか。俺の趣味じゃない」
「…十年後はどうなるか分からないぞ?」
(また嘘をついていない。フェイトはSTSではかなりの美人になるのに…。こいつもしや…)
「たとえ、あいつ等がどんな美人になろうとも中身が変わらなかったら同じだろ?」
「…ふん。まあ、いいさ。あいつらに変なことをしようとしたら俺が許さねえ、絶対にだ」
(今の動向を見ている限りこいつは知らないみたいだな。今のうちに釘を刺しておくか)
「別にそれで構わない。だけど、同様にお前もプレシアやアリシアに何かしようものなら今度は修理どころか原型が残らないように徹底的にぶち壊す」
「あ?」
「やるか?」
俺とクロウが一触即発の事態にプレシアとリンディが止めに入る。
「…クロウ君」
「…タカ」
「…わかりました」
「…任せる」
((はぁ、男の子ってのはこうなのかしら?))
リンディとプレシアは同時にため息をついた。
「あ、あのー。僕も質問していいですか?というか、何でなのはやフェイトを追いだして僕がここにいるのか分からないんだけど?」
ユーノが恐る恐る手を挙げて質問してきた。
それに答えようとしたプレシアだったが…。
「そのためにも話さないといけないことがあるわ。それは…」
「スフィアだろ?俺の『揺れる天秤』そして、そっちの『傷だらけの獅子』はスフィアというもので力を得ている。だな?」
また、お前かクロウ。
いい加減俺もムカついてきた。やっぱりこいつにスフィアの事を話すの止めようかな。
でもアサキムに『揺れる天秤』を奪われて、アサキムが更にパワーアップしたらさすがに勝てる気がしない。というか、今でも歯が立たないのにこれ以上パワーアップされたら目も当てられない。
「貴方達の言っていたレアスキルよね?あれがそうなの?」
「ああ、あれは嘘です。俺はなのはやアリサ達が守りたかったから適当に言いました。レアスキルというのもブラスタの情報収集能力で調べて、当たり障りのないことを言ったまでです」
「…つまり、虚偽申請ということか?」
「…クロノ。お前はいきなりあったこともない人間を信じることが出来るのか?その人の事を調べようとは思わないのか?」
「む、それは…」
「ストップよ。また脱線するわ。クロウ君。あなたにはまたあとでお話することがあります。ですが、あなたが知っていること。スフィアとは何のことかを教えてくれますか?」
「…ふん。スフィアってのは全部で十二個ある。そのどれもがある一定以上の感情や行動で発動する代物だ。まあ、俺の場合は自分の意志一つで発動させることが出来るけどな。発動したら強力な力を得ることが出来る。それがスフィアだ」
「カートリッジシステムのような物?」
「まあ、そうとらえてくれても構わない。アサキムが狙っているのはそれの事だろう?」
「…そうよ」
(…まずいわね。彼もある程度は情報を掴んでいる)
「…」
(…でも。『揺れる天秤』の副作用を知っているかどうかが要だな。あいつは破壊編までしかやっていない。それはつまり…)
友軍狙撃(フレンドリーファイア)。
ようは敵味方の区別がつかなくなるのが『揺れる天秤』の副作用だ。
これを知っているのならこちらの持つ情報(カード)の効力は弱まる。
「そっちは激痛に苛まれるらしいが俺は意志一つで使うことが出来る。しかも連続してだ。お前の『傷だらけの獅子』とは使用条件はそう難しくない」
「…そうだな」
(…うん。これは知らんな)
「…そうね」
(これでクロウに対しての情報(カード)は三枚になったわね)
もちろんもう一枚の情報(カード)は俺との初戦闘の時に交わした記録である。
そしてもう一つはアサキムのことである。
「…で、そっちの持つ情報は何だ?」
クロウはこっちを値踏みするかのような顔で見てきた。が、それくらいどうということもない。
「…アサキムについてかしら。そっちの坊やが話してくれたスフィアの事以上の事は私もこの子も知らないわ」
(とりあえず『揺れる天秤』の副作用については彼女個人と話したほうがいいわね。あちらの執務官や考古学者君にも聞かれたらまずいわね)
「あの黒い鎧のことね。…彼の情報について提供をお願いするわ」
「その前にこの情報提供で私達が得られるものは何かしら?」
「こちら側からの干渉を出来るだけ抑えます。私の権限が及ぶ範囲でですが…」
まあ、それが妥当だな。
プレシアもこれ以上は粘れないと判断したのかアサキムのことについて語り始めた。
「いいわ。それじゃあ黒の放浪者、アサキム。彼は『知りたがりの山羊』をもつスフィアリアクターよ」
と、プレシアがアサキムの事を離し始めたその頃。
魔法世界のミッド。
そこに点在する聖王教会が何者かに襲撃された。
目撃者の話によるとその襲撃者。それは後にアサキムだということが判明した。
被害者は奇跡。いや、作為的にゼロだった。
その教会内にいる全員の胸元にはそれぞれ黒い炎の烏が止まっていた。
その黒い烏は主の命令があればすぐにでもその胸元に風穴を開ける。だが、そうなることは無かった。
それは一人の女性とその襲撃者が取り結んだ取引のおかげだった。
「…それじゃあ、未来を知る騎士。是が非でも教えてもらうよ」
「…わかりました。ですが、約束通り。ここにいる騎士達。民間人は助けてもらえますね」
「もちろんだ。例え、君の見る未来が確定していなかったとしても僕はそれにすがるしかない。その為にも僕もシュロウガの力を使い、君をサポートしよう。だが、僕をたばかろうなどと思わない方がいい。そうすれば…。わかるね?さあ、教えてもらおうか?君の言う神託。この世界にある残りのスフィアは何処に、そしていつ覚醒するのかをっ」
騎士の少女は自らのレアスキルを使った。
本来なら使える時期が限定されていたがアサキムの着込んだシュロウガ怪しく光ると少女を中心に空間がゆがむと、そのレアスキルを使うにはまだ時期が遠いにもかかわらず彼女はそれを使うことが出来た。
そして、舞い降りた神託を伝えた。
≪闇の中でこぼれた悲しみ。
闇に取り込まれた獅子は安らぎを得る。
天秤の秤に乗せられた未来は二つ。苦難と絶望≫
そして、
≪虚構にまみれた黒羊は祝福の涙に呼び寄せられる≫
そう、彼女が受けた神託を聞いたアサキムの表情はまるで見た目通りの青年のように微笑んでいた。不覚にも騎士の彼女はその顔に緊張感を緩ませそうになったが、アサキムの暗い笑いに再び気を引き締めることになる。
「くくく。『揺れる天秤』『傷だらけの獅子』『悲しみの乙女』だけではなく、『偽りの黒羊』まで…。この世界は最高だ。未来を見る騎士。約束は守ろう。ああ、それと僕にこの場所を教えてくれた者だ。君の好きにするといいよ」
そして、アサキムはその教会を去った。
一匹の猫をその場に残して。
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