IS インフィニット・ストラトス 〜転入生は女嫌い!?〜 第三十話 〜異変〜 |
一夏と鈴は、ラウラを挟み込むように斬りかかる。しかし、そのまま黙ってやられるラウラでは無かった。離脱が難しいと判断すると、一夏の方へと冷却が終わったレールガンを発射しながら迫る。一夏はバックステップでレールガンを回避しつつ、そのまま突撃を断念して後退。鈴は双天牙月を連結させた状態で、ラウラの背後から斬りかかる。
「くらいなさいっ!!」
「ふんっ!!」
ラウラはその攻撃をプラズマ手刀を展開させて対応する。数瞬、そのままつばぜり合いをした後、ラウラがワイヤーブレードを展開。鈴をからめ取ろうとする。
「っ!このっ!!」
前回で懲りているのか、鈴はすぐさま距離を取り、一夏と合流した。
「≪鈴、箒は?≫」
「≪あっちで寝てるわ≫」
と一夏が鈴の指差した方向を見れば、そこには((S・E|シールド・エネルギー))を使い果たし、うずくまっている箒の姿があった。
「≪箒・・対戦とはいえ少しかわいそうだな≫」
「≪そんな事言ってないで、次の作戦に入るわよ、いい?≫」
「≪ああ、零落白夜を発動する間、時間稼ぎを頼む!≫」
「≪了解っ!≫」
その言葉と共に、鈴はラウラの方へと突撃を開始する。ラウラはプラズマ手刀を展開して、準備万端とばかりに待ち構えていた。
「ふん、返り討ちにしてくれる」
するとラウラはレールガンで鈴に対応した。鈴に向かって弾丸が向かっていくが、鈴も一夏と同様にすべてを回避する。鈴もクロウの指導を受けていたので、この程度の事は簡単だった。鈴はすべての弾丸を回避して、分割状態の双天牙月を振りかぶる。
「これでっ!!」
「学習能力がないのか、貴様は?」
次の瞬間、ラウラは右手を鈴の方に突き出し、力場を展開する。前にセシリアと鈴がやられた((AIC|アクティブ・イナーシャル・キャンセラー))であった。鈴は途中で気付くのが遅れ、そのままAICの網につかまってしまう。こうなればもう鈴はクモの糸に絡まった虫同然だった。ラウラは肩のレールガンを稼働させる。
「今度はどうして欲しい?」
「・・・」
とラウラが口角をゆがめ、勝利を確信した顔に変わる。しかし対照的に、鈴の顔からは敗北の二文字とは無縁、とばかりに笑顔だった。
「貴様、とうとう狂ったか?」
「あんたこそ忘れてない?この戦いは二人一組なのよ?一夏っ!!」
「おうっ!!」
いきなり一夏が鈴の背後から現れ、エネルギーの刃が展開されている雪片弐型でラウラに斬りかかる。その体はエネルギーで覆われており、零落白夜が発動していた。
「くそっ!!」
ラウラは鈴を捕らえているAICを解除、一夏の攻撃をかわしつつ、後退する。一夏はラウラを逃がそうとせずに距離を詰めつつ、ラウラに向かってエネルギーの刃を形成している雪片弐型を何度も振りぬく。その能力は“対象のエネルギー全ての消滅”、つまり当たった瞬間にラウラの敗北がほぼ確定してしまう。ラウラは持てる力の全てを回避に回し、逃げ続けた。鈴も龍砲による援護射撃をするが、どうにも追いつめる事が出来ない。その内に一夏の零落白夜が終わった。雪片弐型から、エネルギーの刃が消え、体を覆っていたエネルギーも消滅する。
「くそっ、S・Eが!!」
そう言いつつ、一夏がうずくまってしまう。どうやら零落白夜でS・Eを使い果たし、ISを展開するので精いっぱいのようだった。
「一夏っ!」
「ふん、エネルギー切れか。貴様はそこで待っていろ。後でいたぶってやる」
そう言うと、ラウラは鈴を落とすために行動を開始。ワイヤーブレードを展開して、鈴に放つ。鈴も応戦し、いくつかは分割状態の双天牙月で斬り払うが、いかんせん数が多すぎる。抵抗空しく四肢をワイヤーブレードで固定されてしまった。
「くうううっ!!」
「さて、今度こそ終わりか?」
とラウラが肩のレールガンを鈴に向ける。狙うは顔面、すぐに戦闘不能にしてやる、とラウラは息巻いていたが鈴の目を見て疑問を抱いた。
「・・・」
「貴様、何を考えている?」
鈴の目からはまだ光が失われていなかった。もうここまで追い詰められているのにもかかわらず。ラウラはそこに疑問を抱いた。後にこの行動が敗北の原因となるとも知らずに。
「ねえ、あんたひとつ間違ってるよ」
「ほう、何がだ?」
「いつあいつが戦えないって言った?」
その瞬間、
ドカァァン!!
「なにっ!?!?」
ラウラの両肩のレールガンが斬られ、爆発した。ラウラが驚いて後ろを振り向くと、そこには、刀剣状態の雪片弐型を構えた一夏がいた。いつの間にかさっきの場所から移動して、ラウラの背後に回り込んでいたらしい。しかし問題はそこでは無かった。
「貴様、エネルギー切れではなかったのか!?」
「ああ、あれはお前を騙したんだよ!」
一夏が満面の笑みで答える。作戦が綺麗に決まって嬉しくてしょうがない、と言った顔だ。
「しかし、あれほどのエネルギーを消費してなぜ動ける!?」
「これも特訓の成果だっ!!」
一夏は言葉を切ると、再び攻撃を開始する。鈴も隙を見てワイヤーブレードから抜け出し、一夏に加勢していた。今、戦況は完全に一夏と鈴に傾いていた。
〜ピット内・管制室・クロウside〜
現在管制室にはクロウ、千冬、麻耶、セシリア、シャルルの五人がモニターで試合の様子を見ていた。モニターには、一夏と鈴が二人がかりでラウラに攻撃を加えていた。他の四人は一夏が何をしたのか、分かっていないようで、モニターを凝視していたが、クロウだけは理解している様で、モニターを満足げな表情で見ている
「おし、綺麗に決まったな」
「おいクロウ。一夏の奴、何をしたんだ?」
「ああ、一夏がな、特訓中に俺に頼んで来たんだよ。“エネルギーを消費しない戦い方を教えて欲しい”ってな」
そう、これこそが一夏がクロウに教えて欲しい事だった。
〜一か月前〜
その頼みは特訓中に一夏の口から発せられた。
『なあ、クロウ。教えて欲しい事があるんだけど』
『ああ、何だ?』
『・・・俺にエネルギーを節約しながら戦う方法を教えてくれ』
『・・・理由を聞こうか』
『やっぱ白式ってエネルギーの効率がものすごく悪いんだよ。この間もエネルギーが切れたせいでクロウを一人で戦わせちまったし、やっぱエネルギーが持つ事に越した事は無いだろ?』
『上出来だ、一夏。良く自分で気づいたな』
『じゃあ教えてくれるのか!!』
『ああ、俺は節約、倹約にかけてはプロだからな。だが、あくまでエネルギー節約の戦法は回避時とかにしろよ。攻撃するにしても、相手に攻撃が当たる瞬間は、節約なんて考えないで全力で攻撃しろよ』
次の特訓から、一夏は通常のメニューに加え、クロウからエネルギーをできるだけ使わない戦い方を学び始めた。スラスターを吹かせないで、慣性を利用しての空中での減速。((瞬時加速|イグニッション・ブースト))時のエネルギー消費を抑える方法など。そしてある程度、形になってきた頃、クロウが一夏に秘策を伝授した。
『大分さまになってきたな。そろそろ秘策を教えてやる』
『秘策?なんだそれ?』
『秘策と言っても、ボーデヴィッヒと戦う時の作戦みたいなものだけどな』
『うんうん』
『いいか一夏、ボーデヴィッヒと戦う時に、お前はおそらく零落白夜を使うだろう』
『まあ、使うかな』
『そこでわざと零落白夜を途中で中断して、S・Eがなくなった振りをしてみろ』
『ええっ!?何でだ?』
『ボーデヴィッヒは獲物をとことんまでいたぶるタイプみたいだからな。俺から言わせれば、そんな軍人なんて三流だけどな。話を戻すと、仮にお前のエネルギーがなくなった、とあいつが考える。するとあいつはお前の事は放っておいて、鈴の方を先に倒そうとするだろう。お前の事を憎んでいるようだし、ボーデヴィッヒとしてもお前をあっさり倒しては面白くないはずだからな』
『もしも、引っかからなかった場合は?』
『・・・まあ、普通に戦え』
『それ投げっぱなしじゃん!!』
〜現在・管制室〜
「・・・って訳だ」
「なるほど。一夏さんも色々と考えていらっしゃいますのね」
「うん、自分から欠点を直そうとするなんてすごいよ」
とセシリアとシャルルが感想を述べる。クロウはモニターから目を離さずに二人と話し続ける。
「まあ、俺としては欠点に自分で気づいた点を褒めるがな」
モニターには、二人がかりで追い込まれているラウラの姿。そろそろ限界の様で、動きにキレがなくなってきていた。
「・・・そろそろ終わりかな」
〜アリーナ・ラウラside〜
「くそっ!!」
ラウラは二人に追いかけられつつも、ワイヤーブレードで牽制する。しかし、先程に一夏の意表を突いた作戦により、ラウラの考えはまとまらず、ワイヤーブレードも全く意味をなさなかった。見れば、S・Eも三割を切っておりこのままでは敗北必至だった。
「(負ける・・・この私が?)」
ラウラの心に、“敗北”の二文字が浮かび上がる。
「(嫌だ・・・私はもう・・・負けたくない!!)」
ラウラはその気持ちが一番強かった、暗い過去を思い出してしまう。
〜???〜
私は戦うためだけに生まれた。物心ついた時から軍隊に所属し、格闘術を学び、銃火器に使用方法を覚え、完璧な兵士になるべく育てられた。私はいつしか部隊でトップに立っていた。しかし、あの兵器が登場してから、私の価値は大きく変わってしまった。
IS。世界最強の兵器。我がドイツ軍では、その適合性向上のためにある処置が実行された。「((越界の目ヴォーダン・オージェ|))」と呼ばれるその処置は、肉眼にナノマシンを移植し脳への視覚信号伝達の爆発的な速度の向上と、超高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的としたものだった。私もその処置をすぐに受けた。理論上は何も問題なく、不適合も無い・・・はずだった。しかし、この処置の後、私の左目は赤色から金色へと変わってしまい、越界
の目が常に稼働状態のまま、制御不能になってしまった。これの事故により、今まで簡単に出来ていた訓練すらもできなくなってしまった私を待っていたのは、部隊の人間からの侮蔑や嘲笑の視線と、“出来損ない”のレッテルだった。私は地獄の中にいた。世界を呪った。しかしそこから助けてくれた人がいた。それは文字通り、私にとっての“救世主”、織斑 千冬だった
『お前か、元トップと言うのは。まあ気にするな、一ヶ月でトップに返り咲かせてやる。なにしろ私が直々に教えてやるのだからな』
その言葉通り、彼女に訓練を受けた私は約一ヶ月で再び部隊のトップとなった。いつの間にか私は彼女に憧れていた。「この人の様になりたい」と。ある時、ふと聞いてみたことがあった。
『あなたは何故そこまで強いのですか?どうしてそこまで強くなれるのですか?』
その言葉を聞くと、あの人はわずかに顔をほころばせた。そこにあるのは普段の彼女からは想像もつかない“優しさ”の感情だった。
『私には弟がいるのだがな、そいつを見ているとわかる時があるんだ。強さとは何か、その先に何があるのかがな』
『・・・自分には理解出来ません』
『今はそれでいいさ。お前にもいつかわかる時がくるだろう。』
その話はそこで終わったが私は忘れなかった。あの教官が少しだけとはいえ、優しい笑みを見せたことを。
『・・・あんなものは私が憧れる教官ではない。あの人は強く、凛々しく、いつも堂々としているものなのだ』
私は許せなかった。教官にそんな顔をさせる存在が。その者を許さない。だから───
〜アリーナ〜
「私は・・・負けるわけにはいかない!!」
あいつを叩きのめさなければ、再起不能になるまで壊さなければ、もう二度と立ち上がれなくするまで痛めつけなければ。
「(力が・・・欲しい)」
その瞬間、心の中で何かが私に問いかける。
『願うか?───汝、自らの変革を望むか?───より強い力を欲するか?』
その様な問い、私の答えはもう決まっている。
「よこせ、力をっ!!」
Damage Level・・・・D
Mind Condition・・・・Uplift
Certification・・・・Clear
≪Valkyrie Trace System≫・・・・Boot
「ああああああああ!!!!」
その瞬間、アリーナでラウラが咆哮した。
説明 | ||
第三十話です。 | ||
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