fate imaginary unit 第三次聖杯戦争 第二話
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――半年前

 

彼女は冬木にいた。

 

どこからか越してきたわけではない。

 

ただ帰って来たのだ。

 

この忌まわしき土地に。

 

彼女はポケットから一枚の写真を取り出して少し微笑んだ。

 

そこに映る少女は彼女の妹だった。

 

ここに戻ってくる前に母方の家に預けてきたのだ。

 

大切だから。

 

もし自分になにかあっても無事に育って欲しいから。

 

妹への情は置いてきたはずの彼女だが、写真を見ると幾分か気持ちが落ち着いた。

 

彼女は数年前にここを出たきり久々の帰郷となるわけだが、街並みが変わっていないことに驚く。

 

そして、彼女はその驚きをよそに自らの生家辿りつく。

 

「この家も変わらないな……」

 

自然とそんな言葉が口をつく。

 

街並みよりも変わっていない。

 

まるでここだけ時間が止まっているようだ。

 

妄執に囚われている。

 

久々に見て彼女はそう悪態を吐く。

 

彼女が扉に手をかけるとガチャリと古めかしい音を立てて扉が開く。

 

屋敷の中にいた家政婦の何名かは彼女の姿に気づき声をかけようとしたが、彼女はそれを意に介さず目的の部屋へと歩

を進める。

 

流石は勝手知ったる自らの家。

 

迷うことなく目的の部屋の前に着く。

 

その扉を開けようとした時体の中で何かが動くのを感じた。

 

久しぶりの感覚だ。

 

自分の中で得体のしれない何かが動いている。

 

そんな懐かしの感覚に苦笑しながら彼女は扉を開け放った。

 

部屋の中は電気は愚か光がどこからも入らない文字通り暗闇に包まれていた。

 

「久しぶりだな。臓硯」

 

彼女が暗闇に向かってそう叫ぶと暗闇がその声に反応するように動く。

 

「久しぶりじゃの。巳苑」

 

彼女、巳苑は臓硯の声を聞くと嫌悪感をあらわにした。

 

「どういう風の吹きまわしかの?てっきり貴様は死んだと思っていたのにの」

 

カラカラと笑いながら一人の老人が姿を現した。

 

齢いくつになるだろうか。

 

巳苑には見当もつかない。

 

ただ、一つだけ言えるのは、臓硯は私が生まれてからずっと老いても若返ってもいないことだけだった。

 

そして戸籍上の、あくまで戸籍上の巳苑の父親だ。

 

巳苑は黙って右手に宿った三画の紋章を臓硯に見せる。

 

臓硯は、その紋章を見ると、ニヤリと口を歪めた。

 

「なるほど……どおりで、あいつには宿らないはずだ」

 

「アイツ?」

 

巳苑は臓硯の言葉に眉ひそめた。

 

臓硯の話によると巳苑を見離して分家の魔術的素養が高い人間に徹底的に英才教育を施したそうだ。

 

勿論、英才教育とは名ばかりで実際に学ぶのは学問などではなく、蟲に慣れるための拷問に他ならない。

 

なるほど、確かに分家の人間ならば資質的にも特に問題はないだろう。

 

要は適正の問題だ。

 

最初の御三家は聖杯戦争の参加資格を得ることが優先的に認められているのだが、全く選ばれる気配がなく不審に思っ

ていたらしい。

 

「それで、その人は?」

 

巳苑は大して興味を惹かれたわけでもなく、ただの話を速く進める為に適当に相槌を打つ。

 

「それが、蟲に食べさせてしまったわい」

 

カラカラカラと臓硯は嗤った。

 

巳苑はその声、表情、態度など臓硯の全てが嫌いだった。

 

幼い頃から修行と称した徹底的な蟲の凌辱。

 

苦痛しか残らなかった。

 

しかし、おかげで今の自分があるというのも皮肉な話だった。

 

巳苑の力を持ってしても臓硯の蟲を全て殺すことは出来ない。

 

死んでるモノを殺せと言っているようなものであった。

 

今ここでこの屋敷を全て燃やしてしまえば目の前にいる怪物は息絶えるのだろうか。

 

巳苑の頭の中にふとそんな考えが浮かんだが、すぐにかぶりを振ってその考えを打ち消す。

 

だめだ。

 

その程度で何とかなるんだったら物心が付いた時点で殺している。

 

巳苑はそう心の中で毒づく。

 

腐っても魔術師。

 

いや腐っているから魔術師とでも言うべきか。

 

何度この体に流れるを血を恨んだことだろう。

 

まぁ、いい。

 

それも今回で終わる。

 

「そういえば、あのいつも貴様の後ろについてきていた餓鬼が見えぬようじゃが?」

 

臓硯はそう言うと、私の後ろを見るような素振りを見せる。

 

餓鬼…か……。

 

コイツはきっと、妹の美鈴の名前なんて一度も聞いたことがないだろう。

 

魔術的素養がない人間はただの餌か。

 

「美鈴は……死んだ」

 

「嘘じゃな」

 

巳苑の嘘を臓硯は即座に否定した。

 

そして、例の薄気味悪いカラカラと声を出して笑った。

 

「貴様が、あの餓鬼を見殺しにしておいてそこまで平然としていられるわけではあるまい。それに貴様の嘘を見破るな

ど造作もないことじゃ」

 

巳苑は臓硯に気づかれないように歯噛みする。

 

「臓硯。アンタの望みって不老不死だったか」

 

巳苑の問いに臓硯は左様。と答えた。

 

「人間一人の寿命だけでは根源の渦に至るには短すぎるのでの」

 

そう臆面もなく言い切る臓硯を巳苑はキッと見据える。

 

確かに昔は、遠い昔、それこそ目の前にいるこの群体が人間であった頃の悲願はそうだったのかもしれない。

 

しかし、巳苑には今の臓硯にそんな望みは無いと考える。

 

 

 

死にたくない。

 

 

 

その妄執に取り憑く妖怪にしか見えなかった。

 

「私の望みはね……」

 

 

 

アンタを殺すことだよ、臓硯。

 

 

 

こいつさえいなくなれば、あの蟲達を使って何かをするということ、ひいては間桐の家から魔術というモノから解放さ

れるかもしれない。

 

そうすれば、美鈴をこんな目にあわせなくて済む。

 

「カカッ。中々不穏なことを考えていそうじゃの巳苑」

 

臓硯はそう言うと、巳苑に背を向けた。

 

「貴様には、まだ利用価値がある。長旅で疲れたじゃろう。どこかの部屋で休んでおれ」

 

そう言って臓硯はまた暗闇に包まれた部屋の中に溶けていった。

 

巳苑は昔自分の使っていた部屋の扉を開けた。

 

そこは家を出ていった時と変わらぬままだった。

 

昔一時期使っていた鏡台に目をやる。

 

変わったな…。

 

自分の姿を見て巳苑は自嘲気味に笑う。

 

ここを出ていく時は長かった髪も修行のために切り今は短く。

 

和装で出て行ったのにも関わらず今は洋装に身を包んでいた。

 

おかげでここに来るまでに幾度となく外国人に間違えられ奇異の視線を送られた。

 

巳苑は、長年使っていたベッドに横たわる。

 

暫く使っていなかったせいか埃が舞った。

 

巳苑は趣ろに自らの手を天井に伸ばした。

 

「久々に出てきなよ蟲共」

 

巳苑の声が合図となったのか、挙げられた巳苑の腕の方に向かって何かが巳苑の体の中を進んでいるかのように皮膚が

盛り上がる。

 

そこから這い出た蟲は、大小様々でまた形状も一つ一つ変わっていた。

 

 

ヴヴヴとうざったいような羽音を立てる蟲もいれば、地面にベタリと貼りついたままの蟲もいる。

 

彼らは蟲であって虫ではない。

 

全て自然界に存在する昆虫とは遠くかけ離れた存在だ。

 

「この蟲共を体に入れて早二十年余り……そらこいつらも私を認めるわけだ」

 

元々、魔術の才能を色濃く受け継いでいた巳苑の体は蟲達にとってはまさに御馳走のようなものであり、いくら蟲に知

能がないとはいえ、長年付き合えば共生という関係が生まれるのも自明の理である。

 

 

おかげで彼女が蟲を行使する際に感じる痛みや悪寒などはほぼ、存在しなかった。

 

「もし……この蟲達を例えば一年やそこらで制御しようとするならば、それこそ地獄を見なきゃならんだろうね」

 

でも、そんな考えは杞憂か。

 

そう考えて巳苑は被りを振った。

 

「だってこの醜い聖杯戦争は、私の代で終わるんだからね。だから、他のマスターってのには悪いけど死んで貰う」

 

闘いに犠牲はつきものだ。

 

そうだよね。と妹の顔を思い出し、笑顔で虚空にそう問いかけると巳苑は規則正しい寝息を立て始めた。

 

説明
動き出した歯車は止まることを知らず魔術師同士を導く。
稀代の魔術師であった彼女もまた例外ではなかったのだ――。
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二次創作 第三次聖杯戦争 Fate 

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