夜天の主とともに  6.初めての友達
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夜天の主とともに  6.初めての友達

 

 

 

「あっ‥‥‥‥そういえば図書館で借りた本忘れた」

 

俺が本を忘れたことに気づいたのは翌朝になってからのことだった。

 

助けてもらった時に返してもらっとけばよかったなぁと俺は今更ながらに後悔した。

図書館には同じ本はないみたいだし、かといってまたあの子に会って「返してもらえますか?」とは恥ずかしくて言えない。

 

「う〜ん、仕方ない。他のを借りに行くか」

 

二度手間になることにため息をつきながらも俺は家を出た。

 

 

 

 

 

で、俺は図書館の前まで来たんだけど入れないでいる。もっと詳しく言うと近くの塀のそばで頭を抱えてしゃがみ込んでいる。別にまた発作が起きたというわけではない。

 

ならさっさと行けよって?無理なんだよ。なぜなら‥‥

 

(なんであそこにいるの!?図書館の中にいるなら多少は納得できるけど何故に?)

 

そろ〜っと塀から身を乗り出しもう一度確認するがやはりいる、昨日の車椅子に乗った女の子が。

 

何やら誰かを探しているのか辺りをきょろきょろしてる。手には例の料理本。十中八九俺を探しているんだろう。

 

ここの図書館には裏口というのはないから正面玄関を通るしかない。けど、そこにはあの子がいる。

 

できれば遭遇したくないから俺は一度帰って仕切りなおすことにした。さすがに数時間明けてから来ればいなくなってるだろ。

 

――――2時間後。

 

(なぜいるし!?)

 

どうやら俺の考えは甘かったらしく女の子は依然として正面玄関から動いてなかった。

 

よくもまぁ来るかもわからない人を待ってられるよなぁ。俺なら絶対無理。

 

このまま時間を引き延ばしてもたぶんあそこから動かないだろうな、そう思った俺は観念して図書館の方に向かった。それに気付いたのかあの子がこっちに手を振ってくる。一応後ろを確認したが誰もいないのでやっぱり探し人は俺だったみたいだ。

 

「おぉ〜来た来た。こんにちは」

 

「………こんにちは。どうしたの?」

 

「これやこれ。昨日忘れていったままやったろ?」

 

「あ、ありがと。えっと‥‥」

 

「そういえば名前まだ言ってなかったなぁ。八神、八神はやてや」

 

「僕は時野健一。わざわざありがとね」

 

あれ?案外普通に話せるじゃん。話す前まではきっと何にもしゃべれなくなると思ってたけど。

 

「別にいいんよ。渡すの忘れとったのは私も同じやし。それより中入らん?立ったまま話すの疲れるやろ?」

 

「うん、わかった。じゃあ僕が押すよ。なんだか待たせたみたいだし」

 

「そぉか?じゃあお願いしようかな?」

 

俺は八神さんの車椅子を押して図書館へ入った。

 

 

 

「ここでいい?」

 

「うん、大丈夫や。ありがとな。ここ座り」

 

近くにあった椅子を叩くのでとりあえずそこに座ることにした。俺が座るのを見ると八神さんも車椅子を俺に向き合わせるようにした。

 

「‥‥‥それ、大変そうだね」

 

「ん?あぁ車椅子のことか?気にせんとっていいよ。大変じゃないって言えば‥‥嘘になるけど慣れたらそうでもないよ。

大変そう言うんやったら時野君の喘息かてきつそうやない?あれから大丈夫やった?」

 

「うん、八神さんのおかげで大丈夫だったよ。昨日はほんとにありがとね」

 

「ええよ別にそんな。困ったときはえっと‥お互い様ってやつなんやろ?前どっかで読んだ気がする。それにしても昨日は何で急に走っての?びっくりしたわ」

 

うっ‥‥やっぱりそこに触れるか。

 

「いや‥それは、その‥‥‥。言っても笑わない?」

 

「ん?うんうん、笑わへん」

 

ただでさえ言うのが恥ずかしいというのに首を傾げながら見てくるのはやめてほしい。俺と同じくらいの歳のはずなのに可愛いんだもん、マジで。

 

「その‥‥恥ずかしかったから」

 

「恥ずかしい?なにが?」

 

「‥‥‥料理が好きってこと。男の子が料理が好き変だって思われると思ったから…」

 

消え入るような声で言い切ると八神さんはキョトンとした顔をしその直後見事なぐらいに笑った。笑われた瞬間俺は顔が一気に赤くなるのを感じた。

司書のお姉さんに注意されてやっと笑うのをやめてくれたが余韻が残っているのか震えている。

 

(だから言いたくなかったのに‥)

 

「笑わないって言ったのに‥‥」

 

「ご、ごめんごめん堪忍や。そんなことで恥ずかしがったと思うとつい‥プププッ」

 

「そんなことって僕にとっては恥ずかしかったのに」

 

「恥ずかしがることないやん。男の子が料理できて何が変なの?むしろすごいやん。うちも料理するからわかるけどやってて楽しいもんな」

 

「でしょ!!作ってる時とかそれがうまくできたかどうかとかほんとにやってて楽しくて‥‥‥あ」

 

見るとクスクスと八神さんが笑っているのを見てまた暴走していたことに気づいた。

 

「ホンマに料理好きなんやな、時野君も」

 

「う、うん。あと読書も好きだよ。八神さんは?」

 

「うちも料理も読書も好きや。なんや一緒なとこ多いなぁ。ここにはよー来るん?」

 

「うん。家以外だとここぐらいしか行くところないんだ。喘息だから公園で遊ぶようなことはできないし」

 

「そっかぁ。うちもこんな状態やし来るといえばここぐらいかな。別に不満ってわけやないんよ。そんでな………」

 

お互いのことを話しているうちに恥ずかしさと緊張は解け、話すのがだんだんと楽しくなっているのを感じた。八神さんは最初からそういうのはなかったみたいだけど。

それからもどんな本を読むとかどんな料理が好きとか他愛のないことを話し合っているうちに時間は過ぎ去りいつの間にか夕方になっていた。

 

「もうこんな時間。私そろそろ帰らんと」

 

「じゃあ僕もそろそろ帰ろ」

 

「明日もここに来るん?」

 

「たぶん来るよ。八神さんは?」

 

「う〜ん、じゃあ私も来ようかな。それよりも八神さんいうのはやめん?はやてでええよ。」

 

「で、でもいきなり下の名前言うのは‥‥‥」

 

「友達なんやし、そんなこと気にせんでええんよ?」

 

その言葉に俺はおもわず目を見開いた。もう友達と思われるとは思わなかったのだ。俺も八神さんが友達だったらいいなとは思ってたけど。

 

「‥‥‥友達?」

 

「そや、友達や。ダメか?」

 

「そ、そんなことないよ。ただ友達なんて初めてだから驚いて‥‥」

 

「うちもよ。友達になってくれたええなぁって思ったんよ」

 

「それは…僕も」

 

そういうと八神さんもほっとした顔になった。どうやら八神さんも勇気を出して言ったみたいな感じだった。

 

「それで呼んでくれる?」

 

「八神さんが良ければ」

 

「ええって。あと時野君のこと、けん君って呼んでええ?」

 

「全然いいよ。えっとじゃあ‥‥はやて?」

 

「なぁに、けん君?」

 

初めて家族以外から下の名前で呼ばれたからか、なんとなくこしょばゆい感覚だった。でも不思議と嬉しく感じた。

 

「えっと、これからよろしくね、はやて」

 

「こちらこそよろしくや、けん君」

 

こうしてこの日は俺の友達第一号ができたというとっても嬉しい記念すべき日となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばはやて。玄関前で待ってたけどもし僕が来なかったらどうするつもりだったの?」

 

「決まっとるやん。来るまで待って、来なかったら次の日もまたけん君待つつもりやったよ?」

 

「はやてェ‥‥」

説明
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コメント
ええ子や、はやてめっちゃええ子や(TωT)だああああ(鎖紅十字)
はやてが健気すぐる(;ω;)ブワァはやて良い子、マジ良い子…それなのにどうしてあんな風になったんだろ…。(神薙)
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