■13話 特訓日和■ 真・恋姫†無双〜旅の始まり〜 |
■13話 特訓日和
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チュンチュン、チュンチュンと鳥の囀りが微かに聞こえてくる。
段々意識がはっきりしてしてくると同時に鳥の囀りも良く聞こえてくる、けれどどこか違和感がする。
ふわふわな何かに乗っかっているのは分かる。これは多分ベットではなかろうかという予想もつく、けれど顔まで生暖かいのはおかしい何が起こってるのか予測もつかない。何とかまぶたを開こうとしても開かないし、たまに目ヤニで目が明かなくなると見たことがある。だとしたら結膜炎にかかったんだろうか?
だとするとかなりまずいのではと考えたのだが、確認した方が手っ取り早いと思い、とりあえず目をこすろうと手を顔に持っていこうとしたのだが……なんだかふさふさしたものに行きついた。
そこで俺はようやく俺の上に何かが載っていると気づいた、かなり鈍感だと自分でも思わざるを得ないが、寝起きだしそこは仕方ないと思いたい。
いつまでも顔の上に乗せているのもあれなので若干ぷにぷにするそれを掴みあげて目を見開く。今度は何事も無く開くことが出来たので少しホッとする。
上体を起こし、少し前まで顔の上を占領していたそれを見る。目線の先に居たのはスカーフをつけたわんちゃんだった。
「ワンッ」
元気に吠えるとしっぽを振るわんちゃん、かなり可愛い。しかも朝から俺に奇襲をかけてくるなんて大した奴だ、大体眠っていても近くに誰かが来たらわかるのだが今回は全く気付かなかった。
とはいっても疲れすぎて倒れた気がするので反応出来るはずもないのだが、そこを狙ったとすれば本当に大した犬である。考え過ぎだとは思うがこの可愛さならあり得なくもあるまい。
一通り撫でまくってお座りをさせて、お手をさせて、降参のポーズをさせて、さらには……ゲフンゲフン、ちょっとヒートアップしてしまった。
さすがにいつまでも構っているわけにもいかないのでベッドの下に降ろから自分のベッドをおりて周囲を見回す。
「ワンッ」
見回している最中にいきなりわんちゃんが吼えたかと思うとジャンプジャンプジャーンプして俺の頭に乗ってきた。
ちなみにどういったルートで来たか説明しよう! まずベッドに飛び乗りその後俺の肩へと飛び乗り、最後には俺の頭へと飛び乗ったのである。
凄すぎるとしか言いようがない、猫かお前はっ、全くこのわんちゃん俊敏すぎるぞ。
「降ろそうかとも思ったけど、お前は可愛いから許してやる。落ちるなよ?」
「ワンッ」
独り言のつもりで言ったというのに律儀に返事をしてくれるわんちゃん。
とりあえずわんちゃんを乗せたままにしならがら倒れた後、つまり今の状況を確認するために外を出歩くことに決めた。
確か昨日は張遼殿と戦った後倒れたはずだ。その後は誰が運んでくれたのだろうか? やっぱり綾たちかなと思うもののそれだったら傍に付き添っていてもおかしくない。とすると誰が運んでくれたのだろうか? と考えにふけりながら寝かされていた部屋を出て適当にうろつく。
「あれ? もう歩けるの? って犬乗せてなにしてんのあんた?」
いきなりまくし立てる様に質問を飛ばして来た人物を見ようと声の聞こえた方向に目を向ける。するといつの間にか目の前に賈駆が立っていた。
「体は大丈夫。犬に関してはご愛嬌ということで、それにしてもまさか賈駆殿が俺を部屋まで……?」
「な……なんでボクがお前なんかを運ばなきゃいけないの!」
該当する人物が思い浮かばないので適当に言ってみたのだが怒られてしまった。やっぱり失礼だったかと思いながらも知っているかもしれないのでそれとなく探ってみる事にする。
「すまない。ちゃんと礼がいいたかったのだけれど、誰かわからなくてな」
「べ、別に……そういうことならいいんだけど」
もじもじとする反応以外に帰ってこないという事は多分知らないのだろう。けれど何でもじもじする様な反応を返してきたのだろうか? さっぱりわからない。もしかしたらここに来た理由が恥ずかしい事だったりするのかもしれない。
ここは俺から聞くべきだと思い質問をぶつけてみる。
「それより、賈駆殿は何か御用があったのでは?」
「あ、そうだったわね。まったくあんたが変なこというから忘れそうだったじゃない」
急に不機嫌になる賈駆、女の心は秋の空とはよく言ったものだと思う。喜怒哀楽の切り替えがさっぱりわからない、とりあえずこういう時は男は謝らないといけないらしいといのはネットとかを見て覚えている。
「すまん」
「別に謝って欲しいんじゃないんだけど……なんていうか……」
「賈殿?」
どんどん声と体を小さくしていってしまう賈駆を覗き込む。何か失敗してしまったのだろうかと不安にならずにはいられない。ネットの知識なんて鵜呑みにしなければよかったと思うも既に後の祭りである。
「あ! そうそうあんた採用することにしたから。兵は3000人つけるけど足りるかしら?」
「へ?」
どうやって声をかけていいのか分からず賈駆の頭に手が伸びかけていた時、いきなり頭を上げて理解不能な事を言って来た。
「やっぱり足りない? 今兵を募ってるんだけど思うように集まらなくて。それにあんたの仲間の荀正ってのにも1000つける予定だけど。後々また増やすから今はこれで我慢して欲しいかな……」
何もしゃべらない内にどんどん話が進んで行ってしまう。雇用してもらうつもりはあったのだがまさか部隊を持つことになるなんて思ってもみなかった。何故そこまで話が進んでしまっているのかも良くわからない。
けれどとりあえず俺の事を話しておかないと解ける誤解も解けないだろう。
「いや、えっとな。俺人を率いたことがないからそんなに任せられても困るんだが………」
「え? でもあんたの仲間があんたなら楽にこなすだろうとか言ってたわよ?」
「………」
何であいつらは調子のいい事しか言わんのだ。そして何故それを疑問に思ないんだ賈駆、少しでもいいから疑ってほしい。
「まぁ、北郷と李福を副官としてつけるから頑張りなさい。それじゃボクの用事はこれだけだし、もういくわよ」
「ちょっと待ってくれ!」
「ああ、そうだ。午後から顔見世があるから忘れないでね。最初はビシッと決めといた方がいいわよ」
静止する声を無視して言いたいことを言った賈駆はさっさとどこかに行ってしまった。とりあえず俺が部隊を率いる事は確定してしまったらしい。
ここにいれば賈駆や董卓を助けられると思ってきたけれど、思ったより面倒なことになってしまった……部隊の率い方なんて良くわからないし、どうしたらいいのかさっぱりだ。
さっぱりな事と言えば白装束がいないみたいだ。真・恋姫じゃここには出てこないのかもしれないが、これからと言う可能性も否めない。そのうち進展もあるだろうから今は待つしかないというのは分かっているが何だか遣る瀬無い。
結局自分を運んできてくれた人は分からず仕舞いだし、部隊は任されるしで朝から混乱されっぱなしである。おかげで気分転換でもしないと今日1日やってられない。
とりあえず調練場にでも行って日課の鍛錬しようかな……と思ったのだけれど調練場ってどこだろう? きっとこれだけ広い建物なのだから学校のグラウンドみたいに広いのではないかとあたりを付けてとりあえず建物内を歩き出す。
そうしてしばらく歩いていたのだが、簡単に見つかると思っていた調練場は見つかる事はなく、俺は見事に道に迷ってしまった。
迷った時の犬頼みとばかりに頭の上にのっているわんちゃんに聞いてみることにした。いくら賢くても答えられないとは思う、でもそうして気分を紛らわせていないと気分が沈んでくるのだ。
「わんちゃん、調練場どこかわかる?」
「ワンッ」
吼えるが早いかわんちゃんは頭から飛び降り、少し走ったら止まってこっちを振り返る。恐らく道案内をしてくれるのだろう。未だにわんちゃんを侮っていたことをどうか許してほしい。
それにしても毛がサラサラしてるし、可愛いし、賢いしでさすがスカーフをしてるだけの事はあると言える。あった事はないが名犬ラッシー並みに頭がいいのではないだろうか……。
と脳内でわんちゃんを褒め称えつつ追いかけていく。するといつの間にか調練場についていた。思ったよりも広くはなかったが部隊単位で調練するわけではないのだから当たり前だと今更気づいた。
一仕事終えたとばかりにこちらに向きかえりしっぽを振りながらそのつぶらな瞳でこっちを見つめてくるわんちゃん。
可愛いので撫でようと思いしゃがむとまた頭に乗ってきた。どうやらお気に入りの場所らしい。
「んー、案内してくれたのは嬉しいんだけど……これじゃ鍛錬が」
「ワンッ」
俺の訴えを気にした様子のないわんちゃんは頭の上でぐでーっとなってリラックスしている。その姿を想像して思わず可愛いから許してしまう自分は果たして甘いのだろうか。でも頭に乗っている毛がサラサラなわんちゃんを撫でられるのだから対価と思えば十分すぎる。
さて……わんちゃんを乗せた状態でどれほど鍛錬できるか……と思いながら柔軟を始める。なんだかんだいいながらやる気満々だったりするのは武人の性かも知れない。
この状態で出来る日頃の訓練を思い浮かべる。これなら気の応用を練習してみようか……そう思い瞬時に自分の中にある気を把握する。
次に精神を澄ませ、意識を集中して身体の表面に気を張ってみる。張るだけじゃ違いが自分で良くわからないのでそこら辺にある武器を取って片腕に思い切り叩きつけてみる。
バキッという音がしたかと思うと折れて床に転がった。その無残な残骸を見てこれって弁償しないといけないのだろうかと悩んでしまう。
今鍛錬中じゃんと思いだし、仕方ないので隅っこに隠しておく。決して隠ぺい工作などではないと声を小さくして言いたい。
次は取りあえず右手に気を集中させてみる
なんだか右手が光っているのがわかる。
「これが所謂ゴッドハンドと言うやつか……これでパン生地をこねたらきっとすごい事に」
と馬鹿な事を言っていないで試しに地面殴ってみる。ズドンと鈍い音がした後、砂ぼこりの晴れた先には結構深く抉れた地面が顔を見せる。なんというかこの威力は驚きである。
もっと試してみたいがこれ以上はまずいだろう。そしてこの穴もこのままにしておわけにもいかないのでとりあえず適当に葉っぱをのせて砂をかけて落とし穴の完成させる。
落とし穴は放置して次は武器に通して見せる事にする。自分の小刀を取り出し気を通してみると淡く光ってるのが分かる。さっき右手に気を通した時も思った事ではあるが、気って肉眼で見えるのかと若干疑問だ、まあ気にした所で光る原理が分かるはずもないのだけれど。
発生原理よりも光っているという事が重要だと俺は思う。そう、光ってると試したくなるのが男というものです!
「はぁぁああああああ! 唸れ! 俺のライトセイバーーーーー!」
完璧に馬鹿しているのはまず間違いない。ここでブゥゥゥウウンって音が鳴れば最高とか思っているあたり自分でも相当馬鹿だと思っているし、かなり恥ずかしいではある。けれどどんな時でも諦めずやり遂げるのが男というものだ。
ライトセイバーを使ってみたものの、なんだか斬っているというよりも打ち付けているといった感じだ。これはまだまだ改良の余地ありだ。
今はとりあえず斬ることだけを意識する事にする。斬る事を主体に置いた武器の刀もある事だし、イメージをする分には困らない。まず小刀に大雑把に気を通していく。
目を閉じて小刀の刃先のイメージをもっと明確にしていく、細く、鋭く尖らせていく。続いて刀の背のイメージを明確にしていく、強く、頑丈で、そりのある刀。
汗がとめどなく流れつつもようやく完成するイメージを小刀に通していく。通し終わったのを確認して目をあける。気を通し終えた小刀は透明度が高い光りに包まれていた。恐らく成功だ。
ただ維持しているだけでも辛いので手近にあった建物の壁に小刀を刺してみる。
サクッと思いのほか軽い力で突き刺さってしまった。またやらかしてしまった気がしないでもないが気にしないでおこうと思う。
それにしてもこれは疲労が半端ない。やっぱり慣れていない事も大きいとは思う、何せ気の出力の加減が難しい。でもこれを鍛え上げれば相当な武器になる事はまず間違いがない。
何度か同じ調子で気の鍛錬を続けていく。わんちゃんは飽きたのか途中から眠ってしまったが、気にせず続けていく、正直どれほど気の鍛錬をしたのか分からない。夢中になっていたと言っていい。
鍛錬を辞めたのも寝ぼけた感じの一刀がやってきたからだ。
「おはよう時雨、倒れたのにそんなことしてていいのか?」
「ああ、大丈夫だ。もう完璧に回復した」
「それは凄まじいな……」
なぜか一刀は変なものを見るような目で見てくる。なんでだろうと思ったがまだ頭の上にわんちゃんが載っていることに気づいた。
「この犬はだな、なぜか部屋にいたんだが頭が気に入ったらしくてな、可愛いからそのままにしてるんだけど」
「なるほどな、時雨ならありそうだ」
それは一体どういう意味だろうか
「それよりもどうだ一緒に鍛錬」
「え゛……いやいや、俺はこれから兵士との顔合わせしないといけなくてだな」
「俺も聞いたけどそれは午後からだろ? お前昨日の黄巾党との戦闘の時なんかしらんけど止まってたからな。あれは殺してくれっていってるようなもんだ。というより呂布がきてなかったら確実に死んでただしちょっと平和ボケしすぎだろ」
あの時はぼんやりとだが覚えている。ボケッと突っ立っている一刀に馬鹿だこいつと思った事を俺はちゃんと覚えている。
「ああ、見てたのか……」
「まぁな、あの時は死体の山に登って戦ってたんで丁度な」
「………」
「どうでもいいがお前このままだと死ぬぞ? なんであそこで止まった? まだ余力はあったんだろ」
最もな時雨の発言に一刀は少しの間黙り込んだ後、急に意を決したように語たりだした。
「実はわからなくなって……」
「ん? 何がわからなくなったんだ?」
「時雨はどうしてそんなに戦えるんだ? 何のために戦ってるんだ? 俺は何のために戦ってたのかわからなくなった。するとどうだ、急に人を殺している自分が怖くなって動けなくなった」
なるほどと納得する。元々平和ボケの日本人だ、生きるために殺すって感覚無いに等しい、それをあんな戦場で人を殺しまくったらそうなってしまう可能性もあるだろう。
「なるほどな………俺の考えだけど答えてやるよ。俺は俺のために戦ってるし、俺の殺してきた者、これから殺す者のために戦ってる。俺には守りたい者がいる、そいつらを殺そうとするなら俺はもう容赦しないと決めている」
「………」
「もちろん葛藤がないわけじゃないぞ? 敵を糧にして、俺の中で敵も生きると思い込んでるからまだ正気を保っていられるし、まだまだ戦える。止まる訳にはいかないと思えるんだよ」
「時雨がたまに叫んでた糧ってそういう意味だったんだな………俺はそこまで強くなれない。今までもっと平和なところで暮らしてきた。特に何をするでもなく、周りとそれほど代わり映えのなかった自分がこの世界でなにが出来る!」
何かが爆発した。激昂する一刀を見てそう思った。きっとこの世界に来て何かをずっと貯め込んでいたんだろう。
「一刀、お前は華琳から何を習った? 華琳の元にいたなら戦いにも見学とかで参加させられていたはずだぞ?」
「ああ、その通りだ。俺は曹操から責任、なすべきこと、学ぶべきことを学んだ………だけどそれを何のために使えばいい!」
「あまり甘えるな、今までお前は華琳によっかかりすぎてたんだ。華琳のため、華琳の理想のためといえば聞こえはいいが、その実いつでもそれを逃げ道にしていた結果がそれだ」
多分あれは一刀の初めての人殺しではない。戦場を後にした一刀は特に吐いていた様な記憶もない、ならきっと殺しは既に体験している。それでも一刀が自分を保てていたのはひとえに華琳のおかげなのだったのだと時雨も今気が付いた。
決して一刀が殺しという重さを背負った訳ではないのだ。華琳の為と自分に言い聞かせ、華琳の為だから仕方なく殺すんだという逃げ道を使っていたに過ぎない。
今の一刀は華琳を失った事で人を殺す事に対しての逃げ道を失って、その重さにどうしようもなく立ち尽くしているだけにすぎない。
「っな………」
「一刀、お前は自分の考えを持って、自分の足で立たなきゃならない。何の為に戦っているんだと目を逸らした所で、それは自分の為に戦っているのには違いがないんだよ。誰でも悩んで、泣いて、もがき苦しんで殺す答えを出すだ。誰も楽なんかしちゃいないんだよ」
この世界の戦う者は皆そうだ。自分の出世欲の為、仲間の為、武を極める為、ただ単に生きる為、天下泰平の為、それぞれが自分の意志で立ち、己のエゴで人を殺しているのだ。
「そうか…そういうことだったのか。俺は………甘えてたのか」
唖然としている一刀に容赦するつもりはない。容赦すれば天の御使いと言う神輿の一刀は戦場に出ていずれ死んでしまう。それは一緒に過ごした、そして初めての男の友として見過ごすことは出来ない。
「そうだ。だがそんなもん簡単に見つからんし、なるようにしかならん。だから答えが見つからない間は俺のために戦え。俺がお前の傍にいられるうちは俺のために戦え、そして生き残って答えを探せ。これが俺がお前にしてやれる最善だ」
逃げ道を残すのは良くない事だとは分かっている。けれど今この世界の在り方を、自分の立ち位置を真の意味に出理解したならきっと答えは出せると信じている。
「そうだな、探してみるよ……俺の考え、目的を。だからその間世話になる」
「ああ、どんとこい。お前が探しているその間ぐらいは俺が面倒見てやるさ………それじゃあ生き残る為にさっそくだけど鍛錬始めるか」
やっとここで最初の提案に戻れたのだが、何故か一刀が俺に背中を見せる。
「あ………、俺ちょっとトイレに……」
「俺が面倒見てやるからちゃんと付き合え」
「……わかった」
やはりさっきのことが効いてるのか一刀はしぶしぶながらもちゃんと鍛錬するのだった。もちろん鬼特訓をかしたのは言うまでもないだろう。
◇◇◇◇
そんな一刀たちの様子を見ていた影が五つ。さきほどまでのやり取りを聞きながらもそれぞれ違ったものに関心がいっていた。
「なんかすごい音が聞こえると思ってやってきたけど」
綾が第一声を発すると次々に他の皆が好き好きに語りだす。まずはじめに話題になったのは時雨の格好である。
「ボクなんだかすごいものを見た気がするわ」
「犬……可愛、い」
「…あれセキト」
あの何とも可愛らしくも間抜けな格好はどうやらかごめと恋の心を捕えたらしい、それに対して賈駆は若干笑顔が引き攣っている。
「はぅ……いいこといってました」
時雨の言葉に優しさを感じた董卓は熱っぽい息をこぼす。その姿を見て賈駆は我慢が出来ず突っ込む。
「月……確かにいいことは言ってたと思うけれど頭の上に犬がいたんじゃ決まらないわ」
「確かにそうよね」
「へぅ…」
「セキト……」
「時雨……可愛、い」
賈駆のツッコミに対して綾は面白そうに頷き、月は確かにと納得しながらも熱い息をこぼし、かごめは犬から時雨に視線を移し、恋はいまだにセキトを見ていた。
ツッコミに対してみせた4人の反応に賈駆は小さく溜息を吐く。後で月の目を覚まさなければと思いつつ他のメンバーにツッコミを入れることなく時雨達に視線を正す。
賈駆の目線の先ではどうやら鍛錬を始めるらしい時雨と一刀が互いに構えを取っていた。それを同じく時雨達に目線を戻していた綾が察し、皆に呼びかける。
「静かにして、一刀を時雨が鍛えるみたいよ」
「へぇ、お手並み拝見と行きましょうか」
さっきの呆れた顔とは打って変わり賈駆は嬉々としてその瞬間を見逃すまいと目を向ける。それに対して今度は争いごとの苦手な董卓が賈駆に問いかける。
「はぅ……詠ちゃんまだ見るの?」
「当たり前でしょ! 軍師としてこんな機会見逃せないわ」
嬉しそうな賈駆を見て仕方ないと董卓も時雨達に視線を向け直す。
「セキト……」
「時雨、犬……可愛い」
相変わらずの恋とかごめを含め、最後は結局みんな混ざってまた観察を開始する五人組であった。
◇◇◇◇
まずは一刀に素振りをさせてみる。見ていて思うのはやはりこの世界の剣では剣道と勝手が違うのか、一刀のどこかぎこちないというものである。
「一刀がやってたのは剣道だったよね?」
「え? まぁそうだけど…」
「なら俺の太刀を使ってみて」
通常の刀ではないものの、太刀を渡して素振りをさせてみるとだいぶ動きが良くなったのがわかる。やはり刀の方が合うらしい。
「なるほど、やっぱり刀の方が使いやすいみたいだね」
「そうだけど、この世界に刀ってないんじゃないの? 曹操に聞いたけど知らないって言われたぞ。逆に何で時雨が太刀とか小刀とか持ってるのか不思議なぐらいだ」
それは俺が一番不思議だと言いたい、あのじじばばは一体どうやって作り上げたのかさっぱりだ。
「……確かに。まあ一般的な刀なら俺のじじばばが多分造れると思うんだけど……。正直ここからだと遠いからな」
「そんなこともあろうかと! 天啓をこの身に受けてただいま惨状!」
「「…………」」
まさかのじじばば出現に思わず固まってしまった。一体どこから湧いて出てきたんだろうか、息子のはずの俺でさせこの二人の素性はまったくわからない上に存在がもう意味わからん。というか俺も結構強くなったつもりだったのに気配がよめなかったのは何気に悔しい。
「じいさん、さっさと渡して帰りますよ」
「それもそうじゃな、ほれ若いの受け取りなされ。渾身の作品、波紋刀じゃ」
そういって一刀が渡されたのはきれいな波紋がついている日本刀。そのままな名前だ。
「あ、ありがとうございます」
突然現れたじじばばにビックリしながらもお礼を言って刀を受け取る一刀。そこでようやく俺の石化も解け、普通に喋れるようになった。
「ああ、そういえば時雨や」
「え? 何? っていうかどこから来たの?」
「キェェエエエエエエエー!」
「またそれか、もうきかないから……それで何?」
「お前の刀の名前言うのともう一つ渡すの忘れとったから、ほれ。その小刀は双子でのこのもう一振りをもたんとな」
正直刀の名前が期待できない、出来る事ならもう一つの小刀を置いてどっかにいってほしい。
「そしてその今渡したのが武心、お前が持っているほうの小刀が文心、そして太刀が信義じゃ。これは武と文の心を片手に携え、お前なりの義を背負ってもらいたくてつけた名じゃ。しかし……もう身についているみたいじゃな」
「だからいったじゃありませんか、時雨はそんな心配しなくても大丈夫ですって」
「な、なんじゃと、わしは別に心配なぞしておらんぞ! 本当じゃぞ!」
予想外の言葉に思わず感動して、懐かしい2人のやり取りを見つめ、礼を述べる。
「そっか心配してくれたのか………ありがとじじばば」
「キェェエエエエエエエー!」
「ぇえ!? これダメなの?」
「キェェエエエエエエエー!」
「わかった、わかったから。それじゃ聞くけどいつまでここにいるんだ?」
「そうじゃのう……。御二方、後ろを向いて見なさい」
「「ん?」」
爺ちゃんの言葉に従い一刀と一緒に後ろを振り返ると、その先には賈、董卓、綾、かごめ、恋の五人が顔を覗かせていた。
「お前らなにしてるんだ?」
疑問を率直に尋ねると、恋とかごめ以外青い顔をして逃げ出してしまった。
「なんなんだ?」
と一刀といいながらじじばばの方へと向き直るともうそこには誰も居なかった。
「我ながらすごい奴に拾われたもんだよな……」
「時雨、お前も同類だと思うぞ」
たまに一刀は失礼だと思う。
「一刀、刀も手に入ったことだし恋にも参加してもらって鍛錬始めようか」
「え゛」
口は災いの元である。いい教訓だね一刀。
「恋! かごめ、一緒に鍛錬しよう」
コクリと頷き少し嬉しそうにしながら恋がやって来る。そしてそれをかごめがトコトコ追いかけやって来る。
こちらに着くと露骨に2人が頭の上にのっているわんちゃんを見てくるのでちゃんと説明する。するとうらやましいなどといっていたが頭にのせる事がそれほど羨ましいのだろうか? 確かに動物好きの恋ならわからないでもないけど、かごめって動物底まで好きじゃなかったような?
なんて考えている時雨はかごめと綾の本当の羨ましいといった意味を理解する日はないかもしれない。
まあいいかと考えるのを辞めて時雨は一刀へと向き直る。
「午後の顔合わせまで俺と恋、かごめで一刀をしごくぞ」
「っな! 理不尽だ……」
あまりの事態に逃げ出そうとする一刀を力図良く引き止め笑いかける。
「戦場は理不尽で溢れてるもんだ。いい経験じゃないか」
場内を警備していた兵士の話によるとその日の午後まで一刀の悲鳴が城内に響き渡っていたらしい。
◇◇◇◇
時雨は顔合わせの前に賈、董卓、綾に会えたのでなぜあの時逃げ出したのか聞いたのだが、時雨たちの後ろに人の皮を被った化けものがいたとしか言わなかった。
じじばばは確かに化け物だが綾はあった事があるはずなのに不思議だと思う時雨であった。
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■後書き■
家に帰宅するのが9時30、ご飯を食べてシャワーを浴びた後書き始めるから全然時間が足りない。
移民ユーザー様についてのスレで掲載した謝罪文についてですが、色々誤字あって恥ずかしい事になってます。でもま、本心かけたしいいかなと、正直スッキリしました。
にじファン移民がこれからも増えると思いますし、自粛は大事ですよねー。うんうん。
時間ちと過ぎましたがこの作品は7/14分ですのであしからず。
説明 | ||
編集して再投稿している為以前と内容が違う場合がありますのでご了承お願いします | ||
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2920 | 2736 | 9 |
コメント | ||
コメありです。 げふ、描写不足でしたか。時雨は真・恋姫は買っているもののまだプレイしておりません。まあ恋姫はプレイしたことがあるので中途半端な知識を持っている感じですね。(竜胆 霧) ふと疑問に思ったのですが、作中で時雨が「真・恋姫」と行っていましたが彼は『真・恋姫』をしたことがあるのでしょうか?その割には風や稟といった真・恋姫に出てきた新キャラを知らないようですがその辺どうなのでしょうか?(hall) |
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