超次元ゲイムネプテューヌ Original Generation Re:master 第29話
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「おぉぉぉおおおおっ!!」

「はぁああっ!!」

テラの持つ漆黒の大剣とネプテューヌの大太刀がガキン!と金属音を上げて火花を散らす。互いに剣を弾いて再び渾身の力を込めてぶつかり合う。

その拍子に生まれた衝撃波に押しつぶされそうになりながら、ネプテューヌはテラに聞こえるように叫んだ。

「テラ、聞いて!」

しかし、そんなネプテューヌの心情とは裏腹にテラはますます表情を険しくさせて剣を持たない左手で前方を薙ぐ。間一髪でそれを後ろに跳んで避けたネプテューヌに、テラは空気をも揺るがすような声で叫んだ。

「五月蠅い! お前だって俺の話を聞かなかった癖に!」

煌めく銀髪を揺らしてテラは一歩後ろに下がったかと思えば地面を踏み込んで距離を詰めて大剣を片手で上段から振り下ろす。

それを刀で受け止めるも、テラの力に敵わないかネプテューヌは体勢を崩すが奥に見える姿に目配せをしてテラの勢いを流して右サイドに跳ぶ。

「うぉぉおおおっ!」

ブランがハンマーを構えて渾身の一撃を振り下ろす。しかし、一瞬でそれを見抜いたテラは僅かに身体をずらしてそれを避ける。身体を捻り、隙の出来たブランにテラは左拳を叩き込もうと構える。

「ッ!?」

「――っお!」

僅か数センチでブランの顔面に拳が叩き込まれると言うところでベールが槍で拳の軌道を反らして右足からの回し蹴りでテラの肩を打つ。咄嗟のことで防ぎきれなかったテラの身体が地面に打ち付けられながら転がっていく。

剣を地面に刺して上体を起こしたところに頭上からノワールが剣を振り下ろすが右手の大剣でそれを払われて距離を置いて着地する。

「裏切ったくせに、騙したくせに、必要じゃなかったくせに!!!」

テラはそう叫んで咆吼した。衝撃が一同の身体と空気を震撼させる。テラはまた涙を流して大剣を両手で構える。

「だから、俺が葬るんだ。俺の弱さとなりえる者は全て壊す! 殺す!!」

かつて感じたことのない殺気を感じて一同は総毛立つ。最早、以前の彼ではない。辛く、悲しい色を映した瞳から感じられたのは純粋な殺気だけだった。

『やらなければやられる』、そう感じ取った女神達は躊躇いつつも武器を構えた――。

 

 *

 

「何よ、これ……」

アイエフは愕然とした。もう、こうして彼が道を踏み外していたとしても怒る気すら起きないほどに彼女はショックを受けていた。

事情も何も分からないアイエフとコンパの二人はベールに「二人はここにいてください」と言うだけ言われて、こうして遠巻きにイストワールと共にこの惨状を見ているしかなかったのだった。

「テラさん……なんで、ですか……?」

コンパは今にも泣きそうな声を上げて地面にへたり込んだ。今までも彼が変貌したことはあった。それは、アイエフもコンパも分かりきっていたことだった。しかし、今回は全く事情が違った。今まで感じていたものとは比べようもない殺気。容赦のない動き、意志――それら全てが『終わり』を告げているように思えた。

「イースンさん、何か知らないの……?」

縋るようにアイエフはか細い声でイストワールに問い掛けた。イストワールは悲しそうな表情を浮かべて顔を俯かせた。

「鬼神――」

「鬼神……?」

コンパはイストワールの言葉を唱えるように呟いた。聞き覚えはないというのに妙に心に引っかかる言葉。その響きだけが、まるで世界の終焉を表しているかのように絶望にまみれた名――……。

「マジェコンヌはショウスイしきっていました……。ゲカイのひとびとのおもいすべてをうけとめるなんて、にのおもすぎることだったんです……」

「どういうコト……?」

「ワタシとマジェコンヌはあたらしいカミをつくったんです。ひとびとのゼツボウ、かなしみ、それらをすべてうけとめるカミを……それがあのこです」

イストワールの視線の先にはテラがあった。アイエフは全てを悟ったように声を震わせて発言した。

「じゃあ……何。アイツは、いま……」

「おそらく、ひとびとのおもいがかれをボウソウさせているのでしょう。ひとのおもいはそうカンタンにセイギョできるものじゃない……」

イストワールは目を伏せる。しかし、彼女自身で分かっていることがあった。

女神が4人がかりで向かっても、彼に勝てるわけがないと――。

遠くに聞こえる爆発音、それら全てがまるでそのまま彼女たちの思いを破壊していくかのようにも思えた……。

「そんなの……ヒドイですぅ。テラさんは……きっと悲しんでるです」

コンパは力無くそう口を開く。それはきっとイストワールもアイエフも分かっていることなのだろう。彼は今、思いが暴走しているだけ、けれど事情を知らないアイエフもコンパも、彼に何を言ってもきっと聞き入れて貰えないのだろうと思い、粛々とその現状を見ているしかできない。

アイエフはギュッと服の端を強く握った。力のない自分を恨めしく思ったのかもしれない。またああして悩んでいるテラに苛立ったのかもしれない。もしくはその両方か、アイエフはギリリと奥歯を噛んだ。

「戻ってきなさいよ……テラ」

 

 *

 

テラは大剣を薙いで一度距離をとる。壁を蹴って跳躍し、上段からノワールを狙う。

「おぉおおおおおおっ!!!」

叫びながら大剣を振り下ろし、叩き割るように力を込めた。ノワールも剣で直撃を避けたがそのままの勢いに押されて上体を崩して地面に倒れこんだ。

「っあ!」

ノワールが苦痛の声を漏らして顔を上げる。そこには非情の目をしたテラが剣を大上段に構えてノワールめがけて振り下ろそうとしていた。

反射的に目を瞑り、両手を前に出したノワールだがいつまで経っても来ない衝撃にゆっくりと両目を開けて状況を確認する。

「ッ……!!」

テラは左手で額を押さえ込むようにして小刻みに震えていた。構えていた大剣は傍らに降ろされて荒い息遣いの合間から呻くような声が漏れている。

ガシャンとプロセッサの模した黒の鎧が金属音を立てて、そしてテラは地に膝をついた。剣を手放し、両手で頭を押さえて額を地面に擦りつけるようにして何度も何度も大きな呻き声を上げる。

「ハッ……ハッ……!」

「テ――」

ノワールが彼の名を呼びかけたところでテラはまた色を失った瞳を見せて地面に突き刺していた剣を構えてノワールに振りかぶる。

「ッ!」

ノワールもすかさずに寄せた剣でその一撃を受け止める。テラもいきなりの攻撃でいまいち出力できていなかったのか、ノワールも容易く防げる威力の剣で鍔迫り合いをする。

背後からベールが槍を構えての一閃突きを脇を上げて避け、それを足場にして後ろに下がる。

待ちかまえていたブランのハンマーと大剣がぶつかり、火花を飛ばす。反対側から襲いかかるネプテューヌの太刀を左手で受け止めて勢いを流して地面に叩き付けた。

ネプテューヌの陰に隠れるようにして接近したノワールが剣を横に薙いでテラを斬りつける。

「っ!」

右手に少しダメージを負ったテラが傷口を押さえて再び4人と対峙する。

疲弊ではなく、何か別のもので息を荒げるテラが片膝を突いて肩を揺らして息をする。藍色の瞳からつぅーと涙が流れ、地面に滴る。

ギリリ……と大剣を握る右手に力が込められていき、剣先を揺らして狂ったように笑い声を上げて天を仰ぐ。

「くく……くははは……! 懐かしいな、昔もこうやって……」

「……争ってた」

ブランはハンマーを握る両手に力を込めてそう呟いた。

彼女たちの記憶の片隅に浮かぶ、守護神戦争の情景。今まで抑えられていた、抑制されていた記憶が彼の力と共に沸き上がり、彼女たちの判断を掻き消していく。

それでも、彼女たちには『テラ』としての彼を捨てきれずにいたのも確かだった――。

「テラ、今からでも大丈夫だから……戻ってきて?」

ベールは諭すように彼にそう言葉を投げかける。しかし、答えなど分かり切っているかのようにテラは乾いた笑いを漏らしてゆらりと身体を揺らしてベールに視線を向けた。

「甘いよな……アンタは昔からそうだったよ。……もう戻れるわけがないんだよ、戻る気もない……。アンタらを葬るまではな」

テラの何も映らなかった藍色の瞳に、再び殺意の色が込もった。絶望を映した瞳で剣を握り、そして大地を蹴って彼女たちめがけて振り下ろす。

「裏切られた俺の気持ちが、アンタらなんかに分かってたまるかってんだよッ!」

避けられた剣は地面に刺さり、ぐらぐらと地響きを巻き起こす。木々はざわめき、ビリビリと空気も振動する。

地面から抜き取った剣を両手で構えて上段に構えてネプテューヌに振り下ろす。

剣と太刀がぶつかり、擦れ合い、火花を飛ばし、互いの心を削りゆく。

「やめて、テラ!」

「五月蠅い! 俺はもうお前らの言うことなんて――!」

「貴方が手加減できている内にやめて!」

「ッ!」

ネプテューヌの太刀を弾き、テラはぐらりと身体を揺らしておぼつかない足取りで引き下がる。額を押さえて呻くように声を上げる。

「手、加減……だと!? 俺が、そんなっ……!」

「貴方が本気を出せば、私達なんて一瞬で終わってもおかしくない。なのに、こうして貴方と互角に渡り合えている。これは貴方が手加減しているからじゃない……?」

ネプテューヌは語りかけるように彼に、そう諭す。しかし、それを否定するように、テラは両膝を突いて耳を塞ぐ。

「や、めろ……! 俺は、手加減なんてしていない! 俺は……俺はぁああ!」

地面に転がった剣を再び構えてネプテューヌに突っ込む。何もかも消し去るように。

いや、逃げ出すように。彼にとって、騒音にしか成り得ない彼女の言葉を否定するようにテラは全てを否定して叫んだ。

「うぉぉあああああああっ!!!」

激昂したテラの一撃をネプテューヌはいなして背後に回りテラを背後から刀の峰でテラの首筋を打った。

――かのように思えた。

しかし、テラの発した波動に押されて刀はテラに届く前に弾き飛ばされる。

武器を失ったネプテューヌは地面を蹴って後退し、変わりにノワール、ベール、ブランが前に出る。

ノワールの剣を大剣で受け止め、ブランが振り下ろすハンマーを身体をずらして避け、ベールが繰り出す槍の一撃を地面を蹴って身体を浮かして避ける。

空中で一回転して着地、身体の向きを変えて彼女たちに視線を向ける。

「消えろ……消えろ……全部、消えてしまえぇっ!!!」

テラの瞳から段々と色が薄れていく。その色を全て流してしまうように、テラの瞳からボロボロと涙が零れて、地面に弾けて消えていく。がくん、とテラの身体が大きく揺れてまた地面に膝を突く。両手で頭を抑えるように、悶えるように、蹲り呻き声を発する。

 

 

 

――絶叫。

「ぅあぁぁあああああああああああああああああっっっ!!!!」

 

 

 

一際大きな衝撃波。それは、ネプテューヌ達だけじゃない、遠巻きに見ていたアイエフやコンパやイストワール、そして周りの建物すらも巻き込んで、巨大な竜巻とも思えるほどの衝撃が生み出される。

負の力。

人々が人々を、世界を恨み、そして与えられた力。その具現されたものこそが――鬼神。

それをまざまざと見せつけたテラは、ゆったりとその身体を両手で支えながら起き上がらせて完全に色を失った瞳で周囲を一瞥してゆっくりと上体を揺らしながらそこから見える市街へと足を向けようとしていた。

彼にとって、これではまだ足りない。尽きることのない怨念、怨恨、絶望、悲哀――。それら全てが彼を動かす原動力となっていた。絶えることのない殺戮の動機、とも。

虚ろな視線で、灰色の染まりつつある空を仰ぎ、乾いた笑いが木霊する。

「ひゃははははははははははははははははははははははははははははははッ!!!」

まるで狂った世界をもあざ笑うように、いや、彼が狂ってしまったのか。しかし、このとき、それはまるで幼子が感じるように些細な問題だったのかもしれない。

ただ、彼の狂った笑い声と、悲鳴と、泣き声だけが流れていた。悲鳴、泣き声、それらが大きくなるに連れて、彼の笑い声もまた大きさを増していく。

世界の終焉を具現したように、ただ、空に浮かぶ暗雲がこれからの未来を示しているように黒々とした色を映していた。

瓦礫に埋もれた少女達、彼が仲間と、家族として慕った者達に一瞥もくれることなくテラはゆったりとした足取りで微笑を浮かべながら一歩一歩、歩いていく。

相も変わらない虚ろな瞳で。

ガラガラと剣先と地面が擦れて小さな溝を作っていく。まるで、幼子が小枝を引きずるように、しかし、狂ったような微笑を浮かべながら既に静けさが渦巻いている市街へと向かっていく。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

――数十分後。

「……ッ!」

ネプテューヌは瓦礫を押しのけて刀を杖の変わりにしてふらふらと起き上がる。

強く頭を打った所為で気絶していたらしい。痛む後頭部を押さえながらキョロキョロと周囲を見回して『絶望』した。

「嘘……」

もはや、以前の市街の面影はなく所々損傷の激しい建物が痛々しく佇み、壊された銅像などが瓦礫となって散らばっていた。

ネプテューヌがようやく起こした身体からふらふらと力が抜けていき、ペタンと腰を突く。

そして、それと同時に彼女の中にあった女神としての役目、大陸を守護するという使命を全うできなかったこと、そして大切な彼を止めてやれなかったという無力感、虚しさだけがゆっくりと沸き上がってきたのだった。

「止められなかった……」

拳を握り、地面を抉る。ポロポロと彼女の大きな瞳から涙が零れ、頬を伝って地面に落ちて弾ける。いくら拭っても彼女の瞳から涙が止まることはない。いくら止めようと思っても止まらない。女神としての使命と、彼の心を守ってやれなかったという自分を責める感情だけが沸々とわき上がり、より一層彼女の力を奪っていく。

憔悴しきった表情でネプテューヌは天を仰いだ。そんな彼女をあざ笑うかのように空には曇天が広がり、あまつさえポロポロと小降りの雨を降らせた。

市街から聞こえる爆発音、レスキュー隊のサイレンの音、人々の騒ぐ声。それら全ては、今ネプテューヌにとって騒音にしかならない。

耳を塞ぎ、額を地面に擦りつけるようにして蹲る。

(聞きたくない……!)

そう強く念じた。しかし、震える彼女の胸ぐらを掴む少女が目の前に現れた。

「ねぷ子! 何してんのよ!」

アイエフ。ボロボロの身体を引きずって、それどころか一人では立てないようでコンパに支えて貰いながら彼女にいつものように表情を怒りに染めたアイエフがネプテューヌの胸ぐらを締め付けていた。

「早く追いかけるのよ! これ以上アイツに罪を重ねさせる気!?」

「そうです! 早くテラさんを止めないと大変です!」

しかし、ネプテューヌは力無く腕を垂らして薄く笑う。

「もうムリだよ……。私達が敵うわけがない……テラはもう止まらないよ」

「ッ!」

アイエフはたまらず、ネプテューヌの頬を殴り飛ばした。衝撃に任せてネプテューヌの身体は横に飛び、地面にへたりと腰を落とす。

「らしくないわね! 何時からそんなになったわけ!?」

「弱気なねぷねぷなんてねぷねぷじゃないです! ねぷねぷは……ねぷねぷはぁ……!」

コンパは涙を両目に溢れさせて、涙声でめそめそと涙ぐむ。ネプテューヌはそれを俯き加減で静かに見つめていた。

戦火の飛び交う市街の姿をまじまじと見つめ、そしてそれと同時に過去の記憶が鮮明に彼女の脳裏に浮かび上がった。

彼と過ごした記憶、楽しく、愉快で

 

 

 

――そして悲しい結末を迎えた記憶。

 

 

 

やり直すことが出来るだろうか?

彼女はそう思った。

起こりえた事実は変えられない。でも、新たにこれから創ることは出来る。

かつて、自分が起こした過ちを、今からでも塗り替えることが出来るだろうか?

そんな疑問が、彼女の中に渦巻いた。

 

 

そして、二人の言う通りだ、と感じた。

こんな自分は自分じゃない。

かつて、彼女の思い人である彼が言っていた。

 

 

 

『お前自身が自分の正体を知ったとき、それでもお前の本質が変わらなかったのは凄く嬉しかった』

 

 

 

今まで通りの自分、それを彼は好いていてくれた。

だからこそ――。

 

 

 

 

 

「そうだよね、私らしくないかも。ゴメン二人とも、ちょっと弱気になってた」

いつものトーンで彼女は応えた。

そんなネプテューヌを見て、アイエフはいつも通り呆れた笑みを浮かべて、コンパはまだ少し涙の跡が残るものの、それでもいつも通りの笑顔で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってて……テラ!」

轟音の鳴り響く市街に視線を向けて、ネプテューヌは静かに、力強く呟いた。

 

説明
29話です。Vで新キャラのクロワールさんでましたね
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コメント
藾弑サマ> イストワール「人々の憎悪の念は強く激しい…故にテラはそれらの思念に飲まれてしまうのです」 つまり正気を失ってる状態だね イストワール「内にあるすべての念を晴らすまで、きっとテラは止まらないでしょう」 こりゃあ大変だぞぉ(ME-GA)
クァム「テラ…全ての負を受け止める鬼神か。とても辛いだろうな…例えようの無いくらいに」(駆蘭)
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超次元ゲイムネプテューヌ 二次創作 ご都合主義 

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