とある科学の自由選択《Freedom Selects》 第 二 話 待ち合わせと唐突な遭遇 |
第 二 話 待ち合わせと唐突な遭遇
神命 選(かみこと すぐる)は、第十九学区の裏路地に立っていた。
もう少し正確に言うと、彼は裏路地に倒れている不良達の中心に立っていた。
「おいおいどうした。もう終わりか」
彼はまだ意識のある不良の一人に話しかける。
「まさかお前が本当にあの『万物透過』だったのか。た、助けてくれ。もうこんなことしねぇよ。だ、だから……」
彼が怯えているのも無理はない。彼らの攻撃は一発も当たらなかったのだ。いや当たらなかったと言うよりはすり抜けた。まるで幽霊が壁を無視して進むように。そして此処からは一方的に殴り続け今に至る。
「なんだなんだ。俺のこと知ってんじゃねぇか。まぁ、それが俺の能力名って訳じゃないんだが。正直に言ってみろ。見掛けで判断したろ?見掛けで?」
「あ、ああ?」
「やっぱりか……そもそもこの街で人間を見掛けで判断する意味が分からない。最後にはそんな事をするお前らみたいな連中が見掛け倒しに終わるって言うのにな」
神命は呆れたように呟く。
「大丈夫だ、別に殺すなんてことしねぇよ。だがここで俺にこんなことしたってことは、他の奴にもしたってことだよなぁ」
「わ、分かってる。も、もう一切こんなことしない」
「うんうん。物分かりが良い奴で良かった。おかげで自宅で出来る簡単人柱を作る羽目にならなくて良かったよ」
そう言って彼は急いでその場を後にする。ある喫茶店で待ち合わせをしているのだ。不良に絡まれた所為で5分ほど時間に遅れてしまった。よって彼は少し急ぎ足でその喫茶店へ向かっている。
喫茶店と言っても大通りに面し多くの客で賑わっているような所ではない。こんな裏路地を通らないと行けない様な寂れてしまった店だ。客の出入りはほとんどない。こんな店を経営している店主はと言うとこの店の利益で生計を建てている訳ではなくあくまで趣味である。まぁ彼がこんな店を目指していた訳ではないのだが……
神命はいつもカウンターの一番右端の席に座る。そこが彼の専用席のようなものになっている。
「店主、いつもの紅茶を頼む」
彼がそう言うと店主は慣れた手つきで紅茶を用意する。
「また紅茶か?たまにはコーヒーとか飲んでみたらどうだ。一応ここはコーヒー中心の店ってことになってるんだが」
「別にいいだろ?ここに来る客なんて俺以外に両手の指で数えるほどしかいないんだし。って言うかあんな泥水誰が飲めるか。何であんな物存在してるんだ」
何かこんな言葉を聴いたらどこぞの第一位が襲い掛かってぐちゃぐちゃじゃ済みそうにないことになりそうだが、気にしないでおく。
「あ、今おじさん傷ついちゃったなぁ。今すぐ謝れ。全世界150億人のコーヒー愛飲者に今すぐ謝れ」
「おい、何か世界人口が物凄いことになってるんだが」
紅茶をすすりながら神命は言う。その態度に店主は呆れた様に呟く。
「ったく、俺はコーヒー店がやりたくてこの店を開いたんだ。なのに何で俺はこんな餓鬼に紅茶を淹れて、その上コーヒーを馬鹿にされなくちゃならんのだ……」
「いいじゃないか。どうせ話相手なんか俺くらいしかいないんだし。はぁ」
「どうした?溜め息なんかついて」
「あんたってさぁ、『6』て数字についてどう思う?」
「どうしたんだ、突然」
『6』???素因数分解すると2×3であり1,2番目の素数を掛けると出来る数字。その数字は自然界の中にも多く現れており、蜂の巣や亀の甲羅等の六角形、いわゆるハニカム構造と言う奴だ。六角形はその他色々なところに現われる。例を挙げると味噌汁などの汁の対流などだ。(暇があったら一度よく見てほしい。少し感動する。)また素数と『6』を使って円周率を表現できるなど兎に角とても有り触れた数字である。そして何より……
「地味だと思わないか?」
「確かに少し地味って印象が無くも無いな」
「無くも無いじゃなくてあるんだよ。なんかさぁ、音楽とかのランキングで第六位とか言われてもピンと来ないと思う訳。第三位とか第五位とかまでなら曲名覚えてると思うんだけど第六位となると一気にぼやける様なきがするんだよね。第七位だって『あ、七位だから覚えよ』とかなるだろ?でも六位って地味だろ。覚えてもらえないんだよ」
「何?6に何か恨みでもあるの?何で6でそんなに悩んでるの?俺に相談してくれてもいいんだぜ」
ほんの少しだが店主が心配そうな顔をつくる。
何故彼がこの『6』と言う数字を嫌っているかと言うと彼が学園都市の超能力者の第六位であるからだ。彼が本当に『6』と言う数字を嫌っているかと言うとそうではないのだが、第六位と言う称号を与えられた所為で低レベルの能力者に舐められるのが彼にとって非常に不快なのだ。また自分が戦った相手に自分がレベル5だと言っても「誰だっけ?」と言われる始末である。
「いやまぁ、相談する程のことでもないんだがな。まぁ気にしないでくれ。そう言えば、この店に高校二年生くらいの女が来なかったか?待ち合わせをしているんだが」
店主との会話ですっかり忘れていたが彼はここに待ち合わせで来ていたのだ。
「いや見てないな。そもそもここらをうろつく高校生なんてスキルアウトかお前ぐらいのもんだろ」
「そうか」と神命は呟き紅茶を一気に飲み干す。その後、店主の「彼女か何かか?」という問いに対しては華麗にスルーし代金を置いて店を出る。
(さて、何処から探そうか。あいつの居そうな場所って何処だったっけ)
そう思いながら店に入る前に殴り飛ばした不良達がこちらを見て苦笑いしているのを他所に路地を抜け学区を移動する。
ここは第七学区のとある通りである。
いつもなら人通りもありそれなりに賑わっている筈なのだが、今日はいつもとは違う。この通りには『いそべ銀行』と言う銀行があるのだが昼間にも関わらずシャッターが閉まっている。しかもそのシャッターにはつい先ほど突然起きた銀行内部から爆発により強引に人一人が通れるほどの穴が開いてしまっている。
「初春、現場に着きましたの。ですが犯人には逃げられてしまったみたいですわね」
突然空中に姿を現した少女の腕には緑の腕章が付けられている。
風紀委員(ジャッジメント)だ。風紀委員とは学生(レベルは問わない)によって形成され、学園都市の治安維持にあたる組織だ。風紀委員になるには「九枚の契約書にサイン」し、「十三種の適正試験」と「4ヶ月に及ぶ研修」を突破しなければならない。
そして今回この第七学区で起きた能力者による強盗事件を解決すべく彼女は駆けつけて来たのだ。
「初春、状況はどうなっていますの?」
「ちょっと待ってください、白井さん。今、情報が出ました。犯人は3人、その内の一人はレベル3相当の発火能力者(パイロキネシスト)です。現在は銀行のシャッターを破壊して外部へ逃走、南東方向へ向かっている様です」
「分かりましたの。これからその犯人達を追いかけますのでサポートして下さいですの」
彼女に初春と呼ばれているこの少女、実は凄腕ハッカーで守護神(ゴールキーパー)と呼ばれそこらの監視カメラの映像を盗み見るのは超楽勝だったりする。
「白井さん、先ずはそこから通り沿いに南下して三つ目の角を右へ曲がって下さい。そうしたら……」
神命 選は第七学区に来ていた。
(おいおい、これだけ探してんのに居ないぞあいつ。携帯も通じないし拉致られでもしたのか)
ここに来るでに彼は結構な距離を歩いている。正直疲れているし面倒くさいと思っているのだが。
(授業の時間もとっくに終わっているし、忘れて寮にでも帰ったのか?もういいや、そうに違いない。帰るか)
そう思って通りを歩いていると、前からなんか知らないけどすごい形相で走ってくる3人組がいる。彼らの顔にはバンダナが巻かれており、手にはナイフを持っている者もおり、恐らく現金が入っているであろう大きな鞄を持った者もいる。
(ああ、ええとあれか。銀行強盗的な奴か。ったく不良に絡まれるわ強盗が現われるわ、今日は凶日か。それもこれも俺が第六位のレッテルを貼られているからだ……)
止めようか止めまいか迷っている彼に走りながら強盗の一人が叫んでくる。
因みに彼は考え事をしているとあまり周りの音や様子が入って来なくなる。だが……
「てめぇ邪魔だ、退けよ屑が。引っ込んでろ」
何故か知らないけどこの言葉だけははっきりと聞こえた、何故か知らないけど。要するに頭にカチンと来たのだ。
「てめぇ聞こえなかったのか。早く退けって言ってんd……」
その言葉を言い切る前に彼の体は3メートル程後ろへ吹っ飛んだ。神命が一瞬にして彼の前に移動し思いっきり腹部を殴ったのだ。それでも3メートルは飛ぶことは無いと思うが。
「く、くそ。いったい何が……」
もう一人の男が叫び直後ナイフを振り回してくる。しかし神命は動じない。動じないと言うより動かない。ただ……
「拒絶」
と呟くだけ。
がやはり男の体は神命の体をすり抜け体勢が崩れる。そこへすかさず蹴りを入れ気絶させる。気絶するような蹴りでは無いはずなのだが。
「お、お前はまさかどれだけ殴ろうとしても、拳銃で撃とうとしてもその体を通り抜ける。故に現実味のある幽霊???『万物透過(リアリティゴースト)』と呼ばれるあの……」
その言葉に神命は少し感動を覚える。そして思う、ああこいつだけは生かしてやってもいいか……
そう思う前に男の方が余計な言葉を挟む。
「く、くそ。こんなところで終わるってのか。こんな、この程度の小説で、この程度の奴に……いや俺はここで止まる訳にはいかない。俺は原作で……数多の小説で……様々な奴の解説役を務めてきたんだ。こんなところで俺は立ち止まる訳にはいかないんだああぁぁぁぁぁ」
よく分からない事を男が叫んだ。
(ああ駄目だこいつ、俺だけでなく作者まで侮辱した。こりゃあ……)
男が手を前に掲げると手のひらに火の球が発生した。それを男は選に向かって投げつけてくる。
狙いは正確だった。
しかし彼はこう呟くだけ。
「炎を選択、その軌道を操作」
すると彼の体に近づくにつれ横へそれていく。そして彼の横を通り過ぎたと思ったら火の玉は彼を中心として半円を描きUターンして男の元へ向かっていく。
「な、何ぃ!」
そう叫ぶ強盗の腹部に投げる前より明らかに加速した火の玉が直撃し後ろへ吹っ飛ぶ。
「『万物透過(リアリティゴースト)』がこんな力使うとは聞いてないぞ……」
それだけ呟くとその男の意識も遠のいていく。
「はぁ、もう終わりかよ。どうしよこいつら、何か一方的すぎて俺が悪者みたいになってる気がする」
そう言うと神命は男達の体を近くの路地に投げ込む。
(現金はどうしようか。これくらいは風紀委員の支部にでも持って行った方がいいな)
そう思って彼は鞄(何か黒地にPU○Aと書かれている)を拾い上げると足を近くの風紀委員の支部へと向ける。
「(って言うかさっきの強盗俺の事知っていたのに襲って来たな。やっぱり第六位と言うレッテルが……上位陣でも潰していった方が手っ取り早く……)」
等とぼやいていると、後ろの路地から一人の少女が飛び出してきた。
ここでもう一度だけ言っておこう、彼は考え事をしているとあまり周りの音や様子が入って来なくなる。例えば、このくらい考え込んでいると。
「それで初春、犯人が持っている鞄は黒地にPU○Aと書かれているのですのね。分かりましt……遭遇してしまいましたわ。これから捕縛します。至急応援を」
そう無線に叫ぶと彼女は腕章を付けている腕を前に突き出し腕章を見やすくもう一方の腕で吊り上げると
「ジャッジメントですの、大人しくお縄に……って聞いていますの?」
当然神命は反応しない。彼は今どうやって自分の名を広めて行こうか考えているのだ。反応している暇などない。
その姿を見た彼女は素早く走り彼に近づくと彼の背中に触れる。その瞬間立っていた筈の彼は地面と水平に空中に現われ地面に叩き付けられる。
「痛ってぇ、何だ、また不良か?」
「ジャッジメントですの、大人しくお縄について下さいですの」
「お前風紀委員のくせに一般人に攻撃していいと思ってんのか。そもそも俺がなにしたってんだ。こりゃあ気絶だけじゃ割りに合わないぞ」
「あら、ようやくお気づきになりましたの?強盗のくせに鈍いですわね。戦う気は満々みたいですけど」
「お前そんなこと言っていいのか?俺本気でやっちゃうよ?」
そう言うと神命は彼女に向かって走り出し持っていた鞄で叩きつけようとするが、一瞬で彼女の姿が消えた。
「そうか。お前、空間移動能力者(テレポーター)だったのか」
「今頃、お気づきになりましたの?」
「ああまぁ。ならこっちもそれに対応するだけだから」
「只のレベル3の発火能力者に相手できるほど私は甘くありませんのよ」
「何言ってんだ?じゃあ、そろそろ本気でも出すか」
すると彼は呟く。
「空間移動能力者を選択、空間に固定。空間移動によって移動した物体を拒絶、身体を透過」
その言葉を聴くと彼女はこれは少しやばいですのと感じ素早く身構える。
「な、何ですの?あなた発火能力者のはずではなかったですの?」
その言葉に神命は反応せず一直線に走って来る。
彼女はスカートの中に隠し持っていた金属矢を数本手に取り
「大人しくしなければこの金属矢を体内に直接テレポートさせるだけですの」
彼女の手にあった金属矢は消え走って来る神命の体内に移動した筈だった。しかし彼女は彼の足元にカンと音を立てて金属矢が落ちているのに気がついた。
(な、何ですの?確かに演算は合っていましたの。でも彼の体には傷一つないと言う事は……彼の体をすり抜けた?となるとこれは少々厄介ですの)
そう思って走って来る彼の攻撃を避けようとテレポートしようとしたが、
(テレポートが出来ませんの!?ま、まずい。このままでは……)
彼女の予想は的中した。拳が彼女の腹部に突き刺さり痛みが走る。しかし今回はさっきの強盗達とは違い体が吹っ飛ぶなんてことはなく、ただみぞおちにパンチが入っただけだった。それでも彼女を気絶させるには十分だったのかドサッと地面へ倒れこむ。
そこで神命は我に返る。
「はぁ、やっちゃったよ……いくらこっちから仕掛けた訳じゃないとはいえ、これはなぁ……」
(どうしよう、支部へ行くのに荷物が増えちまったなぁ)
などと考えていると、
「黒子!!」
叫び声がした。
「あんた、私の後輩に何してくれてんのよ!!」
そう言ってもう一人の少女が神命の方へ向かってくる。
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第 一 話 始点と終点は紙一重 http://www.tinami.com/view/448238 第 三 話 電撃姫との衝突 http://www.tinami.com/view/453375 |
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