たとえ、世界を滅ぼしても 〜第4次聖杯戦争物語〜 陣営会話(思考重視) |
――――――――――――時を遡る事、数時間前。
倉庫街の戦いは終わり、各陣営は自らの拠点へ戻り、その時の事を反芻する。
繰り広げられし戦闘は、それぞれの主君と従者へ何を齎し、何を思わせたのか?
彼等の知らない会話は繰り広げられる、正体の知らない相手は恐怖か興味か、
さぁ…始めよう『考察』を。
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<SIDE/アーチャー&アサシン陣営>
倉庫街の戦闘から30分後。
言峰綺礼は、アサシンを使って得た情報を整理し、遠坂時臣へと報告していた。
「…以上が、今回の戦闘の顛末です。」
『ふむ…正体不明の咆哮か、恐らくは確認できていないキャスターのサーヴァントだろうが…バーサーカーを肉弾戦で追い払う等、随分と野蛮な英霊が呼び出されたようだな。』
教会から遠坂邸へと伝えられた内容へ、時臣の思案するような声が響く。
どことなく苦渋を感じさせる声に、【そのサーヴァント】への嫌悪が感じられてみられる。
言峰綺礼から見た、遠坂時臣という人物は、その『余裕をもって優雅たれ』という家訓からも分かる様に、魔術師という存在を美化しがちだ。
美しく優雅かつ気高いのが魔術師、とでも言うのだろうか?
だから殆ど無意識に近い状態のか、醜悪や雑な((魔術|モノ))には嫌悪感を隠そうとしない傲慢な節がある。
……まぁ、それを綺礼が指摘する必要性もないだろうし、本人には自覚が無いのだから意味が無いだろうと、彼は放っておいているのだった。
『姿が見られなかったのは痛いね、綺礼。とりあえずアサシンにキャスターの居場所を探らせてくれないかい?
他のマスターに関しても、アサシンが消滅したと誤認している以上、監視を付けるのは容易な筈だ。』
「分かりました。」
『頼んだよ、それでは今日はここまでにしよう…私はこれからアーチャーの機嫌を取らないといけないからね。』
「はい、失礼いたします。」
そう言ったと同時に、プツリと途絶えた通信に、綺礼は目を伏せて内心で呟く。
(……((アレ|・・))が((キャスター|魔術師))だと?本気でそう思われているのか、師は…違う、アレはそのような類の者が上げられる【声】ではなかった。)
その脳裏に響くのは、倉庫街へ迸った咆哮の声。
凄まじい怒りを感じさせた咆哮は、しかしそれ以外の【ナニか】を含んでいた。
アサシンと五感を共有していたからこそ、まるでその場に居たかのよう聞こえた咆哮。
今まで何も感じた事の無い【心】を恐ろしい程に揺さぶった【ソレ】。
それは代行者として生きていた時の高揚感にも似て、別の感覚。
その感覚を抱かせた【咆哮の主】に、言峰綺礼に確かな【興味】を抱かせていた。
(私がこの聖杯戦争で求めるべきは衛宮切嗣だけだと思っていたが、あの咆哮の主も【何か】を知っているのだろうか…?)
生まれてからずっと、他者が美しいと想うものが、美しいと思えなかった。
その綺礼が、数時間前に聞いた【声】を忘れられずにいた、もっと【聞きたい】と思ってしまう程に。
(恐らく、師は思い違いをしている……しかし、キャスターではないという確証も無い。
だがもし衛宮切嗣と同様に【答え】を知っているかもしれないのなら、私が、先に出会わなければ。
…アーチャーに間違って殺されては、堪ったものではない。)
「―――――綺礼様」
「どうした」
その時、音もなく現れた髑髏の仮面と黒いローブの女アサシンが現れた。
それに驚く事無く綺礼は声を返し、女アサシンは手に持っていた切り裂かれた蝙蝠の死骸を綺礼に見せた。
「教会の外でこちらの使い魔を発見致しました……この教会を監視する意図で放たれたモノかと思われます。」
アサシンの推測に、綺礼は眉を顰めて蝙蝠を見た。
誰が不可侵領域に指定されている教会を監視していたのかと、綺礼は手掛かりを探す為に蝙蝠の死骸を手に取った。
そして綺礼は奇妙な物が蝙蝠の死骸に付いていることに気がついた。
蝙蝠の死骸の腹には、バンドで縛り付けられた暗視カメラが付いていたのだ。
その瞬間、言峰綺礼は確信した。
言峰綺礼には、使い魔に近代科学を装備させるような人物に【心当たり】がある。
そしてもし、この使い魔を放ったのが【その人物】だとしたら――――――――――――確かめなければ、ならなかった。
『……アサシン、キャスター探索以外にも数人を街に放て、そして…あの、【咆哮の主】を探し出せ。』
『―――――――御意、直ちに5名程向かわせます。』
パスを通して降した命令に、アサシンのサーヴァントは特に文句を言う事も無く動き出す。
それと同時に、教会の外へ黒い影が複数現れ、闇夜に蠢き街へ向かって散開していった。
そしてその数十分後、言峰綺礼もまた、教会から姿を消していたのだった。
―――――――――――――師弟の間の微妙な齟齬は此処に生まれる。
言峰綺礼は気付いているだろうか?
協力者が支援する者を欺いた時点で、その関係は崩れ始めている事に。
その事実を指摘する者が現れた時、この師弟の関係がどうなるのかは…………今はまだ、分からない。
<SIDE/衛宮切嗣>
まだ人通りのある冬木の街を、1人の男が歩いていた。
夜の帳が舞い降りた町の一角で、その男はおもむろに通信機を取り出すとすぐ傍の路地裏に身を隠す。
そして繋がった通信機越しの相手へ、開口一番にこう告げた。
「舞弥、あの咆哮はキャスターのサーヴァントじゃない…恐らくは、キャスターの代わりにイレギュラークラスが呼び出されたんだろう。」
『…成程、特定出来ていないキャスターのサーヴァントが余っているからとはいえ、その通りにキャスターのサーヴァントが現れるとは限らない、という事ですね。』
それに驚く事無く冷静に分析した声で返事をしてくる相手に、男――――――――衛宮切嗣こと魔術師殺しは、無言でソレを肯定した。
初戦と思われる倉庫街の戦いを、切嗣もまた見つめていた。
それは倉庫街から離れたクレーン付近、隙を見て他のマスターを射殺しようと考えていたが、アサシンの存在によって阻まれた。
死んだ筈のアサシンの存在を疑っていた彼は、それによってアサシンのサーヴァントが脱落して等いなかった事を確信出来たが、逆に自らの存在を気付かれないように狙撃をする事が出来なかった。
だがそれ以上に切嗣の警戒を引き上げたのは、セイバーを追い詰めていたバーサーカーを一撃で撤退させた【そのサーヴァント】だった。
アインツベルンに雇われていた切嗣は、聖杯戦争に呼び出されるサーヴァントについてある程度の知識を事前に手に入れていた。
その中でも自身と相性が良いだろうと考えていたサーヴァントの事は、しっかりと記憶してた。
そも、キャスターのサーヴァントにはある程度の適性が必要であり、自らの領域に敵を引き込んで戦うクラスだ。
ましてや3騎士の内の2つには、半端な魔術攻撃が届かない対魔力もあり戦場へ出て来る事等まず有り得ない。
しかし……そのサーヴァントは、魔術攻撃が効くバーサーカーへ、【わざわざ】襲い掛かっていた。
(決まりだな―――――あのサーヴァントは魔術を使わなかったんじゃなくて、((使えなかった|・・・・・))んだ。
魔術の使えない((魔術師|キャスター))なんて有り得ない、ならアレはキャスターのサーヴァントじゃないと考えた方が正しい。)
そう結論付けた切嗣は舞弥へと言葉を続ける。
「そうだ、アハト翁には聞いていたが、セイバーを筆頭とする3騎士以外のサーヴァントを召喚する際に、稀に特殊なクラスで召喚される事もあるそうだ。
まさかこの聖杯戦争でその事態が発生するとは思っていなかったがな…今までの聖杯戦争でも、そのイレギュラーサーヴァントが現れた事はあったらしい。」
『ではキャスターのサーヴァントではない【イレギュラー】がバーサーカーを襲撃したのは理由があるのでしょうか?』
「さぁ、そこまではまだ分からないさ、だがセイバーが負傷した以上今まで以上に気を使って行動する必要がある。
今は…あの可愛い騎士王さんの左手を使える状態に戻してやるのが僕らの仕事だ……準備はいいな、舞弥。」
『はい、待機位置に付き次第再度連絡をします、切嗣。』
「それでいい、通話を切る。」
ぷつり、と途切れた通信機を片手に衛宮切嗣は視線を跳ね上げる。
その光の無い目が見つめる先には………街の中心地で輝く一際大きなビルが聳え立っていた。
――――――事実とは違いながらも、確信に近い判断を降して((衛宮切嗣|魔術師殺し))は歩いていく。
理想の為に銃を握り、集団の為に小数を切り捨てる道を男は進む。
しかし、その先を【彼】が阻む為に立ち塞がるのだという事を、今は知る由も無かった。
相反する意思を持つ者が、自らの目の前に現れるという事に………
<SIDE/ランサー陣営>
―――――――此処は、冬木ハイアットホテル。
市内において最高級のホテルであるそこは、それ相応の利用者のみが納得するだけの豪奢さと設備に、施設を誇っていた。
その最上階のスイートルームを、自らの拠点と工房にしている聖杯戦争のマスターがいた。
倉庫街でセイバーに傷を負わせた、ランサーのマスターである、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトである。
だがそのケイネスの表情は険しく、どこか苛立ちを抑えきれないといった表情である。
そして、おもむろに伏せていた眼を上げると低い声で己のサーヴァントを呼んだ。
「出てこい…ランサー」
「――――――は、お側に」
部屋に響き渡るケイネスの呼び出しに、ランサーはケイネスの少し斜め前に、膝間付いた姿勢で現れる。
その姿は従者そのもの、疑う必要性すらない……だというのに、ランサーを見るケイネスの視線は、鋭く冷たいモノだった。
「今夜はご苦労だったな…誉れ高きディルムッド・オディナの双槍、存分に見せてもらった。」
「恐縮であります、我が主よ。」
ランサーはマスターの言葉に驕ることも、喜びに表情を変える事もなく丁寧に返答を返す。
その様子には、主への不平不満を胸に秘めている様子は無い。
しかし、ケイネスにはランサーの姿は決して真意を見せない不埒な姿にしか映らなかった。
「ああ、存分に見せてもらった上で問うが……貴様、いったいどういう了見だ?」
「……と、申されますと?」
詰問の色を帯び始めたケイネスの声音にも、ランサーは慎み保ちながら答えた。
「ランサー、貴様はサーヴァントとして私に誓ったな?この私に【聖杯を齎すべく全力を尽くす】、と」
「はい、相違ありません。」
「ならば、何故あの場で【遊び】に興じた?」
「……騎士の誇りに懸けて、戯れ事でこの槍を執ることはありませぬ。」
「――では問うが、何故セイバーを仕留められなかった?一度ならず二度までもセイバーを圧倒しながら…!」
「それは…」
「ましてや令呪を持って命じようとした際に、あのような咆哮に恐れて私を連れて逃げる等!!
セイバーを屠るチャンスを自らの手で捨てたような貴様が!一体どの口で私に聖杯を齎すと言うつもりだ!貴様の全力は逃げる事か!!」
先ほどまでの冷静な様子など捨てて、ケイネスはランサーに向かって怒声を放った。
しかし、その言葉にはあまりにも考えが足りていない…ましてやセイバーに関しては初戦でありながらもランサーは充分過ぎる成果を上げている。
セイバーの左手に【((必滅の黄薔薇|ゲイ・ボウ))】によって傷を負わせて、回復不能な戦力の低下を齎し、彼女の宝具解放を出来なくした。
恐らく、他のサーヴァントの乱入さえなければ、セイバーは倒されていた可能性が高い。
また、咆哮に関してもそうだ。
突然バーサーカーを襲った正体不明の敵、ケイネスはソレを【キャスター】と即判断したが、ランサーはそう思ってはいなかった。
自分やセイバーを威圧したバーサーカーを退けた【敵】、魔術師に狂戦士を打倒出来るとは思えなかったし、
それ以上に、恐らく一筋縄ではいかない【敵】と考えて、自らのマスターを守る為に共に戦場を離脱した。
…その考えは、少なくとも【戦場】を駆け巡ってきた戦士としては正しいモノだ。
戦う相手の正体が分からない以上、闇雲に挑むなんて戦闘経験がない素人の考えでしかない、
その【相手】を知り、対策を練る事こそが勝利への布石になると、ディルムッドはちゃんと理解していた。
だが、ケイネスは、【当然の結果】を出せなかった時点で怒りを抱いていた。
そもそも、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、自分の考えに気に食わなかったり、違った結果が出るとすぐに逆上してしまう一面があった。
周囲に恵まれ、壁に当たった事の無い人生を歩いてきた彼には、聖杯戦争もどこかで自分の思い通りになるという、愚かな思い込みが何処かにあったのだ。
その為、ケイネスは【自分自身】に対してではなく、【結果を出せなかった】ランサーに対して怒りを持っていた。
「申し訳ありません、主よ……必ずや、あのセイバーの首級はお約束いたします、どうか…今暫くのご猶予を…」
「改めて誓うまでもないっ!!!!ソレは当然の成果であろう!?貴様は私と契約した!このケイネス・エルメロイ・アーチボルトに聖杯を齎すと!
それは即ち、残る6人のサーヴァントを斬り伏せる事だ!それを今更……っ今更必勝を誓うだと、いったい何を履き違えている!?」
「状況も何もかも、履き違えているのは貴方ではなくて?
ケイネス・エルメロイ・アーチボルト」
その時―――――――冷ややかな声が奥の部屋から響いた。
その声にケイネスが顔を向けてみると、其処には1人の女性が立っていた。
美しい朱色の髪と瞳の美女が、凍てついた氷の様な眼差しを向けていた。
女性の名は、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。
ケイネスの婚約者である。
しかし、彼女がケイネスに向けている眼差しは、婚約者に対する慈しみでも優しさでもなく、
ただ呆れと侮蔑の籠った、冷たいモノでしかなかった。
「今夜の初戦、ランサーは良くやったわ…むしろ、貴方の浅慮な行動を防いでもらったとも言えばいいのかしらね?」
「ソラウ…一体何を言うんだ?」
「バーサーカーの宝具は危険過ぎるわ、あのサーヴァントにとっては手に触れられるモノ全てを【宝具】に出来る。
何処に居ようと、その時武器が無くても、あのバーサーカーは街中でも森の中でも直ぐに【何か拾えば】それだけで戦える。
…その点、セイバーはランサーが宝具の使用を出来なくして、更に左手を使えない状態にまで追い込んでいた。
あの場で優先しなくてはいけなかったのはバーサーカーよ、先にセイバーと共闘してでもあのサーヴァントだけは排除しておくべきだったのに。」
ソラウは初戦の顛末を、彼女自身の使い魔を通じてしっかりと把握して分析もしていた。
自らもこの戦争に参加している1人として、何もしないでいるのは問題外だと考えてもいたからだ。
例え自身の家の魔術刻印が宿っていない魔術師だとしても、ソラウは聖杯戦争に関する知識を事前に学んできていたのだ。
だからこそ…ケイネスの【マスター】としての行動が、彼女には許しがたいものでしかなかった。
「そもそも、貴方は令呪がどれだけ重要な物なのかも忘れているの?
それを初戦だというのに、あんな所でいきなり使おうとするなんてどうかしてるわ、
しかも、貴方がいう『敵』の1人であるバーサーカーを援護する事なんかに使おうとするなんて…どういうつもりだったの?」
「ソラウ、君はあのセイバーの脅威を知らない……私にはマスターにのみ与えられる透視力であのセイバーの能力が把握出来ていた。
アレは恐ろしく強力なサーヴァントだ、総合力ではディルムッドを遥かに凌いでいたんだ…だから」
「そう…その【((強力なサーヴァント|セイバー))】に決して無視出来ない傷を負わせて、
危険な宝具の使用を封じたのが、【誰だった】のかを、忘れていたとでも言うつもりなのかしらね?
そしてランサーを責める貴方自身は、セイバーのマスターを攻撃する事も無く、ライダーの言ってたように【隠れて見てた】だけよね?」
「――っ!」
あくまでも【マスター】として告げるケイネスの反論に、
呆れたようにソラウはその発言の綻びを的確に指摘する事で、ケイネスの言葉を詰まらせた。
……ケイネスの名誉の為に言っておくが、決して彼は無能ではない。
むしろ素晴らしい魔術師であり、時計塔においては【神童】と謳われるほどの逸材である。
現に今回の聖杯戦争において、ケイネスは《始まりの御三家》が作り上げた令呪システムを、
魔力供給のパスと、マスターとしてのパスを分割させる事に成功し、【2人の召喚者】を実現させたのだ。
ランサーの魔力供給のパスはソラウ。
ランサーの絶対命令権でもある、令呪のパスはケイネス。
この契約によってランサーは他のサーヴァントにはない、アドバンテージを得られたのだ。
ケイネスもまた、ソラウが魔力供給を行っている為、自分自身の戦闘に全力をもって挑む事が出来るようになった。
他の魔術師達から見ても、絶賛するにたる偉業。
元のシステムを狂わす事無く、完璧に成し遂げた実力は、彼の魔術師としての才能が優れているという証明でもあった。
「ケイネス、確かに貴方は神童と謳われるだけはあるわ、時計塔でもその実力を認められている素晴らしい腕よ。
………だけど、戦士としては貴方の腕は優れているなんて思えないわ。
その証拠に、貴方もしあそこで『セイバーをバーサーカーと協力して倒せ』なんて命令していたら、
しかも令呪を使っていたらどうなっていたか分かっていたのかしら?」
「ど…どういうことだ?」
「……まさか、貴方まだ気付いてないの?
もしあそこでランサーに令呪を使ってセイバーを倒してたら、その後にバーサーカーがランサーに襲い掛かっていたのかもしれないのよ!?
そこまでセイバーに気を取られていたのなら、後の事なんて考えて行動していたわけじゃなかったんでしょう?
…ねぇケイネス、貴方そうなったら((どうするつもり|・・・・・・・))だったの?」
だが…そんなケイネスにとっては、それこそが一番の盲点だった。
相手がセイバーを倒した後にどのような行動を取るのか?あくまでも魔術師であるケイネスは、そこを考えていなかった。
実際、彼がランサーに令呪で命令しようとした内容は
【バーサーカーを援護してセイバーを殺せ】
ソラウが指摘した、まさに、その通りだったのだから。
…さて、多少は考えてみよう、ちょっとした事だが、それはとても簡単な事。
もしあの場でセイバーを上手く倒せたとしても、その先にバーサーカーが退くなんて保証はどこにもなかった。
そもそも、あの状況でバーサーカーのマスターがいないのなら、何処かに隠れて状況を伺っているのは当然だ。
次に、バーサーカーに襲わせる相手の事も考えるだろう、
その相手にまずライダーを狙うだろうか?……いや、そんな事はしないだろう。
あの場で全く戦闘をしていなかったライダーは、魔力の消費も一番少なく、その手の内も宝具も当然分からない。
ましてや相手は征服王、その実力は未知数…なら、その相手に攻撃など自殺行為だと馬鹿でも分かる。
――――逆に、ランサーはどうだろうか?
セイバーとの戦闘を行っていて少しでも消費されているだろう魔力、
様子を伺っていたなら使用する【宝具】だって相手にバレている。
攻撃手段が分かっていて、多少の手傷も負っている、そしてバーサーカーと一緒に戦えとの【令呪】による縛り付きの状態。
「ケイネス、貴方は【自分の手で】ランサーを殺そうとしたのよ!
令呪の命令次第で、ランサーは【バーサーカーを守る】立場になって、全力を出せなくなって倒されていたかもしれなかったのよ!」
「―――――っ!?」
…それが、ソラウの懸念と怒りの理由、一歩間違えれば取り返しのつかない事態を引き起こしかけたケイネスの行動だった。
そう、【敵のサーヴァントを援護しろ】という命令は、【相手に殺される事】にすら手助けをしてしまいかねない。
ましてやソレが、マスターの令呪によるものだというのなら、果たしてあのバーサーカー相手にランサーは凌ぎ切れただろうか?
そして相手にとっては、チャンス以外のナニに見えるだろう?
相手は強制的に自分のサーヴァントに【背中を預けている】ようなモノだ。
もしも、あそこでケイネスが考えていたように『キャスターのサーヴァント』がバーサーカーを攻撃していなかったら?
もしも、ソラウの言うように【そのマスター】も、その考えを持っていたら、どうなっていただろうか?
…………もし、【ケイネス・エルメロイ・アーチボルト】がバーサーカーのマスターなら、どうしていただろうか?
(私は、私は………ッ!!!)
そこまでケイネスが考えた、その時――――――――
ジリリリリリリリリリィィィィィィィィィ!!!!!!!
「何?何事?」
突然の防災ベルにソラウは当惑の呟きを漏らし、ランサーとケイネスは辺りを注意深く見ます。
同時に部屋に備わっていた電話のベルが鳴り出し、ケイネスは受話器を取って係員からの連絡を聞く。
「そうか、分かった……下の階で火事だそうだ、すぐに避難しろと言ってきた。
規模は小火程度、どうやら火元は何カ所に分散しているらしい……まぁ、間違いなく放火だな」
「放火ですって?」
「フン、これが偶然ではないだろうな。
人払いの為だろうな、敵とて魔術師……一般人がいる中で襲ってくるわけにもいかなかったのだろう。」
「じゃあ……これは敵の襲撃?」
「おそらくは先の倉庫街で暴れたりない輩が押し掛けてきたのだろう、面白い。
あの結果に不本意だったのはこちらも同じだ……ランサー、下の階に降りて迎え撃て!ただし、無下に追い払ったりするなよ?」
「承知しました、襲撃者の退路を断ち、この階に追い込みます。」
「そうだ……お客人にはこのケイネス・エルメロイ・アーチボルトの魔術工房を堪能してもらおうではないか。
二十四層の魔術城壁結界、猟犬代わりに召喚した悪霊が数十体、無数のトラップに廊下の一部を異界化させている空間も存在している………!」
まさに完璧、決して破られる事の無い最強の布陣だと、ケイネスはやってくるだろう愚か者の末路を嗤った。
「魔術師としての戦い方を教えてやろう侵入者、それでこそお互いに秘術を尽くしての競い合いが出来るというものだ。」
そう締めくくるとケイネスは、ソファーに座ってワインを飲みながら、敵が来るのを待つ事にする。
先の失態を完全に打ち消す程の、絶対なる勝利を確信して、それを疑う事も無く。
……………………己がいる場所が、その【敵】からすれば、最も狙いやすく殺しやすい危険地帯なのだと、気付く事もないまま。
―――――――戦場において、油断と慢心は最も忌避されるべき感情である。
ソレを理解して行動するならばともかく、理解もせずに動き回るのは愚者としかいえない。
従者の信を得ていながらも、自ら払いのけては意味が無く。
正論を否定し受け入れられず、眼を背けて俯くならば逃避でしかない。
……故に、その結果はすべからく訪れる事になるであろう。
槍兵の主は過ちを犯している事に気付いていない、気付けるか気付けないかは本人次第、気付けなければ………
<SIDE/ライダー陣営>
さて、此処は外人の住人が多い住宅街、
その一軒家でもあるマッケンジー宅で、ウェイバー・ベルベットは頭を抱えていた。
その隣では征服王ことイスカンダル、そして此度のライダーのサーヴァントがウェイバーを見下ろしている。
真剣な表情の彼等は、ひたすらに冬木の街の地図を眺めている。
しかし、ウェイバーはただ地図を見ているわけではなく、
時々目を伏せて眉間に皺を寄せては、少しだけ脱力したように肩を落として地図に×マークを付けている。
その様子に、ライダーは首を傾げながらも問い掛ける。
「…なぁ坊主、まだ見つからんのか?」
「〜〜〜〜っ、無茶言うなよ!使い魔で探し回るにも限度があるんだからな!?他のサーヴァントの居場所なんて簡単に見つかるかよ!!」
「しっかしのぅ…幾らあの場に姿を現さんでも、あれだけの実力者である以上隠れてコソコソしておるような輩ではないと思うのだが?」
「だーかーらーお前と他のサーヴァントを一緒にするなって!?しかも聞いたのは【声】だけじゃないか!どうやって探すんだよそんなの!!」
「余の戦車で移動するのは控えろと坊主が言うからではないか、ちょっと街の上を旋回して探し回るぐらい大丈夫であろう?」
「目立つんだよ!ばれるんだよ!こっちが他のサーヴァントに見つかるだろ!?アーチャーに狙撃でもされたらどうするんだよぉっ!?」
「だからこそ、坊主の使い魔で敵の居所をだな……」
「ああもう!何回繰り返すんだよこの会話あああああああああああああああ!!??」
…………………どうやら、ウェイバーの使い魔を使って街にあるだろうサーヴァントの痕跡を探し回っていたようだ。
ウェイバーからすれば、初陣から帰ってきて早々に使い魔を使って街中の捜索等させられるとは思ってもいなかった為、予想外もいいところだった。
それでも探す作業を始めたのは街の地理や状況を把握するにはいいかもしれないと思ったからである……決して、デコピンが嫌だった訳ではない。
しかし、それが十数分にも渡ればいい加減うんざりもしてくるというもので、ウェイバーは思わずライダーに対して声を荒げて言い放つ。
「大体!【キャスターのサーヴァント】なんて隠れるのが定石のサーヴァントなんだぞ!?
僕みたいな並みの魔術師に見つけられるような、お粗末な隠れ家なんて作らないだろ!
こと陣地防衛において、絶対のアドバンテージを誇ってるんだから!!」
セイバーやランサーならば、気にかけるのもまだウェイバーにも分からなくはなかった。
彼等の事をライダーは気に入っていたようだし、臣下に加えるのだと息巻いている以上、探そうと言い出すのは分かっていた。
しかし、ライダーが気にかけているのは【1人だけ】のようだった。
それも、バーサーカーを退ける程の咆哮の主、ウェイバーの心を圧し折りかねなかった恐ろしい【声】の持ち主だった。
恐らくは最後に現れる筈の、キャスターのサーヴァント。
他のサーヴァントとは違い、相手の情報が何もない、もしかしたらこちらは相手に狙われているのではないか。
色々と考えてしまい、ウェイバーの不安は相当なモノになっていた。
「なーにを言っとるのだ坊主?あのサーヴァントがキャスターなわけなかろうて、【アレ】はそのような者ではない。」
「えっ…?」
…だからだろう、ウェイバーの言葉に、ライダーが不思議そうな顔をして言った事がすぐに理解出来なかったのは。
固定しかけていた考えを、あっさりと否定された事に、ウェイバーが固まってしまったのを見下ろしながらライダーは続ける。
「坊主、お主何故あの【声】の主をキャスターだと思った?」
「な、何でって…そんなの、あの場所に現れなかったサーヴァントはキャスターだけだし、アサシンはもういないんだから…」
「【そこ】が盲点よ、頭をもっと使え坊主……お主が自分で言ったではないか、【陣地防衛において、絶対のアドバンテージを誇ってる】と。
……そんな者が、自らの拠点から((わざわざ|・・・・))余達の前まで出てくるか?」
「あ」
その言葉に、ウェイバーの中で違和感が生まれた。
ライダーの言うとおり、ウェイバー自身が言った聖杯戦争の知識が、その【矛盾】を突きつけていた。
しかし、キャスターのサーヴァントでないというのならば、また新たな【疑問】が出てきてしまう。
キャスターのサーヴァントではないと認めてしまったら…姿形、その能力、何もかもが分からない【敵】を認めてしまう事になる。
マスター達の中でも、未だ若いウェイバーにとっては、それは恐ろしすぎた。
クラスに分かれているから、サーヴァントの対処法も少しは広がるというのに、全く分からないというのは異常だ。
ましてやそのサーヴァントは、バーサーカーへの奇襲すら見事にやってのけてみせた。
もし、それが自分達に襲い掛かってきたら。
「……なら、あのサーヴァントは、【何】だよ?キャスターじゃないなら、アレは一体何者なんだ…?ライダー、お前さっき『そのような者ではない』って言ったよな…何か分かるのか?」
自分では分からないウェイバーは、ライダーに目を向けて戸惑いを隠しきれない声で問い掛ける。
ライダーは自らのマスターの不安が伝わったのか、その不安を吹き飛ばす様に豪快に笑ってウェイバーの頭をガシガシと撫でた。
「はっはっはっ!まぁ安心せい坊主!なんのサーヴァントまでかは正直分からんが、少なくとも【奴】は生前、戦士として優秀な英傑だったのだろうよ、あの奇襲とて真実、本意だったとは思えんからな!」
「ちょ、あだっ…おい止めろってば!ていうか何だよそれ!?」
「あの時確かに【銀】が見えた、その位置はバーサーカーの真正面であった。
……しかし、【あの位置】こそが、((アレ|・・))にバーサーカーを殺そうという意思がなかった証であろうな!
もし殺す気だったのならば、そもそも【真正面から殴りかかる】必要等はなかったであろう……後ろからでも、よかったのだからな。
だがソレをしなかった…バーサーカーを【殺せない】理由でもあったのか、それともバーサーカーを本当に【殺す気があったのか】?
そこがあのサーヴァントを知る為の重要な所だ……考えるのを止めるでないぞ坊主、戦では【先の手を考えない者】から死んで逝くのだからな。」
「――――ああ……覚えとく……」
頭を撫でられながら、ウェイバーはライダーの言った内容に殆ど呆然としていた。
自らのサーヴァントは、ウェイバーとは全く違った視点と思考で、敵のサーヴァントについて考えていた。
そして恐らく、その考えている内容は間違えているとは言い難いのだろう。
キャスターらしかぬ行動、理解出来ない突然の奇襲と逃亡、そして分からないその【理由】。
ライダーの言うとおり、考えてみれば色々と不可解な点が【あのサーヴァント】には多すぎた。
…しかし、ウェイバーはライダーに指摘されるまで、そこに気付く事は出来なかった。
もし『ソレ』が、敵のマスターの思惑だったのだとしたら、何と巧妙な手口だろうか…。
聖杯戦争に参加しているマスターの数人は、良くも悪くも魔術師として【優秀すぎる】と分かっている上での『罠』だったのだ。
魔術師は基本的に、想定外な不測の事態には弱い者が多い節がある。
臨機応変な思考が必要な戦闘等、そもそも行う事が稀とも言っていい。
彼等は、最初から【決められている事】に関しては、驚く程疑わない事もある。
それは時計塔での生活でも然り、ウェイバー・ベルベットの人生の中で、今まで見てきた魔術師達の姿が、ソレだったから。
そんなウェイバー自身も、聖杯戦争の知識をしっかり身につけてたからこそ思ったのだ、【聖杯戦争のサーヴァントクラス】は絶対に変化等しないと。
そんな可能性を、【有り得ない】と、自分勝手に思い込んでしまっていたのだ………誰も、そんな事言ってないというのに。
(僕はライダーが教えてくれたけど、この事、実際に気付いてるマスターって他にいるのか…?もしかしたら、((コレ|・・))は相当なアドバンテージになるかもしれない…!)
ぐっ、と両手を握り締めてウェイバーは嬉しそうに頬を緩ませた。
例え教えられたのだとしても、どんな形でも一歩前進したのは評価すべき事、ならこのままもう一歩前に行ける筈。
そう思って再度、幾つか印を付けた地図へと向き直る―――――――その眼は、先程までと違い強い意志を湛えていた。
「……よし、虱潰しに探すのは止めだ。
この町の霊脈にそって探してみよう、魔力の濃いところを探していけば他のサーヴァントに会う可能性が出て来るかもしれない。」
「おお!考えておるではないか坊主!ならば早速余の戦車で街へと……!」
「だから!何を考えてやがりますか!?この馬鹿はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
…………数分と持たなかったのだった。
―――――――最も幼く未だ可能性を秘めた少年、そしてそれを嘲る事無き王者。
王者の導きは少年を固定観念から引きずり出し、【思考】の重要性を告げる。
戦場において、怠惰は決して見せてはならず、常に状況を知るべきと。
意志を持って挑む少年は、その先に待つ者達に何を思い、何を為すのか。
戦いの序曲を乗り越えた者は、王者と共に戦場へ挑む。
目を伏せず、驕りに酔わず、自らの力量を認めた者よ――――――――その先行きに、光あれ。
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戦場の暴風は去りて、一時の休息は訪れる。
されど休まる時は在らず、己の『敵』に目を向けよ。
思考を止めるは下策なり、あらゆる想定の先に上策をあげよ。
忘れるな―――――――――この夜から、行われしは『戦争』である。
生きたければ剣を取れ、死にたくなければ相手を蹴落とせ。
さりとて御身の剣は誇りを謳おう、【剣】は道具に非ずが故に。
強き者よ【剣】を讃えよ、弱き者よ【剣】を鍛えよ、繋がりを絶やすべからず。
自らの意志と共に在る者達へ、自らの意思を持って語るがいい。
もしも、それを、怠る事あれば――――――――――――【その結末】は、どの者にも平等に、訪れるだろう。
【あとがき】
長々と書きましたが、今回はちょっとケイネス先生ごめんね、なお話になりました。
でもこれは【令呪】の重要性についても書きたかった内容ですので、あえて可哀そうなポジションについてもらいました。
他の方々はそれぞれ自分の考えを口にしていますが、
さて一番最初にドラグーンに遭遇するのは誰になるのやら・・・(笑)
次回、セイバーの前に奴が現れます…!どうぞお楽しみに……それでは、閲覧ありがとうございました。
今回のBGMは、【Netizen(PS2ゲーム"I/O")】でした。
※感想・批評お待ちしております。
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更新が遅れてしまいまして申し訳ございませんm(__)m また今日から、出来る限り更新していきます! ※注意 こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。 それでも見てやろう!という心優しい方は、どうぞ閲覧してくださいませ。 今回はバサカ&ドラ陣営はお休みです。 他のマスターとサーヴァントの様子を覗いてみましょうの回です。 別に興味ない・・・・・・という方にはつまらないかもしれません; それでもよろしいという優しい方は、スクロールをお願いいたしますm(__)m |
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