インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#36
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[side:シャルロット]

 

放課後の夕暮れ時…

 

僕は一夏と二人で教室の掃除をさせられていた。

 

朝の許可の無いISの展開の罰としてなんだけど……

 

「うーん、楽しいな。」

 

なんて、一夏は鼻歌でも歌いだしそうな位に嬉々として掃除をやっていた。

 

「え?」

 

「いや、楽しいだろ、掃除は。特に普段使っている((教室|ばしょ))だと余計に。」

 

「そ、そう?一夏って変わってるね。」

 

掃除が楽しいだなんて……なんというか、ホントに変ってるなぁ。

 

そんな事を思いながら手近にあった机に手をかける。

 

 

「ん、んん〜!」

 

それが、異様に重かった。

何が入ってるのだろうか?

 

「っと、無理するなよ。机運びは俺がやるって。」

 

一夏が心配そうに声をかけてきた。

 

ちゃんと女の子として見てもらえてるという安心感と、頼りにされてないという悔しさが混ざる。

 

「へ、平気だよ。一応これでも専用機持ちなんだし、体力は人並みに―――」

 

なんとか持ち上げようとして、足が滑った。

 

いけない、と思ってバランスを取ろうとするけど、間に合いそうにない

 

「あぶねっ!」

 

背中が、あったかい何かに触れた。

 

「…ったく、怪我したら元も子もないだろ。ほら、俺が代わるって。」

 

「う、うん……。あ、ありがとう……」

 

背中から伝わってくる暖かさと、ちょっと堅い感触に僕の頭は過負荷のかかったPCみたいに発熱を始める。

 

 

 

いま、ぼく―――いちかにだかれてる。

 

 

 

 

 

嬉しいけどなんか落ち着かなくて視線がつい泳いでしまう。

 

「っと、わりい。離れる。」

 

「あっ………」

一夏がすまなそうに謝ってから離れる。

 

思わず声が出てしまった。けど、『もっと』だなんて、恥ずかしくて言えない………

 

「……別に良かったのに………」

 

思わず想いがこぼれてしまった。

 

「え?」

 

「な、なんでもないっ!」

 

けど、面と向かって言うのはやっぱり恥ずかしい。

だから誤魔化してしまう僕。

 

「そうか?」

 

不思議そうにする一夏。

 

けど、僕はそれどころじゃない。

 

心臓が驚くぐらいにバクバクいってるし、たぶん顔にも出てる。

…変な顔になってないよね?

 

顔が赤くなるのは夕日の赤が隠してくれるはず。

 

そう思ったら、夢での光景が脳裡によみがえって来て、耳まで熱くなった。

 

きっと、隠しきれないくらいに赤くなってる―――

 

 

沈黙。

 

それが気まずくて、何か喋ろうと思うけど頭は空回りするばかりで言葉も出ないし話題も思い付かない。

 

「そういえばさ、」

 

「ひゃいっ!?」

 

予想もして無かった先制攻撃に、咄嗟に返事をしたせいで声がおもいっきり裏返ってた。

 

うぅ……

 

「ど、どうした?変な声出して。」

 

「な、何でも無い。なんでもないよ?ちょ、ちょっと考えごとしてたから、それだけ。」

 

「ふーん、そっか。」

 

特に疑問を抱いた様子も無く、一夏は机を運んでいく。

 

やっぱり、一夏って力持ちだな。

 

でも、運び終わったらこの時間も終わっちゃうんだよね………ちょっと勿体ない気がする。

 

「で、気になっていたんだが、」

 

「う、うん。なにかな?」

 

「何かあったのか?」

 

「どきっ。」

 

思わず口に出してしまうくらい、動揺した。

 

もしかして、一夏――判って言ってる?

 

「え、ええと、な、何の事?」

 

「ああ、悪い。言葉が足りなかった。先月のトーナメントの次の日にさ、あっさり女子に戻ってたからさ、何が有ったのかなと思ってな。」

 

―――期待はずれだった。

 

やっぱり一夏は空の言う通り朴念神だよ。

 

「ええっとね、そもそもで男装は政府からの命令だったからね。それが撤回されたから僕も偽る事無く通う事になったんだ。」

 

あの日、政府がIS学園への編入届けを正式に再提出したからって言うのもあるんだけどね。

 

「へー、そうだったのか。それにしても急な話だよな。」

 

「多分、偶然だよ。」

 

「成る程な。」

 

なんか納得してる一夏。

 

でも、実はそれだけじゃないんだよ?

 

「あとは………やっぱり、ちゃんと、女の子としてね………一夏に……見てもらいたかったから……なんていうか……」

 

「?」

 

「…ああもう!と、とにかく。一夏が原因なんだよっ!」

 

「そ、そうなのか? そりゃすまん。」

 

謝られた!?

 

「別に、謝られる事でもないけどさ……」

 

顔をそむけて、まだ赤い顔を隠そうとしてみたけど、きっと効果が無い。

 

「でも、なぁ。ちゃんとシャルロットの事は女って見てるぞ。」

一気に、ときめいた。

 

「えっ?それって……」

 

もしかして……一夏は僕の事……

 

 

――いや、待つんだ僕。

相手は『あの朴念神』にして『唐変木・ザ・唐変木』の織斑一夏、絶対に持ち上げたら落してくる。

 

さあ、ショックに堪えろ。僕の心−

 

「だって、男じゃないしな。」

 

―――ヤッパリソウデスカ。ソウダヨネ。ダッテ、イチカダモン。

 

ホント、一夏ってわざとやってる訳じゃないから余計にタチが悪いんだよね。

 

『可愛い』とか冗談とかじゃなくて平然と言ってくるし。

その度に僕の頭は瞬間湯沸かし器、心臓はフル稼働。

 

でもまあ、そのタチの悪さが無ければ幼馴染だっていう箒か、もしくは鈴と付き合ってたかもしれないからなぁ…

 

期待させといて、そのまま放置だなんて…生殺しもいいところだよ。

 

でも……言われるのは嬉しいしい、できれば僕だけに…って、思うのは、贅沢なんだろうか。

 

まあ、一夏だからなぁ。

 

「ああ、あとさ。」

 

「?」

 

「シャルロットの事、『シャル』って呼んで良いか?」

 

「えっ?」

 

突然の出来事に一瞬呆けそうになったけど、内容を理解できた瞬間に頭の中に一面のお花畑が広がった――ような気がした。

 

「い、いいけど……どうして?」

 

「時々、つい『シャルル』って呼びそうになるんだよ。俺にとっては、『シャルロット』であった期間よりも『シャルル』だった期間の方が長かったからな。あとは、親しみをこめて、か。」

 

まあ、理由(その一)は置いておく。

この際だからどっかに投げ捨てちゃおう。

 

けど、理由(その二)は……

 

「駄目か?」

 

「う、ううん!いいよ!すごくいい!」

 

「そ、そうか。そんなに思い切り反応するなんて、気に入ってもらえたみたいでなによりだ。」

 

「う、うん。……シャル、かぁ」

思わず笑みが浮かんでくる。

 

脳内お花畑だと、三頭身のSD僕が四人くらい手をつないで踊ってる。

テロップは『しばらくおまちください』で。

 

ちょっとくらい、幸福感に浸らせてよ。ね?

 

 

「――で、シャル。頼みが有るんだが。」

 

「うん、なにかな。」

 

今は物凄く気分がいいから、きっとよっぽどの事じゃなければきいちゃうよ。

 

 

「付き合ってくれ。」

 

真面目な顔で迫ってくる一夏。

 

「―――えっ!?」

 

僕は世界の止まる音を聞いた。

 

 

 

 

「それって………」

 

「ああ、悪い。言葉が足りなかった。週末、買い物に付き合ってくれ。」

 

止まった世界が、砕け散る音を聞いた気がした。

 

 

 

でも、待つんだ。僕。

絶望するのはまだ早いよ!

 

考えようによってはこれはデートのお誘い。

そう考えれば、まだ脈もある!

 

「う、うん。いいよ!」

 

「そっか。ありがとな。ああ、なるべく言いふらさないでくれよ。後が怖いし、大変だから。」

 

「判ってるって。」

 

『デートのお誘い+二人だけの秘密』

 

そんな状況に、僕の気分は高揚しっぱなしだった。

説明
#36:夕暮れ、教室にて…
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