インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#40
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[side:一夏]

 

合宿二日目。

 

初日にたっぷりと遊んで、食べて…英気を養った俺たちは臨海学校のメインイベントに突入していた。

 

『各種IS用装備の試験運用データ収集』

 

特に専用機持ちは箒と簪さんを除いてみんな大変だ。

なんせ、量が半端ない。

 

ちなみに俺も『((量子変換可能|つかえる))かどうか』をチェックする武装が倉持技研からたっぷりと送られてきている。

 

あと、箒と簪さんが例外なのは、箒の舞梅は『次世代機のテストヘッド機の試作機』である為に装備の追加以前の機体であるから、簪さんの打鉄弐式は倉持技研が匙を投げ、それを引き取った簪さんが個人的に作り上げたものだからだ。

 

「ようやく全員集まったか。―――おい、遅刻者。」

 

「は、はいっ」

 

千冬姉に呼ばれた遅刻者は意外や意外、ラウラだった。

 

珍しく寝坊したらしく集合時間五分遅れてやってきたのだ。

 

「そうだな……ISのコア・ネットワークについて説明してみろ。」

 

「は、はい。ISのコアは―――――」

 

滔々と始まるラウラの説明。

 

要約するとこうだ。

ISコア一つ一つを((構成要素|ノード))にしたデータ通信ネットワーク―――要はISコア専用のインターネットみたいなモノでオープン・チャンネルやプライベート・チャンネルでの通信もこれによってやりとりされている。

今までは『それだけ』の高性能ネットワークだと思われてたんだけど、最近になってコア間でかなり頻繁にデータのやり取りがされているのが発見された。

詳しくは知らんが……ある研究者はそれを知って『ISも群生物的に進化しようとしている』なんて説を発表してたっけ。

 

それにしても、よくもまあこんな代物を作り上げたよな、束さんは。

 

「――全容は掴めていないとの事です。」

 

「流石に優秀だな。遅刻の件はこれで許してやろう。」

 

そう言われて、「ありがとうございます」と礼をするラウラ。

そんな教官と訓練兵のようなやりとりを終えたラウラはこころなしか胸をなでおろしているようにも見える。

 

………きっと、ドイツで本当に教官と訓練兵だった頃に嫌というほど恐ろしい目に遭ったのだろう。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用のパーツのテストだ。量が多い、全員迅速に行え。ただし、安全第一だ。」

 

はーい、と一同が返事する。

流石に一学年全員がずらりと並んでいるのでかなりの人数だ。

 

ちなみに今いる海岸はIS試験用の場所として確保されている場所で四方が切り立った崖に囲まれている。

大海原に出るには一度潜行し、水中のトンネルを通る必要があるとか。―――もちろん、今は塞がれているし、外側の出入り口付近にはソナーブイが設置されているし、その周辺数百メートルは進入禁止にされ、ブイとネットが張り巡らせられているとか。

 

 

本来ならば青い空が見えるハズなのだが、ワイヤーか何かを骨組みにしてその上に『光は通すが中を見るのは難しい』透明のパネルで天井が作られている。

 

そして水中の海底部分には海底保護、落下物回収用のネットが敷き詰められているという。

 

これらの準備を下見に行った山田先生と空の二人でやったというのだから頭が下がる。

 

 

それにしても、四方が崖で天井がある、ドーム状の場所というのがなんとも学園のアリーナっぽいな。

 

ここに運び込まれたISと新型機材のテストとISの操作に慣れるが今回の合宿の目的。

当然、ISの稼働も行うので全員がISスーツ姿だ。

海だと余計に水着に見えるな。

 

 

と、それはともかく俺と箒は苦い顔、他の生徒は不思議そうな顔をして千冬姉の斜め後ろにずっと視線を向けている。

 

「ああ、あと今回は少々特殊な事情から((学園外|がいぶ))の者が来ている。一応紹介しておくが基本、気にしなくていい。―――束。」

 

そう、何故か束さんがここに居るのだ。

しかもいつものエプロンドレスじゃなくて白地に肩や袖口とかが青いジャケットに白いシャツ。首元にはリボンタイが付けられ、青いタイトスカート。

 

どこか制服じみた格好だと思うのだが束さんの事だ。絶対に裏がある。

 

 

その傍らにいる空と山田先生が疲れ果てているように見えるのできっと振り回され続けたんだろう。

 

「はr」

「こちらが篠ノ之束博士だ。槇篠技研から申請があり、舞梅のデータ回収、場合によっては((改修|アップデート))を行うとの事だ。」

「―――ぶぅ。」

 

束さんが何か言おうとした途端に千冬姉がかぶせて遮る。

 

槇篠って………

 

「篠ノ之博士って、行方不明なハズじゃ……」

「槇篠技研に居たの?」

「それってマズイんじゃないのかな…」

 

ざわめくみんな。

 

「おしゃべりはそこまでだ。試験を開始しろ。」

 

千冬姉が一喝してみんなはそれぞれに別れてゆく。

 

俺も倉持から送られてきた機材を一つずつ試してみるが、((量子変換|インストール))が出来るかどうかが怪しい代物ばかりだ。

 

そもそも、零落白夜の為に((拡張領域|パススロット))を使い切っているんだからどんな武装を用意しても駄目なんじゃないか?

 

文字通り、外付けで量子転送できない前提にしない限り。

 

学年別トーナメントの時の((拡張領域|パススロット))の外付けは確かに便利だったけど、アレは使い捨てな上に高コストらしく現在量産化のための研究中だとか。

 

一早い完成と俺への提供を望むばかりだ。

そしてできる事ならあの時のライフルを…って、無いモノねだりしても仕方ないよな。

 

「射撃武装は軒並みアウトっと。」

「織斑。」

 

量子変換しようとすると『Error』と出る事を確認し終わった処で千冬姉に呼ばれた。

 

「なんですか、織斑先生。」

 

「舞梅の模擬戦闘の相手をしてやってくれ。」

 

用件はどうやら箒が挑戦状をたたきつけてきたらしい。

 

「了解。」

 

俺は機材を確認済みは一か所に集めておいてから多少消費したエネルギーを満タンまで補充しに行く。

 

元々、そんなに消費している訳ではないからすぐに補充は終わり。

 

白式を展開して箒の待つ空域へと上がる。

 

俺の白と箒の薄紅が対峙する。

 

激突の時は、もうすぐだ。

 

 * * *

[side:簪]

 

「…すごい。」

 

私は眼前で繰り広げられる箒と織斑くんの模擬戦の様子の記録をしながら見惚れていた。

 

記録というのは、空くんの薙風に装備されているセンサーユニットとかの予備を借りてやってるんだけど、その精度が高いおかげで物凄く近くで見てるみたいに見える。

 

その代わり、管制室代わりをする事になっちゃったけど。

 

でも、先生たちに観測データを見せる代わりに同じデータを間近で見られたのは、凄く良かった。

 

 

ふと見回せばオルコットさんや鳳さん、ボーデヴィッヒさんやシャルロットも二人の戦いを見つめてるし、訓練機で試験をしてた子たちもそうみたい。

 

注意すべき先生たちも見惚れてるし。

 

『やるじゃねぇか!』

 

『ふん、呆けていたら置いてゆくぞ。』

 

射撃兵装を攻撃手段の一つに加えた箒と、銃撃をかいくぐっての接近技能を持った織斑くん。

 

同じ近接戦闘型であったとしてもそれはまったく違う型の戦い方だった。

 

『勝負だ、箒!』

 

『来い、一夏ッ!』

 

 

 

織斑くんが非実体剣を振り被り、急接近を果たす。

 

『貰ったッ!』

 

『甘いぞ、一夏ッ!』

 

箒はその柄に両手に展開した刀のうちの片方をぶつけてはじき、もう片方の刀が白式に向けられる。

けど、織斑くんは鎬に腕装甲をぶつける事で斬撃を回避する。

 

まさに一進一退。

 

総合的に見た実力が拮抗している故の接戦。

 

 

「どうだ、束。」

 

「うん。これならば………。あとは箒ちゃん次第だよ。」

 

「そうか。」

 

すぐそばにいる織斑先生と篠ノ之博士も満足そうになにやら話している。

 

二人とも、弟と妹の成長がうれしいのかな。

 

そのまま十分に及ぶ戦闘の後、箒の息切れのタイミングを狙った織斑くんの一撃が決まって舞梅のシールドエネルギーはゼロになった。

 

降りてきた二人は、勝った織斑くんはもちろん、負けた箒も物凄くいい顔をしていた。

 

やっぱり、全力を出し切っての勝負って、いいよね。

 

 

それでもって、空くんと―――

 

ばしぃーん!

 

「ふぎゃっ!?」

 

勢いよく頭をはたかれて私は勢いよくつんのめった。

 

ISを装備してるのにこの衝撃って一体…

 

「いたたたた……」

 

起き上って頭をはたいてくれた相手を睨もうとして、寸前で辞めた。

 

だって、織斑先生だったから。

 

「ぼやぼやするな。今の観測データを学園のメインバンクに送っておけ。」

 

「は、はい。」

 

ISのシールドをぶちぬく打撃を生身で繰り出せるだなんて、織斑先生は軽く人間を辞めてると思う。

 

「さーて、箒ちゃん、いっくん。データチェックとかするから展開しといてね。」

 

篠ノ之博士が箒と織斑くんの舞梅と白式になにやらケーブルを刺す。

 

その後に出てきた何枚もの空間投射ディスプレイ。

 

「ええっと、そこの子…たしか箒ちゃんの友達の更識簪だからかんちゃんでいいか。こっちおいで。」

 

「か、かんちゃん!?」

 

本音と同じ呼び方に驚いた。

まさか本音と同じ感性の人がいるだなんて………

 

まあ、呼ばれたのでそっちに行く。

 

「さっきの試合のデータ、出してもらえる?」

 

「はい。」

 

空間投射ディスプレイに録画データを表示、二人に見やすいように向きを変える。

 

「むむむ………」

「あの試合、完全に武器の差だよな。ほら、ここ。もし箒のISに零落白夜があればここで俺は落されてる。」

 

 

 

試合を顧みる二人。

 

「うーん、やっぱり不思議なフラグメントだね。こんなの、見た事無いや。やっぱり、男の子だからかな。いっくんごとナノ単位で分解するか、あっくんが捕まれば判るかも――――」

 

一方で篠ノ之博士もなにやら呟いていた。

 

「ところでさー、いっくんに燕尾服って似合うと思わない?あるいはメイド服。」

 

ぴし、と固まる織斑くん。

 

「姉さん、割烹着を忘れてますよ。」

 

「あと、エプロンもな。」

 

それぞれの仕事の手は休めずに返す箒と織斑先生。

 

…ちょっとだけルームメイトと先生の頭の中身が心配になった。

 

「ところでいっくん。白式、改造してあげようか?」

 

「え…と、俺が燕尾服とか割烹着とかエプロンとか、そういう格好になるんだったら遠慮しますよ。」

 

「………じゃあ、プランBは?」

 

あ、誤魔化した。

つまりはそういう格好になるような改造ってことなのか。

地味に凄い。

 

「どんなのです?」

 

「女の子になるの。いっくんが。」

 

「な、なんなんですか、それ!」

 

「うん、この間見てたアニメにそういうのがあったんだよ。」

 

個人的にはそれが水をかぶるとなのか、腕輪が光るとなのかが気になる処。

 

「((二次元|アニメ))の話を俺で試そうとしないでくださいよ!」

 

「姉さん、流石にそれは自重してください。」

 

「ちぇー。」

 

織斑くんと箒に止められ残念そうにする篠ノ之博士は、この人が本当にISを創り上げた人なのかと疑いたくなるくらい子供っぽかった。

 

いや、子供っぽいからこそなのかな。

 

「た、たった、大変です!、織斑先生!」

 

そこに、慌てた山田先生が走り込んできた。

 

「どうした、山田先生。」

 

「こ、これを。」

 

山田先生が持ってきた小型端末の画面を見た織斑先生の表情が曇る。

 

「特務任務、レベルA。現時刻より対策を始められたし………」

 

「そ、それが、ハワイ沖で………」

「しっ、機密事項を口にするな。生徒に聞こえる。」

 

私や箒や織斑くんに視線を向ける織斑先生。

 

「す、すみません。」

 

「専用機持ちは、全員いるな?」

 

「はい。」

 

小さな声となにやら特殊な手話に切り替えて何やら話してる。

 

私たちが近くに居るからだろう。

 

「そ、そ、そ、それでは、私は他の先生たちにも連絡をしてきますので。」

 

「了解した。千凪先生は山田先生に随伴を。」

 

「了解です。」

 

降りてきてISを解除した空くんも山田先生と一緒に走ってゆく。

 

「束。」

 

キツイ視線を篠ノ之博士に向ける織斑先生。

 

けど、篠ノ之博士は首を横に振るだけ。

 

それで溜め息をついた織斑先生は大きく息を吸い、

 

「全員、注目!」

 

パンパン、と手を叩き全員を振り向かせる。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止、各班ISを片づけて旅館に戻れ。連絡が有るまで各自室内待機をする事。以上だ。」

 

不測の事態にみんなざわつき始める。

 

「え?」

「ちゅ、中止? なんで? 特殊任務行動って?」

「状況が全然わかんないんだけど…」

 

けど、それを織斑先生が一喝した。

 

「ぐずぐずするな!以後、許可なく室外に出た者は我々で身柄を拘束する。いいな!」

 

「は、はいっ!!」

 

みんなが慌てて動き始める。

 

その慌てる様子はまるで今までに見た事のない雰囲気を纏う先生たちに怯えるかのように。

 

 

「…本音、姉さんに連絡『情報を集めて』って。」

すぐ後ろに本音の気配がしたから、小声で伝えておく。

これで、何かあったら姉さんの方から『更識』を動かしてくれるはず。

 

「専用機持ちは全員集合しろ!」

おっと、呼ばれた。

 

「織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、鳳、篠ノ之、更識!」

 

「はい。」

 

私たちは返事をして織斑先生の所に集まる。

 

「…ついでだ。束、お前も来い。―――ふらふらと勝手な事をされてはたまらないからな。」

 

「いいよ、ちーちゃん。」

 

私たち、七人の専用機持ちと篠ノ之博士は織斑先生に連れられて、旅館の一番奥へと向かうことになった。

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