インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#45
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[side:   ]

 

「うぐ……ぐぅっ………」

 

「箒ッ!」

 

((第二形態移行|セカンド・シフト))を遂げた『((銀の福音|シルバリオ・ゴスペル))』を前に、箒たちは全滅寸前になっていた。

 

最初は、ラウラとシャルロットだった。

セカンド・シフトを遂げた直後に接近され、助けに入ったシャルロット諸共、破壊した砲口兼スラスターから生えた『エネルギーの翼』に包まれ、至近距離からのエネルギー弾を雨霰と食らって海に落ちて行った。

 

二番目は、セシリア。

 

二人が為す術も無く撃墜され、一瞬の呆けが生じた。

 

その隙に接近され、距離を取ろうとした瞬間に両翼からの砲撃に沈んだ。

これで撃破、三。

 

 

その後、三人が撃破された間に我を取り戻した箒、簪、鈴でなんとか抑えていたのだが、つい先ほど鈴が墜ちた。

 

鈴は翼から放たれたエネルギー弾を回避し、回避に成功して無意識に安堵したその一瞬にスラスターを全開にした蹴りを食らったのだ。

 

腕で防御して胴体への直撃は防いだが、盾にした腕部アーマーは砕かれ、そのまま落ちていった。

 

 

そして残るは箒と簪。

 

箒は紅椿の性能に助けられて、簪は箒が前衛に立ち、管制と援護に徹している故に。

それでも被弾は少なくない。

 

紅椿の装甲はシールドに護られていたとはいえ軽度の損傷は少なくなく、一連の攻防の中でかすめたエネルギー弾によって髪を束ねていたリボンは焼き切られていた。

それでも、箒は福音に食らいつき続けていた。

 

操縦者の力量差を機体の性能差で埋めていたのだが、それは長く続かない。

だんだんと押されるようになり、防御と回避の比重が高まってゆく。

 

そして、今。その前衛を務めていた箒が福音に捕まった。

 

福音に首を掴まれ圧迫されている箒は苦しげに呻き、簪は手出しができないでいた。

 

薙刀はともかくとしても、ミサイルも、連射型荷電粒子砲『春雷』も、福音相手に使えば必ず箒を巻き込む。

 

(せめて、マルチロックオンと独立稼働型誘導ミサイルが有れば………)

無い物ねだりと判っていても、思わずには居られない。

 

仮に有ったとしても、精密誘導が可能なほどに余裕をくれるとは思っていないので最初から作戦としては破たんしてるのだが。

 

 

(何か、一つでいい。状況が動く一撃があれば………)

 

簪が焦る心を押さえながら見守るしかない中、エネルギー翼と輝かせて紅椿を包み込もうとする福音。

 

最悪、紅椿が撃墜された直後にミサイルと荷電粒子砲の一斉射撃をかける。

その為に全武装をロックオンしたらすぐ撃てる様に身構える。

 

『い…ち……か………』

 

オープンチャンネルで箒の呟きが簪に届く。

 

そして、紅が銀に覆い隠されそうになった瞬間、

 

ィィィィィン!

 

閃光が走り、福音が吹き飛ばされた。

 

箒は解放され、福音との間に隙間ができる。

 

(今っ!)

 

すかさず、簪は再装填しておいた高機動ミサイルを全弾発射。

 

福音は爆炎でさらに箒から引き離される。

 

 

さらに追い打ちと言わんばかりに強力な荷電粒子砲が福音に叩きこまれる。

 

「荷電粒子砲!?一体、誰が………」

 

簪の疑問。

 

それはそのすぐ後にオープンチャンネルで届いた声が応えてくれた。

 

『俺の仲間たちを、これ以上やらせねぇッ!』

 

福音と箒の間に立ち、福音から箒を庇うように立ちはだかる白く輝く機体。

 

 

 

そこに居たのは、((第二形態移行|セカンド・シフト))を果たした白式――第二形態・雪羅を纏った一夏であった。

 

 

 

((箒|ヒロイン))の((危機|ピンチ))に颯爽と現れるその姿は、正に―――『ヒーロー』。

 

少なくとも、簪の目にはそう映った。

 

 

―――もっとも、箒が『ヒロイン』なんて枠に大人しくおさまってるタマにはまったく思っていなかったが。

 

 * * *

[side:箒]

 

「い、一夏!本当に…一夏なのか!? 体は…怪我は……ッ!」

 

「おう、大丈夫だ。見ての通りピンピンしてるぞ。」

 

最初は、((幻|ゆめ))でも見てるのかと思った。

 

けれど、声を聞いてようやく現実だと理解できた。

 

理解できて、嬉しくなった。

 

一夏が、無事に目覚めた事が。

一夏が、私のピンチに駆けつけてくれた事が。

 

「よかっ……本当に、良かった―――」

 

「なんだよ、泣いてるのか?」

 

言われて、初めて私が泣きそうになっている事に気付いた。

 

「ばかっ!………心配、したのだぞ。」

 

「悪かったな。」

 

一夏の手が、白式の手が頭に触れる。

 

強張った、機械の手。

だけれども、それが私に触れているという事実が、一夏がそこに居るんだと強く意識させてくれる。

 

「そういや、リボンはどうした?イメチェンか?」

 

そう言われて、ハッと後頭部に手を回す。

 

そこに、リボンは無かった。

 

出撃の時はちゃんと有ったから戦闘中に落としたか、失くしてしまったようだ。

………思い入れのあるモノだったのだが………

 

「まあ、丁度いいか?」

 

「どういう事だ?」

 

「こんなんなら、持ってくりゃ良かったか?――まあ、後でな。」

 

「?」

 

よく分からない。

 

けど、一夏にとって私がリボンを失くしたのは都合が良かったらしい。

 

 

そこに、簪から通信が入った。

『………箒、』

 

「ん?簪、どうした?」

 

『甘酸っぱいラブコメご馳走様。もう結婚してしまえ、このバカップルめ。…他にも色々と言っときたい事有るけど、一つだけにするね―――――――――今、戦闘中なんだけど。』

 

「けけけ…結こ―――――ハッ!」

 

ハッ、と我に帰ってみると簪が必死になって薙刀と連射型荷電粒子砲で福音を牽制し続けている。

 

その機体は到る所に損傷が増え、今にも落ちそうなくらいに満身創痍だ。

 

「それじゃ、行ってくる。――――さて、借りを返すぜェ、福音ッ!」

 

雪片を右手一本で構え、獰猛な笑みを浮かべて福音へ突進してゆく一夏。

 

セカンド・シフトしたことで武装が増えたらしく、左腕から発振されたエネルギー刃のクロ―、荷電粒子砲も織り交ぜながら着実に福音に食らいついてゆく。

 

四機のウイングスラスターが織りなす、強大な推力にモノを言わせて機動戦闘型であるハズの福音に食らいついて離れようとしない一夏。

 

 

 

まるで舞っているかのような姿に思わず見とれるが…私の武人としての血が騒ぐ。

 

生憎、私は『護られるだけのヒロイン』は柄では無い。

 

あの隣に立って共に((刀|けん))を執ってこそ、私らしい在り方と言える。

 

 

………だから、もう少しだけ我儘に付き合ってくれ、紅椿。

 

一夏と、共に闘うために。

 

 

ぐっ、と手にした刀を強く握りしめた時、それは起こった。

 

 

展開装甲から紅い光にまじって金色の粒子が溢れだしてきたのだ。

 

「な、なんだ?」

 

そして同時に紅椿のシールドエネルギーが一気に回復している事が伝えられる。

 

 

『――((単一仕様能力|ワンオフ・アビリティ))"絢爛舞踏"発動。展開装甲とのエネルギーバイパス構築――完了』

『((単一仕様能力|ワンオフ・アビリティ))"絢爛舞踏"発動確認―――特殊防御装備"鉄扇・舞梅"機能限定解除。』

 

「わ、((単一仕様能力|ワンオフ・アビリティ))!?特殊防御装備!?」

 

突然の事で思わず慌てたが、シールドエネルギーは全快しているのは確か。

 

「手を、貸してくれるのか。……紅椿。―――ありがとう。」

 

それが何故起こったのかは判らない。

だが、その意味くらいは――――判る。

 

「すぅ………はぁ………」

大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。

 

「よし、行くぞ。紅椿。」

 

紅椿は、スラスターを唸らせて白と銀が舞う戦場へと駆け出す。

その音が、私に応えてくれているように聞こえた。

 

 * * *

[side:一夏]

 

『―――エネルギー残量:二〇%。予測稼働限界まで三分。』

 

大見得切って福音にリベンジを挑んだ俺だったが、見事に一回目の焼直しとなりつつあった。

 

相手はリミッターの無い軍用第三世代型。

エネルギー量の事もあるが相手は軍用機を持つ軍人。つまりその為の訓練をしてきている。

 

俺ら学生とは天と地ほどの差があると言い換えてもいい。

 

「くそ、このままじゃ……」

思わず漏れる呟き。

 

それは俺の内心の焦りが表に出たモノだ。

 

あと三分で、決着をつけなくては…

と、言っても箒も簪さんもマトモに戦闘できるほどのエネルギーは残っちゃいないだろうし……

 

「ッ、やべぇ!」

 

福音の一斉射撃。

 

俺は一瞬だけ、((短距離瞬時加速|ショート・イグニッション・ブースト))を使うかを迷った。

 

そして、その一瞬の遅れが、俺の逃げ道をふさいでいた。

 

「ッ、く!」

 

せめてもの悪あがきに防御態勢を取る。

 

…耐えきってくれよ、白式。

 

着弾を目前に身を強張らせる―――刹那、金色の光を纏った紅が視界を埋め尽くした。

 

「無事か、一夏。」

 

「ほ、箒!?」

 

福音の攻撃に耐えきった紅の機体がこちらに振り向く。

 

そこに居たのは、無傷の紅椿…そして不敵に笑う、箒。

 

「こいつを受け取れ。」

 

箒の、紅椿の手が白式の手に触れる。

 

その瞬間、全身に電流のような衝撃と炎のような熱が走り、視界が揺れた。

 

「な、なんだ?エネルギーが、回復してる!?一体、これは…?」

 

「詮索は後だ。今はコイツを片づけるのが先決だろう。―――行くぞ、一夏。」

 

箒は右手に刀を、左手に扇を以って福音に対峙する。

 

「―――ああっ!」

 

エネルギーは満タン。

気力も溢れた相棒もいる。

 

不思議と、負ける気がしなかった。

 

「俺が仕掛ける。反撃の出端を潰してくれ。」

 

「了解した。」

 

箒の声を合図に、俺は零落白夜のエネルギー刃をギリギリまで収束させ最速の横薙ぎの斬撃を放つ。

 

「おぉぉぉぉぉッ!」

 

だが、それを福音は縦軸一回転で回避、反撃に光翼を向けてくる。

 

―――掛ったな。

 

「箒ッ!」

 

「任せろ!」

 

俺の方に向けられた翼を突撃してきた箒の紅椿が切断する。

 

「逃がすかァァッ!」

 

そのまま脚部の装甲が開きビーム刃が展開される。

 

刃付きの回し蹴り。

モロに入った福音は体勢を崩し、大きくよろめく。

 

その隙に俺は振り抜いていた雪片弐型を切り返し残った光翼も掻き消す。

 

物理装甲なら切断する必要があるが、エネルギー翼ならば零落白夜の刃が触れただけで掻き消せる。

 

「こいつで、とどめだあっ!」

 

最後の一突きを繰り出そうとする俺に、福音は全身から生やしたエネルギー翼、その全てからの一斉射撃を行ってきた。

 

 

だが、ここまで来て退けるわけがない。

 

ダメージ覚悟で突っ込もうとしたら目前に紅椿が割って入ってきた。

 

「弾幕は任せろ。」

 

箒が薄紅に輝く扇を振るう。

 

それに触れたエネルギー弾が、まるで零落白夜に触れたかのように掻き消され、一本の道が出来上がった。

 

「サンキュ、箒!」

 

エネルギー弾の処理を終えた箒が俺と福音の間から離脱。

 

同時に俺は((瞬時加速|イグニッション・ブースト))で止めとなる突きを放つ。

 

苦し紛れに撃ってくるエネルギー弾は気にせず、福音の胴体に零落白夜の刃を突き立てる。

 

「おおおおぉぉぉぉォォッ!」

 

エネルギー刃特有の手ごたえを感じながら俺はさらに全ブースターを最大出力まであげる。

 

押されながらも、俺へと手を伸ばそうとする福音。

 

その腕の装甲が爆ぜ無数のエネルギー弾が―――――

 

「一夏ッ!」

 

「織斑くん!」

 

やべぇ、なんて言ってる場合じゃ無かった。

 

深々と突き刺さったエネルギー刃、俺を掴んだ福音の手。

 

その二つのせいで俺は離脱も回避もできなくなっている。

 

 

こうなりゃ我慢比べだ、と身構えた時―――

 

『やれやれ、詰めが甘いぞ。』

 

男の、声。

 

同時に真上から飛んできた閃光に福音が撃ちすえられる。

今にもエネルギー弾を発射しそうになっていた腕は無残に灼かれ輝きを喪う。

 

「えっ!?」

 

続いて物凄い勢いで『白い何か』が『青白く輝く刃』で福音を切り裂き、そのまま海の中へと消えてゆく。

 

ISのハイパーセンサーを使ってコレだ。

肉眼じゃとてもじゃないが認識できないだろう。

 

背後から斬られた福音は蓄積ダメージが限界を超えたらしく強制的にアーマーを解除。

操縦者は俺の方に倒れながら落ちてきたので位置を調整して受け止める。

 

「――――――なんだったの、一体………」

 

遥か下にある島の影から打鉄弐式が飛び出してくる。

 

それに続いて甲龍、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII、シュヴァルツェア・レーゲン、ブルー・ティアーズも海中から飛び出してくる。

 

よかった…みんな無傷とは言えないが無事みたいだ。

 

「………終わった、のか。」

 

「…ああ。そうみたいだな。」

 

俺は黙って『白い影』が去って行った方を見る。

 

そこには夕日に赤く染まった海だけが広がっていた。

説明
#45:白き翼の甦る時
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インフィニット・ストラトス 絶海 

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