09 あなたが呼んでくれたから、カグヤはカグヤです。義姉様 |
●月村家の和メイド09
平和は平和でやる事が多く、疲れるばかりなのであります。
っと言うのもカグヤ、最近疎かにしていた神社の掃除をしに来たのです。
魔術に関して極力距離を置く事に決めたカグヤですが、完全に断ち切るのは無理な話。ですので定期的な魔術訓練は欠かしていません。ただ、無視できる事件は無視しているだけにございます。
っとは言え、神社の掃除は別問題。アレはカグヤの最初の家ですから、大事にしていかなければならないのです。
それに、そろそろ大晦日に向けて、カグヤも色々行事を覚えなければならないのです。それも含め、今日は龍斗の御姉様をお呼びして、掃除の後は祭事の習い事です。大晦日は神社の仕事を抜きにしたら月村の使用人として過ごしたいですしね。
それで、神社に来たまでは良かったのですが……、
「カグヤちゃん? これ何処におけばいいの?」
「カグヤ、ここの掃除終わったわよ。次どこ?」
「龍斗くん、そっち持ってくれない? これ動かしたいの」
「ああ、解った」
「………」
なぜ、神社の掃除にすずか様、アリサ、なのはが加わっているのでしょうね?
いえまあ、何と言いますか……、昨夜、神社の掃除をしたいと忍お嬢様に宣言したところ、「だったら私もお手伝いする!」とすずか様に強く言われてしまい、何処で話を聞きつけたのか、翌日になってアリサが加わり、いざ神社に付いてみれば龍斗がなのはと話しているではありませんか。それでカグヤは掃除をしに来たのだと話すと、何故か皆でする事に……なぜこうなったのでしょう?
「って言うかさ、ここって龍斗の家だったの? 今までお参りとかに何度が来てるけど、私達一度もアンタの事見た事ないわよ?」
「ん? ああ、それは俺が元々ここに暮らしてなかったからだよ。俺の家は桜台の方だよ」
「そうだったんだ? じゃあ、なんで今はここにいるの?」
「それはカグヤちゃんが―――」
「「「カグヤ」ちゃん?」」
「あ―――」
龍斗〜〜〜〜〜っ!!?
何と言うあなたらしくなミスを!? カグヤ達の間には殆ど接点がない事にしていたのを忘れたのですか!?
「ええっと……」
しかも誤魔化せませんか!? この間を取り繕うには……っ!? そうです!!
「義姉が身罷(みまか)った時に、義姉の友人と言う人に話して、ここを弟様に譲り渡したのですよ」
「あ……」
「え? えっと『みまかった』?」
「何それ?」
ああ、亡くなるって言葉を避けてしまった所為でアリサとなのはには伝わりにくかったようです。何度もこの話を聞いて下さっていたすずか様は、慌てて二人を呼び掛けると小声で説明して下さったようです。二人も事実に気付いて暗い表情になってしまわれました。
「えっと、ごめんなさい……変な事聞いちゃって」
「私もごめん……、あんたにそんな過去があったなんて知らなくて……」
はは……、なんとか気まずい話と言う方向に持っていく事に成功したようですね。では、この流れで行かせてもらいましょう。
「変な事、っと言うのは聞き捨てなりませんよ。なのは様。カグヤの義姉の話は変なことではありませんから」
「あ、はい……、ごめんなさい」
「謝ってほしい物でもありませんが……、まあ、思い出せば辛くならないと言えば嘘になりますからね」
「……良い人だったのね」
「いいえ、カグヤから言わせてもらわずとも、あれほど善人と悪人の両方を敵に回せる奇特な御方はいらっしゃいませんでしたよ」
「へ?」
「困っている人間を見つければ優しく声をかけ、強制有料で無理矢理助け……、金を積む卑しい依頼者はそれだけで嫌って問答無用で断り……、かと思えば別に放っておいてもいい様な子供の喧嘩を勝手に仲裁して仕切って見せたり……、挙句、八束神社を自分一人で切り盛りして見せ、『才能が全て物を言うのだよ! ……一度言ってみたかった』と一人で感動する始末です」
「……随分変わったお姉さんだったんだね」
「そうですよなのは様。義姉は、そんな方だから……だから見ず知らずのカグヤを拾って、育ててくださったんですよ」
「え……!?」
「うそ……、アンタとそのお姉さんって……?」
「ええ、血が繋がっておりません。そもそもカグヤは何処で生まれ、なぜ捨てられ、誰が生んだのかも解らない、このご時世ではあり得ない捨て子だったのですよ」
おや? ちょっと踏み込んだお話をし過ぎてしまいましたかね? 義姉の話をし出すと、気が落ち始めて、それが嫌でついつい聞かれてもいない事を言ってしまうのですよね。
「はは、申し訳ありません。余計な話までしてしまいましたね」
「そんな事はないけど……」
なのはは暗い顔のまま気丈に笑顔を作りますね。お優しい心根の持ち主なのでしょうから、つい同情してしまっているのでしょう。
そんな風に困った表情をしているなのはの隣で、アリサが何か不安そうな表情で訪ねてまいります。
「……ねえ、やっぱり好きだったの? お姉さんの事」
「―――」
すき……、カグヤにとって、義姉様の事を? 好き……?
ああ……、そうなの、かもしれません……。ええ、そうだったのですね。
「はい、カグヤは義姉様の事が……掛替えの無いほどに大好きでございました……」
胸を両手で押さえ、あの頃の記憶を、思い出を大切に温める様にして、カグヤは思わず呟いてしまいます。
「それはもう……、生き返らせる事が出来るなら、我が身を削ってでもと、思うほどに……」
かなり本気でそう言ってしまった後に、少しだけ「しまった」とも思いました。場の空気が少し変わり気味です。ここは強制的にでも話の流れを変えねばまずい状況にあると見て間違いないでしょう。
カグヤ、努めて笑顔を振りまきながら別の話題へとシフトします。
「まあ、今のカグヤにはすずか様がいらっしゃいますから、寂しい事などないのですがね」
「か、カグヤちゃん……!」
すずか様、照れながらも表情が嬉しそうに笑ってくださっています。何だかカグヤまで嬉しくなる笑顔です。他の方達もそれに合わせて笑顔が戻り、努めて明るい方へと話題を逸らしてくださいました。
ああ、これが以前カグヤの出来なかった『空気を読む』ですか?
カグヤ、『空気を読む』を再認識しました。
「カグヤちゃん……、ちょっといいかな?」
掃除もあらかた終わった辺り、高町なのはが、裏庭を掃除していたカグヤに話しかけてまいりました。
「どうかなさいましたか?」
「あ、あのね……、こんな事、また聞いちゃうのもどうかと思ったんだけど……」
「『また』ですか……、なんなりとどうぞ。義姉様の話でしたらして差し上げる事に抵抗はございません」
「なっ!? なんで解ったの!?」
「月村の使用人には、相手の心を読み取る能力がデフォルトで内蔵されているのです」
「そうなのっ!?」
「いいえ、もちろん嘘です♪」
「あう……っ!」
なのは、肩すかしをくらったのか、マンガみたいにこけてしまいました。
「すみません。なのは様があまりにも素直に驚かれるので、ちょっと悪戯心が動かされてしまいました」
「か、カグヤちゃんって、お茶目さんな所あったんだね……」
お茶目と言いますか、単純に意地悪が好きなのですけどね。他人の困ってる顔は、見ていてなんだか楽しいです。
「さっきのはですね? カグヤにお話があって、『また』と言いながら遠慮なされたので、カグヤにとって言い難い話を聞こうとした。そう思えたので予想してカマをかけたのですよ」
「そ、そうだったんですか……」
「それで、どんな話を御求めでございましょう?」
「えっと……」
なのははもじもじと、自分の手の指と指をからませながら、躊躇するように訪ねてまいります。
「さっき、生き返らせる事が出来るなら―――って言った事、なんですけど……」
……そう言う事ですか。
なのは、あなたはプレシアの事をカグヤに重ねているのですね。カグヤもプレシアも、大切な人を失った、同じ悲しみを知る人間ですから。では、ちょっとサービスして、そのつもりで会話させてもらいましょう。なのはが出来るだけ話しやすい流れで……。
「そうですね。例え間違っていると言われた力でも、それで義姉様が生き返ってくださるのなら、カグヤは躊躇う事はないのでしょうね」
「……、あの、変な質問するんですけど」
「何なりと」
「もし、お姉さんを生き返らせる方法があって、それで生き返ったお姉さんが、カグヤちゃんの知っていたお姉さんじゃなかったら、……カグヤちゃんはどうするの?」
「そうですね。なのは様がそんな例えば話に、どんな答えを御望みなのかは御察しできませんが……。カグヤでしたらもう一度試みたかもしれませんね。何が失敗だったのかと」
「じゃあ、……失敗したお姉さんは?」
なのは、『失敗』の部分を言いにくそうに小さな声で言って訪ねてまいりました。フェイトの事を思い浮かべて、言い難くなったのかもしれませんね。
「とてもではありませんが、義姉としては見れないでしょうね。カグヤの知る義姉ではないのですから」
「でも! その人がカグヤちゃんの事を妹さんだと思おうとしたら!?」
「まずその時点で、カグヤにとっては義姉ではない誰かだと切り捨てるでしょうね。非常と言われるのが当然ですが、それでカグヤがその方を義姉と認めてしまえば、本当の義姉を冒涜する事になりますから」
「……」
やはり望んだ答えではなかったのでしょうね。なのはは俯いたまま黙り込んでしまい、表情は暗いままです。
さて、どうしましょうか? 伝えられる事は沢山あるような気もしますが、それが彼女の望んだ答えかと言うと、はっきり頷く事はできませんからね。まあ、これでなのはが落ち込んで、すずか様に心配を掛けるわけにもいきませんし、もう少しだけ頑張ってみますか?
「……しかし、カグヤが生み出した御方を、そのままと言うわけにはいかないのでしょうね。自分の勝手で生み出してしまったのですから」
「……それじゃ、カグヤちゃんならどうするの?」
「さあ、どうでしょう? 『こうしてあげたい』『ああしてもいい』『そうしてもいいかもしれない』。そんな例えならばいくらでも御出しできるのですが、実際生まれた本人を見たのであれば、カグヤはどうしてしまったのか解らないと思います。感情は、まだ子供のカグヤに理解もできませんし、御(ぎょ)せる物でもありません」
「それじゃ……、道具として利用したりも……」
「そうした可能性も否定はできません」
「そんな……っ!?」
「カグヤにとって、それだけ義姉様との思い出が大切なものだと言う事です。大切であれば大切なだけ、それは大きな力となります。大きな力は御せると思う方が、思い上がった考えなのだと思いますよ」
「でも……っ! それなら、『その子』はどうすればいいの? 利用されたまま、泣いてるしかないの? 受け入れてもらえないまま、悲しいままでいるなんて……!」
少し感情が昂ってしまっていますよ。それではフェイトの事を言っているのだと解ってしまいます。まあ、カグヤが知っているからこそ、解ると言うだけなのですけど。
「どうやらなのは様には、今の例えに似たような境遇の御友人が居らっしゃるようですね」
「あ、……えっと」
「よろしいですよ。詮索するつもりはありません。……そうですね。例え話を重ねるようになりますが、もしその御方をカグヤが受け入れると決めたのでしたら、きっと義姉様とは違う名前を付けたと思います」
「お姉さんと違う名前?」
「ええ、姿形が似ていても、それは全く違う別人なのだと認識するために」
「それで……、いいのかな?」
「良い、っとははっきり申せませんが、少なくともカグヤとしては誠意を尽くしているつもりです。……それに、自分が誰かの失敗作だと言われたのなら、その人の名前より、自分は自分としての名前が欲しい。そう思うのが自然と思いますよ。その方が『失敗作』ではなく、『新しい誰か』っで、いられるのですから」
「『失敗作』じゃない、『新しい誰か』……」
「その御方にもし、その御方だけの御名前があるのでしたら、御名前を呼んで差し上げること……、それこそが最も大切な事だと、思えませんか?」
「!?」
なのはの瞳が大きく見開かれました。そして聞きとり難い声で、何事かを呟きます。
「そうだよ……私、自分で言ってて、解ってなかった……。……名前を呼んで……そう言う意味なんだよね………」
「どうやらカグヤは、なのは様が御望みになるものに、御答え出来たみたいですね」
「はいっ! ありがとうございます!」
「いえ、……役立てたのなら幸いです。そろそろこちらの掃除も終わりましたので、中に戻りましょうか? そちらも終わった頃でしょうし」
「うん♪」
そう言って、なのはは頷き、先に走って行きましたた。その後を追いながら、カグヤも一人呟くのです。
「本当に、名前は大切なのだと思いますよ……。果たしてカグヤの名は『カグヤ』だったのか? それすら定かではないのですから」
それでも良いと思えたのは、あなたがカグヤを『カグヤ』と呼んでくださっていたからなのですよ? 神威義姉様……。
「カグヤちゃん」
急に呼ばれて、視線を向けると、先の方ですずか様が出迎えてくださっていました。
「ただいま戻りました。すずか様」
「うん。……あのね、カグヤちゃん」
「はい? なんでございましょう?」
「カグヤちゃんは……、私達にとって、大切な家族だから、『月村カグヤ』を、いつでも名乗っていいんだよ?」
「!」
そうでした。カグヤが最初に拾われた時、忍様に養子としてその名を頂けると言われていました。ただ、それは神威義姉様を裏切るような気がして、かと言って東雲の名を名乗る事が出来なくて……、ずっとカグヤはただのカグヤなのだと、名乗り続けていたのでした……。
「はい、ですがその名は―――今はいただけません」
「そっか……」
「はい。月村の御二人の名を背負うのは……東雲カグヤが許さないでしょうから」
「? それってどう言う意味?」
「それは……、何(いず)れお話する事もあると思います」
「……うん、わかった。それまで待ってる」
「ありがとうございます。すずか様♪」
カグヤは、『名前』のありがたさを知りました。ありがとうございます、すずか様。
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