魔法幽霊ソウルフル田中 〜魔法少年? 初めから死んでます。〜 命は投げ捨てるもの、な10話 |
『足売りばあさん』
ある日平凡なサラリーマンの男が、会社での仕事を終えて家族の待つ我が家へと帰る途中の出来事。
男は奇妙な老婆に出会った。
自らの体と同じぐらいの大きさがある風呂敷袋を背負い、その老婆は男に問いかけた。
「足はいらんかねぇ」
男は初めはこの老婆が自分をからかっているのかと思い、無視して立ち去ることにした。
「足はいらんかねぇ、足はいらんかねぇ」
しかし、老婆は足早に立ち去る男をしつこくつけ回し何度も問いかける。
何度も追いかけまわされ、男は次第にこの老婆に恐怖を覚え、最終的には家まで全力で走っていた。
息も切れ切れになり、ようやく我が家へと辿り着く男。
しかし、気になって後ろを振り向くと……。
「足はいらんかねぇ」
男は動揺する。
何故だ、確かにしばらく運動なんてしていなかったから足が衰えてているのはわかる。
しかし、明らかに自分の速度は目の前の80を超えた、しかもあれだけ大きい荷物を抱えた老婆が追いつけるものではない。
ここに来て、男はようやく気づいた。
『これは人間ではない』と。
「さあ、足はいらんかねぇ」
男は老婆から、この恐怖から逃げ出したい一心で『答えてしまった』。
「い、『いらないです』!」
その言葉を聞いた老婆はにんまりと笑い。
「そうかぁ、『いらない』ならわたしゃ『もらってあげる』よぉ……!」
老婆は男の足を引きちぎり、風呂敷袋の中に入れ立ち去っていった。
また、この話を聞いてから老婆に会った者が『いる』と答えたら『余計な足を付け足された』という……。
以上が、あの本に載っていた『足売りばあさん』の話である。
ちなみに対策も載せあって『○○さんの所へ行って下さい』と頼めば足売りばあさんを○○さんの所に押し付けられるというもの。
だが、はやてちゃんならこの方法を使うことは無い筈だ。
はやてちゃんは本から目を離さず一心にそのページを見つめている。
頼む……気付いてくれよ。
そして、数分が経過してはやてちゃんは顔を上げた。
「……あ、もうこんな時間や、お昼ご飯食べんと……」
はやてちゃんは『本当に怖い都市伝説』の本を借りて、図書館を後にした。
「……足売りさん、はやてちゃんの足、どう思いますか?」
はやてちゃんを見送りながら、俺は隣りにいる足売りさんに聞く。
ちなみに、足売りさんと呼んで欲しいと本人に頼まれた。
「ふぇっふぇっ、パッと見じゃあ随分と綺麗な足をしてるぐらいしか分からないねぇ、少し引っかかるけどさぁ」
「そうですか」
さすが、足のプロフェッショナルである。
はやてちゃんの足、その異常性を遠目でも見抜いているとは。
「まあ見てるんだねぇ……、わたしゃ仕事は完璧と名高いんだぁ、ちゃあんと『要求通り』にこなしてあげるよぉ。問題があるなら遠慮なく言ってもかまわないし、なんなら少々手荒な方法で止めてもらってもいいからねぇ」
「え、冗談ですよね?」
「割とマジさぁ、人魂でもポルターガイストでもどんと来いだよぉ……」
そう言って、足売りさんと俺ははやてちゃんの後を追うのだった。
「アカン、つい長居してしもうた。お腹すいたなぁ……」
八神はやては空腹で鳴るお腹を押さえ、自宅へと帰る途中であった。
平日の昼間で時間は1時を過ぎており、大体の人は屋内で昼食をとっているであろう時間帯なので人を見かけることは無い。
「でも、なんや面白い本見つけれたしええかな」
はやては手の中にある自身が遅れる原因となった本を見つめる。
自宅にも鎖でがんじがらめにされた奇妙な本があったが、あの本とは違ってこれはれっきとした普通の本である。
まだ全てを読んではいないから、当面は楽しめるだろう。
それに、どうしても気になってしまうページがあったのだ。
「『足売りばあさん』かぁ……」
わざわざ付箋までしてあったあのページ、その内容を思い出し自分の足に目を向ける。
まったく動かない自分の足、病院で診てもらっても原因は不明で治る見込みも分からない。
この足が動きさえすれば、自分はもっと好きなことが、友達だって作れるのだろうか、学校にだって行けるのか、どうしても感じてしまう孤独感から解き放たれるのか。
そう思えば思う程、どうしても『遭いたい』、ありもしない『都市伝説』にすがろうとする自分がいることを自覚してしまった。
「――――ああもう、やめや、絶対治らんって言われたわけやないし、わたしは一人やない、先生もおるし会ったことは無くてもグレアムおじさんだっておる。家族は無理やろうけど、友達だっていつか生きてたら絶対できるはずや」
やめやめ、と頭をふってネガティブになりがちな思考を封殺する。
確かに両親は物心つくまえに亡くなって家に1人とはいえ、孤独感に絶望してオカルトに染まるなんてない。
――――しかし、彼女は分かっていなかった。
『あるわけない』と否定する人間ほど、『それ』は遭いやすい。
なぜなら、否定すればするほど猜疑心が高まるから、『本当に?』と疑問を持ち不安になってしまうから。
だから、彼女は必然的に『遭う』。
「っくしゅん! な、なんや急に寒気が……」
突然背筋に走る寒気に、はやては肩を震わせた。
先ほどまでの陽気が偽りだったかのように。
辺りを見渡して、彼女は気付いた。
人がいなかったはずの道に、自分の前に『何か』がいる。
「う、嘘やろ……」
その姿を見て、まさか、ありえないと驚愕する。
しかし見間違える訳がなかった、なぜならあの老婆は、あの『大きな風呂敷袋を担いだ老婆』は――――
「ふぇっふぇっふぇっ、お嬢ちゃん。足はいらんかねぇ?」
――――あの本に書かれた、『足売りばあさん』そのものだったからだ。
(う、う、嘘おおおっ!? ほ、ホンマに!? ホンマに遭ってしもうたッ!?)
はやては絶賛混乱中であった、そりゃまあ、こうも都合よく現れると誰が思えるだろう。
目の前の足売りばあさんから放たれる異様な雰囲気に気圧されて、というのもあったが。
「さあ、足はいらんかねぇ」
「え、や、その……」
ずずいっ、とはやての目の前まで迫ってくる。
足がつまっているであろう風呂敷袋の大きさも相まって、かなりこわい。
(そ、そうやっ! いまこそ、チャンスや!)
思わず口がしどろもどろになるはやてだったが、手の中にある『本当に怖い都市伝説』の存在を思い出し、ひらめいた。
この状況を打開する、シンプルかつ誰にも迷惑を掛けない、自分にしかできないベストな方法を。
「あ、あのっ!」
「ん?」
勇気を振り絞って、声を出す。
恐い話は大丈夫でも、本物は流石に怖い。
だが、挫ける訳にはいかない、自分の為にも。
もう、一人なんて、こりごりだったから。
「わ、わたしのっ! わたしの足を、動ける足に『取り替えて』ください!!!」
言った、言い切った。
そう、『足売りばあさん』はまさに『要求どおり』に動く都市伝説なのである。
『いらない』といえば取る、『いる』といえば付け足す。
ならば、取り違えようも無くはっきりと『取り替えて』と宣言すればどうなるのか。
「ふぇっふぇっふぇっ……、そうかいそうかい、なるほどねぇ『取り替え』かい?」
どうなのか、成功したのか?
心底愉快そうに笑う足売りばあさんを見て、不安と緊張に包まれるはやて。
そして、足売りばあさんは懐から『そろばん』を取り出して。
「子供サイズの両足二本、下取り価格で〆てよんひゃくごじゅうまん――――
「「って金取るんかーーーーーーーーい!!!」」
「みぎゃあっ!!!」
ツッコんだ、そりゃあもうノリツッコミだった。
なんか黒い学ランを着た兄さんが、そこらへんに落ちてた空き缶を足売りばあさんに投げつけて自分と同じツッコミをしてる幻覚をみたが、多分気のせいである。
「なにしてんですかっ! はやてちゃんは小学生ですよ!? そんな大金持ってるわけないでしょう!!!」
「いや、まちなぁ、ゆゆ揺らすなぁ!」
現在、俺は足売りさんの肩を掴んでがっくんがっくん揺らしている。
ツッコむときも容赦なく空き缶投げました、後悔も反省もしてません。
ちなみにはやてちゃんは「なんか、嘘くさいわ……帰ろ」といってさっさと先に進んでしまっている。
「だいたい、有料なんて聞いたことないですよ! そんな金払わせて何に使うんですかっ!」
「いや、『ホステス!』の新人の『ロイちゃん』と旅行の資金に待て待て人魂は熱いって風呂敷燃えたらまずいってぇ」
「都市伝説がホストクラブかよってんじゃねえぇぇぇぇぇ!!!」
思わず人魂でこの老婆を火葬してやろうかと思ったが、確かに袋が燃えて中の生足が一面に散らばるのはマズイ、なんとか叫ぶだけで踏みとどまる。
「ま、まあ落ち着こうじゃないかぁ、それにお嬢ちゃんに近づいて分かったこともあるからさぁ。あの嬢ちゃんの足、『いたって健康的』じゃないか、歩けないのが不思議なまでにねぇ」
「っ!!」
やはり、気付いていたのか。
歩けない原因は足ではなく、別のものにあることを。
「ま、まさかあの無茶振り料金も……!」
「そうさぁ、あの嬢ちゃんは足を取り替えたところで『歩けはしない』。原因は分からないけどもっと違う何かがあるってねぇ。だからわざとアンタに『中断させた』のさ」
そ、そうだったのか……!
しかし、足売りばあさんでもはやてちゃんをどうにかできないとなると、いったいどうすればいいんだ?
すると足売りさんは「ふぇっふぇっふぇっ」と笑いながら首を横に振った。
「まあ、まだ諦めるのは早すぎるよぉ……。わたしゃこの道何十年とやってきてるけど、お嬢ちゃんみたいな案件でもスパッと解決してきたからねぇ」
「ほ、ほんとですか!」
「ああ、任せときなぁ。こっからが本当の『都市伝説』だよぉ……!」
第二ラウンド開始、どうやら光は潰えていないようだった。
「足はいらんかねぇ」
「わわっ!? また来とる!?」
再び現れた足売りばあさんに驚いているはやてちゃん。
そりゃあ、さっき後ろに置いてけぼりにしたのに目のまえに出てきたら怖いよね。
つくづく芸のこまかい人である。
ただ、はやてちゃんも一度あっただけあって初対面時よりも恐怖心は薄れてしまってるみたいだ。
どもることもなく、はっきりとした口調で告げる。
「あの……わたしお金持ってないんで、かえってください」
「ふぇっふぇっ、わたしゃそうはいかないんでねぇ……。それにお金もとりゃしないよぉ」
しかし足売りさんも引き下がらない、「え?」と呆けるはやてちゃんに続けて言った。
「わたしゃ何年も足を見てるけど、お嬢ちゃんの足は珍しいケースさぁ。動かない原因も『不明』と言われただろう?」
「えっ? なんでそれを……」
「原因はわかりゃしないけどねぇ、これだけは分かるよぉ。お嬢ちゃんは『普通に足を付け替えても、歩けない』」
その言葉をきいて、はやてちゃんの顔が絶望に染まった。
当然だろう、超常の存在でも自分の足はどうにもできないといわれたも同然だったのだから。
「そ、そんなっ! じゃあわたしは、このまま一生歩けんまま」
「早とちりはいけないよぉ、わたしゃ、『普通に付け替えたら』といったはずさぁ」
泣きそうなはやてちゃんに足売りさんは待ったをかける。
そして、せおった風呂敷袋を後ろにおろし、中を探っていく。
「そう、確かにお嬢ちゃんの足は『普通』じゃ動かないねぇ」
「だからとはいえ無理か、と言われれば『違う』と答えるよぉ」
「わたしゃ天下の『足売りばあさん』さぁ。『普通』じゃだめなら『普通じゃない』足を使うねぇ」
「原因不明の病でも、関係ない。そんな足をとくとご覧あれぇ!」
そういって足売りさんは袋から『普通じゃない足』を取り出し、天に掲げる!!!
「どうだいっ! 某錬金術師ご用達の鋼の義足! おーとめいる――――
「「アウトオォォォォォォォォ!!!」」
「もぎゃぁぁぁっ! あつっ! 熱うぅぅぅ!!!」
人魂を足売りさんにむけてスパーキーーーーング!!!
「さあババア、なにか言い残すことはあるか?」
「待て待て待て待てぇ、キャラが、キャラが変わってるよあんたぁ。とりあえずその宙に浮かべた自販機をしまうんだぁ」
確かにババアのスプラッタ画像なんて、誰も得をしないだろう。
俺はとりあえず自販機を地面におろした。
ちなみに、自販機を持ち上げれたのは初めてである。
どうやら怒りで、少しだけイメージ力が強くなったようだ。
あと、はやてちゃんは『養豚場の豚を見るような目』をして先に進んでいきました。
「普通じゃない足って聞いた時点で不安でしたけど、オートメイルは無いでしょうが!」
某錬金術師でも歩けるようになるまで1年かかった(死に物狂いで)。
これなら普通に原作どおりになった方が早い。
というかはやてちゃんにどれだけの努力を強いるつもりだったのか。
もうこの人にはお帰りになっていただこうかな、そう思うが足売りさんはまだ諦めてないらしい。
「も、もう一回! 今度は時間もかからないし、歩くのに大した努力もつかわさないやり方があるからさぁ!」
というわけで第三ラウンド、ホントに大丈夫なのか……?
「足はいらんかねぇ」
「ええ加減にしてください、家の前までついてきて警察呼びますよ」
とうとうはやてちゃんの反応も辛辣なものとなってきました。
そりゃあ、ここまでしつこいとねぇ。
「ふぇっふぇっ、わたし達にゃ警察は通用しないねぇ。それよりも、こんどは一味違うよぉ。」
「ちっ、それもそうやった……。じゃあ、何が違うん?」
ドヤ顔をきめる足売りさんに、思いっきり舌打ちするはやてちゃん。
それにしてもこのばあさん、好感度だだ下がりである。
「そう、今度は足も取り替えない、全く新しい『新技術』を『実践』するよぉ!」
「え、『新技術』? なんやそれ、本には書いとらんで……?」
俺も初耳である、怪談とは日々進化しているとは聞いたことがあるがこれは一体?
「この『技術』はつい最近完成してねぇ、お嬢ちゃんが初めてのお客さんという訳さぁ。だが、聞いたこともない『技術』なんて不安だろう? そこで、目の前で『実践』することでその効果を確かめてもらうわけさぁ……」
そういって足売りさんは、『たまたま近くにいた、茶色い毛並みの猫』を左手でひょいと摘み上げる。
あれ? どっかでみたよーな……。
「ニャッ!?」
「あ、時々家のまわりうろついとる猫や」
「ふぇっふぇっふぇっ、この子が初めての『お客さん一号』さぁ。さて、この猫はずいぶんと長生きしてるみたいだねぇ、足の衰えが見てわかるよぉ……」
足売りさんは空いている右手の人差し指だけをピンと伸ばし、猫の大体『右後ろ脚の太もも』に狙いをつける。
摘まれた猫は何をされるのか分からず、「フ、フシャーッ!?」と不安そうに威嚇していた。
やっぱどっかで見たような気がする。
「この猫の足を治すツボは…………ここだぁ!」
ビスッ
「ぶにゃふぁウっ!!?」
ビクンビクン、バタッ、ガクガクガクガク……
「「………………………………」」
「ん〜〜〜〜? 間違ったかねぇ……?」
擬音だけだと分かり辛かったかもしれないが、『新技術』とやらで足を突かれた猫は泡をふいて地面へ倒れ伏した。
「ニ、ニャーーッ!?」
物陰から、双子なのかもしれない同じような毛色の猫がいまだ痙攣している一方を慌てて咥えていった。
うん、絶対見たことがある。
そしてはやてちゃんの反応は。
「お帰りください」
ですよねー、どうみても暗殺拳です、ありがとうございましたー。
バタン、と玄関のドアを閉めるはやてちゃん。
足売りさんは慌ててドアノブを引っ張る。
「ま、まちなぁ! まだだ、まだ終わっちゃいないよぉ!」
「し・つ・こ・い〜〜! ええ加減、諦めぇや!」
老婆と車いす少女の、綱引きが始まった。
というか足売りさん、貴女よく食い下がりますね……。
しばらくの間、引っ張りあいこが続き、そろそろ俺もそこら辺にあったバス停で足売りさんを吹っ飛ばそうかと考えていた時だった。
はやてちゃんは根負けしたか、たまらずこう叫んだ。
「ああもうっ! グレアムおじさんのとこでも! 行っといてください!!!」
バタムッ、ガチャ。
ドアに鍵がかかり、中に入ることは不可能である。
足売りさんは、後ろについていた俺に聞いてきた。
「田中ぁ、『グレアムおじさん』ってどこに住んでるんだい?」
「え、えっと……。異世界在住です……」
俺も呆然となっていたので、つい本当のことを言ってしまった。
「ふっ、私もとうとう異世界進出だねぇ……!」
「マジで行くんですか異世界!!?」
――――まさかの、グレアムおじさん終了のお知らせである。
〜番外編・バックヤード〜
「アリアっ! しっかりしなって!」
「ロ、ロッテ……? わ、私のことは、いいから」
「そんなこというなよぉ! いますぐミッドに帰って治療を」
「いいから、早くっ! 父様が、危ない!」
「っ! わ、分かった。 でも絶対連れてくから! 絶対に死なせないから!」
「ふふ……、不思議、だな。クライド君が、手を振ってる…………たわらばっ!!!」
「ア、アリアァァーーーーッ!!!」
※死んでません、この後ほっといたら無事に復活しました、特に足が絶好調らしいです。
説明 | ||
足売りばあさん編、後編。 この作品は幽霊とタグはついてますが『ホラー』ではございません。 |
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