たとえ、世界を滅ぼしても 〜第4次聖杯戦争物語〜 魔導妖歩(生命嘆願)
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惑いは心を揺らし

 

不安は形となって現れる

 

【魔】は這いより、己が願望だけを告げ、その歓声をあげるだろう。

 

深き闇は此処に、その異常を見せつける。

 

 

*************************************************

 

<SIDE/セイバー>

 

深夜の国道を一台の黒塗りの車が走り抜ける。

時速100キロを軽く超えて、夜の道を走る車を運転しているのは、アイリスフィール。

つい数時間前に倉庫街で死闘を繰り広げたセイバーと共に、離脱した彼女だった。

本当なら色々と話したいと考えていたアイリスフィールだったが、それはセイバー自身によって阻まれていた。

 

「……」

 

助手席に座り、深く考え込んでいるセイバーの表情は真剣な面持ちであり、先程までの戦闘を思い返しているのだと分かる。

その邪魔をしてしまうとは思いつつも、アイリスフィールは少し躊躇いながらも話しかけた。

 

「ねぇ、セイバー…さっきから元気が無いわ、どうしたの?」

「っ…すみません、アイリスフィール…私は貴方を守ると言いながら、敵に背を向けてしまいました。

どのサーヴァントにも一矢報えず、負傷しただけです。」

「…そんなのいいわ、むしろさっきはありがとう、セイバー」

「え…?」

「私を助けてくれたじゃない、ランサーの事もあるし、バーサーカーも未知数な力を持っていた。

何より、あのままあそこに居たら危険だったわ…貴女は私を守ってくれたのよ、セイバー」

「…いえ、確かに、彼等は相当な脅威でしたが…それに、私は…」

 

そう言って笑いかけるアイリスフィールに、セイバーは少し目を伏せて、何か言い辛そうに言葉を紡ごうとして

 

 

「―――――――――っ、止まって!」

「えっ…っ!」

 

急に声を上げてそう指示したセイバーに、アイリスフィールは急いで車を止めると、その視線の先を追うように見つめた。

その先には―――――1つの影が、立っていた。

 

「アイリスフィール、車から降りて私から離れないでください…この気配、サーヴァントです。」

「っ…分かったわ。」

 

セイバーが先導してアイリスフィールを守る様に車から降りて、前に立った。

彼女の目に映るのは、とても奇妙な格好をした、可笑しな男の姿だ。

紫と黒を基調にしたローブを身に纏った猫背で恐らくは長身であろう男、人形のような白い肌に、ギョロリと飛び出しそうな両目をしている。

畏まった様にセイバーに向けて立っている、その男は、確かに【サーヴァント】の気配を漂わせいていた。

 

 

「…?」

(何だ…この男は確かにサーヴァントの筈…だが、違う…?)

 

――――――直前までしていた会話で、アイリスフィールに言えなかった言葉

それは、ランサーよりもバーサーカーよりも、『咆哮の主』についての事。

彼女の心を恐ろしい程揺さぶった、声の主が、どうしてもセイバーは気になっていた。

そして唐突に現れた、恐らくは『キャスター』のサーヴァントの男。

セイバーは目の前のサーヴァントこそが咆哮の主であり、『自らが離脱した原因』だと考えていた。

負傷した自分に目を付けて、他のサーヴァントがいないのを狙ってきたのだと、そう思い身構えていたのだが…彼女の直感が、【違う】と告げいていた。

 

 

(この男は……あの【声】の、あの叫びの主ではない…?なら、アレは一体何者だったというのだ…?)

 

 

目の前にいる男性はセイバーの戸惑う気配に気がついていないのか、陶然とした微笑をセイバーに向けながら頭を恭しく下げる。

 

「お迎えにあがりました…((聖処女|ラ・ピュセル))よ」

「っ!?」

 

男の行動に、セイバーは完全に面食らい息を呑む。

セイバーの記憶の限り、目の前に居るような男等見た事は無かった。

確かにセイバーは女性だが、その正体は誰にも知られる事無く生涯を終えた。

それなのに何故自身を聖処女などと呼ぶのかと困惑した顔をしていると

アイリスフィールが疑問に満ちた表情をしながら、セイバーへと問い掛ける。

 

「ねぇセイバー、この人と知り合いなの?」

「いえ、私には見覚えはありません。」

「オオオオォッ御無体な…!この顔をお忘れになったと仰せですか!?」

 

はっきりと否定したセイバーの言葉を聞いた瞬間、男は恍惚の笑みから絶望したように顔色を変えて叫んだ。

それでもセイバーは目の前のサーヴァントが誰なのか全く分からずに、疑問に満ちた顔をしながら質問する。

 

「知るも何も貴公とは初対面だろう?何を勘違いしているのか知らぬが…」

「私です!貴女の忠実なる永遠の僕、ジル・ド・レェにてございます!

貴女様の復活だけを祈願し、今一度巡り合う奇跡だけを待ち望み!こうして貴女様の元へ馳せ参じてきたのですぞジャンヌッ!?」

「【ジル・ド・レェ】…ですって!?」

 

セイバーの言葉を受け入れられないのか、

頭を掻き毟りながら突如、自身の真名を叫んだ男――――――――――【ジル・ド・レェ】に、その真名を聞いたアイリスフィールが表情を強張らせた。

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………【ジル・ド・レェ】、その名はかつて【救国の英雄】と呼ばれた男の名。

だが、その名前で彼を呼ぶものは少ない。

その理由は、彼が「ある時」を境に精神を病み、異常な狂人へ成り果てた事へ由来するという。

「ある錬金術成功」の為に、黒魔術を行うよう唆したことも加わり、手下を使って、何百人ともいわれる幼い少年達を拉致、虐殺した。

……錬金術成功という「実利」の為だけではなく、少年への凌辱と虐殺に性的興奮を得ており、それによる犠牲者は、夥しい程の数だったと伝えられているからだ。

そう、あれこそは既に破綻せしめた人間の成れの果て、英雄とは程遠い悪鬼の類。

例え彼本人を知らずとも、『青髭』という物語の原型ともいえる狂人が、サーヴァントとして呼び出されていた……!

 

その事実に、少なからず動揺し困惑するアイリスフィールを庇うように立ち塞がり、

先程よりも警戒の色を露わにしてジル・ド・レェを睨み据え、問い掛けられた声へ否定を返す。

 

「残念だが、私は貴殿の名を知らぬし、そのジャンヌと言う名前にも心当たりは無い。」

「何故です!?自身の生前のお姿を、その名をお忘れなのですか!?」

「…貴公が自ら名乗りをあげた以上、私もまた騎士の礼に則って真名を告げよう。

我が名は【アルトリア・ペンドラゴン】、生前はアーサー・ペンドラゴンと呼ばれていたブリテンの王だ!!!」

 

 

「オ、オオオォ、オオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――――――――――――――――ッ!!!!!!」

 

 

セイバーの断言を聞いたジル・ド・レェは、絶望に満ちた凄まじい慟哭を響かせ、

躊躇う事無くアスファルトの地面に、血が流れる事も構わずに拳を叩きつけ出した。

その激しさは、両手から流れ出す血の量がものがたる、溢れる鮮血は辺りに飛び散りその場を赤く染め上げる。

それでも――――――ジル・ド・レェは、その手を止める事なく、絶叫する。

 

「何と…何と痛ましい!嘆かわしいっ!

記憶を失うのみならず、そこまで錯乱してしまうとは!…おのれ、おのれぇぇぇぇッ!

我が麗しの乙女に、我が麗しの聖処女に!神は何処まで残酷な仕打ちをするのだぁぁぁぁぁッ!!」

「貴公は一体何を言っている!?そもそも私は…!!」

「ジャンヌッ!!!貴女が認められないのも無理は無い…っ誰よりも激しく、誰よりも敬虔に神を信じていた貴女だ!!

それが神に見捨てられ、何の加護も救済も無いまま魔女として処刑され!守ってきた者達に嫌悪された!…貴女が己を見失うのも無理は無いぃぃぃっ!」

『――――っ!』

 

 

口から泡を吹かんばかりの切羽詰まったような、

しかしギラギラとした狂気を込めた目線を向けられて、セイバーとアイリスフィールの背筋に寒気が走った。

 

……目の前にいるジル・ド・レェは会話等していないのだ、この男は、自身の【望む答え】のみを求めている。

否定には意味等無く、この男はセイバーを【ジャンヌ】という女性としてしか認識していない。

故に、セイバーは確信する。

目の前のサーヴァントは、今ここで倒さねば確実に禍を齎すと。

 

(………この男は、私を【退かせた】サーヴァントでは、無い。

あの咆哮を、この男は上げられない……この男に感じるのは、ただ怒りしか感じない…!)

 

此処で斬り伏せる、そう決めて不可視の剣を構えようとセイバーは魔力の鎧を身に纏おうと意識を集中させようとし――――――

 

 

「ならば!此度の【キャスターのクラス】として招かれたのも納得がゆく!

私が再び貴女様の輝きを取り戻して差し上げるのが!この身に課せられた使命なのですねジャンヌ!!

聖杯が私にそう告げるのならば!このジル・ド・レェの【魔術】の粋を使いこなし!贄を貴女へ捧げましょうぞ!!!」

「………な、に?」

 

その言葉に、意識が固まった。

今、この目の前の、【キャスターのサーヴァント】は、何と言ったのか?

 

「…え、そんな…じゃあ、あの時の【声】は…?」

 

戸惑うアイリスフィールの声が、後ろから響く。

そうだ、彼女とて混乱してもしょうがない、何故なら……

 

「ご安心くださいジャンヌ!聖杯は既に我が手中にあり!

貴女との再会を叶えてくれた事こそがその証明!いずれ相応しい形で貴女様を迎えに参ります…!」

「っ!?待てキャスターっ!!」

 

だが、そのセイバーの一瞬の迷いが、キャスターの命を救った。

狂気の笑い声を響かせながら、ジル・ド・レェの姿が掻き消える、恐らくは霊体化したのだろう。

そのまま、その場に静寂が落ちるのをセイバーは苦々しげな表情をして受け入れると、すぐにアイリスフィールへ向き直った。

 

「申し訳ございません、アイリスフィール…奴を逃がしてしまいました。」

「…あのサーヴァントは、【キャスター】だわ…そんな、こんなことって…」

 

傍に近寄りながらそう言うセイバーに、不安そうな声が響く。

見れば、アイリスフィールの表情は陰り、若干青褪めてすらいた。

 

「っアイリスフィール!しっかりしてください!?奴は去りました、もう此処にはいません!」

「…っ違うの、違うのよ…セイバー。」

 

呼びかけると、アイリスフィールの白い手がセイバーの手を握る。

見つめ合う形になったアイリスフィールの表情は、今にも不安が溢れてしまいそうだった。

 

「……お願い…正直に言って…あの倉庫街の【声】と、あのキャスターは……((違うサーヴァント|・・・・・・・・))なのね?」

「っ…それは…」

「いいの、分かってる……あのキャスターを見れば分かるもの……あのキャスターは、明らかに【狙って】私達の前に現れてた。

倉庫街で出て来る事も出来た筈なのに、それをしなかった……それは自分が、他のサーヴァントに【物理的に敵わない】と分かっていたからでしょうね。

きっと工房に閉じこもって、何らかの手段で私達を見張っていたのよ…キャスターとして………だから、だから怖いの…こんなの有り得ないのに……!

今までの聖杯戦争にこんな事態は発生していないのに…!切嗣が分からない、【私の知らないサーヴァント】が、いるのよセイバー……この聖杯戦争に居ない筈の…【八番目】が、いるの…!」

「アイリスフィール!」

 

口元を手で覆って、肩を震わせているアイリスフィールをセイバーは支える。

そうでもしないと、彼女が倒れてしまうのではないかと思ってしまう程に、アイリスフィールは今…見えない敵に対して、恐怖し弱っていた。

 

(私が傍に居ながらアイリスフィールを、このような恐怖に晒してしまった…!)

 

その表情は自分のせいだと、自らをそう責めながらセイバーはアイリスフィールを宥めながら、車へと足を向けて歩いていく。

早く、今はアイリスフィールと運転を変わってでも、アインツベルンの城に彼女を連れて帰る方が先決だった。

そしてこの事を、早くキリツグにも伝えなくてはと、セイバーは意識を張りつめさせて考えていた。

 

…セイバーは気付いているだろうか、その自分自身の表情もまた、キャスターに対する怒り以外で強張っているという事実に。

結果はどうであれ、【声】の主は完全に別にいると知った時に、彼女の中の【何か】が騒いでいた事を。

 

 

 

        ―――――――――その夜の空を、風を切って■が飛んでいた事に。

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<SIDE/ドラグーン>

 

 

―――――――――――――池の畔の前に、ドラグーンは佇んでいた。

水浴びでもしていたのか、その体はずぶ濡れだ。

どこかボンヤリと池を眺めているその横に、【何か】の影が近寄ってきた。

ちらり、とドラグーンが視線を向けると、影は【自分が見てきた事】を彼に話していく。

ソレは…数十分前、セイバーとキャスターが邂逅した時の様子だった。

 

<……そんなのが、いた>

「そうか、随分と無茶をしてくれたんだな…申し訳ない、ありがとう」

<【ヒト】のつごうにふりまわされるのはいやなだけだ、はやくおわらせてくれ>

「…ああ、出来れば早く終わらせる。」

 

ドオオオオオオオオオオオン………

 

<なんだ…?>

「町が…あれは建物、か…?燃えてる?」

<…アレも、いやだ、そらが、そらがよごれる…なにもすめなくなる…!>

 

黒く燃える町の一角に、サーヴァントの視力でドラグーンが見つめて呟くと、

その隣の影が、悲痛な声を漏らした……やめてくれ、と、嘆きの声を上げていた。

 

「………止める、だから泣くな。」

 

その小さな影に、ドラグーンはそう言うと、その視線を鋭くし町へと一歩踏み出した。

鋭い視線の先……燃え盛るビルの名を【冬木ハイアットホテル】。

そこに向けて、ドラグーンは霊体化しながら歩いていく。

消えていくその後ろ姿を、【影】はただ見つめて見送るしかない。

 

「――――――――もう、これ以上は燃やさせない。

 これ以上は汚させない、これ以上は血の匂いを増やさせない、それを【お前達】が嘆くなら。

 協力してもらっている以上、その分の代価はちゃんと支払うし、その分は私も働くさ。

 何より…この【戦争】の責任を持つ者の一人として、ソレを阻んでいく……【約束】しよう。」

 

その姿が、完全に掻き消えて。

その気配もしなくなってから、【影】は最後に、こうポツリとつぶやいた。

 

<……だから、おまえをてつだうんだ、おまえは【ほかとはちがう】から、【ぼくらのこえ】がきこえるから…【いのち】をおまえはみてくれるから…>

 

…その場に残ったのは、小さな影。

その【影】は、その場で暫く泣いていた。

月明かりに照らされて、小さく小さい体を震わせ。

 

 

            ………小さく、寂しく、((鳴いて|泣いて))いた。

 

 

 

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新たなる狂気は、その牙を見せつける。

 

そして他者の悪意が、また一つの戦場を破壊した。

 

 

戦うモノ達よ、されど戦場はかつての荒地ではないのだ。

 

 

嘆く命の悲鳴を聞け、その悲しみに気付け

 

その戦に巻き込まれているのは、【ヒト】だけではないのだという事を―――――

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【あとがき】

 

今回は、旦那キャスターの登場とセイバーとアイリスフィールの困惑、そして・・・ドラグーンとその「協力者」の登場でした。

本当に旦那は!いい感じにハイテンションなのが書きづらいですな…;

作者はギャグじゃないとテンション高い人は書くのが難しいのですよ!?(すいません、作者は今テンションが高い為ちょっと壊れてます(笑))

次回は久しぶりに雁夜おじさん登場!そして気になるバサカ。

桜ちゃんも交えて、お話し……する?

更新をお楽しみに・・・

ここまでの閲覧ありがとうございました!

 

 

今回のBGMは、【魔術師(Fate-stay night A.OST)】でした。

 

※感想・批評お待ちしております。

説明
※注意、こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。

それでも見てやろう!という心優しい方は、どうぞ閲覧してくださいませ。


今回はとうとう奴が登場します!そしてセイバー陣営にはバレテしまう事実……どうなるのか…
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キャスター 英霊 英雄 残酷描写 原作改変 ドラグーン セイバー Fate/Zero Fate 

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