■14話 紀霊一行部隊持ち■ 真・恋姫†無双〜旅の始まり〜
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■14話 紀霊一行部隊持ち

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恋とかごめを混ぜた一刀との鍛錬は顔合わせに刻限が近づいてきたので終わりにし、一時解散した後それぞれお集まる事になった。

 

時雨はボロボロになった一刀をとりあえず放置した後、逃げて行った3人組を追い、話し終わった後は何もやる事が無くなった為一刀を回収しに行くと、何故かその場にかごめが残っていたので一緒に演習場まで出向くことにした。もちろん放置していた一刀も忘れず回収して目的の場所へと向かう。

 

かごめに案内されながら顔合わせの場所にたどり着くとそこには既には賈駆と董卓が視察に来ていた。そして賈駆が鋭く視線を向けるその先には視界を埋め尽くすほどの人がそこに集っていた。

 

「これ……全員俺が指揮するわけじゃないよね?」

 

と思わず呟いてしまう。これは余りにもハードルが高いのではないだろうか、こんなにいっぺんに初対面の人と接しろと言われても困るし人に命令するのも慣れていない。なのにいきなりこんな規模の部隊持ちとか……。

 

最初はもっとこう、十人隊長とか百人隊長とかそこらへんから始めるべきではないだろうかと俺は思うのだが……。せめてどうにかならないだろうかと周りにいいものがないか見渡してみるも、ニヤニヤと寄ってきた綾ぐらいしか目新しいものはない。

 

「なにー、時雨もしかして怖気づいたの?」

 

ニヤニヤ寄ってきてた時点で気づいてはいた。俺が困ってるのを楽しんでる上に絡んでくるであろうことは幼馴染としての経験で分かっていたさ、でも少しは助けてくれるんじゃないかと期待したんだ。そして裏切られる……本当に俺は馬鹿野郎だと思わずにはいられない。

 

「時雨、なら……大、丈夫」

 

僅かに沈んでいると俺に追い打ちをかけてくるかごめ、きっと善意で言ってくれてるという事はわかってる。わかってるけど涙が滲んでくるんだ……。

 

「ん……? おはよう」

 

俺が悩んでいる隣で呑気に起きる一刀になんだか八つ当たりをしたい気分だ。というかあれほど扱いたのにも関わらずもう起きるなんて……なんだか無駄に頑丈になってきてる気がする。まさかこれが主人公補正なのか。

 

といつもの様に下らない事を考えていたのだが、一刀に八つ当たりのくだりで名案を思いついてしまった。もうこれで行くしかない。

 

「確か3000人いるんだっけか? それなら俺が1000、かごめが1000、一刀が1000に分けよう。いいかな? 賈駆殿」

 

「「「え?」」」

 

俺の提案にビックリする3人、何故綾も驚いてるのかはよくわからないがとりあえず無視だ。なんか喚いているけど無視といったら無視だ。

 

「お前らが副官なんて納得できん。お前らならもっと高みへいけると俺は信じている。それに恥ずかしいが俺には兵を3000も纏め上げる自信がない」

「「………」」

 

同じ沈黙だというのにかごめは感動した様に頬を染め、一刀は思いっきり怪訝な目で見てくる。お前だけを逃がす気はないんだよ。

 

「はぁ……。少し困るけどあんたがそういうのならそうなんでしょうね。別に分けても構わないわよ、ただ副官は自分で選別して後でボクに報告してよね」

 

賈駆がため息をつきながらも許可を出してくれた、何故かは知らないけれど結構信用があるみたいだ。本音を悟られずに済んだのはありがたい。正直最初から3000人も率いてられるわけないって。

 

「新兵諸君! 突然だが部隊を分ける。1000人ずつに分かれて3列に並んでくれ」

 

許可も出た事だし、一刀に何か文句言われる前に部隊を分け始める。そこでやっと茫然自失になっていた一刀が回復し、俺に何か言いかけるが口をもごもごと動かし、結局何も言わず別れた1000人の方へと向かっていく。

 

さすがに八つ当たりは酷いと自分で思うが結局華琳に部隊任されることになるはずだし、きっといい経験になるはずだ。これは別にいいわけじゃない。うん、一刀を想っての行動だ。そう自分に言い聞かせながら一刀が去っていくのを見て満足しているとかごめが傍まで近寄ってきて不安げに瞳を揺らしながら見上げてきた。

 

「時雨……私、指揮…でき…ない」

 

確かにまだまだ子供のかごめである。いくら経験豊富と言えども命令を聞けるか聞けないかで言えばきっと聞けない。劉備であれば圧倒的な武を見せつければいいのだろうがかごめの場合そうもいかない、けれど案が無いという訳ではない。上手くいく保証は全くないけど。

 

「それは俺がどうにかしてやるから心配するな」

 

微笑ながらかごめの頭を撫でてやる。すると安心した様に笑ってくれる、かごめは相変わらず素直でいい子だ。と思っていたら1000人部隊の方から一刀が何もせずに引き返してきた。まさかあんなところでくじけるとかヘタレすぎる。

 

「時雨、すまないが俺も指揮なんて出来ないと思う」

「それも心配するな、お前には人を動かす才がある。俺が言うんだから間違いない……それに最初の挨拶ぐらいは俺からしてやるからさ」

 

いくらヘタレようとも逃がさ……ゲフン、これは一刀の才を引き伸ばす絶好の機会だ、なんせ恋姫の世界で指揮取ってたし、一刀もやれば出来るんだからもっとやればいいのだ。まああそこでヘタレるぐらいだからさすがに挨拶はしてあげないといけないだろう。押し付けたことに罪悪感がないと言えば嘘になるし。

 

「新兵諸君! 俺は紀霊という。隣の男は一刀だ、見た目は軟弱だが心根が強く優しい男だ。そして何より強い! 君たちは運がいい、天の御使いと呼ばれる男と共に戦場に立てるのだから。」

「………」

「さて、ここからはこの北郷一刀が君らを指導する。んじゃよろしく一刀」

 

ハードルを上げた気がするが一刀も既に一般人よりは腕が立つはずだ。あの症状からちゃんと抜け出せていればの話ではあるが。まあ抜け出せなくても荒療治だと思えば……うん、悪くないのではないだろうか。

 

1人でうんうんと頷いていると恨みがましく睨んでくる一刀、今一刀の顔を直視することは危険なので顔を背ける。そしてこれ以上この場にとどまるとまずいのでさっさと退散する事にした。といっても目の前にいくつか部隊が分かれているだけなのでそれほど離れることは出来ない。

 

けれど一刀が何も声をかけて来なかったのでそのまま自分の部隊の真正面へとやってきた。俺も出来る事なら誰かに挨拶を変わってほしい、けれど勝手を言いまくった手前それも不可能だ。諦めて挨拶しようと思うのだが、出来れば真面目に挨拶したい、一刀の時は少しふざけたが、ここはビシッと決めないといけないだろう。

 

「お前たちの隊長を務める事になった紀霊だ。そこでお前らに言っておくことが3つある。まずは俺の部隊は甘えも妥協も許さん、次に戦場で死ぬことも許さん。お前らが死ねるのは寿命、もしくは俺が殺す時のみだ」

 

無茶苦茶を言っているのは自覚しているが仲間になるからには殺したくはない。これは俺の決意表明であり、これから生ける地獄を味わってもらうこいつらにはそれ相応の覚悟を決めてもらうつもりで言った言葉だ。

 

だというのにこの無反応、どうしたらいいのかわからない。

 

「うぉおぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

ずっと無言が続いていて困惑していたというのにいきなりの雄叫びにさすがに内心ビビりまくってしまった。何か間違ってたのかと思ってたのにいきなりこの反応、何故だか良くわからない。

 

俺も一刀も自分なりの挨拶を終えてひと段落つく。後の挨拶はかごめだけになる。ここで重要なのがこの部隊に果たして小さい子が大好きなやつがいるかと言う事だ。

 

「えっ…と……李福…です。よろ…しく」

 

かごめの簡潔過ぎる挨拶と共に小さくお辞儀したその瞬間俺は目を凝らした。すると前から3番目の奴が微かに頬を染めてかごめを見ているのことに気づいた。これは萌えている。間違いない……、となればこいつ以外の適任はいないだろうと思う。

 

小さい子萌えの女の子は、もう長いのでこのさい子萌えと呼ぼう。その子萌えは後で役に立ってもらう事にする。さすがにこれからする事に一刀を突き合わせるわけにもいかない。

 

「よし! それじゃあ李福隊と紀霊隊以外は各隊長の元で調練を行ってくれ」

 

皆指示に従って挨拶が終わってからずっとこちらを観察していた綾と一刀はそれぞれ分かれて少し開けた場所へと向かっていく。少し一刀が気になりどう調練するのか見ていると、一刀はどうやら魏で見ていた調練の仕方を試すようだ。普通にちゃんとできているのが少しイラッともしたが、やっぱり正解だったなと思う。

 

綾はと言うと何故か全力疾走でどこかに走って行ってしまった。走り込みだろうか?

 

綾の行動についての疑問を尽きないものの、そろそろこちらも始めなきゃいけないので行動を開始する。

 

「李福隊! 話があるからついて来い」

 

かごめと紀霊隊を置いて少しばかり離れた、出来る限り人の目につきにくい場所へと向かう。丁度いい所を見つけたのでそこに李福隊を整列させる。

 

「かごめの指揮下に入るにあたってお前らには理解してもらわなきゃならないことがある……子萌え! 前へ出ろ」

 

大きく叫んだのに誰も出ない。ああ、そうだった俺のつけたあだ名だったなと思いだし少し恥ずかしいなと思いながらも改めて指をさして前に出す。

 

「間違えた、そこのお前」

 

特に李福隊が俺の言動にざわつかないのがせめてもの救いだ。指名された子萌えは素直に前へと出てくる。見た目は出来る女、お姉さん系といった所だろうか、俺の予想が正しければこいつは残念美人だ。

 

「っは! なんでしょうか」

 

至って真面目に答えてくる。やはり第一印象通り返答からもやり手の真面目な人という事がうかがえる。

 

「お前は副官となり李福を支えろ、お前ならあまり喋れない李福を支えることが出来るはずだ」

「っな……いきなりそんな大役私には勤まりません!」

 

さすがに動揺を隠しきれない子萌えに俺はボソボソと小さい声で囁く。

 

(副官はかごめに侍れるぞ)

 

その言葉に大きく目を見開き動揺してるのが見て取れる。正体見たり枯れ尾花……やっぱり残念美人だったようだ。

 

「お前達にひとついい言葉を教えてやろう……可愛いは正義だ!」

 

他の兵が動揺する中、1人ショックを受けたような顔をして立ち尽くす子萌え。これまでに聞いた事のないその言葉を小さく口ずさみ、噛みしめているのが分かる。

 

「可愛いは正義……なんていい言葉でしょうか」

 

そこまで呟いた子萌えはもう副官を蹴るようなことは言わなかった。それを見届けて他の者達へと視線を向ける。

 

「お前らは可愛い李福のもとにつけるのだ! すなわちお前らは正義についている! これがわからない奴は前に出て来い俺が相手になってやる!」

 

軽く挑発してみると幾人かが困惑、喜び、好奇心といったそれぞれ違う顔をしながら出てきた。どいつもこいつもわかってない。可愛いは正義は万国共通だというのに

 

「それじゃあ……」

「待って下さい紀霊様!」

「様!?」

 

子萌えが何故俺を止めるのかも理解できないが、何故いきなり様づけするのかはもっと理解できなかった。残念美人の中で一体どんな革命が起きたというのだろうか。

 

「こんな輩など紀霊様が出ることもありません。それに皆、私がいきなり副官となるのは不満がありましょう。ならばここで実力を見せるのも一興かと」

 

言われてみて確かにと思う。絶対条件がかごめに萌えるというものだったので実力まで考慮してなかった。けれどここまで言い切るのだからこれは期待できる。

 

「なるほど、なら相手をして見せろ」

「っは!」

 

あまりに生意気な事を言ってのける子萌えに唾を吐き、何人かの男は悪態をつく。けれど子萌え相手にそれは5秒も持たなかった。

 

ドンという音が鳴ったかと思えば何処からか出したトンファーですべての急所を穿っていた。この世界の女の子は強い子が多すぎないだろうかと思ってしまう一幕だった。

 

前に出て来ていた奴らを一通り倒し終えた後、子萌えは可愛いは正義の正当性とその素晴らしさを存分に語ってくれた。見ていたがあれは半ば洗脳といっても過言ではない。想像以上に優秀な残念美人である。

 

「押し付けがましいようで悪いのですが、後は私に任せて李福様を読んできていただいてもよろしいでしょうか? はぁはぁ」

 

はぁはぁしている子萌えを見ているととてつもなく不安になる。こんな飛び抜けた人材を発掘してしまった事に若干後悔しながらも、ずっと付き合ってるわけにもいかないので任せる事にした。

 

「やる気になったならそれでいい、俺も自分の隊があるしな。お前に任せるからここで待ってろ。それから李福の前では息を荒げるなよ」

「っは!」

 

最低限の注意は済ませた。こういうタイプは息を荒げる事はあっても襲いかかる事はないだろう、逆に萌え萌え症候群に陥った部隊を纏めてくれるはずだ。

 

少し不安は残るものの、1人紀霊隊の元まで戻っていく。すると遠くからかごめが不安げな顔で近寄ってきた。

相変わらず天使の様に可愛いかごめを撫でて安心させてやる。

 

「かごめ大丈夫だ。副官に子萌えって奴をつけたから、あいつは優秀だきっとお前の力になってくれる」

 

かごめはほんの少し笑うとわかったといって李福隊のもとへとてこてこ走っていった。さすがにあの可愛さだ。触ろうとすれば悶え死ぬのではないだろうか。

 

改めてかごめを見る事で安心した時雨はかごめの後姿を見送った後自分の部隊へと駆け寄っていく。

 

「いったと思うが……俺に殺されるもしくは寿命で死ぬ以外は許さん。といっても俺がお前らを守る訳じゃないぞ、そんな事思ってる奴は俺が殺すから」

 

隊全体に動揺が走るのがわかる。やっぱり勘違いしていたようだ、別に俺はこいつらをいちいち守ろうとは思わないというか、守れない。数が多すぎる。

 

「静まれ! 俺の話はまだ終わってないぞ!」

 

だからと言って死ぬのをただ傍観することも出来ないだろう。なら教えられるだけの事を俺は教えて生存率を高めればいいのだ。単純だがきっと効果があると信じている。

 

「お前らには生きるために何でも出来る様になって貰う、それこそ何でもだ。そして俺の隊に入ったことが不幸で幸運な事だということを思い知らせてやろう。それでは各員剣を抜け」

 

何処か怯えながらも剣を抜く新兵たち、可哀そうだとは思わない、これから戦場に出るとすれば甘えは許されないのだから容赦する気もない。

 

「俺に斬りかかって来い、本気じゃない奴は殺す。逃げ腰の奴も殺す。敵にやられる前に俺が殺してやるから安心してかかって来い!」

 

ビクビクとしながらも新兵たちが襲い掛かってくる。へっぴり腰の一撃ではあるが圧力をかけている中では良くやったという所だろうか。

 

「いい気概だ。俺が試してやろう」

 

新兵の訓練のついでに俺自身も試してみたい事を試す。今回は所謂三刀流ってやつを試す事にする。

 

小刀を2振り抜き、念のため太刀の峰を相手に向けて口に咥え、その3本の刀に気を流して当たっても切れないように気を荒くする。

 

最低限の準備は整った。新平には三刀流の為に頑張ってもらいますかと意気込み、襲い掛かってくる新兵を見ながら時雨は微笑んだ。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

賈駆は唖然としていた。あれだけの武を備えていれば部隊ぐらいは率いることが出来るとは思っていた。なのに自信が無さそうだったのでさほど期待せずにいたというのにこれは想像以上である。

 

「こいつら本当に隊を率いるの初めてなの?」

 

紀霊の一言で隊全体の士気が以上に上がったのは間違いない。あれではまるで熟練された将の檄それそのものだ。内容が多少誤解されていたとしても、能力には疑いようがない。

 

それぞれ各隊を引き連れて別れた後も紀霊と一緒に居た者たちは一様に最初にあったはずの迷いがなくなっている。いったいどんな魔法を使ったのかさっぱりわからない。

 

紀霊と李福から離れた北郷という男は手順はわかっているといわんばかりに調練をし始めるし、荀正は走らせて基礎体力を作らせているみたいだ。どちらも理に叶った調練をしているだけに口を挟むすきがない。

 

肝心の紀霊は李福隊となにやら話し合った後少し荒れたようだが、途中から出て来ていた女が勝手に盛り上がって事態を収拾してしまった。李福と呼ばれる少女も部隊を率いるには幼すぎると思っているのに抜擢するし、紀霊の行動が全く読めない。

 

しばらくしてと紀霊が戻ってきた後李福は紀霊と何かを話した後李福隊の方へ向かって走っていった。見ているとなんだか転びそうで怖いけれど大丈夫かしら? と自然と心配してしまう。

 

そんな子に部隊を纏められるのか大いに不安だったのだが、李福隊をきちんと取りまとめているのが見える。一体どうなっているのか、紀霊が事前に何かを話して納得させたのは間違いないが、まさかあの李福と呼ばれる少女にはなにかがあるのだろうか?

 

そんなことを考えていると今度は紀霊が自分の部隊に檄を飛ばしているのに気がついた。

 

「はぅ……詠ちゃん紀霊さん剣抜いてるみたいだけどなにかあったのかな?」

「月、きっと大丈夫よ。あの男変だから」

 

そう答えた自分が一番変だと感じる。何の根拠もないのに大丈夫だといってしまう……。これは荀正たちに紀霊は隊の指揮はできるか聞いたときに時雨なら大丈夫といったことと同じなのだろうか?

 

不思議で変な男だ。目が覚めたと思ったら頭に犬を乗せて出歩いていたし、そのまま調練場で騒ぎを起こしたと思ったら、北郷と急に真面目なやりとりをしながら滑稽な姿をさらしていた。本当に良くわからない変な男である。

 

そして今は3つもの武器をもって何かやろうとしている。一体こんどはなにをするつもりなのかしらとワクワクする自分が止められない。

 

自然と上がる口角を賈駆は止めることが出来なかった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

気は通してるといっても慣れているわけではない、さすがに切れたら死んでしまうので小刀でも峰打ちで相手をする。

 

口に刀を持って戦うのは予想以上に首と顎が疲れるけれど扱えないわけじゃない。練習していけばもっとましになるだろうと思う。

 

三刀流についてあれこれ考察しながらも気絶はさせない程の打撲だけに留めて新兵たちを動けなくさせていく。

 

1000人叩き伏せた後に太刀を口から離す。柄に唾が付いているのが頂けないがこればっかりは改善できなさそうだ。

 

「さて、お前らこんなもんでへばってんなよ? まだまだ本気じゃないだろ? 立て、立たないならこの場で殺すぞ」

 

その言葉に新兵が青ざめていくのが良くわかる。でも発言を取り下げる気は毛頭ない。1000人もの部隊が俺一人にやられているようでは戦場では確実に死んでしまう。最初からスパルタで行くしかないのだ。

 

青ざめながらも一人、また一人と今生を見せて立ち上がってくる。

 

「そう、それでいい。お前らは今底辺にいるんだ、這い上がってくるのが普通だ。いつまでも寝てることは許されない。さっさとかかってこい!」

 

気力を振り絞り襲い掛かってくる新兵たちを容赦なく太刀でいなし、小刀で叩き伏せていく。それを何度も何度も繰り返し、全員に、まんべんなくやっていく。

 

終る事の無いように思われる生き地獄の様な状況で、胃の中のものを吐き出しながらも踏ん張る姿が痛々しい。けれど立てる者がいなくなるまで辞める気はなかった。

 

それから何十回と同じ様な事が続き、全員が動けなくなったところで調練を終える。果たして何人残るだろうかと思いながら言葉を紡ぐ。

 

「辛いと思ったか? やめたいと思ったか? だが死ねばそんなことも考えられなくなる、良く考えて俺についてくるかこないか決めろ。俺はどちらでも構わん……俺がお前らだけを蹂躙するか、それとも他の奴がお前とお前ら家族を蹂躙するかの違いだけだ」

 

言いたいことは言い終えたので踵を返して隊を離れようとする。

 

「待って下さい!」

 

驚いた事に1人の新兵が立ち上がり、叫んでその足を止めさせた。

 

振り返るとそこには女の子が立っていて、男の方が今生が無いという状況に些か悲しくなった。

 

「私はまだやれます! 隊長!」

 

その言葉に反応して周囲の新兵も立ち上がり始める。それぞれやれる、俺はやれるなどといっているのは見ていて少し感動してしまう。でもこれ以上痛めつける予定はない。

 

「その気概やよし! だが今日の調練はおしまいだ。各自帰って存分に休め、これも訓練のうちだ」

「「「っは!」」」

「それと、最初に立ったお前……そうだな仮にあっちゃんと呼ぼう」

「へ? あっちゃんですか?」

「そうだ、あっちゃんだ。お前は一番根性があるみたいだからな………副官やれ」

「え?」

 

急な任命に戸惑うあっちゃんを置いて俺は賈駆の元へと向かっていく。そして目の前まで来た時、戦々恐々としながらも問うてみる。

 

「賈駆殿、俺の調練はどうだった?」

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

賈駆はまたも驚愕していた。いくら新兵といえど1000人いるのだ。それを何度もたった1人で叩き伏せるなど並の武将のできることではない、しかもそれを何度もやってみせている。張遼に買った事で実力は把握できていたと思ったのにこの男は本当にそこが知れない。

 

ただ心配なのは将は凄くとも、新兵がついて来られるかどうかだ。これほど厳しい調練は見たことがない、兵を使い潰すことを前提に置いているとしか思えない。

 

「詠ちゃん……大丈夫なのかな?」

「ボクにもわかんない。もしかしたら新兵が逃げちゃうかも」

「へぅ……そんな」

 

そんなことを月と話しているうちに、ついに立ち上がるものが誰も居なくなってしまった。そしてそこから上がってくる呻き声がこの場の凄惨さと異常性を語っていた。

 

最後に紀霊が何かを言い、後ろに振り返ってこちらに歩き出そうとすると新兵の一人が立ち上がり叫んでいた。その声を聞いた時の紀霊の嬉しそうな顔はまるで子供の様で、厳しかった時との差が大きく戸惑ってしまう。

 

紀霊は立ち上がりまだやれると声高に叫ぶ者たちに声を改めてかけた後こちらにゆっくり歩いてきた。少し困ったような顔がおかしくて仕方がない。

 

「賈殿、俺の調練はどうだった?」

 

あれほどの事をやっておきながら紀霊はこんなことを聞いてきた。正直あの扱きに新兵がついていけるとは思わなかったし、叱ってやろうとも思っていた。なのに士気を高く維持したままやりきってみせた。あれはきっと紀霊以外には出来ない鍛錬法だろう。

 

十分すぎる成果を上げたというのに文句なんてあるはずがない。

 

「別に、なかなかなんじゃない?」

「詠ちゃん……素直になったほうが」

 

月が心を読んで助言してくる。月の言いたいことが分かるだけに素直じゃない自分が嫌になる。

 

「いや、十分だよ。自信なかったんだけど賈殿からみてなかなかなら自信がつくよ」

 

そういって笑いかけてきて、頭を勝手に撫でてきた。本当なら怒るべきはずなのに何故だかほっとしてしまう。暖かい何かに包まれるような、そんな気がして思わず頬が赤くなってしまう。

 

不思議と嫌じゃなくて、心地よくて、もっと撫でてほしくなってしまう。思わず手が離れた時ももっと撫でて欲しいと思ってしまったほどだ。

 

手が離れた事で正気に戻り、恥ずかしさのあまり時雨の顔を見ていることが出来ず背を向けて歩き出す。あの手はかなり危険だ。

 

「もう調練は終わったんだからボクは行くね! 月、一緒に行こう!」

「えっ……、まってよ詠ちゃん」

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

早足で賈駆殿が去っていきそれを董卓殿が走って追いかけていく。董卓はゆっくり見る事が出来たのはこれが初めてだった。画面越しでは分からない可愛さが溢れていてかなり満足した。

 

ホクホク顔で怒ったように歩く賈駆と慌てて追いかける董卓を見つめていたのだが、いつの間にか隣に一刀が来ていた。なにやら青白い顔をしている。

 

「時雨は三国志のことあまり知らないんだったな?」

「ああ、そうだけど?」

「後でちょっと話があるんだが」

 

一刀の顔色の悪さに嫌な予感しか感じない。予想はつくのであの事だと思えばわからない話ではない。一刀にわざわざ話をさせるのも何なのであらかじめ自分から話し出す。

 

「待て、その話ってのは俺の知っている三国志だとこの後董卓は反董卓連合にうたれることになる……って話か?」

 

心底驚いたような顔をする一刀。前世持ちだと説明した後ネタを振っていたというのにこいつはこの可能性にいきついてなかったらしい。

事実を知っているのは自分だけじゃないと安心したのだろう、顔の色が徐々に良くなっていく。……とりあえずはもう大丈夫だろう。けれどなんで今更一刀が顔色をあそこまで変えるのだろうか?

 

「三国志やっぱり知ってたのか?」

「まぁ、部分部分ならわかるんだよ」

「そうか……」

「まぁ切り出してくれたのはありがたい、これからそのことの対応策を考えようと思ってな、一緒に考えてくれるとありがたいが?」

「ああ、喜んで」

 

男2人は誰にも見られない様コソコソしながら演習場をあとにするのだった。

 

 

 

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■後書き■

お気に入り100人突破しましたー! 嬉しいですねー。

思わずソードアートオンラインのアニメ見ながら発狂してしまいましたよ。

 

あ、さぼっていたわけではなく……そう、創作意欲を向上させていたのです! ゲフンゲフン

 

日付変わっちゃいましたが7/15日分としての投稿です。

これからも頑張らせて頂きますのでよろしくお願いします。

説明
編集して再投稿している為以前と内容が違う場合がありますのでご了承お願いします
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