世界を渡る転生物語 影技17 【傭兵王国クルダ】 |
──キシュラナ・ザキューレ邸から、ザキューレ達に見送られてクルダへと旅立ち、数日。
ジン達は別段急ぐ旅でもない事から、クルダへのルートを辿りつつ、この道沿いにあった宿に宿泊したり、あるいは開けた場所でキャンプをしたりしつつ、新しく旅仲間となったエレとの会話を楽しんでいた。
時には喧嘩腰になったり、時にはいじられたりと、付き合うようになってから見えるようになった、【((修練闘士|セヴァール))】ではない、エレ=ラグとしての顔を見て、さらに打ち解けるジン達。
クリンス家の書庫にあったクルダの情報ではなく、エレが今現在まで体験し、感じた生の情報を聞きながら、これから向かうクルダへの期待を胸に街道を歩いていると─
「……おい、ジン、フォウリィー」
「うん、わかってる」
「……どうしてこうもワンパターンなのかしらねえ」
表情も変えずに、そうジン達に声をかけるエレと、気配を察知して軽く警戒するジン、そしてあきれたように溜息を吐くフォウリィー。
それは……人特有の悪意であり害意。
体だけを隠し、気配を隠しきれていないために感じられるそれに、好戦的な笑みを浮かべるエレ。
「おい、バレバレなんだからとっとと出て来いよ? それとも……姿も見せれねぇぐらいのしょぼい腕前しかねえのか?」
背負っていた荷物を地面へと降ろしながら、挑発気味に声をかけるエレ。
小ばかにしたようにそうかけられた声に─
「……いってくれるじゃねえか。俺達の気配を捉えているのにも関わらず、そんな啖呵が切れるなんざ……よっぽど腕に自身があるのか?」
一斉に森の木陰から飛び出し、周囲を囲む影。
それは、皮製の鎧に要所要所で金属の板をつけたような鎧を身にまとった集団であり、珍しく顔を隠す頭巾を被ったその姿。
そして、木々の上からは、機械仕掛けの弓である、クロスボウを構えて狙いをつける、弓兵までが存在していた。
予想通り現れた盗賊団と思しき者達。
そう、国境に面したこの街道は、実は治安的にあまりよろしくなく、盗賊団が多く目撃される場所でもあるのだ。
この街道は、各国に隣接する国境に近い街道ということもあり、尚且つアシュリアーナ四国とジュリアネスの国境を結ぶ街道という事で、明確な国境線がなく、とても曖昧な【((灰色の境界|グレー・ゾーン))】と呼ばれる場所なのである。
どちらの土地でもあり、どちらの土地でもない。
本来であればジュリアネスがこの警備を行えば万事解決なのではあろうが……さすがにそんな人手を回す余裕は存在しない。
それ故、各国が兵を出し合い、国境警備兵を各国で組織して治安維持を行っている訳だが……ここに問題が出る事となる。
その問題というのは……犯罪者・盗賊団を捕える時、『誰が(どの国が)』戦い、捕え、『どの国で』裁くか、というものである。
基本、総じて国に近いほうで引き取られる訳ではあるが、この武芸な盛んなアシュリアーナでは、そのプライドが邪魔となるのだ。
【四天滅殺】という掟がある事から、表立った衝突は起きないものの……四国共に最強を自負する技を修める者達。
たびたびこういう国境を又にかけるような犯罪者を取り仕切る際、どちらの国に罪人を連れて行き、裁くか、またはどちらの国がその犯罪者を倒すか、という点で揉め、犯罪者そっちのけで議論が始まったり、逃げられる確立が非常に高かったりするのである。
そして、そういう点を利用し、以前倒した『牙』のような盗賊団たちは、国境を移動し、交易する商人達や、旅をする者達を得物として定め、調査で国同士をかちあわせて行方をくらましたり、他国の国境を越えつつも逃げ隠れしたりして追跡を逃れるという手を使うのだ。
この盗賊団も、それを狙ってジン達の前に現れ、現金を奪い、人を攫い、売り払おうと画策していたのだろう。
単純に考えて子供一人に女性が二人、対して盗賊団はどうやら30人強の集団。
その顔は数の優越感からにやけた笑顔を浮かべており、無精髭の顔はいやらしさを感じさせた。
「しっかし……啖呵はいいですが、この筋肉質の女はダメですねえ、売れそうにねえ」
「なあに、どこにも趣味人ってのはいるもんだ。むしろ締まりはいいかもしれねえだろう?」
「違ぇねえ! 黒髪の女と、そのガキはすっげえ高く売れそうだしなあ!」
ー『がははははははは!』ー
数の利もあり、すでにクロスボウでの狙いもつけているということから、勝利を確信した笑みを浮かべる盗賊団と─
「手前ぇ! だ〜れが筋肉質で可愛くない女だあああ!」
「落ち着きなさいエレ。だれもそこまで言ってないわ。でも……ごめんなさい」
「フォウリィー手前ぇ! 謝るなよ?! なんだよお!!」
「落ち着いて二人共! 思いっきり目の前の人たち無視してるから!」
筋肉質はダメ、と切って捨てられ、額に青筋を立てて拳を握り締め、怒りを露にするエレをフォウリィーが後ろから羽交い絞めにして押さえつつ、ジンがそれを嗜め、そんな冗談めいたやり取りを見ていた盗賊団のメンバーがその表情を変え、怒りを露にする。
「……なめてんのか? それとも頭がイカレてるのか?! ……いいだろう。俺達を舐めた事を後悔するんだな! 野朗共! 値段は下がるが構うことはねえ! 手足落として犯っちまえ! 但し、顔だけは傷つけるなよ? 顔だけでも高く売れるだろうからな!」
ー『へい!』ー
青筋を浮かべながら手を挙げ、手下にそう指示を出す頭と思われる男。
一斉に獲物を構え、木の上からはクロスボウによる一斉射撃が慣行されようとするその瞬間。
「──手前ぇ、今、なんつった?」
「誰が、誰を、何するっていったのかしら?」
「……そっか、そういうのなら……遠慮しなくていいね」
ー『?!』ー
自分達を、仲間を害する。
その言葉を聴き、今まで話半分で冗談めかしていたジン達の纏う雰囲気が変わる。
首をゴキっと鳴らしてゆっくりと闘志を見せるエレと、冷徹な笑みを浮かべてその背を守るフォウリィー。
無表情になって周囲を見渡すジン。
一瞬でその場の雰囲気を逆転させるほどの殺気と闘気が、盗賊団を飲み込み、その雰囲気に怯えて息を呑む。
「な、何だテメェら?! お、おい! もういい! 殺っちまえ!」
ー『応!』ー
その闘気に只者ではないという事に始めて気がついた盗賊団の頭が、止まっていた攻撃の手を再び動かさせるために指示を出し、その指示に応じて樹上の盗賊団員が、射殺さんと一斉にクロスボウのボルトを放つ。
四方八方から周囲を取り囲むように放たれた矢と、それに続いて獲物を振り上げて突進してくる盗賊達。
逃げる隙間の無いはずの攻撃。
しかし……それは、一般人であればの話。
「──【((闘士|ヴァール))】でもない、その拳に誇りも、その武器に命も賭けれない、ただ人の尊厳を、命を奪うだけの醜い魂を……これ以上あたしに見せるんじゃねえええ!」
?【((滅刺|メイス))】?
「げぼ?!」
降り注ぐクロスボウのボルトが三人を目掛けて飛来する中、一瞬で三人がその位置から消えるように移動する。
クロスボウを掻い潜り、一瞬で周囲の盗賊に肉薄するエレとフォウリィー。
そして、そのクロスボウの放たれた場所へと跳躍するジン。
圧倒的な蹂躙劇の開幕である。
怯えた表情で号令を出していた盗賊団の頭との間合いを詰め、エレの右手の【((滅刺|メイス))】の一撃が頭の顔面を捉える。
骨が砕ける音と共にエレの右拳が顔にめり込んでいき、頭を中心として回転しながら、後方へと体ごと弾けとぶ頭。
呆気に取られた手下共が、その頭の体に巻き込まれて吹き飛ばされる中─
「手前等。生きてここから離れられると……思うなよ?」
ー『ひっ?!』ー
理解できないようなものを見つめる目で、エレを見ていた盗賊達に、猛禽のような獰猛な笑みを浮かべ、その闘気と殺気を撒き散らすエレ。
その本気に情けなく怯えた声をあげる盗賊達が、己を鼓舞するための咆哮をあげて武器を振り下ろすのと、逃げようと背を向けて駆け出すものを、情け容赦のない、エレの拳が、蹴りが、技が一撃で叩き潰していく。
そんなエレの一方。
クロスボウのボルトの雨の中を、自分に当たる部分だけを叩き落しながら跳躍したジン。
矢と違い、クロスボウというのはバネ仕掛けでボルトを飛ばす仕組みになっており、その分装填に時間がかかる。
この盗賊団では、初撃をクロスボウに任せ、その後包囲した盗賊団が獲物を襲撃するという手を用いていて、包囲した者達が襲撃中に二射目のクロスボウのボルトを装填する手筈になっていた。
そして、逃げようとする獲物をその二射目で容赦なく射抜いていたのである。
─では、その一射目のボルトを叩き落とし、一足飛びで樹上まで飛んでこれる獲物に対してはどうなるのか。
答えは─
「なっ?! ガぎぃいいい?!」
「──二射目なんて……撃たせると思ってるの?」
飛び上がった勢いで逆風からの蹴りを放つジンが、クロスボウごと盗賊を蹴り上げる。
腕ごとクロスボウが粉砕され、驚愕を示す盗賊の顔が蹴り上げられて顎が砕け、空中へと打ち上げられる。
口・鼻から噴出す血を撒き散らしながら空へと舞い上がり、樹上から地面へと落下していく仲間を見て呆然とするクロスボウ組の盗賊達。
それを横目に見ながら、木の幹を蹴って隣の木へと飛び移りながら、その勢いを乗せた拳を、木の上という不安定な位置で身動きの取れない盗賊達に容赦なく振るい、樹上から叩き落していくジン。
そんなジンの様子を横目で見て、エレが口笛を吹きながら口元に笑みを浮かべ、地上の盗賊を吹き飛ばしている中。
恐慌状態から復帰した盗賊達が、あわてて再装填したボルトをジン目掛けて射出する。
しかし……それもジンの手にあっさりとつかまれ、ボルトを掴んだままのその拳が盗賊の顔面をたたきつけられる。
手にもったボルトが折れるのと同時にその顔面をも砕きながら勢いよく地面へと叩きつけられる盗賊。
樹上を見渡し、他に敵がいない事を確認し、ジンが地上へと視線を向けるその先では─
「あらダメよ。いつも強引なだけじゃあ……女性は口説けないわよ? まあ、貴方達なんて願い下げだけれどね」
酷薄な笑みを浮かべながら、迫り来る唐竹からの斧の振り下ろしを避け、左フックで顎を捉えながらその顔を一回転させて絶命させるフォウリィーの姿がそこにあった。
必死の形相で襲い来る盗賊達を、冷静に、冷徹に、その雑な動きを利用してカウンター気味に腕や足等をへし折り、地面へと転がしていくフォウリィー。
【((呪符魔術士|スイレーム))】って、何? おいしいの? クラスな動きを発揮しながら地面にもがき苦しむ盗賊達を作り上げていく。
「な、なんなんだ、なんなんだよお前等はよおおおお!」
恐慌状態で、大上段に剣を構えた盗賊がフォウリィーに襲い掛かる。
「─ごめんなさいね? 正直─」
振り下ろされる剣を横に避け、その黒髪が宙を舞う中。
「ごっ?!」
「貴方達みたいな鳥頭が私達を覚えていられるとは思っていないの。だから名乗らないわ。労力の無駄だし」
下から真っ直ぐにフォウリィーの掌底が盗賊の顎を突き上げ、その衝撃と威力に盗賊の脳が揺らされる。
少し宙に浮いたその盗賊の顔を─
「─それじゃあ、さようなら」
その掌底を今度は振り下ろしで顔面へと叩きつけ、地面へと振り下ろすフォウリィー。
やがて地面でバウンドし、ごろごろと転がって……痙攣する盗賊。
「偉そうな事をいっていおいて……呪符を使うまでもなかったわねえ」
などといいながら、あらぬ方向へと手足を曲げて地面に寝転がる盗賊達を一まとめにし、『ふう』などといいながら笑顔で額の汗(かいていないが)を拭うそぶりを見せるフォウリィー。
「フォウリィー」
「フォウリィーさん」
「ん? 何? エレ、ジン」
それを見て、エレとジンは顔を見合わせて頷き─
「お前、もう【((呪符魔術士|スイレーム))】じゃなくてもいいんじゃねえか?」
「フォウリィーさん、もう格闘家でよくありませんか?」
「…………よくないわよっ! 私は【((呪符魔術士|スイレーム))】! 【((呪符魔術士|スイレーム))】なの!!」
ー『ええ〜?』ー
「ハモらないでよっ!!!」
あまりのフォウリィーの肉体派っぷりにそう言うと、涙目で反論する可愛いフォウリィー。
手をぶんぶん振って【((呪符魔術士|スイレーム))】をアピールするフォウリィーさんをからかいつつ─
「しっかし、ジン! お前やっぱ強かったんだな! すげえいい動きだったぞ? どうだ、あたしと一戦やってみねえか?」
「はいはい、クルダについてからね〜」
「ほんとか?! へへ、約束したかんな!」
「もう、エレってば……さてと、((盗賊団|コレ))はどうしましょっか」
そんな中、ジンの動きを見てその強さを認識したエレが、拳をぎゅっと握って戦いたいという意思を示し、盗賊達を一まとめにしていたジンが適当に流す。
ようやく一まとめに出来た盗賊達を見下ろしつつ、エレの言動に溜息をついたフォウリィーが思案をはじめ─
「ここからならクルダ国境警備隊が近いからな……よし、あたしがひとっ走りしてくる。ジン、フォウリィー、お前達はこいつらを見張っといてくれよ」
「うん、わかったよエレさん」
「ええ、わかったわ」
エレが悩むフォウリィーにそう提案すると、軽く背中越しに手を振って街道を爆走して離れていく。
それを見送り、周囲を警戒するジンと、何かを思いついたのか、周囲の森の中を散策するフォウリィー。
そして─
「あった、あったわ!」
「ん、何? どうしたのフォウリィーさん」
鼻歌交じりで森から出てきたフォウリィーにそう問いかけると、その背後には分厚く大きな麻袋があり、それを降ろして中身を確認すると、大量のお金と宝石等の金品が詰まっていた。
「うわ〜、すごい量。結構有名な盗賊団なのかなあ」
「そうね、移動して荒稼ぎをする集団だったみたいだから、もしかしたらと思って調べたんだけど……なかなかいい臨時収入ね♪」
上機嫌なフォウリィーの足元で、『か、返せ』という盗賊の声がしたものの、それを無視して分け前の選定に入るフォウリィー。
そんなフォウリィーに苦笑を漏らしつつ、周囲を警戒する中─
「──おかえり、エレさん」
「応! 今帰ったぞ。やっぱこいつら賞金首だった。『爪』とかいう一団で、お前達の倒した『牙』の傘下だったらしい」
「なるほどね……お、あれか、警備兵の人たちは」
土煙をあげて街道を戻ってきたエレの気配を感じ、出迎えるのと同時に、この盗賊団の情報を教えてもらい、納得するジン。
一人先行して戻ってきたエレの背後から、荷車をもって集団でやってくる、屈強な男達の姿が見える。
「あら、おかえりエレ」
「応! って、あ〜!? おい! フォウリィー! そりゃこいつらのお宝だろ?! 当然、あたしにも分け前はあるんだろうな!」
「貴女に渡したら全部酒代に消えちゃうでしょうが……だから私が管理しておくわ。入るときにはちゃんとあげるから」
背負っていた麻袋から自分とジンのカバンへと、お金を分け入れるフォウリィーの姿を発見し、自分の分の分け前を要求するエレに、溜息交じりにそう返すフォウリィー。
「んだよそれぇ! お前はあたしの母ちゃんか?!」
「誰が母ちゃんよ! ……まあ、ジンのなら、なってあげなくもないけど……でも、どちらかというとやっぱり『姉』なのよねえ」
「あ〜、まあそうだろうな。って、違ぇ! 話しをそらすなよっ!」
「そらしてなんかないわ! むしろ本心よっ!」
「あ〜……だめだこいつ……ジンもなんかいってくれよお」
お金だけを分けた後、宝石の類はそのまま麻袋に詰め込んだままにして口を閉じる中、エレとフォウリィーの掛け合いを苦笑しながら見守るジン。
「はいは〜い、落ち着こうね〜。警備兵の人たちが来たから」
「話聞けよっ!」
ー『ご苦労様です!』ー
「お疲れ様です。こいつらです、お願いしますね」
ー『はっ!』ー
やがて、国境警備兵が到着し、ジンとフォウリィーの案内に従い、荷車に盗賊達を積み込んでいく。
そして、国境警備兵のリーダー核の人に、お金だけを貰い、後の装飾品や宝石等はそのまま入っていると説明をしつつ、麻袋を渡すフォウリィー。
「なるほど……では確かに。こちらがこの盗賊団『爪』の報奨金となります」
「お、へへ。三等分してもかなりの金額になるな。これで酒が飲めるぞ〜!」
「また貴女は……すいません、私がお預かりしますね?」
「え?! またかよ! ちょっとまてフォウリィー?!」
「あはは、騒がしくてすいません……」
「いえ、この程度。どうということはありません。これからクルダのほうへ?」
ずっしりと重い袋の感触に、エレが欲望全開の喜びの声をあげるものの、それを聞いたフォウリィーがすかさず袋を受け取って仕舞いこみ、それにエレが慌てる。
そんな二人に溜息をつきつつ、兵長と話すジン。
「はい、エレさんに案内してもらって、クルダに暫く滞在しようかと思っていまして」
「そうですか! ……幼いながらもその対応、さすがですな。では、我々が国境まで警備も兼ねてご案内させていただきます。ゆくぞ! 我が同胞達!」
ー『応!!』ー
やがて、ジンの言葉を聴いて頷きつつ、モノのついでだと警護を買って出た兵長の号令と共に、荷車と兵達が動き出す。
「応! ……さすが【((闘士|ヴァール))】だ。いい錬度じゃねえか」
「【((影技|シャドウ・スキル))】殿にそういっていただければ嬉しいですな」
「あら、さすがは有名人ね〜」
「エレはすごいからね! ……いろんな意味で」
「ちょ?! や、やめろよ!?」
警備兵を動かすさい、自分の身分を明かしたのであろう、警備兵達の真摯で実直な態度に感心を示しつつ、街道を軽快に進んで行く一行。
荷車に荷物を乗せて貰い、身軽なジン達と兵長が今のクルダの現状、そして最近頻発している盗賊や人攫いの情報など、賞金首としてリストアップされたものを見せてくれる。
こうして会話をしつつ歩き続け……やがて国境を仕切るための巨大な塀が姿を現す。
大きな門がある、いかにも国境という作りの門を兵長と共に抜け─
「では、改めて……ようこそ、我等が誇る、傭兵王国クルダへ! 己の腕に自身を持ち、【一騎当千】の兵共の集まる地。荒くれ者が多く争いも耐えませんが、気のいい奴等です。きっと気に入っていただけるでしょう。では、入国手続きを」
兵長がそういいながら手続き書を持ってきて、書き方を教えてくれる。
手馴れた感じで書くフォウリィーと、それを真似て書くジン。
元々リルベルト公認の身分証もあって身分も確定していることもあり、至極あっさりと国境を通される事となった。
モノはついでとばかりに、クルダへの街道を、盗賊団を届ける警備兵と一緒に進むことになった一行。
兵長と共にほかの警備兵達に見送られつつ国境を後にし、一路首都であるクルダへと歩を進めていく。
交代で荷車を押す兵士から、雑談がてら今のクルダの国内情勢を聞きつつ、隣国で勃発した戦争に伴い、再び傭兵の起用が活発になっていること、それによりそれなりの量のクルダの【((闘士|ヴァール))】達が他国へと雇い入れられた事などが告げられる。
元々クルダ傭兵王国の名は伊達ではなく、クルダ国の斡旋所から仕事を回し、【((闘士|ヴァール))】達は傭兵として他国に雇われ、紛争・戦争・いざこざ・護衛等、幅広い分野でその腕を生かしているのだ。
そして、クルダ固有の御技たる、【クルダ流交殺法】を用い、戦場を駆け抜ける様はまさに【一騎当千】。
必ず依頼を遂行し、比類なき強さを発揮すると言い伝えられるほどである。
そして、クルダに住む【((闘士|ヴァール))】達は、その誇りを胸に戦場へと赴き、勝利を手にするのだ。
クルダ国内でもそれは変わらず、自分が住む国を誇り、喧嘩っ早く短気ではあるが、自らが認めたものは裏切らないという気質を持っているのである。
「では、こちらの盗賊団は責任を持って送り届けますので!」
「応! 頼んだぞ!」
「それじゃあ、またね〜!」
「では、失礼するわね」
そんな話をしつつ平坦な道路を進む中、ちょっと寄り道をしていこうとエレに誘われ、警備兵達と別れるジン達。
そして向かった先は─
「うわ〜……すごいな」
「ええ、本当に。城の上にあるのは……闘技場だったわよね」
「応! クルダの【((闘士|ヴァール))】達が、己が力と技を振るい、【((修練闘士|セヴァール))】の座をかけて争う【闘技際】が行われる場でもある」
小高い丘になった場所……眼下に見下ろすのは、城を中心に建てられた作りの、クルダの町並み。
まさにクルダを一望できる場所であった。
城の上には、城に組み込まれるかのように存在している、円状の闘技場が存在し、その外側には強固な城壁。
そして、その城を中心として洋風の町並みが広がり、一番外周にも城壁が。
そして、その横には湖と、その上を繋げる橋。
「──いいだろ? あたしは……ここからの眺めが好きなんだ。このクルダっていう……あたしたちが生きるこの国が。馬鹿だけど、気のいい奴等が集まる……この国がさ」
ー『…………』ー
国を一望し、そう目を細め、穏やかな表情で語るエレ。
それを見て一瞬言葉を失いつつも、顔を見合わせて微笑み、エレと同じように街を一望する二人。
この景色を目に、記憶に焼き付けるかのように、しばし時を過ごす中。
「……やっぱ、この景色を見るとクルダに帰って来たって実感するよなあ……ガウ、元気にしてっかな……」
「……ん、ガウ?」
「あら、お知り合いかしら?」
ぽつりと呟くエレの声に、気になる人物の名前が聞こえ、今始めて聞いた名前に、ジンとフォウリィーがエレに質問をする。
「ん? ああ、そっか。言ってなかったっけか、義理だけど……あたしの弟だよ。兄貴がああいう感じになちまってから、あたしも無茶しててな……そんな時、盗賊かなんかに滅ぼされた村に一人残っていたのを助けたのがきっかけなんだ。はじめは、触れるもの皆、自分の前に立つものみな敵だ、っていう獣みたいな態度を取ってたんだけど……今じゃすっかり大人しく真面目に育ってくれたよ。それこそ、今は兄貴と一緒で大事な……あたしが命を賭けて守ろうとしている家族の一員さ」
「へえ……そうなのね。それなら、私とジンのような関係ね」
「フォウリィーさん。……そっか、大事な弟、か……」
一瞬悲しげな色を見せたエレの瞳が、ガウという少年を思うと、優しく暖かな瞳の色に変わり、それを見ていたフォウリィーとジンの表情も変わる。
その瞳の優しさが伝わってきて、いかにガウという少年を大事にしているのかが伝わってくるかのようだった。
そんなエレを見て、ジンを優しく抱き締めるフォウリィーと、その腕をそっと掴むジン。
「……貴女らしいわね、エレ」
「んだよお、似合わねぇっていいてぇのか?」
「ううん、エレさんそのままじゃない」
「ちょ?! ふ、ふん! ほら、さっさといくぞ!」
ー『……別に照れなくてもいいのに』ー
「て、照れてねえええええ!」
やさしく微笑みながらそう茶化すフォウリィーと、素直にエレの心根そのものだと口にするジンに、ぷいっとそっぽを向いて顔を真っ赤にするエレ。
追い討ちにかけられる言葉にさらに真っ赤になりながら、足早にクルダの町を目指すことになった一行であった。
やがてクルダの街中に入り、王城を中心にして円状に並んだ住宅の中でも、一番城壁側で乱雑な、入り組んだ路地の中を、エレに案内されて進んで行くジン達。
そんな路地の一番奥、ばらばらな長さの板が打ち付けてある壁、屋根を持つ、あばら屋とも言うべき家への前へと辿りつく。
その家の前には、暖炉か何かで使うのだろう、薪を背負って家の前に並べる黒髪で褐色の肌を持つ、ジンより少し年上の少年の姿があった。
「お〜い! ガウ〜! ね〜ちゃん、今帰ったぞ〜!」
「あ、おかえり、エレ姉!」
薪を一まとめにし、玄関横に積み上げていた少年が、エレの言葉に振り向いて笑顔を浮かべ、それに自分も笑顔で答えながら、ガウと呼ばれた少年の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「っと、わりいフォウリィー、ジン! こいつが弟のガウだ。ほらガウ」
「うん! えっと……初めましてガウ=バンです! よろしくお願いします!」
出会えたことが嬉しくて、咄嗟に頭を撫でてしまい、二人を置いてけぼりにしてしまったエレが慌ててガウを紹介すると、ガウが二人に向かって自己紹介をする。
「うん、初めまして! 俺はジン=ソウエン。よろしく!」
「私はこの子の保護者、フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーよ。フォウリィーって呼んで頂戴ね?」
「はい! よろしくお願いします! フォウリィーさん! ジンちゃ─」
「男! 俺男だから!」
「─…………………………ぇ?」
「間が長いよ?!」
お互いに感じた事を顔に出さず、ガウと自己紹介を交わす二人ではあったが、ジンの男だという発言に驚いて固まるガウ。
「そ、そうなんだ…………女の子にしか見えないんだけど……」
「聞こえてる! ぼそっといっても聞こえてるからね?!」
「え?! あ……その、ごめんなさいっ!」
慌てて後ろを向き、ぼそっとそう呟く言葉に抗議するジン。
そして、聞かれたことに手をパタパタさせて慌てるガウ。
「あはっはっはっはっは! 早速仲良くなったみたいでいいじゃねえか。ガウ? 腹へっちまった。飯買って来てくれねえか? お前の好きなもんでいいからさ」
「うん、わかったエレ姉」
「あ、じゃあ俺もいくよ。クルダの料理がどんなものか見たいし」
「はいはい、いってらっしゃい。まあ、ジンなら大丈夫だとは思うけど……気をつけてね?」
ー『いってきます!』ー
「応! 行って来い!」
それを見て大笑いをしながら財布をガウに投げわたし、ご飯を買ってくるように指示をだすエレと、それについていくというジンを見送るフォウリー。
やがて、楽しそうに話しながら去っていく二人の背中を見て─
「──いい子ね」
「ああ、あたしにはもったいないぐらいにな。あとは腕っ節が強くなってくれればいいんだけどよ。まだまだ、教える事は多そうだ」
初見でのガウの印象から、生真面目さを見て取ったフォウリィーが、ガウをそう評価し、エレもそれに便乗して頷く。
そういいながら、目の前の自分の家へとフォウリィーを案内するエレ。
しかし─
「おじゃましま……汚ッ!」
「うっせえよ!」
玄関のカーテン状に家の中を隠している布を避けて家に入った瞬間、思わずフォウリィーの口からこぼれる言葉。
それに顔を赤くして反論するエレではあったが……辛うじて人の通れる隙間を作りました的な、食べ物は外で食べていたらしく、生ゴミ系はないものの、脱ぎ散らかした服や酒瓶が転がっている様はガウの成長にも非常によろしくない環境が目の前にあった。
呆然とするフォウリーの目の前で、そんな荷物の中を掻き分け、二階建てになっている二階へと到達する二人。
そして、空いている部屋だといって、階段を上がってすぐの部屋をあけると─
「汚ッ! そして狭ッ!」
「悪かったなあ!」
案内された部屋は、もう既に荷物やら何やらでぐちゃぐちゃになっており、足の踏み場もないほどの状況の部屋であった。
力任せにその荷物たちを強制的によせ、スペースを作って荷物を置くエレとフォウリィー。
「いや、だって部屋自体は私とジンでも共用できる広さはあるじゃない。はぁ……やるしかないわね。ああエレ? この部屋に入っているものは要るものなのかしら?」
「え?あ、ああ……結構混じってるけど……大体は要らねえもんかなあ……でも、何すんだ?」
「馬鹿ね……そんなの決まっているじゃない…………掃除よっ!」
あきれたように溜息を吐きながら自分の荷物を探り、エレに質問しながらも髪を結いながら頭に白い布を巻くフォウリィー。
そして、ぐっと拳を握ってそう宣言し─
「ほら、まずは要るものと要らないものに分ける! スペース確保が最優先よっ!」
「え?! あ、おう?! な、なんだよ一体?!」
「いいから! 口を動かさないで手を動かしなさい! それでも【((修練闘士|セヴァール))】なわけ?!」
「【((修練闘士|セヴァール))】関係ねえだろ?!」
やる気に満ち溢れた表情で、エレの首を捕まえて部屋へと突入し、手早く整理整頓をしてスペースを確保していくフォウリィーと、いるものと要らないものを選り分けさせられるエレ。
ガウとエレの部屋を最優先で片付けた後、その部屋に要るものを詰め込み、要らないものを一階へと押しやっていく。
埃や塵が舞ってエレが咳き込む中、片付けは急ピッチで進み、ようやく一階への階段が見えるレベルで片付けられた頃。
『エレ姉〜、ただいま〜』
『おじゃましま……汚ッ!』
『う、うう……ごめんねジン、僕の能力だとこれが手一杯だったんだ』
『…………お〜け〜お〜け〜……これは……俺に対する挑戦だな? よろしい……ならば((清掃|戦争))だッ!』
『え、えっとジン?! いきなりどうしたの?!』
ガウが料理を持って帰って来た事を告げる声と、フォウリィーと一言一句同じ言葉で家に入ってきたジンに謝るガウと、家事のスイッチが入ったジンが物騒な言葉を漏らす。
「……来たわね、家事の鉄人が。ジン〜? 二階から掃除したいのだけれど、手伝ってくれないかしら〜?」
『わかった〜! 今いく〜! って、うお、なんか踏んだ!』
『あ、そ、それはエレ姉の……』
『ちょ?! なんで階段に落ちてるの?!』
「エレ……貴女、がさつにも程があるでしょう? 痴女じゃないんだから……」
「し、しかたねえだろ?! 苦手なんだよ!」
一階玄関外で、荷物に【結界】をかけ、取られないようにしたジンが、気合十分の姿勢で階段を上りつつ、所々に落ちている洗濯物やゴミなどを纏めていく。
「うわ〜……想像以上。うん、これは……【洗浄】と【消滅】で掃除したほうがいいかな? フォウリィーさん」
「そうねえ、ジンに【洗浄】をお願いしてもいいかしら?」
「もちろん。それじゃあ、はじめましょっか」
やがて、自分の荷物から白い布を取り出し、フォウリィーと同じように頭に巻きつけるジン。
そして、部屋の汚れ具合やぐちゃぐちゃになった衣服に溜息をつきながら、呪符を取り出してフォウリィーに手渡し─
「ジン=ソウエンが符に問う─」
「フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーが符に問う─」
ー『答えよ、其は何ぞ』ー
ー【発 動】ー
「ちょ?! おいおいおいおい?! ジン! フォウリィー?! 家の中で呪符とか! 手前ら、家を壊す気かあああ?!」
「え、ええええ?!」
突然呪符を展開するジンとフォウリィーに、慌てふためくガウとエレ。
その言葉をさらっと流しつつ、呪符は言葉を紡ぐ。
?『我は清浄 水の洗浄』?
?『我は消滅 黒き消滅』?
ジンの呪符から青き光が、フォウリィーの呪符から黒き魔力が漏れ出し、その形を作り上げていく。
ー【魔 力 文 字 変 換】ー
?『我が身の流れにて』?
?『黒き風になり代わり』?
家の壁に呪符を六角形に配置すると、その中心に固定されたように水の塊と、黒き渦が出来上がる。
?『貴公の((敵|汚れ))を洗い流す者也』?
?『貴公の((敵|ゴミ))を消し去る者也』?
ー【呪 符 発 動】ー
「よっし、固定完了! さ、がんばろうフォウリィーさん!」
「ええ! やりましょうジン!」
ー『…………いや、いやいやいや、説明しろ!(してよ!)』ー
安定して廊下に浮かび上がる水の塊が渦を巻き、黒き渦が中心目掛けて空中の埃を吸い上げていく。
「ま、見てなさいって。エレ、ガウ? 要るものと要らないものの仕分けを急ぎなさい。ジンは衣類のほうをお願いね?」
「は〜い」
そう言うや否や、呆然とするエレとガウを置いて、廊下や部屋に散らばる衣類が、ジンの作り出した水の渦へと投げられていく。
すると、水の渦がそれを取り込み、中でぐるぐるともみくちゃにされながらも、水中で舞い踊る。
「酒瓶とかは要らないでしょっと、これもゴミかな〜」
そういいながら、今度は黒い渦へとそれを投げ入れると、黒い渦がそれを吸い上げて粉砕し、何処かへとそのゴミを運び去っていく。
ー『なっ?!』ー
「わかった? 要らないものはこの【消滅】の渦へ。まだ着る衣服はジンの【洗浄】の渦の中に入れるのよ。そうすれば概ね片付くから。……ほらほら、まずは行動! はい!」
ー『は、はい!』ー
ジンと同じように手を動かしていたフォウリィーがそう説明しつつ、呆然と突っ立っていたままのガウとエレに声をかけ、作業を再開させる。
手馴れた動きでゴミと衣類を区分けして次々と片付けていくジンと、フォウリィー。
未だになれず、ぎこちないながらもどうにか動き出すガウ。
おろおろしながら片付けてあまり成果のないエレ。
四者四用の動きをしながら、ジンの記憶の中から洗濯機と掃除機に近い呪符を用いて作成された、掃除用の呪符が威力を存分に発揮する。
「ガウ? 外に洗濯物を干す場所は?」
「え? あ、うん、あるよ」
「じゃあ、これをお願い」
「う、うええええ?!」
やがて、水の渦が一杯になった所でジンがガウを呼び出し、空になっていた洗濯籠に水の渦から洗濯物を絞りながら入れていく。
ちなみに、洗濯して出た汚れは分離され、隣の【消滅】に引っ張られ、搾り出した水は再び【洗浄】の中へと戻る親切設定である。
かご一杯になった洗濯物に目を白黒させるガウを外へと送り出し、せっせと掃除をし続けるジン達。
埃を落として【消滅】に吸わせ、床や壁を拭いた布を【洗浄】につっこんで洗い上げて使用する。
見る間に乱雑にモノがおかれた、ゴミ屋敷のようだったエレの家の中が、光沢を持つ清潔な家へと変貌を遂げていく。
分身して見えるほどの速度で動き、一階から二階までを完全に網羅した動きで片付けるジンとフォウリィー。
やがて、エレがフォウリィーによって外へと運びだされ、自分の家なのに追い出されるという出来事に、地面に座って呆然とし、ガウが次々に運び出される洗濯物を、せっせと家の裏の物干しへと運び、干し続けるという工程が続き─
ー『出来たー!』ー
嬉しそうにハイタッチで手をたたくジンとフォウリィーの声に、ようやく呆然としてたエレが意識を取り戻し、疲労困憊で籠に寄りかかるガウが地面に座り込む。
『いい仕事をしたなあ』とやり遂げた笑顔で玄関から出てくるジンとフォウリーに、なんともいえない顔で出迎えるガウとエレ。
玄関にかけていた厚手の布も外され、丸見えになった室内を覗いたエレとガウは─
「な……なんじゃこりゃああああ?! うっそ……だろお? すっげえ綺麗になってやがる……!!」
「え、エレ姉。床とか壁が……光ってるよ……! なんか広いし!」
ー『ふふ〜ん』ー
以前は無駄なものが多く、乱雑に散らかった家だったエレ邸。
それが今では余分なものが排除され、綺麗に磨き上げられた床や壁、天井が光沢を帯びるほどの清潔感漂う空間へと様変わりしていたのである。
埋もれていた家具もその意味を取り戻し、キッチンやテーブルがその意義を主張する。
埃を被っていた本棚もその意味を見出せるほどに整頓され、乱雑に開けられたままだった収納もきっちりと整頓されて纏められていた。
家の中を、我が家なのに我が家じゃないように忍び足であるくエレとガウ。
そして、そんな様子に苦笑しながらも、綺麗になったテーブルと椅子に座り、ガウの買ってきた肉の串焼きにかぶりつく一行。
「お、いつものおっちゃんの所だな。なんかえらく多いけどどうしたんだ? ガウ」
「え? えっと……ジンと一緒に買い物にいったら、店のおじさんが鼻血を出しながらおまけをしてくれたんだ」
「あ〜…………あのおっちゃんでもやられたか……まあ、さすがだよな、うん」
「そうね、さすがねえ」
「何がだよ?!」
さすがに掃除をしている間に醒めてしまった食事を、少しキッチンであぶり、温めなおしながら食べる中で、いつもの倍ぐらいある串焼きの理由について尋ねるエレ。
ガウの答えに納得して頷くフォウリィーとエレに、思わず抗議の声をあげるジン。
(なんか……いいな、こういうの……)
エレもいなくなり、暫く独りでこの家に住んでいたガウが、騒がしくなった日常に思わず笑みを零す。
そんなガウの顔を見守るエレと、その心情を理解して微笑むジン。
ジンとガウを見つめて満足げな表情を浮かべるフォウリィー。
久しぶりの騒がしくも暖かい食卓に、優しい時間が流れていた。
やがて食事を終え、『早速修練だ』などとガウを従えて裏庭に向かうエレと、荷物整理をするために、二階の相部屋へと足を運ぶフォウリィーとジン。
掃除することによって姿を現したベッドに腰をかけながら、荷物を広げるジンとフォウリィー。
旅の間の洗濯物は、既に先ほどの【洗浄】の呪符に入れたことにより、洗濯されて裏庭に干されており、太陽の光を浴びて風に靡いている。
「一時はどうなるかと思ったけれど……クルダも悪くないわね」
「うん、人も物もあるし、これなら大丈夫かな」
開け広げられた窓から入ってくる風を感じながら、外の風景を楽しみつつも、久しぶりのゆっくりとした時間を過ごすジンとフォウリィー。
しばし、そうして時を過ごした後、徐々に傾いてきた日差しを眺め、洗濯物の取り入れと畳みに入る二人。
自分達のものを畳んだ後、男物と女物で分けて畳み終え、それぞれの衣服を二人の部屋へと運び、キッチンに食材が何も無いことを見て、エレとガウに美味しいものを食べさせてあげよう、と気合の入ったジンに連れられ、買い物へと歩き出すフォウリィー。
久しぶりに二人で出歩くことになったフォウリィーはご機嫌であり、手を繋いで歩く様は、歳の離れた美人姉妹のようであった。
細い路地を抜けると、威勢のいい掛け声が響き渡り、露天商や店が並ぶ商店街が広がっており、先ほどガウと一緒に買い物に訪れたジンを見て、声をかける店主達。
「お、なんだ? 美人なお姉ちゃんと一緒か! どうだ、サービスするぞ? なんか買っていくか?」
「あら、嬉しいわ。それじゃあねえ……」
「あら、ジンちゃんじゃないかい。またお買い物かい?」
「あ、おばちゃん! うん、今度は晩御飯の食材を買いに来たんだ」
「あらあら、お姉ちゃんとお使いかい? 偉いねえ。よおし! おばちゃんサービスしてあげるわあ!」
「おいおい、肉屋の、((魚屋|うちら))にもチャンスをくれやあ」
「あっはっは! 早いもの勝ちさね!」
「え、えっと……また買い物に来ますから! 落ち着いて〜!」
「あら、大人気ね、ジン♪」
先ほど顔なじみのガウと一緒に買い物に来たという事、そしてその愛らしさで、串焼き暦30年の厳しい店主をノックアウトさせた人物として名を馳せてしまったジンが、引く手数多に声をかけられ、あわあわと目を回しながら店主達に応対する。
そんなジンの様子に微笑みつつ、買った物よりサービスが多いぐらいに荷物を持ち、帰路につく事になった二人。
笑顔で丁寧にお礼をいうジンに再び愛が溢れるカオスが生まれるのを横目で見つつ、クルダ国民とのふれあいの初日を終える。
エレの家に帰り、早速料理をと思ったところで、キッチンに碌な調理器具がない事を確認し、自分の旅道具からナイフセットを取り出し、せっせとフォウリィーと共に下拵えをし、【発火】の呪符で火加減を調節しながらお湯を沸かし、野菜をゆでていく。
綺麗になったテーブルに打ち粉をして、粉に水を足して生地を練り上げるフォウリィー。
着々と料理の下拵えが出来ていく中─
「──お〜い、今帰ったぞ、ってなんか美味そうな匂いがしてんなあ」
「ただいま〜」
ー『おかえり〜』ー
リビングの裏口を開けて入ってくるエレとガウの二人。
修練で傷ついたのか、打撲や切り傷のあるガウを手の空いたフォウリィーが軽く治療しつつ、エレがそれを横目にキッチンへと足を運ぶ。
「おお?! すっげえ美味そう! ジン、お前料理までできんのか?!」
「うん、一通りはフォウリィーさんに仕込んでもらったしね」
「今じゃ私より上なんだから。ジンの料理は絶品よ〜♪」
「マジか?! おい、よろこべ〜ガウ! いつものむさいおっさんの酒場の飯じゃなくて、可愛い子のうまい手料理が食べられるぞ!」
「ほんと?! 楽しみだな〜!」
「可愛い子って! ……まあいいか、期待されたんなら……こたえないとね!」
「ふふっ、やる気まんまんね〜」
久しぶりに手料理が食べられると、笑顔で語り合うエレとガウを見ながら、食べさせる相手がいると言う事に笑顔を零しつつ、フォウリィーと顔を見合わせる二人。
治療を終えたフォウリィーが手伝いに戻り、エレが椅子に座って完成を待ちわびる中、ジンからの指示を貰って食器をテーブルに設置するガウ。
そして─
ー『いただきます』ー
「あっつ……うま、うま、うめ〜! すっげえなジン! お前最高だよ!」
「お、美味しい! う、うう〜、おいじいよおお〜」
「な?! 泣くなよガウ?! ほ、ほらまだあるから!」
「……料理は逃げないから、ゆっくり食べるのよ? ガウ君。大丈夫、大丈夫だから」
「はい゛……」
暖かいシチューと、手打ちのパスタに舌鼓を打つエレ達。
美味いと連発しながらべた褒めしつつ食べるエレと、失われてしまった家庭的な味に涙を流して喜びながら食べるガウ。
それに慌てて食事を勧めてどうにか泣き止むようにするジンと、ガウの背景を知っているので、言い聞かせるように、優しく、柔らかく声をかけるフォウリィー。
お昼とは違い、人の手が……しかも知り合いになった人が作ってくれたこともあり、いつもとは違う食事に感極まったガウと、そんなガウを見守りながら食事を続ける三人。
こうして、クルダ初日の夜は……暖かい雰囲気のまま過ぎていく。
余談ではあるが─
「……なあガウ? 俺男だから、別に顔逸らさなくても……」
「?! あ、う、うん! そうだよねジン! …………ご免、やっぱり無理だああ!」
「何でだよ?!」
今日の汗を流して寝ようという話になり、呪符でお湯を沸かし、もったいなくないようにと二人で入ったガウとジンではあったが……お風呂から出るまで、ガウが決してジンに振り向かなかったというのは……ガウが初心なのか、ジンが可愛すぎたのか……さて、どちらになるのだろうか。
さらに余談ではあるが、部屋に戻った瞬間、フォウリィーに捕獲され、抱き締められて眠ることにになったのは、いつもの事なので割愛する。
そんなこんなで、慌しい数日を過ごし、朝もやが立ち込める早朝。
「しっ!」
「ふっ!」
クルダに数ある中央闘着練武場、そして城の周辺にある、傭兵達が住む宿舎と一緒になった第一修練場、外縁部にある第二修練場、湖の淵にある、【クルダ流交殺法】の初歩を教えるための第三修練場という修練場の中で、外壁の外である第三修練場で、いつもの【流((舞|武))法】をフォウリィーと行っている中、その修練に混ぜろとエレとガウが乱入してきたりして、朝から騒がしい光景がその場に広がっていた。
一通りジンの修練法を学び、その効率・鍛え方に感心を示しつつ、ここに来る前に盗賊達を相手にしたときの口約束から、エレがジンとの勝負を催促してきた。
エレと戦うという言葉に驚きつつも、目を輝かせるガウが見つめる中、ジンは仕方なしにエレとの模擬戦をする事になったのである。
互いに本気は無し、体術のみ、という取り決めの元、フォウリィーを審判にして……模擬戦が始まった。
小手調べに左拳の一撃が交差し、リーチが短く届かないため、エレの拳を掻い潜り、自分の間合いで拳を繰り出そうとするジンと、態と懐に潜らせ、自分の【クルダ流交殺法】に間合いの不得手や距離など関係ないとばかりに、攻防を見せるエレ。
リーチの関係上、防御・カウンター系に徹そうとするジンではあったが、自らの得意な間合いでもその攻防を緩めないエレに感嘆を示しつつも、激しい攻防が展開されていく。
右薙の鋭い蹴りがジンの左手で上空に受け流され、体制を崩したところに間合いを詰めたジンの右拳がストレートに放たれるも、側転する事によってエレの左足が逆風に蹴り上げる。
咄嗟に右拳をその左足に振り下ろし、蹴りと側転する勢いに乗って一緒に回転しつつ、浴びせ蹴りをエレに放つジン。
その両足の蹴りを両手で受け止め、空中で体をくの字に折り曲げて首に足を巻きつけようとするエレ。
それを腹筋の要領と勢いで交わし、足を掴んだままのエレの顔面目掛けて拳を向けるジン。
その動きに慌ててジンの足を掴んだ手を力任せに振り上げ、ジンをぶんなげる。
崩れた体制を地面に手をつきながら後転する事で両者が間合いを離しながら、しなやかに着地をする。
「っぶねえあぶねえ、ジン、手前ぇ……今の一撃は顔面をへこます勢いで打ちやがったな?」
「そのぐらいしないと、【((修練闘士|セヴァール))】に攻撃なんて当てられないってば。……さすがエレだね、避けられるとは思ってなかったよ」
手をパンパンと払いながら、好戦的な笑みを浮かべてそういうエレと、エレの動きを【((解析|アナライズ))】しながら、自分のものにしようとするジン。
「……すごい、ジンってば僕よりも年下なのに……僕よりも強い!」
「……あの子もね? ガウ。貴方と同じような境遇にいたのよ。強くなければ生き残れなかった。だからこそ、強さを目指し、自分を律しているの。だけど、心はまだそこまで強くない。だから……貴方はいいお友達でいてあげてね?」
「…………! はい! もちろんです!」
手に汗握りながら、エレとジンのやり取りを見守っていたガウがそういい、フォウリィーがそれに付け加えて、ジンの境遇を口にする。
一瞬息を呑んだ後、決意を秘めた瞳で頷くガウ。
ジンとガウに同年代の友達がいなかった事を嘆いていたエレとフォウリィーにとって、二人の出会いはまさに僥倖といいえるものであり、ライバルがいる事で己を高められることを知っている二人にとって、この出会いこそが掛け替えの無い絆になるであろう事も理解していた。
「へへ、いいじゃねえか。お前を……ジン=ソウエンの本気をあたしに見せてみろ!」
「……だから、本気はなしって……あ〜もう、いきますよ? エレさん!」
かかって来い、と右手の指をくいくい、と招くように動かして笑うエレと、模擬戦前の言葉を忘れたエレに苦笑しつつも、それに乗るかのように、前傾姿勢から一歩踏み出すジン。
ー『はっ!』ー
疾風のような速さで間合いを詰めるジンと、それを見越して左拳をカウンター気味に用意していたエレ。
ジンの顔面を捕らえるかのような掬い上げるような一撃が迫るが、ジンは更に体制を低くしてそれを掻い潜る。
無防備な腹を晒すエレに向かい、ジンが渾身の右フックをかまそうとしたところで、右腕に向かって、体を回転させたエレの右肘が放たれる。
咄嗟に手を開き、その肘を受け止めるジンと、肘を軸にして裏拳を放つエレ。
それを左手で受け流すと、右膝がジンの後頭部目掛けて放たれ、それを左足で踏みしめるようにしにて蹴り出しながら、体を側転させ、弧を描いてジンの右足がエレの顔面を狙って放たれる。
それを右ストレートで迎撃し、蹴りの威力と拳の威力が拮抗して軋む音を立てる。
やがて、はじかれた反動で両者が離れる最中、サマーソルトのように逆風から放たれた蹴りがジンを捕え、その両手のガードごと空中へと蹴り上げる。
両腕をクッションにして飛んだことにより、ある程度は軽減されたものの、顔を幾分捉えていたのか、口元から血を流すジンが離れた位置に着地する。
「〜ッ、さすがエレさん、防ぎきれなかったや」
「……あ〜、まいった。ジンといいフォウリィーといい……なんであたしをこんなに熱くさせてくれるんだよ……まったく!」
口から血を吐き出し、口元を拭うジンに、感嘆の言葉を投げかけるエレ。
【リキトア流皇牙王殺法】のカイラに育てられ、【((呪符魔術士|スイレーム))】のフォウリィーに教えられ、【((魔導士|ラザレーム))】のポレロに認められ、【キシュラナ流剛剣((士|死))術】のザキューレやサイに鍛えられたのである。
そんな一流のものたちと戦えるというだけで、ジンの実力が垣間見えるといっても過言ではないだろう。
尤も、ジンにしても教えられた技を【四天滅殺】という縛りが邪魔をして使えないということもあり、本気で戦うにしても【((呪符魔術士|スイレーム))】の技術のみで戦うことになるだろうことだけが、ジンの唯一の難点であり、本気ではあっても、全力を出せない事が厳しい点だ。
「……なあ、ジン。マジであたしとやらねえか? ちょっと……とめられそうにねえんだ」
「?! ちょ、エレさん?!」
ー『エレ(姉)?!』ー
そんな中、ジンと見詰め合っていたエレが……その闘争本能に火がついたのか、八重歯をむき出しにして笑みを浮かべながら、ゆっくりと右手を口元に持っていく。
驚いた表情で見つめるジン達の前で、今まさに右手の親指を八重歯で切り裂き、左頬に【((刀傷|スカー・フェイス))】の血化粧をしようとして─
「?!」
ー『!!』ー
その瞬間、ジンとエレの間、エレの足元に突き刺さる、【蛇蝎】と呼ばれる四本のバタフライナイフを避けるエレ。
「誰だ?!」
「──この馬鹿! 修練場が騒がしいと思ってきてみれば……相変わらず相手が強いと思ったら見境がないんだから……エレ! あんた子供にまで【((修練闘士|セヴァール))】の力を振るう気?! ていうか、【((修練闘士|セヴァール))】になったんだからいい加減落ち着けっての!」
戦いを邪魔されたことでイラつくエレの声が、ナイフを投げた城壁の上の人物へと投げかけられ、そのエレを見て、呆れた様な、それでいてまたか、という雰囲気を漂わせた女性が城壁から飛び降り、城壁に何度かナイフを突き立てることによって落下速度を緩め、大地へと降り立つ。
やがて、小走りに駆け出したその人影が─
「はぶ?!」
「お嬢ちゃん大丈夫だった? 怖かったよね、ごめんね〜? ああもう、可愛い口元切っちゃって! この雌ゴリラってば……ちょっとでも自分の琴線に触れちゃうと我を忘れて戦いたいっていう脳味噌まで筋肉の大馬鹿なのよ。最近じゃ弟も出来て落ち着いたと思ってたんだけど……まだまだ落ち着くには遠そうなのよね……。私もこいつの同期で、【((修練闘士|セヴァール))】候補として技を競ってたんだけど……ていうか【((修練闘士|セヴァール))】になったっていうのに、こんな可愛い子に本気だすとか、本当に大人気ないわね!」
警戒をしていたジンに抱き着き、口元に血を拭い、抱き締めながらくどくどと文句を言い始める、茶髪で肩口までの長さの髪をつ【((闘士|ヴァール))】。
無手を基本とする【クルダ流交殺法】に置いて、【蛇蝎】を使う、【クルダ流交殺法】・【剣技】の使い手。
【蛇蝎】を全身に装備し、いつでも投擲できるようにしているそのスタイル。
かつて、エレのライバルとして、共にこのクルダで鍛え、共に切磋琢磨した存在。
「て、手前ぇ!! 誰が雌ゴリラだっ! これはあたしとジンの真剣勝負だったんだぞ?! 邪魔してんじゃねえよリムル!」
「何いってんのよ! どっちみち最初は手合わせだけだとかいって、後になって自分で勝手に熱くなってマジになったんでしょうが!」
「うっ……」
エレの傭兵仲間、リムル=ファルナスであった。
「助かったわ、ええと……リムルさん、でいいのかしら? まさに指摘どおりよ。唐突に本気で、なんていわれて焦っちゃって……貴女の手を煩わせてしまったわね、ごめんなさい。大丈夫? ジン」
「うん、大丈夫だよフォウリィーさん。……ていうか、離してよリムルさん?!」
「や〜ん、本当に可愛いわね〜♪ フォウリィーさん、だったかしら……たまらないわよね、この子!」
「!! ええ、たまらないわ!」
「……まって、何を通じ合ってるの?! 二人共!」
そこに、エレを止めてくれたことに礼をいいつつ、ジンに声をかけるフォウリィーと、中々離してくれないリムルに抗議しつつも、目の前でぐっと握手を交わす二人に突っ込みをいれるジン。
「エレ姉! 正座ッ!」
「え?! ちょっとガウ?!」
「いいから正・座!」
「は、はいい……」
そして、そのエレも抗議の声空しく、自分で決めたルールを破ってジンと本気で戦おうとしたことを、目を三角にして怒っているガウに責められ、ジンが客として家にいるのに、とくどくどと説教をし始め、正座しながらそれに涙するエレ。
やがて─
「おおおおぉぉぃい、リムルゥ、厄介ごとは片付いたか〜?!」
ー『声がでかい! うっさい!』ー
「ぐお、なんでだあああ」
身長二メートルを越える、角刈りに鉄の胸当てをつけた、いかにもパワータイプといった感じの男が、遅まきながら修練場にやってくるものの、その巨体に見合ったデカイ声が煩いと一斉に言葉を返され、その勢いに負けて一歩を引いてしまう。
全身筋肉で巨漢、黒髪の角刈りに割れ顎、女性陣の胴回りもありそうな太い腕と足を持つ、この【((闘士|ヴァール))】、名をグォルボ=ダインという。
その見た目通り猪突猛進・単純一途であり、戦いは力の強いやつが勝つという、単純思考の持ち主である。
闘い方は、その豪腕を生かした力押しの【クルダ流交殺法】・【表技】であり、スピードと精密さ、冷静さが売りのリムルとは対極を無し、事ある度にぶつかりあうような仲である。
いきなりの介入者のおかげで、カオス具合が増した第三修練場。
ようやく場が収まり始めたところで─
「はぁ……あ〜、悪かったな、騒ぎ起こしちまってよ。次からは気をつけるわ」
「まあ、【((修練闘士|セヴァール))】なんだから訓練も派手になるのは分かるけど、もうちょっと頭使って訓練しなよ?」
「ぐ、ぐぐぐ」
「うぉいリムル、本命はどうした?」
「ん? あ……いけない、忘れてた……」
ガウから開放され、痺れた足をたたきつつもリムルと話すエレ。
その後ろでは、ガウが心配そうにジンに声をかけ、フォウリィーと一緒にジンの具合を確かめていた。
そんな中、グォルボがリムルに用事を促し─
「んん! 第59代【((修練闘士|セヴァール))】、【((影技|シャドウ・スキル))】エレ=ラグ殿。王よりの直々の【召喚状】です。ご確認の後、速やかに登城してください」
ー『!!!』ー
「! 【召喚状】……!」
リムルがそう告げながら、懐より巻物状になったそれを取り出す。
王の召喚状というのは、緊急時や、必ず相手に伝えることがある時に使われる、クルダにおいて何よりも優先される召集状である。
その内容次第では、その任務を果たす際に心残りとして支障のありそうな存在を抹殺する事もありえるという、非常ともいえるものでもあるのだ。
即座に受け取って巻物を広げ、内容を確認するエレ。
その顔が徐々に青ざめていき、引きつった顔になっていく。
そして、ゆっくりとその巻物を巻き─
「じゃ、そういうことで!」
「やっぱりそう来たね! 逃がさないよ! グォルボ!」
「応!」
冷や汗全開で手を振りながら逃走を図るエレと、初めから知っていたのか、即座に対処して回り込むリムル、後ろから羽交い絞めにするグォルボ。
「ちっくしょおお〜! 離しやがれええ」
「ぐ、ぐおおおお! な、なんて力だあああ!」
「あ〜もう! 手間かけさせるんじゃないよこの馬鹿!」
駄々っ子のように暴れるエレに、悪戦苦闘する二人。
内容は良く分からなかったが、この国の王様に【((修練闘士|セヴァール))】たるエレが呼ばれているというのを察したジンが─
「えい」
「ぐぉ?! ジン、て、前……」
フォウリィーから離してもらい、一瞬でエレに近づき、ちょこんとジャンプしてエレの顎を右フックで打ち抜き、その意識を昏倒させる。
「……あ、ありがとうお嬢ちゃん、……本当に強かったんだね……何はともあれ、助かったよ」
「いえいえ、あと、俺は男ですからっ!」
ー『嘘だっ!?』ー
「え?! なんでグォルボさんまで?!」
「うぉっほん! よぉうし、さっさと依頼を完遂するぞぉ、リムル!」
「……露骨に話題をそらしたね……まあいいわ、クルダの傭兵として、受けた依頼は完遂する。それが【((闘士|ヴァール))】だからね」
エレに対する容赦の無い攻撃に引き気味になりつつ、お礼をいうリムルの言葉の中で、お嬢ちゃんという言葉に自分は男だから、と返すと、リムルとグォルボが声をそろえて嘘だと口にし、それに抗議すると、その話題から逃れるように背を向けて、エレを背負って王城へと走り出すグォルボ。
呆れたように溜息をつきつつ、『またね』と声をかけてその後を追いかけるリムル。
嵐のように去っていった二人とエレを半ば呆然と見送った後、ジンが振り向いた視線の先には、リムルから渡されたのか、先ほどエレが読んでいたものと同じ形状の巻物を見るフォウリィーの姿が。
「あれ?! フォウリィーさん、それ読んでも大丈夫なの?!」
「ん? ええ。こちらは関係者用の巻物だから。まあ、大丈夫よ、ガウ君、ジン。簡単に説明すると、国家最強戦力である【((修練闘士|セヴァール))】が、勝手にクルダ国内から出てた事に関する、厳重注意の為に呼び出されただけみたいだしね」
「よ、よかったあ〜……エレ姉、すぐ無茶するから……」
「よかったね、ガウ」
……まあ、正直な話、【四天滅殺】の関係上、各流派を極めたものが勝手に他国に入る事は、侵攻するのと変わらない事だとして、国ごと抹殺対象になる可能性があり、尚且つエレは【四天滅殺】の流派である、【キシュラナ流剛剣((士|死))術】・ザル=ザキューレとも戦ったのだ。
国に入る際も、ジンが王女の身分証を持っていなければ、凄まじく厄介ごとになっていた事は否めなかったであろう。
国境警備兵にしても、許可を得て国外へと出ていたと思っていたので、盗賊団を倒したのが【((影技|シャドウ・スキル))】であり、帰国したという連絡を受け、即座に第二修練場にいた同期のリムル達にエレ=ラグの捕獲の任を与えたのである。
これにより、王城にエレを連れ帰ったリムルとグォルボの二人には依頼達成の報酬が。
エレ本人には、クルダ王直々のお叱りと、一年間の国内謹慎。
さらに同年数における【((仕事斡旋所|ギルド))】での依頼受諾不可が追加された。
自業自得とはいえ、城から帰って来たエレが樽で酒を買って来て、自棄酒を飲んだのは言うまでもない。
挙句の果てに、それらが全部ツケで買われたものであり、後日酒を買いに言った際、そのツケ分をジンが払う羽目になり、エレがジンに頭があがらなくなったのもまた、想像に難くないだろう。
そんな賑やかしくも楽しいクルダの生活が始まり、周囲の商店街にも馴染みとして受け入れられた頃。
「──さあ、行くか。この身、届かずとも……彼奴からもらったこの【邪の符】があれば……三年の猶予が得られよう。行くぞ……この狂気、この【((印|シンボル))】が最強であると、この【G】の【字名】こそ、最強である事を示すために。……待っていろ、王よ。今……狂気がお前に牙をむくぞ……!」
外周に存在する見張り塔の上。
月光が照らす中、町を見下ろし、城を見つめるのは……その目に狂気を浮かべ、その顔に飢えた獣のような凄惨な笑みを浮かべる、金髪の男。
その言葉を口にしながら、握る左手の甲には……クルダ最高の栄誉であり、誇りとされる……【((修練闘士|セヴァール))】の【((印|シンボル))】。
最強の名に取り付かれ、最強を欲して自らの国、そして王に戦いを挑もうとする、狂気に満ちた修羅が……今、クルダの街に舞い降りようとしていた─
登録名【蒼焔 刃】
生年月日 6月1日(前世標準時間)
年齢 7歳
種族 人間?
性別 男
身長 127cm
体重 30kg
【師匠】
カイラ=ル=ルカ
フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザー
ワークス=F=ポレロ
ザル=ザキューレ
【基本能力】
筋力 AA+
耐久力 B
速力 AA+
知力 S
精神力 SS+
魔力 SS+ 【世界樹】
気力 SS+ 【世界樹】
幸運 B
魅力 S+ 【男の娘】
【固有スキル】
解析眼 S
無限の書庫 EX
進化細胞 A+
【知識系スキル】
現代知識 C
自然知識 S
罠知識 A
狩人知識 S
地理知識 S
医術知識 S
剣術知識 A
【運動系スキル】
水泳 A
【探索系スキル】
気配感知 A
気配遮断 A
罠感知 A-
足跡捜索 A
【作成系スキル】
料理 A+
家事全般 A
皮加工 A
骨加工 A
木材加工 B
罠作成 B
薬草調合 S
呪符作成 S
農耕知識 S
【操作系スキル】
魔力操作 S
気力操作 S
流動変換 C
【戦闘系スキル】
格闘 A
弓 S 【正射必中】
剣術 A
リキトア流皇牙王殺法 A+
キシュラナ流剛剣((士|死))術 S
【魔術系スキル】
呪符魔術士 S
魔導士 EX (【世界樹】との契約にてEX・【神力魔導】の真実を知る)
【補正系スキル】
男の娘 S (魅力に補正)
正射必中 S (射撃に補正)
世界樹の御子 S (魔力・気力に補正)
【特殊称号】
真名【ルーナ】⇒【((呪符魔術士|スイレーム))】の真名。
自分で呪符を作成する過程における【魔力文字】を形どる為のキーワード。
((左武頼|さぶらい))⇒【キシュラナ流剛剣((士|死))術】を収めた証
【ランク説明】
超人 EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS
達人 S⇒SS⇒SSS⇒EX-
最優 A⇒AA⇒AAA⇒S-
優秀 B⇒BB⇒BBB⇒A-
普通 C⇒CC⇒CCC⇒B-
やや劣る D⇒DD⇒DDD⇒C-
劣る E⇒EE⇒EEE⇒D-
悪い F⇒FF⇒FFF⇒E-
※+はランク×1.25補正、−はランク×0.75補正
【所持品】
呪符作成道具一式
白紙呪符
自作呪符
蒼焔呪符
お手製弓矢一式
世界樹の腕輪
衣服一式
簡易調理器具一式
調合道具一式
薬草一式
皮素材
骨素材
聖王女公式身文書
革張りの財布
折れた牙剣
説明 | ||
いつも読んでくださっている方々、お待たせいたしました! 某所での削除騒ぎでモチベーションダウンし、さらに書けなくなっていました。 夏休みも近いですし、皆様に楽しんでいただけるように頑張って更新していきますよ〜! 今回は試験的に擬音であるー四文字ーをなくしてみました。 楽しんでいただければ嬉しいのですが……。 今回も54.2KBと長文になっております。 毎回、原作とは違う内容になってしまっていますが、今回もよろしくお願いします! |
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総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
3767 | 3489 | 7 |
コメント | ||
伊吹 萃香さん、コメントありがとうございます! なるほど、貴重なご意見感謝です! 今後の作品と、この作品に反映させていただきます! 今後とも読んで楽しんでいただければ幸いです!(丘騎士) 擬音であるー四文字ーをなくした件→個人的にはこの作品の特徴がひとつ減ってしまった気がします^^; 別世界に行っても影技的表現?が残っていたのが印象的でしたので。 更新が停まっていますが、いつまでも楽しみにお待ちしております!(伊吹 萃香) |
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