■15話 策で肝心なのは■ 真・恋姫†無双〜旅の始まり〜 |
■15話 策で肝心なのは
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全力でコソコソ移動し、全力で周囲の気配を探る2人の影があった。明らかに怪しすぎる行動をとっている人物は他ならぬ時雨と一刀である。
策を練るにはまず人がいない場所に行かなければならない、これは決定事項である。もし誰かに見られているのに策なんて立てられるはずがないというのが時雨の持論である。
「なぁ、何でこんなにコソコソするんだ?」
さすがに警戒しすぎだしそこまで拘る理由も一刀にはわからない、ある意味普通の反応である。だが時雨から言わせれば空気の読めないお馬鹿さんでしかない。
「そんなの雰囲気だろ」
堂々と言ってやると一刀の開いた口が塞がらなくなってしまった。今はそんな一刀に構っている暇はない、早く目的地に着かなければいつ何時誰が来るかもわからないのだ。
口がやっとしまった一刀は慌てて時雨の後を追って行くと急に時雨が立ち止まったので時雨の前方に目をやると、他と変わり映えのしないドアがそこにはあった。
「ふぅ、やっとついた俺の根城、俺の部屋!」
一刀と時雨はその事実に達成感を味わっていた。ここまで来るのにどれだけ迷っただろうか、コソコソしているので人には聞けず。見つからないように見つからないようにと細心の注意を払って進んできたのだ。
傍から見れば全力で馬鹿している様にしか見えないがそんな事は時雨には関係がない。目的地に着いたのだからささっと素早く部屋に身を滑り込ませ、一刀も部屋に招き入れる。
質素なベッドと日の差し込む窓ぐらいしか物がない場所で人心地尽く。ベッドに2人で腰を下ろしてしばらくぼーっとした後一刀が口を開いた。
「それで策ってのはもう大体きまってるのか?」
「それはもちろん決まってるが、これがバレると俺たちの命がないと思え」
ゴクリッと一刀が唾を飲む音が静かに部屋に響く。空気が張りつめていく中、時雨はこんな反応本当にする奴いたんだと半ば感心していたりする。
「わかった。俺も覚悟を決めた……、聞かせてくれ」
かなり真剣な顔をして一刀が聞いてくる。こんなイケメンの真剣な顔なんて見たくなかったが、これからの話しに比べれば些末なことだ。
「俺は歴史は知らないが今のままなら確実に負けるな、問題は徴兵している人数が圧倒的に足りない。それに黄巾党討伐にも参加しないとまずいだろうしな」
「確かに、でもそれじゃどうするんだ?」
「それはやっぱり逃げようと思ってる、その逃げる作戦で最も重要なことをお前に相談したかったんだ、一刀」
「もっとも重要な事……」
空気がどんどん重くなっていく、時雨がこの会議の間ずっと腹の底から絞り出すような声で喋っているのも原因だが、顔がさきほどからかなり真剣なのだ。絶対ふざけている様に見えるが、一刀は雰囲気にのまれてそれほどに重要な案件なのかと戦慄した。
「一体それは?」
「………メイド服のデザインだ」
「!」
時雨の言葉に全く別の意味で震え上がる一刀。時雨にとっては満足のいく反応だった、時雨の期待通り一刀はことの重大さがわかったのだから。
「俺は絵は描けるんだがデザインがいまいちでな………一応こういうのを考えてみたんだが」
そう言って取り出したるは紙に描かれたデフォルメされた董卓と賈のメイド服姿。
「な、なんて画力だ! ここまで董卓さんと賈駆さんの萌えを描ききるとは、まさかこの為に絵の勉強を?」
「そこは当たり前だろう…ってそこは重要だが問題で上げるほどじゃない。話し合いたいのはデザインについてだ」
「なるほどな……」
納得し、頷きながら一刀は改めて俺の絵に目をやる。黒と白を基調としたベーシックなメイド服にふんだんにフリルを投入、スカートはミニスカにしてニーソで絶対領域を作り出す。カチューシャは黒地に白のフリルをつけた服に合わせたものだった。
「甘いな……これじゃただのメイド服にフリルが生えた程度だ」
「っな! やっぱりか……」
かなり当たり前な意見をする一刀に大げさに驚く時雨。完璧な馬鹿がそこに居たのは間違いない。そしてこれを皮切りにしてそこから一刀の独断場になった。
ペチコートやミニクリノリンをスカートの中で重ね着させてボリュームをださせて、さらにはその色にまでこだわりだし、スカートの丈はマイクロミニでも構わないが、彼女たちの幼さと清楚さをもつ彼女たちが着るのならやはりロングがいいのでは? と自問自答しだし。
カボチャパンツにして中が見えるのもいいなと変態を丸出しにし、最後にはカチューシャもいいがシニヨンにしてもらってサイドは垂らしてそれに看護帽のようなものつけてもいい……などと完全に世界に入りきっていた。
恐るべし北郷一刀。恋姫の世界でメイド服をいち早く導入した男だ。そんな男と時雨は熱く燃え上がり意見を言い合っていく。
そして最終的に出来上がったのが以前恋姫で見た服に近いものだったりする。結局髪型は本人たちに任せなければいけないし、いきなりハードルを上げるわけにもいかないと丁度いい位置に落ち着いたことになる。
かなりマニアックな討論もしていた2人ではあるが、メイド服が見られるなら最初は控えめでも全然構わないという事に決まったのだ。だとしても改良に改良を重ねた事には違いがない。
「やっぱりこれが一番だよな」
「わかってくれるか」
一つのメイド服の完成形を作り上げた一刀は最高の笑顔を見せてきた。……お前ってやつは。おまえってやつはぁぁあああああ!と心の叫びを上げならがッガシと熱い抱擁。ではなく熱い握手を交わすのだった。
男通しで抱き着いても意味がないと理解している彼らだからこその友情の証とも言えた。
「あれ? だけどなんでメイド服なんだ?」
「ああ、そうだったそれをいうのを忘れていた。実は賈と董卓を逃がす時は侍女に成り下がってもらおうかとおもってな」
本当に今更聞いてくる一刀に少しばかり呆れながら返すとさすがに驚かれた。
「っな!」
「幸い董卓と賈は顔を見せないからな、侍女ならありだろ」
「ありだな!」
といっても先ほどまで熱く語り合っていた人物である。異論は全くない様だった。
こうして本人の了解をえないまま勝手に盛り上がっていった2人は結局決まった後も留まるところを知らずに暴走し続けるのだった。
◇◇◇◇
一刀と時雨が無駄に騒いでいる頃、また別の策を考えるグループがいた。これは早急に対応が必要とされ議長により緊急招集された武将が集まっていた。
ダンッ!と思い切り机を叩きつけ立ち上がり、声高に叫ぶ少女が1人。
「あいつの手はきけんよ! 月に触れさせる前になんとしても封じなきゃ!」
議長たる賈駆が発言する。その目は真剣そのものであり、時雨の手に関してかなり本気で対策を考えようとしている。
「確かに、何度アプローチをかけてもあの手にその度あしらわれてきた」
幼いころから付き合いが長くてもあれだけで機嫌がよくなってしまう綾は自分の経験をもとに賈駆の言い分が正しいと頷きを返す。
「時雨の、手……危険」
近くで籠絡されていくかごめもさすがにこれには異論がない様だ。
「そんなにすごいんか? 時雨の手」
まだ撫でられたことのない張遼は好奇心と疑惑を含んだ声を上げ、面白そうに話を聞いていた。
「はぅ……詠ちゃんいいすぎだよ」
賈駆が半ば無理やり連れてきた董卓は子供っぽい時雨がそんなに凄いとは思っていないらしい。
「いいすぎ? これでもまだましな方よ! 昨日入ってきた奴に撫でられただけで一体どれだけの侍女が被害にあったか……」
賈駆が調べた結果、セキトを連れた時雨が道に迷ってるさいに侍女に声をかけ、道を尋ねた際に頭を撫でたことにより耐性の低かった侍女が虜になっていることが分かっている。
「へぅ……」
なんとも言えない困った顔をして董卓は1人俯く、その隣では綾がうんうんと頷き、時雨の手の効能を語る。
「時雨はあれで動物たちを虜に出来るの、まさに魔性の手よ」
「競争相手増えるの断固阻止」
みんな一斉に驚いてかごめを見る。ちなみにかごめも驚いている。いきなり流暢にかごめが話したので驚かない方が無理と言う話だ。
「あれ?……でき、た…でき、ない」
議題とは関係なしに一気にジョボーンとするかごめを見て、時雨ではないが皆一様に撫でたい衝動に駆られる。ッハ! こいつも危険だとこの時悟った皆なのだった。
「かごめ元気出して……それよりあの手をどうするか誰か具体案はある?」
「ボクは切り落とせばいいと思うわ!」
「それは私が困る!」
危ないこと簡単に言ってのける賈駆に綾が爆弾発言を投下した。
「っな! ここにスパイが居るわ! 早く捕まえて!」
女の衛兵に引っ立てられていく綾……その姿を見ながら、今日も無駄なものを捕えてしまったわね……と1人悦に入っていた。
ちなみにだがかごめは速いテンポについて行けず言う事が出来なかった為危険を免れた形だ。
「まぁ、切り落とすのはさすがに戦力も落ちちゃうからやめるけど、誰か他に案ある?」
「そんなもん、撫でさせなければええやん」
相変わらず真剣に変な意見を求めている賈駆に張遼を軽く意見する。それを聞いた賈駆かごめが張遼を思い切り睨み始める。
「わかって……ない」
「そう、あれは避けられないのよ」
けれど張遼がそんなことあるわけないやろと否定するたびに鋭かった眼はいつの間にか哀れみを湛え始め、頭を振りながらついに2人は張遼に可哀そうなものを見る様に目を向けてきた。
「そなあほなことあるわけないやろ、なんならウチがためしたる!」
さすがに怒った張遼は叫んだあと会議室を出て行ってしまった。それを見送った2人は少し溜息をついて話し合いを再開する。
「また一人犠牲者がでたわね……」
「…困る」
「えっと、詠ちゃんももしかして紀霊さんのこと好きなの?」
かごめと賈駆があまりにも意見を同じくするので、董卓はかごめと同じように賈駆も時雨が好きなのではないかと言う結論に達し、質問してみたのだが賈駆の反応は凄まじかった。
「ななな、なにいってるの!? ボクが昨日そこら来た人間なんか好きになるわけないじゃない。そりゃ、武だけでいえば凄い才を持ってるとは思うわ、でも政に関してはどうかわからないし。そんなやつ好きになるわけないじゃない!」
「詠ちゃん……私たち親友だよね?」
あからさまに動揺した賈駆を董卓が追い打ちをかける。董卓の上目使いは賈駆の心の城壁をいとも簡単に崩していく。
「わ、わかったからそんなに悲しそうな顔で見ないでよ。……まぁ嫌いじゃないわ」
「もう、詠ちゃん素直じゃない……」
「あー! もうこんな時間だわ。ボクもう政務に戻らなきゃ!」
「詠ちゃん確かもう政務は終わったはずだよね?」
「えっと、眠くなっちゃった! それじゃお休みー月、紀霊に気をつけてよ!」
どんどん追い詰められていった賈駆はこれ以上はたまらないと会議室から逃げ去って行った。
「もう、詠ちゃんほんと素直じゃない」
さすがに議長がいなくなってしまったのでこのまま話あう空気でもなくなり、かごめが董卓の服をひっぱり外を指さす。
「董卓……帰る」
「月でいいです。李福さん」
「わかった……月、私…かごめ」
元々真名を預ける事に関して他の人より緩い心をしている2人は簡単に真名を交換し合う。
「かごめちゃん、よろしくお願いします」
「よろ、しく」
「それじゃ一緒に行きましょうか」
2人揃って頷いた賈駆とかごめは手を繋いで仲良く自分たちの部屋へと帰っていくのだった。
◇◇◇◇
時雨はその無駄にハイスペックな能力を用いて部屋に近づく人影を正確にとらえた。
「む! 気配がする……一刀! 絵をかくすんだ!」
「えっ? そんなどこに……」
「もういい、絵はお前の懐にしまって逃げろ!」
「いいのか?」
「ああ、俺からのささやかな礼だ。受け取っていけ、そして完成したその絵を持って服を作りに行くんだ」
「わかった時雨! お前の死は忘れない!」
熱い瞳で最後に語り合い、別れを告げる。未だに馬鹿をしている2人には恥ずかしい事をしているという自覚はない。
「一刀、俺はまだ死なんぞ……」
こちらに迫ってくる気配はあまり記憶にないが懸命に誰か考える。そして張遼という答えに行きつく。そこで足音が扉の前に差し迫り、何故という理由を思い浮かべるよりも先に、ベッドに横になって今まで寛いでいましたーという感じをかもしだす時雨。
「紀霊! いるかいな!」
「ん? なんだ?」
勝手に部屋に入ってくる張遼を怒らず、ベッドから身を起こして対応する。
「頭を撫でてくれへんか?」
「へ?」
「へ?」
さすがにこればかりは予想外だったと言うほかない。そして言った張本人の張遼も今言ったことを自分で認識したのか顔が赤くなっていく。反応に困ってしまうが恥をかかせたままにするのも忍びない。
「こ、これはやな! その、ちがうんや! 何かの手違いで……その」
「はは、別にいいよ」
あんなに勢い良くやってきて手違いも何もないだろうと苦笑しながら、顔を真っ赤に言い訳しようと慌てる張遼に近づいき、頭に手を置く。すると一瞬ビクっと震えて張遼が体を硬直させる。何故だかわからないが少し可愛いのでそのまま撫でる事にした。
◇◇◇◇
紀霊の部屋から誰かが出て行ったのがわかったが、今はそんなこと気にしても仕方がない、あんな目を向けられたのは屈辱だ、あんな撫でられたぐらいであれほど取り乱すなどバカバカしいにも程がある。
なにが避けられない手や、そんなもんあるはずないやろとブツブツ呟きながら紀霊の部屋に押し入る。
「紀霊! いるかいな!」
「ん? なんだ?」
のんびりしてたらしい紀霊が身を起こして返事をしてくる。何もしていないというのは丁度いい、これで賈駆たちに目にものを見せられるというものだ。
「頭を撫でてくれへんか?」
「へ?」
「へ?」
心底驚いて口を開くという紀霊の間抜けな反応で今自分が何を口走ったのかがわかった。いきなりやってきて撫でてくれと言ってしまった。何を言っているんだと悶えたくなるのを必死に我慢して言い訳を見繕おうとする。
「こ、これはやな! その、ちがうんや! 何かの手違いでな……その」
何も頭に浮かんでこない上に自分の顔がどんどん赤くなって熱を持ってるのがわかる。もうどうしたらいいのかも分からなくなってきてしまった時だった。
「はは、別にいいよ」
そういって優しく笑いながら紀霊が近づいてくた、それだけで少し逃げ腰になりそうになったが、ここまで来たらもう思い切りいくしかないと目をつぶりその瞬間を待つ。
まだこないのか?と目をあけると手が目の前にあって一瞬ビクっとなり、思わず「ちょ、ちょっと待ってぇな!」と心の中でそんな叫びをあげる。
けれど紀霊の手は止まってくれない。頭を動かして避けるのも何故か憚れるような気がして待つしかない。これが避けられないという意味なのだろうかとしみじみ思ってしまう。
綺麗はゆっくり頭に手のせてきて優しく撫でてくれる。手から紀霊の心の暖かさが直に伝わってくる。紀霊がまるで自分を想って親の様に包んでくれる様な、そんな夢見心地といっても過言ではない撫でられる感触。それに張遼は意識を持って行かれてしまう。
こ……これはあかん! なめとった…なんとかせな。そう思いながらも張遼は自由に動けない、というよりも体が時雨の手を欲してしまっている。
これが賈とかごめのいってた魔性の手かいな、ほんまにこれは危ないと後悔してももう時間は戻らない。
紀霊の撫でに己の身をあずけてしまう張遼、その意識は魔の手によって刈り取られてしまっている。魔の手の長時間使用は初心者には厳しすぎるのだ。
◇◇◇◇
撫で続けていると張遼が少しこちらにもたれて来た。目を細めながら身を任せるその姿はいつもの元気さからは想像できない妖艶さを秘めている様にも感じる。
それでいながらただ親に甘えている子犬の様にも思えるのだから不思議である。でもそこまで身を預けてくれるのは疲れているのかもしれないと思い至り、声をかける。
「どうかした?」
声をかけると同時にハッとした様に俺から離れいき、壁に張り付く。
「ち、ちがうで! その………もうええわ!」
何が良かったのかよくわからないが、どんどん逃げていく張遼をしり目に考え込む。俺何か悪いことしたかな? と。
今日は色々あり過ぎたせいで眠い、なので素直に眠ることにした。今日はとても有意義な一日だったきっと明日もいい日になってくれるといいと思わずにはいられなかった。
◇◇◇◇
「はぁ…はぁ…」
紀霊から逃げる為に全速力で走って、体力が切れてしまい庭の草原で大の字で転がる羽目になってしまった。
正直あそこで紀霊が声をかけてきとらんかったら危なかったと思わずにはいられない。けれどまだ撫でていて欲しかった気持ちも持て余していて、自分がどうなってしまったのかよくわからなくなる。
ただこれだけは分かる。
危ない、危ないで、魔性の手!
紀霊には確かに武で負けたので認めた部分もあった。だけどあれは異常やと思うと魔性の手に対して評価を下し、冷静に撫でられた時の事を思い出し吟味する。
(なんっちゅうか、あれは親が愛してような、そんでもって甘えていたい感じがしたわ。それほど紀霊が優しい気持ちで接して来たかは知らんが、これは無闇に人にやったら大変なことになるっちゅうことはわかったな)
馬鹿にしていたというのに今度また会議が開かれたときは真面目に参加しようと誓う張遼だった。
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■後書き■
これ日付が変わる前に書き終われないねorz
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