真・恋姫†無双 倭√ 第三倭 |
第三倭 人
甘寧さんが頼んだ料理が次々と運ばれて来る
倭の素朴な料理とは違い、香辛料の匂いが空っぽになった胃を刺激する
大陸に来て初めて取る食事であり、
倭で刺身を食べる度に醤油が欲しいと思っていた舌を満足させるには充分な味であった
食後のお茶を飲みながら、まったりする俺と甘寧さん
「いやぁ、美味かった」
「そうか、呉の料理が口に合って良かった」
ふふ、と笑う甘寧さんはとても可愛い
「そう言えば、甘寧さんはなんで船であんなところに居たの?」
「海上にも盗賊が現れるようになってな、それの見回りと言った所だ」
ふーふーとお茶を冷ます甘寧さん
「へぇ〜、将軍ってそんな事もするんだ」
よくよく考えれば人生初の仕事が呉の客将なのである、不安だ……
その不安顔に出ていたのだろう、甘寧さんが励ましてくれる
「なに、心配する事は無い、将は初めてだと孫策様に伝えておく」
「よろしく頼むよ」
「あぁ、それに呉随一の頭脳が北郷を鍛えてくれるだろう」
「なら安心しても良いか」
満腹で頭がボーっとしていた俺には、この言葉の意味がよく理解できていなかった
店を出て甘寧さんに連れられ城に戻り、客将になる事を孫策さんに伝えようとしたが
孫策さんはあの呉の軍師、周瑜と“大切なお話”があるらしく会えなかった
変わりに祭と呼ばれていた人に伝え、城に個室を貰った俺は一晩をそこで明かした
ちゃんとした寝床で寝るのは久しぶりで、これなら12時間は眠っていられる
そんな幸せな事を考えながら眠りについた、というよりついた筈であった
――― 城の朝は早い
大きな音を立て、俺の睡眠は終わりを告げる事になる
ドアが壊れそうな音を立てながら開く
今のでドアの稼働可能な域が40度ぐらい広がったんじゃないか
と、思えるほど思いっきり開く
一瞬で意識を覚醒させ音源へ目をやると、孫策さんがこちらへ飛びかかって来るところだった
「おはよう」
そう言いながら、俺が先ほど寝ていた場所に拳を突きたてる孫策
なんとか寝床から転がり落ちる事に成功した俺は、尻もちをつきながらも孫策さんから距離を取る
「逃げなくても良かったのに、手加減するから」
そう言う問題では無い
そもそも助走を付けていた時点で相当な威力になるだろ!
しかし、紳士な俺は
「おはよう、孫策、良い朝だね」
朝の挨拶を忘れない
「そうね、良い朝ね、誰かがお酒を飲んでいた事をチクったせいで、私はまだ寝て無いけど」
「もしかして」
わなわなと握り拳が作られ始める
「そう、あなたの所為よ! あなたの所為で今の今まで冥琳に怒られてたんだから!」
「んなの自分が悪いんだろ」
つい王にタメ口で話してしまう俺
でも許して欲してくれ、こんな朝早くに叩き起こされたのだから
と、言うより
「朝と言うよりは真夜中だな」
まだ日も昇っておらず、夜の寒さが寝床を恋しくさせる
「良いの、だって王様だもん」
王様って良いでしょーと言わんばかりの笑み
そして話を続ける王様
「だ〜か〜ら〜ちょっと私に殴られなさい!」
飛びかかってこようとした瞬間、新たな乱入者が現れる
「雪蓮、話は終わって無いわ!」
ドアから現れたのは、玉座で冥琳と呼ばれた女の人
「げぇ! 冥琳!」
孫策に近づいたかと思えば耳を引っ張る
「い、痛い痛い!」
「少し目を離したら居なくなって……何処に行ったかと思えば夜這をかけるなんて……」
「夜這じゃ無く夜襲だ」
「ふむ、確かに夜這を掛けられたといった雰囲気ではないようだな」
尻もちを付いている俺に一瞥をくれる
「なによー、夜襲をかけちゃ駄目なんて決まりは呉には無いわよ?」
「まだ説教が必要なようだな、雪蓮」
「う、嘘嘘!」
慌てふためく呉の王、街で剣を振るった時とは大違いである
耳を持ったまま王を引きずって出ようとした乱入者は、ふと気がついたようにこちらへ向く
「あ、それと北郷一刀」
「ん?」
「甘寧から聞いていると思うが、私が今日からお前の師となる周瑜だ、朝食を食べ次第中庭に集合、良いな」
それだけ告げると部屋から王を引きずって出て行った
痛い痛い、と言う叫び声が段々小さくなって行く
……王ってあんな扱いされるんだな
日が昇り、朝食を食べ終えた俺は言われたとおり中庭へと足を運んだ
結局まだ服と靴は買って居ない為、城の兵とすれ違う度に珍しい物を見る目で見られる
中庭ではもう既に2人が集まっており、その中に甘寧さんの姿もあった
「来たか、北郷、昨日はうちの王が迷惑を掛けて申し訳なかった、よく眠れたか?」
開口一番、周瑜さんが謝罪の言葉を述べる
甘寧さんは何があったのかサッパリと言った表情だ
「気にして無いさ、それよりこちらこそありがとう、寝床も食事も用意して貰って」
こちらは感謝の言葉を述べる
何だかんだで、やっぱり無一文で困っていた所を拾ってくれた事には感謝している
「なぁに、その分仕事をしてもらうから問題ない」
ニヤ、と意地の悪い笑みを浮かべる周瑜
しかしそれもつかの間、真面目な表情になる周瑜
合わせて自分も緩んだ心を締め直す
「さて、雑談もこれ位にして早速始めるとするか」
周瑜はそういうと、地図を取りだす
「北郷、確か倭から来たと言ったな?」
「はい、そうです」
「そう固くならないでも良い、ここでは畏まった場以外で敬語を使う必要はない」
「了解」
「話を戻すぞ、倭から来たと言う事はまだ大陸の事を知らないだろ? だからまず我が国、呉のおかれた立場と大陸の現状から説明する」
呉は現在袁術の旗の下に入っている
孫堅、つまり孫策さんの母親が戦死し力が弱った所を袁術により吸収されたのだ
その際兵の殆どを袁術に奪われ、少ない兵力でやりくりしている
しかし最近、呉付近でも黄色い布を身に付けた集団が現れ始めたという報告が各所から届き始め
最近、やっと妹である孫権と合流出来た所らしい
黄巾党本隊はどこかに潜んでいるらしい
そして肝心の袁術は討伐しろという命令のみ出している状態であり
と言うのもこれに((託|かこつ))けて、力を付ける事を恐れていると笑いながら周瑜は補足していた
本当は官軍がなんとかする所だが、都は既にそこまで力を持っている訳でも無くさぁどうしよう?
と困っている所に通りかかった俺が孫策さんのお眼鏡にかなったらしい
その理由は? との質問には
「勘らしい、まぁ孫策の勘は良く当たるから大丈夫だ」
との返答を頂いた、有り難いことで
「で? 俺はどうすれば?」
「黄巾党本隊の数は分かっていない、そこで将は多いに限る」
「要は猫の手でも借りたいって事か?」
「猫を虎にするのが今の私の役目だ」
か、かっけぇ……
流石美周郎と言った所か、発言もカッコいい
女だけど
「部隊への指示を出す人間はある程度いた方が良いからな」
「……指示を出す?」
昨日の甘寧さんの言葉がリピートする
「あぁ、それに呉随一の頭脳が北郷を鍛えてくれるだろう」
呉随一の頭脳が北郷を鍛えてくれるだろう
呉随一の頭脳が
頭脳が
てっきり俺は命令通りに戦うだけだと思っていた
しかし実際はそうでは無く
「指示も俺がすると言う事?」
念のために確認する、もしかしたら聞き間違いと言った事もある
言い間違いといった事もある
だってそうだろ? 誰でも間違えることはある、人は失敗を繰り返して成長するんだから!
「あぁ、そうだな」
そんな事は無かった
「本当は今から叩き込みたい所なのだがな、まずは将と兵達に挨拶しに行くぞ」
と、初日は挨拶まわりをする事になった
まずは兵舎を回る事になった
と言っても数の多い兵の人達全員に挨拶をするのは骨が折れるので隊長格のみと挨拶を交わす
全員慣れたもので一言二言挨拶を交わすとそれぞれ自分の仕事に戻って行く
周瑜曰く客将自体はそう珍しく無く
自分の主を決める為に客将をしながら大陸を回る人もいるそうな
全ての部隊の挨拶を終え、次は将への挨拶である
将は玉座に集まっていたと、いうより周瑜が集めたらしい
自己紹介をする前は王に刃を向けた奴、として少しは心の準備をしていたのだが
会ってみるとわだかまりは無かった、と言うより孫権には逆に謝られた
姉様のせいで北郷には迷惑を掛けた、と
孫策さんは何か言いたそうな顔をしていたが、何も言ってこなかった
聞いてみると、朝の内に周瑜と甘寧が全員に訳を話したそうな
その代わりに、俺を見る目が何だか違っていた、興味津津と言った目であり
その理由を聞いてみると周瑜さんは
「甘寧の説明の仕方が不味かったのよ」
なんと説明したのか甘寧さんに聞いてみると
「かなり不機嫌な孫策様と対峙したと、だけだが」
結局、何故興味を持たれるのか理由は解らないままである
兎も角、2人の心遣いのお陰で良いスタートを切れそうだ
帰り道、周泰ちゃんが同い年ぐらいの女の子と一緒に居る所を見かけた
彼女の名前は、自分も良く知っている名前だった
翌日
さてさて、つまり自分は呉の少ない兵力を任される訳で責任重大である
そもそも文字を読めない自分にとってそういった兵法に関する本を読めない、と言った事は致命的であり
文字を学ぶと言った事から始めなければならない
だが、黄巾本隊がいつ何時やってくるかも解らない以上そんな呑気にやっている暇もある筈も無く
結果的に実際に見て頭に詰め込む方式となった
文字が分からない俺の為に、周瑜は実際に軍を動かしながら説明してくれる
そして日の終わりにテストをし、もし及第点まで行かないと自由時間が無くなり周瑜さんと陸遜さんが交代で図を用いながら勉強を教えると言った内容である
本当は飯も削りたいそうだが体が資本と言う事もあり、それは踏みとどまってくれた
そう、体が資本なのである
日中兵法の勉強をし、テストが悪かったら自由時間を削って勉強をする
などと言った事は、兵法が学校の授業内容に代わるだけで日本でもやってる学生は少なくないであろう
問題は、指示を出しつつ戦うと言う事である
勉強をしてて体力が落ちました〜などと言ってられる訳がない
よって筋トレ、ランニング、素振りをし体力をさらに強化しないといけないのである
ゆえに、朝日が昇る前には起床しておかないと時間が足らない事が初日の生活で分かった
倭では時間の概念がうんぬんかんぬんと偉そうな口を叩いて置きながら
結局は時間に縛られているというのが今の状況である
つまり、朝日の出前に起床→体力作り→朝食→兵法の勉強→昼食→兵法の勉強→夕食→自由時間or勉強→体力作り→睡眠
と言った日程が出来あがる事が2日目にして判明したのだ
これはいつ体を壊してもおかしくない、と察した俺は早速行動に移した
案は既に出来ている
3日目の昼食時、
「補佐を付けて欲しい?」
俺は周瑜さんに提案する事にした
「あぁ、どうせ育成するなら多くても問題無いだろ? というか俺一人じゃ効率が悪いだろし」
「多過ぎても効率は落ちるが……まぁ北郷の言う事は確かだな、私も不安に思っていた所だ」
まだまだ新戦力が欲しいと考えているのは誰にでも分かる事
客将、と言う事はいつか呉を離れる
新人の将を折角1から育成しても
客将である以上そのうち呉から居なくなると言う事は誰でも予想がつき
その結果今までの苦労が水の泡になる
そのためにも、同時に呉、生え抜きの将も必要としている事は明らかであった
「そんな事を言うからにはもう目星を付けているのだろうな」
「勿論、昨日のあいさつ回りの時ちょっとね」
「よし、良いだろう、そいつを連れて来い」
「分かった」
それからダッシュで俺は兵舎へ向かう
そしてお目当ての人を見つけた
「軍師にならないか?」
「……え?」
昨日玉座での自己紹介の後
周泰ちゃんと一緒に居た女の子
その名は
「呂蒙ちゃん、頼む」
「え、えぇぇぇぇ!?」
「な、なんで私なんですか」
まぁ驚くのは仕方がないだろう、昨日会った男に急に軍師になってくれと頼まれるのだから
「昨日会った時にピンと来たんだ!」
ちなみにこれも嘘では無い、正確に言うとすれば“昨日会った時に(名前に)ピンと来たんだ!”
だが、大陸に来たばかりだ、許してくれ
「え、えっとですが……その……兵法について……全く知らなくて……」
たどたどしく言う呂蒙ちゃん
「大丈夫、周瑜さんと陸遜さんが教えてくれるから」
「え!? あ、あの周瑜様と陸遜様がですか!?」
驚きの声を上げる呂蒙ちゃん
確かに今はただの兵に過ぎない呂蒙ちゃんが呉の将である2人から兵法を学ぶと言う事は驚くしかないのだろう
「で、でも私……」
「俺を信じてくれ!」
真剣な眼差しで呂蒙ちゃんを見つめる
「わ、分かりました」
顔を真っ赤にして伏せる呂蒙ちゃん
こうして、俺は心強い味方を引きこむ事が出来たのだ
周瑜さんと甘寧さんに「やましい事を考えていたら宦官にするぞ」と脅されながらも呂蒙ちゃんを補佐にする事に成功した俺
呂蒙と言えば“士別れて三日、即ち更に刮目して相待すべし”と言った呂蒙であり
軍師としても名を馳せる人材である
ゆえに結果は目に見えていた
「ふむ、飲む込みが早いな亞莎」
「そうですねぇ〜将来有望です〜」
「あ、ありがとうございます!」
冥琳と穏に褒められてアタフタしている亞莎萌え
最近の勉強中の癒しはこの光景を見る事である
「北郷! 何ボーっとしている! 亞莎はもう終わったぞ」
「そうですよー、一刀さんはまだ今日の課題終わっていないんですからぁ!」
矛先は俺に向かう
そう、そうなのだ
亞莎の頭が良くなるにつれて、俺の立場が無くなって行くのだ
「一刀様! 頑張って下さい!!」
幸いにも、亞莎は俺を慕ってくれているらしい
今の自分があるのは一刀様のお陰だ、と
正直な所、自分が楽をしたいが為に彼女を補佐として推薦した以上
心が痛むのが悩みである
しかしながら、悪い事ばかりでは無い
周りには、周瑜、陸遜、そして呂蒙と三国志の中でも有名な呉の軍師たちが居るのだ
色々な事を学ぶ事が出来ているのは確かであり、最近ではこの時間が楽しく感じて来た
それに亞莎の存在は、同じ時期に兵法を学び始めた仲間として大きい物であった
幾ら将来軍師として名を馳せると言っても学び始めた時期が同じ以上負けてはいられない
俺は目の前の課題へ黙々と取り組むことにした
「ふ、簡単な奴だ、少し煽ればああやって集中しだすのだから」
「そうですねぇ〜」
と、軍師2人が北郷一刀を遠巻きに見ながら雑談をしている
「一刀様……」
心配そうに見つめる亞莎を2人が励ます
「大丈夫だ、亞莎、お前の上司は出来る男だよ」
「そうですよぉ〜、今じゃあ文字も読めるようになりましたしぃ」
「あぁ、本人は気付いていないようだがアイツの発想に時々唸らされることも少なくないし、なにより真面目だ」
「考え方が違うんですよねぇ、お陰で私も勉強になりますぅ」
「私もだ、穏」
高評価を受けている事を知らないのは
本人だけのようだった
「よし、合格だ」
「終わったぁー!」
最近は文字を勉強したかいがあって、兵を動かすことが少なくなり座学ばかり行っている
筆記を冥琳に見て貰い合格を貰えば終わりというシステムに移行し始めた
その結果、昼前には、遅くてもおやつの時間までには一日の勉強が終わる事も少なくないのだ
つまり、空いた時間が出来る訳で……
「一刀さん、手合わせしましょう!」
他の将達との会話も増えてきた
きっかけは、初めて昼前に終わった時の事
やる事も無く、昼食まで暇だった俺は中庭で鍛錬をする事にした
鍛練用の服に着替え、中庭に出る
日の出ている内の鍛錬は久しぶりであり、つい熱中してしまった
そして気が付くと、周りにはギャラリーもとい甘寧さんが居た事に始まる
「知ってはいたが……良い動きをするな、どうだ? 私と手合わせしないか?」
と言う甘寧の発言が事の発端だ
元々甘寧さんには色々と面倒を見て貰っており
鍛練用の靴と服を買う為にお金を貸してくれたのも甘寧さんだった
それにご飯を一緒にする事も多く、他の将に比べ随分と会話する機会が多かった
と、いうより他の将と話す機会が無かったのは内緒である
すれ違えば挨拶をする程度の関係であった
「あぁ、良いよ、甘寧さんにはお世話になってるし、そんぐらいお安い御用さ」
「ふ、もし私が勝ったら昼のおかずを一品貰うが良いか?」
挑発される
「良いよ、勝てたらね」
勿論挑発に乗る
「ふ、良く言った」
甘寧さんも、臨戦態勢へと移る
「はぁはぁ……息切れ……していないのか……北郷……」
「まぁ、日が暮れるまでは余裕だな」
足場が不安定な砂浜で、日が昇り沈むまで訓練していた俺のスタミナを舐めないで欲しい
柔らかい砂浜では、とにかく筋肉の無駄な力を抜かない限り思い通りには動けず、スタミナの消費も早い
筋肉に入れる力を最低限にする事で、スタミナの温存を可能とする事にもなる
これは武器を扱う上でも大切な要因となるのは明白である
さらに自分の場合筋肉の予備動作を読む事により、なんとか自分より速い相手との勝負もなんとかなる
つまり、スタミナがある以上負けはしないと言った生き残るのに特化した戦闘スタイルなのである
今回の場合、俺の戦闘スタイルを知らなかった甘寧さんが、とにかくガンガン攻めて来た事がこのような結果をもたらした
「私の負けだな、北郷」
息を整えた甘寧さんが負けを宣言する
「何言ってんのさ甘寧さん、俺も攻めきれなかったし引き分けだって」
「いや、私の負けだ、好きなおかずを持って行くがよい……」
「ほらね? 皆、私の言った通りでしょ? あなたの勝ちよ北郷一刀」
振り向くとそこには呉の将と王の姿があった
孫策さん以外、有り得ないと言った表情をしている
そもそも、俺の刀を持つ姿を見た事があるのは甘寧さんと当事者である孫策さんの2人だけであり
周瑜さんの言葉を信じると俺の情報は甘寧さんの「かなり不機嫌な孫策様と対峙した」だけである
ゆえに、俺の力を見るのは初めてであろう
そんな俺に呉が誇る武官、甘寧さんが負けを宣言したのだ、驚かない理由が無い
「話には聞いておったが……ふむ」
黄蓋さんが何か考え込む
周瑜さんは信じられない物を見たと言った顔をする
「まさか……思春殿が負けるとは……」
周泰ちゃんもショックを受けているようだ
「いや、甘寧さんは負けてないから、引き分けだから」
必死に弁明する
こんな勝ち方は勝ちでは無い
「いい加減にしなさい!」
庭に怒号が響き渡る、その声は
孫策さんの妹、孫権から聞こえてきた
「思春が負けを認めているのよ! なのにそれを受け入れないと言う事は侮辱だわ!」
怒りを露わにする孫権
「蓮華様……」
「北郷一刀! 私と手合わせしなさい!」
孫権が剣を持って近づいて来る
「はいはい、止め止め!」
黄蓋さんが止めに入る
「蓮華様、いくら思春が負けたからと言っても落ち着いたらいかがか」
「そうよー蓮華、いつもあなたが勝てない思春が負けたからって熱くなりすぎよ」
孫策さんも間に入る
そして目は俺に向けられる
「それと北郷、それ以上思春馬鹿にしたらタダじゃおかないから」
殺気
街で会った時以上の殺気が俺に向けられる
「馬鹿になんかしてないだろ? 俺はただ引き分けだって」
「それが馬鹿にしてるよの、貴方の国じゃあどうだか知らないけどね戦場じゃ動けなくなった時点で
死ぬのよ? 攻めきれなかった? 攻めきらせなかった時点であなたの勝ちなの、それにね武人が
負けを認めると言う事の重さを分かって無いわ、武は戦場で自分を支える大切な物よ、今まで積み上
げてきた武が通じなかった悔しさが分かるの? それが分からないような人は呉にはいらないわ、今
すぐ呉から出て行きなさい」
一息に怒られる
武に対しての心意気が違う事が分かった
俺にとって武は生き残る為に必要な物としか考えていないが、武人としての武は違うのだ
「ゴメン甘寧さん、俺、全く甘寧さんの気持ちを考えて居なかった」
頭を下げる、気持ちに気付く事が出来なかった自分が悪い
考え方が違う、そんな言い訳は通用しない
甘寧さんのこれまで積み上げてきた武を否定してしまったのだから
「北郷、頭を上げてくれ」
「でも、俺は甘寧さんの積み上げてきた物を……」
「良いんだ北郷、お前は私に勝った、それを誇ってくれれば」
「甘寧さん……」
「だから北郷、頭を上げてくれ」
甘寧さんの優しさに目頭が熱くなる
今までの積み上げたものを否定してしまったのにも係わらず
同じ態度で接してくれるのだから
「簡単な事だ北郷、ここでは勝ったら喜び、負けたら次は勝つように精進する、それだけで良いん
だ」
俺の目は真っ赤になっているだろう
涙をこらえる
「北郷、いい勝負だった、今度は負けないからな」
甘寧さんから手が差し出される
もう俺はもう間違えない
「あぁ……甘寧さん、今度も俺が勝つからな」
「思春」
「え?」
「思春と呼んでくれ」
やっと、俺は1人前の武人、そして呉にふさわしい武将になれた気がした
庭先で先ほどまで戦っていた明命とお茶を飲みながらそんな事を思い出していた
「はぁ……また負けちゃいました……」
「ほら落ち込むなって、この団子美味いぞ、ほら、あーん」
「え、えっと……あーん……ん〜〜〜美味しい〜〜〜」
先ほどまでとは打って変わって年相応の笑顔を見せる明命
皆、割り切ってくれたようで前の騒動はもう笑い話となっていた
あの後から、皆から戦いを挑まれるうちに真名を呼びあう関係となるのは
そう遠い未来では無かった
「次は私だぞ! 一刀!」
庭では蓮華が素振りをしている
その隣では思春さんが蓮華の事を見守っている
「待ってくれ、休憩中だー」
「あ、私と思春の分は残してあるのだろうな!」
「早く来ないと無いかも!」
蓮華が走って来る
「まぁ良いわ、私達も休憩にしましょ、思春」
「御意」
今ではこうしてお茶会を開く仲にもなった
「あれ? 亞莎は?」
蓮華が団子を頬張りながら尋ねる
「冥琳と穏とどこか行った」
すっかり1人前になった亞莎は、軍師として認められるようになった
「そう、それにしても……」
「ん?」
「あなた、いつになったら負けるの?」
「そうだな、負ける予定は無いかな」
「そう、じゃあ次は私が勝つから」
「じゃあもし俺が勝ったら今日の料理当番は思春な」
「な、何故私になるのだ!」
「なんとなく?」
「ふふ、思春の料理久しぶりに食べてみたいわ」
「蓮華様……」
皆の笑い声が中庭に響き渡る
しかし時代は戦国時代、このままと言う訳にはいかなかった
夜、玉座に呼び出された俺
玉座に行くとそこには将達が勢ぞろいしていた
開口一番、冥琳が告げる
「都からの報告よ、見つかったわ黄巾の本隊を」
「報告します、黄巾党の本隊を発見したとの伝令が届きました」
「そう、では行きましょうか」
「黄巾党本隊の居場所が分かりました」
「分かった、それじゃあ皆! 力を貸して!」
説明 | ||
呉に仕官する事になった一刀、そこで大きな成長をする事になった | ||
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一刀がそのまま出て行くと思った(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ) 思春に勝てるほどの実力か。(アルヤ) 呉に馴染んでる一刀良いなあ。ほのぼのしました。(readman ) |
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